555 / 700
第三十一章
もー寝てられない
しおりを挟む
リストさんの動きが落ち着く共に、試合展開もかなり落ち着いたものとなった。アローズの前線にはそのリストさんとヨンさんというハイタワーが2本そびえ立つ事となり、ノートリアスはオークのCBコンビに加えて常に近い側のSBをカバー要員として常に1枚残して対抗した。
そうなると中盤以降の選手数では両チームとも同数となる。むしろ、我々ほど連携が構築されていない寄せ集め軍人チームは、必要ない部分に選手が多かったり逆の場所に少なかったりして、場合によってはまるで自分達が数的不利の様な苦境にはまった。
『何をやってんだ! もっと走れー!』
業を煮やしたライリー監督がテクニカルエリアから叫ぶ。
「なんて言ってます?」
「『走り回れ』くらいっすねー」
その様子を見て俺が訊ねると、アカリさんこそっと教えてくれた。今日のノートリアスはCBとボランチのモーネさん以外の全員がガンス族である。彼女らは運動量と団結力が売りの狼人間たちであり、出せるカード言えばそれしかないだろう。
「でもまあ、無理無理やばーい、って感じす」
そんな事を考えてた俺にアカリさんは楽しそうに付け足す。一般的に監督が
「落ち着けー!」
と叫んでいる時はチームがパニックになってどうしようもない時。
「もっと走れ!」
と怒鳴っている時は選手は足に疲労が貯まって動けない時である。
ガンス族の選手たちは……まったく持ち味を出せないでいた。それはもちろん、ティアさんが王都の素敵な夜のお店を紹介し、彼女らがナイトライフを楽しみまくった結果である。あとルーナさんが砂かぶり席にいる時期というので察しがつくだろうが、月の様子も狼人間にとって良くはなかった。
例外として、CBのオークさんたちは良く持ちこたえていた。それほど走り回るポジションではないとは言え、あまりコンディションの悪さが見えない。オーク族の性格的に夜遊びへ参加していないとは思えないので、これはもう彼女らの強さと言うしかないかもしれない。
先のオーク戦後、彼女らのコーチも
「試合後なんてキツイ酒飲んで交尾して寝るだけブヒ!」
とか言ってたからね……。
与太話はともかく試合の方だが、こちらも眠り続けた状態だった。クエン、ポリン、レイの3名がその能力を駆使し、リストさんが縦横無尽に走り回っても、である。それほどに退場者を出して数的不利になるのは難しいのだ。
「なんとかこのままでハーフタイムまで逃げ切りたいですね」
「そうでありますね。ただ不気味なのはモーネでありますが……」
ナリンさんはアカサオから記録ボードを借りて目を通しながら言った。
「どうしました?」
「やはりであります! プレースタイルが変わった後でもあの子はもう少しドリブルを使うタイプでありました。しかし……」
コーチはある項目を指さしながら俺に見せた。空白、つまりゼロである。
「ミドルサード越えのドリブルは無し、ですか」
魔法の眼鏡が無いので文字は読めないが、その位置が何の記録であるか俺は覚えていた。ミドルサード、つまりピッチ中央付近でのドリブルが一度も無かったのだ。
「まあ今日のポジションがボランチだから仕方ないという面もあるでしょうが……」
ボランチとは舵取り、つまり攻撃やボールの行き先を決めるポジションだ。人間の身体で言えば臍に当たる位置に陣取り、主にパスで味方を操りリズムを作る。プレー変化後のモーネさんに相応しい仕事だと言える。
なのでパスばかりして、相手を抜き去るようなドリブルをしていないのは間違いではない。とは言えシチュエーションによってはプレスにきた選手をドリブルでかわしたり、ボールを持ち上がって相手DFを釣り出しパスコースを作ったりくらいはする。
それなのにゼロとは……確かにおかしい。
「ナリンさん? 聞き難い話ですが、リュウさんの様子って見てました?」
「いえ、特には……」
そう言いながら、俺たちは同時にノートリアス側のベンチを見た。そこにエルフのコーチはいなかった。
「あ、あっちであります!」
先にナリンさんが気づく。リュウさんは、テクニカルエリアにいた。腕を上に上げてモーネさんの方を見ている。
「いまなのか!?」
俺は叫んだが、果たしてその通りだった。俺の言葉が終わらない間にモーネさんがCBからボールを受け取り、パスを出すフリをしてターン一発でヨンさんの裏を取り前進した。
それから……スピードを上げてドリブルを開始した。
『ごめん、ポリン!』
慌ててヨンさんが追走するが、足の早さとスムーズさは如何ともし難い。モーネさんは中盤へ差し掛かり、急ぎチェックに来たポリンさんを腕で牽制しながらドリブルを続ける。
「すげえ……」
モーネさんがボールに細かくタッチしつつ何度かパスを出すフェイントを行い、シャマーさんがその度にラインを下げる。しかし遂にクエンさんがアタックに入り、キャプテンはオフサイドトラップを諦めラインを一気に押し上げた。この距離だともう心配はスルーパスではなくミドルシュートなのだ。
『え? あれ?』
しかしモーネさんの選択はパスでもシュートでもなかった。そこで急ストップして右腕でポリンさんの腰を押して彼女の体勢を崩し、クエンさんの方向へ押しやる。
『危ないっす!』
結果、倒れそうになるポリンさんをクエンさんが抱き留めるような形になった。その残り足に自身の左足をかけながら、モーネさんは前進を続けようとした。
『痛っぁ!』
「ピピー!」
当然、モーネさんは転倒し笛が即座に鳴る。アローズの面々が呆然となる中、PAのすぐ外でノートリアスに直接FKが与えられる事となった……。
そうなると中盤以降の選手数では両チームとも同数となる。むしろ、我々ほど連携が構築されていない寄せ集め軍人チームは、必要ない部分に選手が多かったり逆の場所に少なかったりして、場合によってはまるで自分達が数的不利の様な苦境にはまった。
『何をやってんだ! もっと走れー!』
業を煮やしたライリー監督がテクニカルエリアから叫ぶ。
「なんて言ってます?」
「『走り回れ』くらいっすねー」
その様子を見て俺が訊ねると、アカリさんこそっと教えてくれた。今日のノートリアスはCBとボランチのモーネさん以外の全員がガンス族である。彼女らは運動量と団結力が売りの狼人間たちであり、出せるカード言えばそれしかないだろう。
「でもまあ、無理無理やばーい、って感じす」
そんな事を考えてた俺にアカリさんは楽しそうに付け足す。一般的に監督が
「落ち着けー!」
と叫んでいる時はチームがパニックになってどうしようもない時。
「もっと走れ!」
と怒鳴っている時は選手は足に疲労が貯まって動けない時である。
ガンス族の選手たちは……まったく持ち味を出せないでいた。それはもちろん、ティアさんが王都の素敵な夜のお店を紹介し、彼女らがナイトライフを楽しみまくった結果である。あとルーナさんが砂かぶり席にいる時期というので察しがつくだろうが、月の様子も狼人間にとって良くはなかった。
例外として、CBのオークさんたちは良く持ちこたえていた。それほど走り回るポジションではないとは言え、あまりコンディションの悪さが見えない。オーク族の性格的に夜遊びへ参加していないとは思えないので、これはもう彼女らの強さと言うしかないかもしれない。
先のオーク戦後、彼女らのコーチも
「試合後なんてキツイ酒飲んで交尾して寝るだけブヒ!」
とか言ってたからね……。
与太話はともかく試合の方だが、こちらも眠り続けた状態だった。クエン、ポリン、レイの3名がその能力を駆使し、リストさんが縦横無尽に走り回っても、である。それほどに退場者を出して数的不利になるのは難しいのだ。
「なんとかこのままでハーフタイムまで逃げ切りたいですね」
「そうでありますね。ただ不気味なのはモーネでありますが……」
ナリンさんはアカサオから記録ボードを借りて目を通しながら言った。
「どうしました?」
「やはりであります! プレースタイルが変わった後でもあの子はもう少しドリブルを使うタイプでありました。しかし……」
コーチはある項目を指さしながら俺に見せた。空白、つまりゼロである。
「ミドルサード越えのドリブルは無し、ですか」
魔法の眼鏡が無いので文字は読めないが、その位置が何の記録であるか俺は覚えていた。ミドルサード、つまりピッチ中央付近でのドリブルが一度も無かったのだ。
「まあ今日のポジションがボランチだから仕方ないという面もあるでしょうが……」
ボランチとは舵取り、つまり攻撃やボールの行き先を決めるポジションだ。人間の身体で言えば臍に当たる位置に陣取り、主にパスで味方を操りリズムを作る。プレー変化後のモーネさんに相応しい仕事だと言える。
なのでパスばかりして、相手を抜き去るようなドリブルをしていないのは間違いではない。とは言えシチュエーションによってはプレスにきた選手をドリブルでかわしたり、ボールを持ち上がって相手DFを釣り出しパスコースを作ったりくらいはする。
それなのにゼロとは……確かにおかしい。
「ナリンさん? 聞き難い話ですが、リュウさんの様子って見てました?」
「いえ、特には……」
そう言いながら、俺たちは同時にノートリアス側のベンチを見た。そこにエルフのコーチはいなかった。
「あ、あっちであります!」
先にナリンさんが気づく。リュウさんは、テクニカルエリアにいた。腕を上に上げてモーネさんの方を見ている。
「いまなのか!?」
俺は叫んだが、果たしてその通りだった。俺の言葉が終わらない間にモーネさんがCBからボールを受け取り、パスを出すフリをしてターン一発でヨンさんの裏を取り前進した。
それから……スピードを上げてドリブルを開始した。
『ごめん、ポリン!』
慌ててヨンさんが追走するが、足の早さとスムーズさは如何ともし難い。モーネさんは中盤へ差し掛かり、急ぎチェックに来たポリンさんを腕で牽制しながらドリブルを続ける。
「すげえ……」
モーネさんがボールに細かくタッチしつつ何度かパスを出すフェイントを行い、シャマーさんがその度にラインを下げる。しかし遂にクエンさんがアタックに入り、キャプテンはオフサイドトラップを諦めラインを一気に押し上げた。この距離だともう心配はスルーパスではなくミドルシュートなのだ。
『え? あれ?』
しかしモーネさんの選択はパスでもシュートでもなかった。そこで急ストップして右腕でポリンさんの腰を押して彼女の体勢を崩し、クエンさんの方向へ押しやる。
『危ないっす!』
結果、倒れそうになるポリンさんをクエンさんが抱き留めるような形になった。その残り足に自身の左足をかけながら、モーネさんは前進を続けようとした。
『痛っぁ!』
「ピピー!」
当然、モーネさんは転倒し笛が即座に鳴る。アローズの面々が呆然となる中、PAのすぐ外でノートリアスに直接FKが与えられる事となった……。
0
あなたにおすすめの小説
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
セクスカリバーをヌキました!
桂
ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。
国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。
ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
MP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件
美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…?
最新章の第五章も夕方18時に更新予定です!
☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。
※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます!
※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。
※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!
【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~
シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。
木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。
しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。
そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。
【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる