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ハワイ海底の七面鳥と猛牛
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11時15分。
攻撃隊総指揮官の友永丈市は天山に乗り込んだ。
「なんとか治りましたかね。」
整備員が安堵したように言った。
「はい。エンジンが動かなくなった時はどうなるかと思いましたよ。」
「まあ何はともあれ、ご武運を。」
整備員は神妙な顔で敬礼をしながら伝えた。
「ありがとうございます。では行ってきます。」
そういうと友永は風防を閉め、機を滑らしてく。
甲板から離れたときに少し下がりながらも、飛んで行った。
攻撃隊、98式戦闘機36機、艦爆65機、艦攻56機。
総勢157機がエンタープライズに向けて進撃を始めた。
「提督、情報がある程度でそろってきたためご報告いたします。」
レイモンド・スプルーアンスは淡々と言う。
「わかったっ!早くやれ!」
ウィリアム・ハルゼーは苛立ちながら吠える。
「現在、真珠湾は壊滅的打撃を受け入れる戦艦7隻が沈没に等しい損害を受けました。そして航空機に関しても飛行可能機が著しく低下しました。また、キンメル長官との連絡が取れておらず、調査中とのことです。」
「ジャップの奴らめ…偵察機は飛ばしているが一向に発見できない。奴らはもうすでに離脱しているのか?」
ハルゼーは少し落ち着いてスプールアンスに尋ねた。
「はい。おそらく奴らは反撃を恐れて撤退したと思われます。」
「なるほど。だが一応防空だけは強化しておいてくれ。」
そういうとハルゼーは立ち上がった。
「提督、どちらへ?」
「少し、外の空気を吸ってくるだけだ。」
そういてハルゼーは艦橋のベランダの柵に身を任せた。
「キンメル、お前は今どこにいる?」
そう零したハルゼーの後姿は、猛牛とは程遠いものだった。
そうしていると艦橋内が慌ただしくなる。
キンメルは中に戻りスプールアンスに説明させた。
「どうした!」
「レーダーに機影が多数映りました!おそらく日本のものと思われます!」
「友軍の可能性は?」
「ハワイ周辺の残存航空機よりはるかに多いため違います!」
「距離は?」
「100キロを切っています!」
「なんだと!?なぜ気づかなかった!」
ハルゼーはこれが理不尽な怒りだと分かっていた。
今日は雲が多く、レーダーに不向きだと分かっていたからだ。」
「申し訳ございません!」
スプールアンスはただ謝ることしかできなかった。
『敵空母視認!』
無線から聞こえた言葉に友永はほくそ笑んだ。
「全機、攻撃用意!」
そう命令した直後、目の前に黒い点が多数でた。
『前方、敵迎撃機!』
どうやら彼らもただでやられる気はないようだ。
零戦が前に出ていく。
そうして大東亜戦争初の航空戦が始まった。
だがそれはただの虐殺だった。
始まったかと思うとすぐに97戦隊は後ろにつき撃墜する。
そうこうしていると、いつの間にか敵機は姿を消していた。
友永隊は眼前にエンタープライズをとらえた。
他の隊は重巡などを狙っている。
上空からも彗星が急降下している。
「よし!ここだ!」
友永は魚雷を投下した。
他の機も投下しており、放射状に5発ほどの魚雷がエンタープライスに向けて進んでいた。
エンタープライズは回避運動をとったものの、間に合わなく3本命中し1本は主機を破壊した。
それを見逃さず、江草も500キロ爆弾を投下。
エレベーターを貫通し、大火災が発生した。
重巡も各所で火災と浸水が発生していて、もはやダメージコントロールは効かなかった。
「繰り返す!総員退艦せよ!」
ハルゼーはマイクに向かって叫んだ。
「提督!早く退艦してください!」
スプールアンスは息を切らしながら言った。
「君こそ、早く行け。私はこの艦を離れるつもりはない。」
ハルゼーは強い口調で言った。
「あなたは合衆国海軍にとって必要です!なのでどうか…」
スプールアンスは嗚咽交じりで諭そうとする。
だがハルゼーの意志は変わらなかった。
「私は艦隊の提督だ。なら最期くらい旗艦で静かに眠らせてくれ。敗北の責任は引き受けた。」
そういい終わると近くにいた下士官をを呼んだ。
「お前、こいつを外に連れていけ。」
ハルゼーは淡々と命令した。
「…はっ!」
下士官はスプールアンスの腕をつかみ連れて行った。
「提督!私も一緒に…」
最後まで聞くことなくハルゼーはドアを閉めた。
艦がどんどん傾いていく。
「キンメル、お前は上にいるのか?だとしたら、お前の仇が取れなくて残念だ。」
ハルゼーはそう零した直後、傾斜速度が加速する。
「だが心配するな。俺たちの部下が必ずやってくれる。」
その時のハルゼーの表情は自信に満ちていた。
総員退艦が終わった僅か4分後の14時43分。
エンタープライズは転覆し海に散った。
乗員2279人のうち、578名が艦と運命を共にした。
生き残った者たちは2分間、嗚咽交じりに敬礼をした。
偉大な提督と誰かを守るために散った戦友のために。
攻撃隊総指揮官の友永丈市は天山に乗り込んだ。
「なんとか治りましたかね。」
整備員が安堵したように言った。
「はい。エンジンが動かなくなった時はどうなるかと思いましたよ。」
「まあ何はともあれ、ご武運を。」
整備員は神妙な顔で敬礼をしながら伝えた。
「ありがとうございます。では行ってきます。」
そういうと友永は風防を閉め、機を滑らしてく。
甲板から離れたときに少し下がりながらも、飛んで行った。
攻撃隊、98式戦闘機36機、艦爆65機、艦攻56機。
総勢157機がエンタープライズに向けて進撃を始めた。
「提督、情報がある程度でそろってきたためご報告いたします。」
レイモンド・スプルーアンスは淡々と言う。
「わかったっ!早くやれ!」
ウィリアム・ハルゼーは苛立ちながら吠える。
「現在、真珠湾は壊滅的打撃を受け入れる戦艦7隻が沈没に等しい損害を受けました。そして航空機に関しても飛行可能機が著しく低下しました。また、キンメル長官との連絡が取れておらず、調査中とのことです。」
「ジャップの奴らめ…偵察機は飛ばしているが一向に発見できない。奴らはもうすでに離脱しているのか?」
ハルゼーは少し落ち着いてスプールアンスに尋ねた。
「はい。おそらく奴らは反撃を恐れて撤退したと思われます。」
「なるほど。だが一応防空だけは強化しておいてくれ。」
そういうとハルゼーは立ち上がった。
「提督、どちらへ?」
「少し、外の空気を吸ってくるだけだ。」
そういてハルゼーは艦橋のベランダの柵に身を任せた。
「キンメル、お前は今どこにいる?」
そう零したハルゼーの後姿は、猛牛とは程遠いものだった。
そうしていると艦橋内が慌ただしくなる。
キンメルは中に戻りスプールアンスに説明させた。
「どうした!」
「レーダーに機影が多数映りました!おそらく日本のものと思われます!」
「友軍の可能性は?」
「ハワイ周辺の残存航空機よりはるかに多いため違います!」
「距離は?」
「100キロを切っています!」
「なんだと!?なぜ気づかなかった!」
ハルゼーはこれが理不尽な怒りだと分かっていた。
今日は雲が多く、レーダーに不向きだと分かっていたからだ。」
「申し訳ございません!」
スプールアンスはただ謝ることしかできなかった。
『敵空母視認!』
無線から聞こえた言葉に友永はほくそ笑んだ。
「全機、攻撃用意!」
そう命令した直後、目の前に黒い点が多数でた。
『前方、敵迎撃機!』
どうやら彼らもただでやられる気はないようだ。
零戦が前に出ていく。
そうして大東亜戦争初の航空戦が始まった。
だがそれはただの虐殺だった。
始まったかと思うとすぐに97戦隊は後ろにつき撃墜する。
そうこうしていると、いつの間にか敵機は姿を消していた。
友永隊は眼前にエンタープライズをとらえた。
他の隊は重巡などを狙っている。
上空からも彗星が急降下している。
「よし!ここだ!」
友永は魚雷を投下した。
他の機も投下しており、放射状に5発ほどの魚雷がエンタープライスに向けて進んでいた。
エンタープライズは回避運動をとったものの、間に合わなく3本命中し1本は主機を破壊した。
それを見逃さず、江草も500キロ爆弾を投下。
エレベーターを貫通し、大火災が発生した。
重巡も各所で火災と浸水が発生していて、もはやダメージコントロールは効かなかった。
「繰り返す!総員退艦せよ!」
ハルゼーはマイクに向かって叫んだ。
「提督!早く退艦してください!」
スプールアンスは息を切らしながら言った。
「君こそ、早く行け。私はこの艦を離れるつもりはない。」
ハルゼーは強い口調で言った。
「あなたは合衆国海軍にとって必要です!なのでどうか…」
スプールアンスは嗚咽交じりで諭そうとする。
だがハルゼーの意志は変わらなかった。
「私は艦隊の提督だ。なら最期くらい旗艦で静かに眠らせてくれ。敗北の責任は引き受けた。」
そういい終わると近くにいた下士官をを呼んだ。
「お前、こいつを外に連れていけ。」
ハルゼーは淡々と命令した。
「…はっ!」
下士官はスプールアンスの腕をつかみ連れて行った。
「提督!私も一緒に…」
最後まで聞くことなくハルゼーはドアを閉めた。
艦がどんどん傾いていく。
「キンメル、お前は上にいるのか?だとしたら、お前の仇が取れなくて残念だ。」
ハルゼーはそう零した直後、傾斜速度が加速する。
「だが心配するな。俺たちの部下が必ずやってくれる。」
その時のハルゼーの表情は自信に満ちていた。
総員退艦が終わった僅か4分後の14時43分。
エンタープライズは転覆し海に散った。
乗員2279人のうち、578名が艦と運命を共にした。
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