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有能令嬢は、在りし日を思い出す
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「帰りましたわ」
屋敷に帰る。息ができる、と思ったのもつかの間、今日のことをどうやってお父様とお母様に伝えたものか。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ああ、ジョゼット、ただいま、お父様とお母様はどこに?」
「お二人とも、外出中ですわ。どうかされました?」
「……また、分かることだわ」
「そうでしたか、なんだか、複雑な顔をされていますわ。ゆっくり休んでくださいませ」
(ジョゼットは、いつも、察してくれて助かるわ)
◇◇
「ふあー!」
服を着替え、ベッドに飛び込む。
「婚約破棄……か……」
フレデリク様の婚約者になって、もう何年たったのだろう。
「わたしは、人の機嫌の取り方と、容姿を整える方法しか、学んでこなかったわ」
両親が必死に格上の地位のフレデリク様との婚約を取り付けるちょっと前に、剣術を男のふりをして習っていたのが見つかってしまい、通えなくなった。アリス……。一緒に研鑽しあったあの子は今どうしているのだろうか。普通より背の高い、わたしより小さくて、わたしの方が強くて。師匠からの受け売りをそのままかっこつけて、語ったりしたのを思い出す。頬が熱くなる。
◇◇
(数年前)
「ティー!今日こそ勝ちます!」
「いいよお。俺が勝ったら、今日で10連勝だ!」
王都の小さな剣術道場には、手で数えられるほどの門下生がいた。
「ティーは強いなあ。なんで勝てないんだろう」
「アリスの剣にはね、迷いがあるのさ!」
「迷いー?」
「そうだよ。攻め込むために隙をさらすのをこわがってるねっ!」
「くぅ……」
「ふふん」
家では、言いたいことも言えない私だったが、大人に混ざっているアリスには、言いたいことがいえた。言ってしまえば、アリスは道場で一番弱かった。
「僕……素振りしてくる!」
「俺もいくー!」
努力を怠らない彼を尊敬していた。
でも、ある日……
「「うわっ」」
稽古中、わたしは彼の上に覆いかぶさるように倒れてしまった。しかし、急いでわたしは、姿勢を戻したのだが……。
「……。おなかを、壊しました!」
そう言って彼は、姿を消してしまった。その後、彼は戦いを挑まなくなった。
「アリス、最近変だよ?」
「……変じゃないです」
「そう?」
「ティー……は……」
「うん」
「女の子……なんだね」
わたしは、性別がばれてしまったこと、そして、彼の性格を考えて何が起きたのか推察した。
「なんだー!そんなことか!ここでは、心を研鑽しに来ているんだから、俺に剣を打ち込むくらい、気にしなくていいじゃないか」
「そういう……わけではなくて……」
「わけではなく?」
「なんでも……」
そして、彼は去ってしまった。そして、その日、わたしは、婚約が決まってしまった。最後に、道場に顔を出すために、嘘に嘘を重ねて、訪れた。
「もう、来れないのですが、お世話になりました」
わたしは、男装するわけにもいかなかったので、令嬢の服装で訪れた。
「その恰好では、剣も振れないなあ。これまで、ありがとう。剣を学んだことが、ティーの道となるように」
「ありがとうございます」
師匠はそういった。すると、後ろから気配を感じて振り返る。
「ティー!」
アリスだ。見たこともないくらい切なそうな顔をしている。
(わたしとお別れするのが寂しいんだ)
と、少し心温まる自分がいた。
「僕、頑張りますから。ティーを守れるくらい、強くなります」
(わたしを守る人は決まってしまったのに)
と、違和感を感じるとともに、胸がしめつけられた。
「ありがとう。わたしも、アリスに勝ち続けたものとして、恥じないようにします」
「うん」
わたしと、アリスは握手をして、別れた。
◇◇
剣術道場での日々がなければ、境遇を憎むような人になっていたかもしれない。フレデリク様より、背が高くならないようにいつも、かかとのある靴は履かないようにして、会話がうまく……ううん、都合のいいやまびこみたいな存在だったわ。でも、もうしなくていい!
わたしは、彼の何を知っていたんだろう。カロリーヌさんがよくなったから、ていよく使われたのではないだろうか。
今日のことを、両親には、どうやって伝えよう。……きっとそのままいえば……。両親は、わたしの何を知っているんだろう。
……わたしは、わたしの何を知っているのかもわからない。まどろみの中、意識が少しずつ眠りに落ちていった。
屋敷に帰る。息ができる、と思ったのもつかの間、今日のことをどうやってお父様とお母様に伝えたものか。
「おかえりなさいませ、お嬢様」
「ああ、ジョゼット、ただいま、お父様とお母様はどこに?」
「お二人とも、外出中ですわ。どうかされました?」
「……また、分かることだわ」
「そうでしたか、なんだか、複雑な顔をされていますわ。ゆっくり休んでくださいませ」
(ジョゼットは、いつも、察してくれて助かるわ)
◇◇
「ふあー!」
服を着替え、ベッドに飛び込む。
「婚約破棄……か……」
フレデリク様の婚約者になって、もう何年たったのだろう。
「わたしは、人の機嫌の取り方と、容姿を整える方法しか、学んでこなかったわ」
両親が必死に格上の地位のフレデリク様との婚約を取り付けるちょっと前に、剣術を男のふりをして習っていたのが見つかってしまい、通えなくなった。アリス……。一緒に研鑽しあったあの子は今どうしているのだろうか。普通より背の高い、わたしより小さくて、わたしの方が強くて。師匠からの受け売りをそのままかっこつけて、語ったりしたのを思い出す。頬が熱くなる。
◇◇
(数年前)
「ティー!今日こそ勝ちます!」
「いいよお。俺が勝ったら、今日で10連勝だ!」
王都の小さな剣術道場には、手で数えられるほどの門下生がいた。
「ティーは強いなあ。なんで勝てないんだろう」
「アリスの剣にはね、迷いがあるのさ!」
「迷いー?」
「そうだよ。攻め込むために隙をさらすのをこわがってるねっ!」
「くぅ……」
「ふふん」
家では、言いたいことも言えない私だったが、大人に混ざっているアリスには、言いたいことがいえた。言ってしまえば、アリスは道場で一番弱かった。
「僕……素振りしてくる!」
「俺もいくー!」
努力を怠らない彼を尊敬していた。
でも、ある日……
「「うわっ」」
稽古中、わたしは彼の上に覆いかぶさるように倒れてしまった。しかし、急いでわたしは、姿勢を戻したのだが……。
「……。おなかを、壊しました!」
そう言って彼は、姿を消してしまった。その後、彼は戦いを挑まなくなった。
「アリス、最近変だよ?」
「……変じゃないです」
「そう?」
「ティー……は……」
「うん」
「女の子……なんだね」
わたしは、性別がばれてしまったこと、そして、彼の性格を考えて何が起きたのか推察した。
「なんだー!そんなことか!ここでは、心を研鑽しに来ているんだから、俺に剣を打ち込むくらい、気にしなくていいじゃないか」
「そういう……わけではなくて……」
「わけではなく?」
「なんでも……」
そして、彼は去ってしまった。そして、その日、わたしは、婚約が決まってしまった。最後に、道場に顔を出すために、嘘に嘘を重ねて、訪れた。
「もう、来れないのですが、お世話になりました」
わたしは、男装するわけにもいかなかったので、令嬢の服装で訪れた。
「その恰好では、剣も振れないなあ。これまで、ありがとう。剣を学んだことが、ティーの道となるように」
「ありがとうございます」
師匠はそういった。すると、後ろから気配を感じて振り返る。
「ティー!」
アリスだ。見たこともないくらい切なそうな顔をしている。
(わたしとお別れするのが寂しいんだ)
と、少し心温まる自分がいた。
「僕、頑張りますから。ティーを守れるくらい、強くなります」
(わたしを守る人は決まってしまったのに)
と、違和感を感じるとともに、胸がしめつけられた。
「ありがとう。わたしも、アリスに勝ち続けたものとして、恥じないようにします」
「うん」
わたしと、アリスは握手をして、別れた。
◇◇
剣術道場での日々がなければ、境遇を憎むような人になっていたかもしれない。フレデリク様より、背が高くならないようにいつも、かかとのある靴は履かないようにして、会話がうまく……ううん、都合のいいやまびこみたいな存在だったわ。でも、もうしなくていい!
わたしは、彼の何を知っていたんだろう。カロリーヌさんがよくなったから、ていよく使われたのではないだろうか。
今日のことを、両親には、どうやって伝えよう。……きっとそのままいえば……。両親は、わたしの何を知っているんだろう。
……わたしは、わたしの何を知っているのかもわからない。まどろみの中、意識が少しずつ眠りに落ちていった。
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