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第三十一章
悪いキッド
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「それで行きますが、せっかく元気になったリストさんに制限をかけ過ぎたくない。時限式でいきましょう」
俺は少し考えて、そう返答した。時限式とは言葉通りそうする時間を限るということだ。ペナルティエリアの幅、というのが既に妥協なのだがさらに妥協を重ねるのだ。
「注意ではなくあくまでもアイデアという形で、ですね。今から5分だけ幅の範囲に動きを縮めて相手に『あれ? リスト選手疲れたのかな?』と思わせて、また自由へ戻す……みたいな?」
俺は作戦ボード上のペナルティエリアに太い線と5という数字を書き込んで言う。実際にリストさん達に説明する時にも見せる予定だ。言葉での指示とビジュアルでのイメージを併用するのである。その方が確実に伝わるし、複数名にも伝達し易い。
あと……いかにも指示を出している、という感じが出る。なんだ格好つけかよ! て話だがこれが意外と大事だ。内外、つまりアローズにもノートリアスにも、
「何かをしかけているぞ!」
と思わせる効果がある。そうすれば味方は安心するし相手は疑心暗鬼になる。
実際はそれほど大層な話ではないとしても。
「了解であります! あとは伝えるタイミングでありますね」
「そうですね……ってきた! いや来るんかい!」
そう話す間にボールがサイドラインの外へ転がりスローインをしようとリストさんがやってきて、俺は思わず叫んだ。その一人ボケ一人ツッコミみたいな声に、言葉が分からないリストさんもビクっと反応する。
『どうしたでござる!?』
「あー、まあいいや、ナリンさんお願いします!」
俺は頭を掻きながらコーチに指示を出しボールを拾ってアイラさんの方へ歩く。何故そんな事をするかと言うと、不利な状況を少しでも有利にもっていこうと思ったからである。
そもそも自チームのスローインが有利な状況だという思いこみは間違いだ。単純な数で言えば、投げ入れる選手が一人外にいるので中の人数は一人減っているのだから。もちろん、オーク代表並のロングスローを投げ入れられたり、ガンス族戦でやったオーバーロード――片方のサイドに極端に選手を集める戦術だ――を使用するなら話は別だが。
しかも先ほどは本来、スローインで投げ入れられたボールを受けるべきリストさんが投げ手になろうとしていた。スローインはSB等サイドの選手が投げ、FWが受け手になるのがセオリーである。多くの場合、レシーバーの選手にはマークがつくので、DFを背負ってキープするのが上手いFWが担った方が良いからだ。ここが逆だと中にいるべきFWが外からスローインをし、SBがボールを保持できず奪われ一気に逆襲を受けてしまったりする。
つまりあのままリストさんにスローインを投げさせると、少々まずかったのである。
『監督、私ですか?』
「えっと、お願いします」
視線が合ったボールパーソンのエルフの少女がジェスチャーで自分を指さしたので、俺はそう答えながら頭を下げた。一見、会話が成立しているように見えるがもちろん当てずっぽうである。
『じゃあ……えっ!?』
「あ、え!?」
そうして、彼女がボールをアイラさんへ転がしたのを目の隅で確認しつつ、俺はアイラさんの頭上へボールを下手投げで放った。
『ちょ、監督! 無理なのだ!』
すると当然、足下に来たボールと俺から渡されたボール、どちらを受け取るか悩んでアイラさんは慌てた。結果、両方に触れることさえできず二つのボールがピッチへ入る。
『あらら! 何をやっているです!?』
「すみません! ちょっと意志の疎通が……」
リザードマンの副審さんが咎めるような目――って爬虫類の目なんてオールウェイズ冷たい目だけどね!――をしながら旗をふり審判さんが笛を鳴らして試合を止める。俺はトカゲ人と上空のドラゴンさんに手を上げ謝罪しつつ、クエンさんに合図して近い方のボールを蹴り出して貰った。
ボールパーソン同士や選手との呼吸が合わず、ボールがピッチ内に二つ存在してしまうのはたまにある事だ。少々非難の視線が俺に注がれたが特に警告などは出ず、やがて改めてボールがアイラさんへ届けられスローインで試合は再開された。
その間にナリンさんは素早くリストさんと、ポリンさんへの説明を終えていた。
「上手くやったでありますね!」
「いえいえ、ナリンさんこそ!」
俺は審判さんや副審さんには見えない側の目でナリンさんへウインクを飛ばした。今のドタバタはもちろん、故意だったからだ。ナリンさんが飛ばし過ぎのナイトエルフと、できればもう一名二名に作戦を伝える時間を作る為に俺はわざとボールが二個入るようにし向けたのだ。
何度か言及しているが、サッカーとは監督やコーチが試合中に選手へ指示を伝えるのが非常に難しい球技である。騒音やピッチの広さもあるが、他のスポーツの様なタイムアウトが存在しないのもその理由の一つだ。先ほどの俺の行為はそんな時間を強制的に作る為のちょっとした悪いテクニックだった。
ちなみにサッカーではなくバスケットだが、NBAのジェイソン・キッド監督は手にソーダ水の入ったコップを持った状態で密かに選手へ
「俺にぶつかれ!」
と命令して衝突して、ソーダをこぼしてまんまと――コートに散らばった氷と液体を掃除する――時間をゲットした事がある。彼は後にそれがバレて罰金処分になったが俺はたぶん大丈夫だろう。
まあ、罰金くらい払うけどね!
「さてと。小細工の価値はあったかな?」
俺はそう呟きながらベンチへ戻り、目立たないよう座りながら戦況を確認する事にした。
俺は少し考えて、そう返答した。時限式とは言葉通りそうする時間を限るということだ。ペナルティエリアの幅、というのが既に妥協なのだがさらに妥協を重ねるのだ。
「注意ではなくあくまでもアイデアという形で、ですね。今から5分だけ幅の範囲に動きを縮めて相手に『あれ? リスト選手疲れたのかな?』と思わせて、また自由へ戻す……みたいな?」
俺は作戦ボード上のペナルティエリアに太い線と5という数字を書き込んで言う。実際にリストさん達に説明する時にも見せる予定だ。言葉での指示とビジュアルでのイメージを併用するのである。その方が確実に伝わるし、複数名にも伝達し易い。
あと……いかにも指示を出している、という感じが出る。なんだ格好つけかよ! て話だがこれが意外と大事だ。内外、つまりアローズにもノートリアスにも、
「何かをしかけているぞ!」
と思わせる効果がある。そうすれば味方は安心するし相手は疑心暗鬼になる。
実際はそれほど大層な話ではないとしても。
「了解であります! あとは伝えるタイミングでありますね」
「そうですね……ってきた! いや来るんかい!」
そう話す間にボールがサイドラインの外へ転がりスローインをしようとリストさんがやってきて、俺は思わず叫んだ。その一人ボケ一人ツッコミみたいな声に、言葉が分からないリストさんもビクっと反応する。
『どうしたでござる!?』
「あー、まあいいや、ナリンさんお願いします!」
俺は頭を掻きながらコーチに指示を出しボールを拾ってアイラさんの方へ歩く。何故そんな事をするかと言うと、不利な状況を少しでも有利にもっていこうと思ったからである。
そもそも自チームのスローインが有利な状況だという思いこみは間違いだ。単純な数で言えば、投げ入れる選手が一人外にいるので中の人数は一人減っているのだから。もちろん、オーク代表並のロングスローを投げ入れられたり、ガンス族戦でやったオーバーロード――片方のサイドに極端に選手を集める戦術だ――を使用するなら話は別だが。
しかも先ほどは本来、スローインで投げ入れられたボールを受けるべきリストさんが投げ手になろうとしていた。スローインはSB等サイドの選手が投げ、FWが受け手になるのがセオリーである。多くの場合、レシーバーの選手にはマークがつくので、DFを背負ってキープするのが上手いFWが担った方が良いからだ。ここが逆だと中にいるべきFWが外からスローインをし、SBがボールを保持できず奪われ一気に逆襲を受けてしまったりする。
つまりあのままリストさんにスローインを投げさせると、少々まずかったのである。
『監督、私ですか?』
「えっと、お願いします」
視線が合ったボールパーソンのエルフの少女がジェスチャーで自分を指さしたので、俺はそう答えながら頭を下げた。一見、会話が成立しているように見えるがもちろん当てずっぽうである。
『じゃあ……えっ!?』
「あ、え!?」
そうして、彼女がボールをアイラさんへ転がしたのを目の隅で確認しつつ、俺はアイラさんの頭上へボールを下手投げで放った。
『ちょ、監督! 無理なのだ!』
すると当然、足下に来たボールと俺から渡されたボール、どちらを受け取るか悩んでアイラさんは慌てた。結果、両方に触れることさえできず二つのボールがピッチへ入る。
『あらら! 何をやっているです!?』
「すみません! ちょっと意志の疎通が……」
リザードマンの副審さんが咎めるような目――って爬虫類の目なんてオールウェイズ冷たい目だけどね!――をしながら旗をふり審判さんが笛を鳴らして試合を止める。俺はトカゲ人と上空のドラゴンさんに手を上げ謝罪しつつ、クエンさんに合図して近い方のボールを蹴り出して貰った。
ボールパーソン同士や選手との呼吸が合わず、ボールがピッチ内に二つ存在してしまうのはたまにある事だ。少々非難の視線が俺に注がれたが特に警告などは出ず、やがて改めてボールがアイラさんへ届けられスローインで試合は再開された。
その間にナリンさんは素早くリストさんと、ポリンさんへの説明を終えていた。
「上手くやったでありますね!」
「いえいえ、ナリンさんこそ!」
俺は審判さんや副審さんには見えない側の目でナリンさんへウインクを飛ばした。今のドタバタはもちろん、故意だったからだ。ナリンさんが飛ばし過ぎのナイトエルフと、できればもう一名二名に作戦を伝える時間を作る為に俺はわざとボールが二個入るようにし向けたのだ。
何度か言及しているが、サッカーとは監督やコーチが試合中に選手へ指示を伝えるのが非常に難しい球技である。騒音やピッチの広さもあるが、他のスポーツの様なタイムアウトが存在しないのもその理由の一つだ。先ほどの俺の行為はそんな時間を強制的に作る為のちょっとした悪いテクニックだった。
ちなみにサッカーではなくバスケットだが、NBAのジェイソン・キッド監督は手にソーダ水の入ったコップを持った状態で密かに選手へ
「俺にぶつかれ!」
と命令して衝突して、ソーダをこぼしてまんまと――コートに散らばった氷と液体を掃除する――時間をゲットした事がある。彼は後にそれがバレて罰金処分になったが俺はたぶん大丈夫だろう。
まあ、罰金くらい払うけどね!
「さてと。小細工の価値はあったかな?」
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