74 / 700
第五章
蛇の目
しおりを挟む
クランさんとの面談の後。俺たちに用意されたのはなんと、スタジアム内の宿泊施設だった。しかも広くてゴージャスなスイートルーム的な。
ナイトエルフたちのホーム、「オータムリーブススタジアム」はアーロンやアホウのほどではないがラウンジ会議場などを常設し、イベント会場としても使える便利な施設だった。特に暗い地下においてナイター設備は充実し、連動する魔法で5秒程度でオンオフできる優れ物だ。
それも今は何故かピンクの照明になっているが。寝る時は消して貰おう。
「とりあえず明日の紅白戦で何か掴みましょう」
今のピッチ上は紅白の絵の具を混ぜた色だけどな!
「やはり『蛇の目』はあるのでしょうか?」
ナリンさんが俺の隣に歩み寄り、同じようにピッチの上へ目をさまよわせながら訊ねる。
「ええ。俺の世界の言葉でも『蛇の道は蛇』というくらいですし」
『蛇の目』とはナイトエルフが名付けた、ゴルルグ族の密偵たちの名前だ。あの蛇人間たちは排他的で自分たちの素性を殆ど相手に渡さない一方、相手側には様々な形――賄賂や裏取引、はたまた特殊な変装用の『皮』を被っての潜入まで――でスパイを送り込み情報を根こそぎ収集しているという。
明日はここで「ファン感謝祭」という名目でナイトエルフ代表チームの選手とファンを集めイベントを行うが、きっとそこにもゴルルグ族のスカウティングチームがいるだろう。いや、もしかしたら既にナイトエルフの職員に変装したゴルルグ族が既にいるかもしれない。
「それはそうと……リストさんとクエンさんも代表選手だとは驚きでしたね」
ナリンさんは部屋に届けられた明日の予定表を見ながら呟く。ガタッ!と近くで何かがきしむ音がした。
「そうですか? ステフやスワッグ曰くなかなかの手練れらしいですし、彼女たちともみ合った時の身のこなしを見ても納得ですけどね。ボール扱いやサッカーIQは分かりませんが」
「てれ」
「何か言いました?」
「いえ、別に」
ナリンさんは不思議そうに首を傾げたが、ふと何かを思いついたかのように怪しい笑みを浮かべて口を開いた。
「あの最中にそこまで観察しているとは……冷静だな、ショーは」
ナリンさんは声を低くし背筋を伸ばし、がに股で歩いて近づいてきた。これは……突然のナリスさんモード!?
「ナリスだって見てただろ?」
なんとなく流れに押されて乗ってしまった。
「いや。俺はあの時もお前……ショーしか見てなかったからな」
彼女、いや彼はそう言いながら俺の前髪を右手で直しそのまま首の後ろに添える。
「ナリス……」
「あの時だけじゃない。二人だけで旅した日々の間ずっと俺は……」
『ぴーぴーぴーよー! ただいま場内アナウンスのチェック中ぴよ!』
突如、スワッグの声がスタジアムに響いた。
「ふふ。あのお二人、はりきってらっしゃいますね」
ナリスさんがナリンさんに戻って思わず吹き出す。
「ええ。『音響監督を任されるのは久しぶりだ』て喜んでましたね」
俺もナリンさんと同時に素に戻って笑う。スワッグとステフは明日のファン感謝祭でMCのような仕事をするらしく、既に今から設備点検に勤しんでいるのだ。
「熱心なのは良いけど、もう寝た方が良いと思うなあ」
地下なので時間感覚が分かり辛いが、スタジアム上部の時計の針は深夜の域に入っている。
「ちょっと様子を見てきますね」
ナリンさんは苦笑しながら小走りに部屋を出ていった。
「困ったエルフだな~」
俺はそう言いながら部屋の端の細長いロッカーに近づく。
「どいつもこいつも、と!」
そして一気にロッカーの扉を開いた。
「きゅ~!」
扉が開くと同時に江頭さんばりに「直立する棒」と化していたリストさんが床に倒れ込む。
「何してはるんっすか?」
俺は俺で矢部っちスタジアムのメインMCのようなツッコミを入れる。
「はっ! ここは!? ……そうか拙者、蛇の目が潜んでいないかと細かい所をチェックしている間に暗闇で眠ってしまって」
「んな訳あるかい! 不自然やろ、スイートルームにこんなロッカー!」
俺は思わず部屋用のスリッパでリストさんの頭をはたいてしまった。
「本当はどうやったんすか?」
「期待して潜んでいたのに真面目な話ばかりで『くそっ…じれってーな。俺、ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!』って出ようとしたら急に思いの外、濃厚なナリショーを接種して気を失ってしまったでござる」
そうじゃないかなーと思ってた!
「あの、こういう事を言って良いのか分からないんすけど……」
「はい?」
「ロッカー持って帰って! あとやらしい雰囲気なスタジアムの照明も普通のに直して!
「御意ー!」
リストさんは片手でロッカーを抱え上げると、いそいそと部屋を出て行った。凄い身体能力だ。
「あー頭が痛い」
だが言動を見てるとなかなかの問題児の様だ。俺は頭痛を和らげようと自分の首の後ろを揉んだ。
ナイトエルフたちのホーム、「オータムリーブススタジアム」はアーロンやアホウのほどではないがラウンジ会議場などを常設し、イベント会場としても使える便利な施設だった。特に暗い地下においてナイター設備は充実し、連動する魔法で5秒程度でオンオフできる優れ物だ。
それも今は何故かピンクの照明になっているが。寝る時は消して貰おう。
「とりあえず明日の紅白戦で何か掴みましょう」
今のピッチ上は紅白の絵の具を混ぜた色だけどな!
「やはり『蛇の目』はあるのでしょうか?」
ナリンさんが俺の隣に歩み寄り、同じようにピッチの上へ目をさまよわせながら訊ねる。
「ええ。俺の世界の言葉でも『蛇の道は蛇』というくらいですし」
『蛇の目』とはナイトエルフが名付けた、ゴルルグ族の密偵たちの名前だ。あの蛇人間たちは排他的で自分たちの素性を殆ど相手に渡さない一方、相手側には様々な形――賄賂や裏取引、はたまた特殊な変装用の『皮』を被っての潜入まで――でスパイを送り込み情報を根こそぎ収集しているという。
明日はここで「ファン感謝祭」という名目でナイトエルフ代表チームの選手とファンを集めイベントを行うが、きっとそこにもゴルルグ族のスカウティングチームがいるだろう。いや、もしかしたら既にナイトエルフの職員に変装したゴルルグ族が既にいるかもしれない。
「それはそうと……リストさんとクエンさんも代表選手だとは驚きでしたね」
ナリンさんは部屋に届けられた明日の予定表を見ながら呟く。ガタッ!と近くで何かがきしむ音がした。
「そうですか? ステフやスワッグ曰くなかなかの手練れらしいですし、彼女たちともみ合った時の身のこなしを見ても納得ですけどね。ボール扱いやサッカーIQは分かりませんが」
「てれ」
「何か言いました?」
「いえ、別に」
ナリンさんは不思議そうに首を傾げたが、ふと何かを思いついたかのように怪しい笑みを浮かべて口を開いた。
「あの最中にそこまで観察しているとは……冷静だな、ショーは」
ナリンさんは声を低くし背筋を伸ばし、がに股で歩いて近づいてきた。これは……突然のナリスさんモード!?
「ナリスだって見てただろ?」
なんとなく流れに押されて乗ってしまった。
「いや。俺はあの時もお前……ショーしか見てなかったからな」
彼女、いや彼はそう言いながら俺の前髪を右手で直しそのまま首の後ろに添える。
「ナリス……」
「あの時だけじゃない。二人だけで旅した日々の間ずっと俺は……」
『ぴーぴーぴーよー! ただいま場内アナウンスのチェック中ぴよ!』
突如、スワッグの声がスタジアムに響いた。
「ふふ。あのお二人、はりきってらっしゃいますね」
ナリスさんがナリンさんに戻って思わず吹き出す。
「ええ。『音響監督を任されるのは久しぶりだ』て喜んでましたね」
俺もナリンさんと同時に素に戻って笑う。スワッグとステフは明日のファン感謝祭でMCのような仕事をするらしく、既に今から設備点検に勤しんでいるのだ。
「熱心なのは良いけど、もう寝た方が良いと思うなあ」
地下なので時間感覚が分かり辛いが、スタジアム上部の時計の針は深夜の域に入っている。
「ちょっと様子を見てきますね」
ナリンさんは苦笑しながら小走りに部屋を出ていった。
「困ったエルフだな~」
俺はそう言いながら部屋の端の細長いロッカーに近づく。
「どいつもこいつも、と!」
そして一気にロッカーの扉を開いた。
「きゅ~!」
扉が開くと同時に江頭さんばりに「直立する棒」と化していたリストさんが床に倒れ込む。
「何してはるんっすか?」
俺は俺で矢部っちスタジアムのメインMCのようなツッコミを入れる。
「はっ! ここは!? ……そうか拙者、蛇の目が潜んでいないかと細かい所をチェックしている間に暗闇で眠ってしまって」
「んな訳あるかい! 不自然やろ、スイートルームにこんなロッカー!」
俺は思わず部屋用のスリッパでリストさんの頭をはたいてしまった。
「本当はどうやったんすか?」
「期待して潜んでいたのに真面目な話ばかりで『くそっ…じれってーな。俺、ちょっとやらしい雰囲気にしてきます!!』って出ようとしたら急に思いの外、濃厚なナリショーを接種して気を失ってしまったでござる」
そうじゃないかなーと思ってた!
「あの、こういう事を言って良いのか分からないんすけど……」
「はい?」
「ロッカー持って帰って! あとやらしい雰囲気なスタジアムの照明も普通のに直して!
「御意ー!」
リストさんは片手でロッカーを抱え上げると、いそいそと部屋を出て行った。凄い身体能力だ。
「あー頭が痛い」
だが言動を見てるとなかなかの問題児の様だ。俺は頭痛を和らげようと自分の首の後ろを揉んだ。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる