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春斗さんが出て行ってからも、しばらくは腕が回されていたところの熱が取れなくて、まるでまだ近くに春斗さんがいる気がして動けずにいた。
強張っていた体がまともに動き出したときには、吉井さんが淹れてくれたお茶がすっかり冷たくなっていて、ひと口飲んでから中身を捨ててしまった。
部屋を出ていく春斗さんにはこの部屋を自由に使うように言われたけれど、見慣れない家具に慣れない絨毯。落ち着くことなんてできるはずがない。
私は座った姿勢のままソファーに倒れて、横向きになった世界を別世界のように感じながら目を閉じる。
目を閉じても思い出すのはつい先ほどの出来事ばかり。
私が昌治さんと知り合いだったことを知った春斗さんのギラついた瞳と、その後の獰猛な熱。
あの車の中で、私は春斗さんに抵抗することができなかった。されるがままにキスされて、来客とやらが来ていなかったら私は今この瞬間にも春斗さんに抱かれていたかもしれない。抗うこともできずに、全て捧げていたかもしれない。
それを考えた瞬間に、背筋がゾクリと粟立った。
そんなことになってしまったら私はもう一生、春斗さんから逃れることができなくなる。
「でも、逃げるなんてどうやって……」
ずらりと並んでいた春斗さんの部下の人たちを思い出す。私を逃さないようにするなんて簡単なはずだ。
大学や家族を口実にすれば出してもらえるかもしれないけど、あくまでも出してもらえるだけで結局は春斗さんの手の中での自由でしかない。
横向きの視界が曇って、喉元に熱いものがこみ上げてくる。溢れた涙を拭うことすらできないでいたら、突然扉がノックされた。
「……失礼します。ご入浴の用意ができました」
僅かに開けられた扉の隙間から聞こえてきたのは吉井さんの声だった。
私の返事を待つように、吉井さんは静かに扉の外で立っている。
こんな状況でお風呂に入るような気分にはとてもなれない。でも、そうしないと迷惑がかかるのはきっと吉井さんなんだ。
「はい」
「準備はこちらで済んでいます。この部屋を出て右手に向かっていただいた突き当たりにありますので、ゆっくりなさってください」
そうして伝えることは伝えたからと吉井さんが扉の前から離れていくのを感じた。
……どうしてこんなことになってしまったんだろう。
それは今さら考えてもどうしようもないことだった。
強張っていた体がまともに動き出したときには、吉井さんが淹れてくれたお茶がすっかり冷たくなっていて、ひと口飲んでから中身を捨ててしまった。
部屋を出ていく春斗さんにはこの部屋を自由に使うように言われたけれど、見慣れない家具に慣れない絨毯。落ち着くことなんてできるはずがない。
私は座った姿勢のままソファーに倒れて、横向きになった世界を別世界のように感じながら目を閉じる。
目を閉じても思い出すのはつい先ほどの出来事ばかり。
私が昌治さんと知り合いだったことを知った春斗さんのギラついた瞳と、その後の獰猛な熱。
あの車の中で、私は春斗さんに抵抗することができなかった。されるがままにキスされて、来客とやらが来ていなかったら私は今この瞬間にも春斗さんに抱かれていたかもしれない。抗うこともできずに、全て捧げていたかもしれない。
それを考えた瞬間に、背筋がゾクリと粟立った。
そんなことになってしまったら私はもう一生、春斗さんから逃れることができなくなる。
「でも、逃げるなんてどうやって……」
ずらりと並んでいた春斗さんの部下の人たちを思い出す。私を逃さないようにするなんて簡単なはずだ。
大学や家族を口実にすれば出してもらえるかもしれないけど、あくまでも出してもらえるだけで結局は春斗さんの手の中での自由でしかない。
横向きの視界が曇って、喉元に熱いものがこみ上げてくる。溢れた涙を拭うことすらできないでいたら、突然扉がノックされた。
「……失礼します。ご入浴の用意ができました」
僅かに開けられた扉の隙間から聞こえてきたのは吉井さんの声だった。
私の返事を待つように、吉井さんは静かに扉の外で立っている。
こんな状況でお風呂に入るような気分にはとてもなれない。でも、そうしないと迷惑がかかるのはきっと吉井さんなんだ。
「はい」
「準備はこちらで済んでいます。この部屋を出て右手に向かっていただいた突き当たりにありますので、ゆっくりなさってください」
そうして伝えることは伝えたからと吉井さんが扉の前から離れていくのを感じた。
……どうしてこんなことになってしまったんだろう。
それは今さら考えてもどうしようもないことだった。
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