復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru

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第1章 3度目の人生

[03] 深窓の令嬢

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 空が青白く染まりだした。もうすぐ、夜が明ける。急がなければ。
 私は、愛馬のテンマと共にまだ薄暗い道を駆けていた。
 別邸の従者門には、侍女兼護衛騎士のマリアドネが待っていた。マリアドネは静かに門を開けた。
「お帰りなさいませ。団長」
 私はうなずくとテンマと共に厩舎に入った。
 厩舎は人気がなく、静かだった。時々、他の馬が鼻を鳴らす音が聞こえた。
 私はテンマに水を与え、頭を撫でた後、頬にキスをした。テンマの目が優しく見つめる。しばしの別れだとお互いに微笑む。
 マリアドネの後ろについて厩舎の奥へ向かった。
 厩舎の奥には隠し扉がある。普段は煉瓦と同化しているが、私やマリアドネが手を置くと扉が自動で開く仕組みになっている。そこには別邸に入るための地下通路があった。
 これは、私とマリアドネ、そして、魔法を掛けたキーラの師匠しか知らない。
「今日の討伐はいかがでしたか?」
 留守を預かるマリアドネはその日の討伐について必ず尋ねてくる。
 マリアドネは剣の達人で、ピオニーの師匠でもあった。
 本来であればマルクスの右腕として常に討伐に関わるほどの力量はあるが、今は、私を守ることを己の役目とした。
「新人の負傷者が数人いたかな……カールネス族が一人いたのよ」
「それは厄介でしたね……で、キャンディ様は?」
 キャンディの姿を思い出すと、私は胸が張り裂けそうになった。だが、その痛みを押し殺し、平静を装って答えた。
「いたわ。酷い姿でね。意識が戻ったら連絡がくることになってる」
「かしこまりました」
 ありがたいことに、マリアドネはそれ以上は踏み込んでこなかった。
 自室に入ると、マリアドネが用意した湯船に浸かった。
 冷たく強張っていた身体が、ゆっくりと解放される。
「御髪を洗ってもよろしいでしょうか」
 マリアドネの問いに私は頷いた。
 マリアドネは泡立てたシャボンで私の銀色の髪を包み、繊細な指で私の頭皮をゆっくりとマッサージする。疲れがあっという間に癒える。このまま眠ってしまいたい衝動に駆られる。
 だが、私には時間がない。いろいろと準備をする時間が大量に必要なのだ。
 私は、かすかなため息を口から漏らした後、マリアドネに尋ねた。
「あの人たちは本邸にいるのかしら」
「スカビエス夫人は先ほどお戻りになりました。ダリアン嬢は、まだお戻りになっていないようです」
 私は、フンと小さく鼻を鳴らした。おおかた、ダリアンは第1王太子のテオイ・メルクリウスか、私の幼馴染のバードック・カンビセスと睦み合っているのだろう。
「レノドン伯爵は?」
「未だ戻られておりません」
 私の父であるカクトス・レノドンには情婦が2、3人いる。スカビエス夫人が情熱的過ぎて、10人以上いた情婦を整理したのは最近だ。スカビエス夫人の目から逃れて残った情婦にレノドン伯爵は家も与えているから、そのどれかに居るに違いない。
「財も乏しいのに、レノドン家は随分とご盛況だわね」
 私の嫌味にマリアドネは珍しく微笑んだ。

 私の名は、ピオニー・レノドン。レノドン伯爵家の長女。16歳。あと半年で17歳になる。
 私の生母のニュイ・レノドンは、私が15歳になる寸前に亡くなっている。
 木々の葉が芽吹き始めた頃だった。
 私は死に目に会えなかった。なぜなら、15歳の時に2度目の人生を終えて、回帰したから。
 自分でも信じられないが、私は、今、3度目の人生を歩んでいる。
 母が亡くなって1ヶ月後、レノドン伯爵はキューバス男爵の未亡人であるスカビエスとその連れ子をレノドン邸へ囲った。これは、日付の違いは多少あったが、1度目も2度目も、そして3度目の人生も変わらない。
 ちなみにパルティアン王国では、配偶者が亡くなった場合、半年間は喪に服す規則があった。
 だが、どのように『喪に服す』かは何も書かれていない。愛人を邸へ連れ込んでも問題にならないし、誰もがやっているため、新聞のネタにもならなくなっていた。
 スカビエス夫人の連れ子のダリアンはキューバス男爵の娘となっていたが、恐らく違うだろう。 なにせ、キューバス男爵は74歳で病弱だったし、スカビエスの前の夫人や前々の夫人とも子が出来なかった。さらに言うと、ダリアンの金色の髪とライトブラウンの瞳はレノドン伯爵と同じだった。
 スカビエス夫人とダリアンがレノドン伯爵邸に引っ越してきた日は、私が15歳の誕生日を迎えてから1ヶ月後だった。つまり、母が亡くなって2ヶ月後には、新しい家族が出来たわけだ。
 木には青々とした葉が茂り出し、庭園には色とりどりの花が咲き始めていた。
 初めて2人に会った日、挨拶した私はスカビエス夫人におもいっきり頬をつねられた。
 レノドン伯爵はハッとしていたが、すぐににやけた顔になり、ダリアンは2人の間に立って笑っていた。
「銀色の髪にアースアイ……お前は、ニュイ前夫人にそっくりね」
 スカビエス夫人はそう言って、ようやく私の頬から手を離した。
 私は怒りを感じたが、顔には出さないように努め、わざと悲しい顔をした。
 3度目の人生だから、これから起こる事は知っていたし、今は、気の弱い少女と思わせておいたほうが都合がいいからだ。
 そして、その日から、私が使っていた部屋と私の宝石やドレス、靴はダリアンの物になり、私の新しい部屋は別邸に移された。
 別邸では、メイド兼侍女としてマリアドネだけがあてがわれた。
 同時に社交界からは、隔離された。私宛てのお茶会やパーティーの招待状には、スカビエス夫人が連れてきた侍女が返事を書き、ダリアンが行った。
 ダリアンは訪問先で、
「ピオニーお義姉さまはご病気で邸を出られませんの。それで、私に代理を頼むと仰って……」
 と、嘘をついて回った。
 しかし皮肉にも、ダリアンの湯水のように湧き出る嘘の言葉が、私に関する美化された憶測を広めていった。
『誰よりも気高く美しく、白い百合の妖精』
『俗世を知らぬ、静謐な乙女』
『病気と闘いながらも、宝石のような濡れる瞳を持つ美少女』
 つまり、私はダリアンのせいで、深窓の令嬢と言われるようになった。
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