復讐は、冷やして食すのが一番美味い

Yuito_Maru

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第1章 3度目の人生

[02] 牢

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 ぼんやりとした灯りが点る通路を抜けると、また階段があった。
 降りるたびに黴臭さが増し、排泄物や魚が腐った臭いだけでなく、錆びた鉄の臭いも混じる。
 階段を降りようとすると、前方から光が放たれた。
「みんな、上に!」
 キーラの声と同時に団長らの身体が跳ね上がり、空中に浮いた。放たれた光は、誰もいない壁に当たり、大きな音と共に穴を開けた。壁に当たった光は煌々と穴倉全体を照らした。
 左右に鉄格子が並んでいる。鉄格子の中に何人かの人の気配がした。
 そして、前方には賊が3人立っている。
「ちぇッ、外したか。どうなってるんだ魔導士」
 小ぎれいな服を着て、腹を突き出した太った男が野太い怒鳴り声を上げる。
「お前にいくら払ってると思うんだ!」
「くっそ! ふざけんな! 相手がBランクなんて聞いてねぇぞ!」
 魔導士は顔を赤くして、震えている。キーラのコラリウムアイに怯えているのだ。
 Bランク以上の魔導士はこの世に5%しかいない。そして、どんな手を打っても上位ランク者は優位に立つ。下位ランク者はそれを身をもって知っていた。
「おい、そこの君!」
 キーラが賊の魔導士に向かって笑った。魔導士の肩が思わず跳ねた。
「攻撃しないなら、逃げたらどうかな?」
 魔導士は震え、後ろに後ずさりした。俯いた額から汗がしたたり落ちる。
 団長らが顔をしかめた。キーラの悪い癖だ。相手が怯えて、逃げれば逃げるほど、追い回す。まさに猫と鼠だ。
「お前、逃げる気か!」
 雇い主が、仲間の魔導士に再び大声で喚いた。
「兄貴、ずらかろう。嫌な予感しかしねぇ!」
 残りの賊が震え始めた。
「どこから逃げる気かな? ああ、後ろの銅扉? 無理だね」
 キーラが嬉しそうに指を鳴らした。
 賊の背後にあった銅扉は、あっという間にレンガの壁と同化した。
「そんな……バカな……」
「人間も同じようにできるけど、どうする?」
 キーラが尋ねると、賊らは抵抗することなく、跪いた。

 数分後、マルクスらが駆け付けた。マルクスは、団員たちに命じ、魔導士と賊の2人を捕らえた。キーラは魔導士の両手と両足に『沈黙の枷』を付けた。
「これは、私が作った魔法を封じる拘束具だよ。どんな感じ?」
 賊の魔導士の目がまどろみ、翡翠色の目が茶色に変わった。
「何も……何も感じません」
「そう。良かった。これは、君が元々持っていた魔力と今まで培ってきた魔力を吸い取って無くしちゃうんだよ。だから、痛いと可哀想だなって思ってさ」
 キーラは陽だまりのような笑顔を見せた。
「ちょっと、あんた、怖いんだけど」
 シビルが敵を追い込むキーラに痺れを切らして、制した。
「こいつを連れてって」
 シビルの命で団員が賊の魔導士を連行した。
「団長、牢の中に居た者たちの検査が終わりました。異常ありません」
 マルクスらと駆け付けた治癒師のケインが牢の奥で手を挙げた。
 囚われた者たちは、薬や魔法を掛けられて狂暴化したり、爆弾を仕掛けられたりすることが多い。そのため、キルコス傭兵団では、牢から出す前にキーラが作った魔道具『検知の眼』で検査をするルールになっていた。
「ご苦労」
 団長はケインを労うとキーラに合図した。
 キーラはうなずくと、手のひらを上に向け、指を折って人を招くような動作をした。すると、一斉に耳障りな音が響き、牢の扉が開いた。
 団長は、マルクスとシビルに命じた。
「団員はいつものように二手に分かれてほしい。マルクスたちは賊を眠らせて、第2王太子の青い騎士団へ引き渡せ。囚われた者たちは戦闘中に逃げたと伝えろ」
「かしこまりました」
 マルクスは身を翻し、地上へ戻った。
「シビルたちは囚われた人の救護を。我々の救護院へ連れて行き、傷の手当てと食事を与えるように」
 シビルも大きくうなずくと、他の団員らと各牢に入った。「もう大丈夫だ」と声を掛けながら、囚われた人々の縄や鎖を素早く解いて牢から救い出した。
 囚人たちは使い古した穴だらけの布切れをまとい、一様にケガをしたり、病気になったりしていてやつれていた。
 団長はそれらを見守りながら、ケインの居る牢の奥へ進んだ。
 ケインが立っていた牢には、血で汚れた銀色の髪の男の子が眠っていた。5、6歳児に見える。殴られた跡のある顔は青黒く腫れ、血だらけだった。さらに異常なのは、壁から這い出ている鎖で両手と両足を繋がれていることだった。その両手と両足も血だらけで、やせ細っていた。
「ここまでする必要があったんでしょうか」
 ケインの声が震えていた。
 団長は男の子をじっと見つめてつぶやいた。
「キャンディ……やっと会えた」
 団長の声も震えていた。
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