26 / 85
第二十六話
しおりを挟む
返す言葉が見つからなくて僕が口をつぐんでしまうと、場が静寂に包まれる。沈黙を破る様に拍手の音が響く。僕ら3人ともそちらの方へ目を向ける。そこにはこの話を一番聞かせたくない人物がいた。
「ああ、なんて素晴らしいのでしょう!兄君のためにご自分を犠牲にされるなんて!カリーノ殿下がここまで仰られているのですから、たった一度フィリアス卿と交わることくらい許せますよね?ヴィルム殿下」
「それは…僕が決める事じゃないだろ」
父上達との会談終わりにカリーノの様子を見に来たのだろう。素晴らしいなんて言っているが、レトア卿はカリーノに憐れみの視線を向ける。それに僕がそれに応じるのが当然といった口振りだ。
「フィリアス卿は愛するヴィルムからお願いすれば断らないですよ。それとも、彼はあなたを抱くのでいっぱいいっぱいですか?これだけ強い匂いがしてるってことは昨日抱かれたのでしょ?」
わざとカリーノに聞かせる様に言うとレトア卿は僕に近寄り首元に顔を近づける。案の定、カリーノは涙を溜めた目をつりあげ僕を睨みつける。
「兄上、これ以上この場をひっかき回すのはお辞めください」
「はぁ…。ひっかき回して等いないさ。私はカリーノ殿下に真実をお伝えしているだけだ。それより、ベータのお前がなぜここに居るんだ?お前には王城に来る資格はないと、私は言ったはずだが?」
僕との間に割って入ったアルヴィにレトア卿は冷たい言葉を浴びせる。
「それは…アーシュレイ殿からカリーノ殿下のことを伺ったので」
「まったく。お前のカリーノ殿下への好意をフィリアス卿にまんまと利用されるなんて。
これだからベータは嫌いなんだ」
レトア卿に思わぬ暴露をされた上に侮蔑の視線を向けられたアルヴィは気まずそうに顔を俯ける。アルヴィの気持ちを思わぬ形で知った僕はカリーノの方へ視線を向ける。カリーノも気づいて無かった様で驚いた表情をしている。
「レトア卿いい加減にしろ。アーシュはアルヴィを利用したわけじゃない。カリーノと仲がいいから、彼ならカリーノも心を開くと信じて託したんだ。それにお前はベータやオメガに何を言っても許されると勘違いしてないか?誰かを傷つける言葉を平然と言えるなんて人として間違えてる」
僕はレトア卿を睨みつけそう言う。例え能力はアルファの方が優れていたとしても、人間性ではレトア卿なんてアルヴィの足元にすら及ばない。僕の言葉を聞いたレトア卿は怒るかと思っていたが、そんなことはなくニヤリと笑った。
「間違えてる?なんとでも言っていただいて結構です。ただ、慈悲深い私はそれを証明するチャンスをあなたに差し上げます」
得意気に言うと、僕とカリーノを試す様に見る。
「先程、フィリアス侯爵家からヴィルム殿下の側室入りは了承しかねると申し出がありました。ただレトア侯爵家もカリーノ殿下の本意ではない縁談を勧めるのは大変心苦しいのです。なので今回の縁談は先方のご指名通りヴィルム殿下を。と陛下に進言したいと思います」
もしかしてアーシュが大丈夫と言っていたのは、フィリアス家当主から反対の意を表明させる自信があったからなのかもしれない。それにフィリアス家が反対すれば、これ幸いとレトア家がカリーノを代わりに差し出すと予想していたのだろう。
でも今、その予想に反する事態になってしまった。完全に僕の失態だ。
この縁談でフィリアス侯爵家とレトア侯爵家が対立して国が割れる事は避けたいと父上は考えるはず。そうなるとリドールの希望に沿う様に、僕を側室入りさせるためフィリアス家当主を説得するはず。アーシュが何て説得したのかは分からないが、貴族ならばリドールの王子の寵妃の方がエステートの王位より魅力があるはずだ。最悪な結末が頭を巡る。レトア卿はそんな僕を満足気に見下す。
「もしオメガが優秀ならこの状況をひっくり返せますよね?
妹の恋心を利用すれば側室入りを回避できると、今はあなたしか知らない。それをフィリアス卿に伝えて協力してもらえばいい。そうすれば、あなたは嫌なことから逃れられ、私に優秀だと示すことができる。あなたにとってメリットしかありませんよ?」
レトア卿はカリーノが納得すればカリーノがリドールに嫁ぐ様な口ぶりで言う。
でも妹を傷つけるやり方なんてできない。それにアーシュが僕以外に触れる事を考えると胸が苦しくなる。それにしてもレトア卿にはなんのメリットもないのに、こんな提案をするのは完全な嫌がらせだろう。表情にこそ出ていないが、僕の言葉がレトア卿の怒りに触れたのだろう。
「分かった。ただ、カリーノを利用するやり方はしない。僕なりにベストな道を探してお前に証明してみせる」
「せいぜい頑張って楽しませてくださいね」
レトア卿は高らかに笑うと元来た道へ踵を返す。どうやら、形だけでも僕やカリーノに挨拶することもやめたみたいだ。僕は遠のいていく背中を忌々しく睨みつけた。
* * *
沈む気持ちがのしかかり、体をさらに重くしている気がする。重くなった体を引きずり自分の執務室へノックなしに入ると、お目当ての人物の姿が見えた。
「誰だ?…ヴィル、今日の仕事は大丈夫だよ?」
「ありがとう。でも、仕事をしに来たわけじゃないんだ。アーシュに話があって」
「ああ、なんて素晴らしいのでしょう!兄君のためにご自分を犠牲にされるなんて!カリーノ殿下がここまで仰られているのですから、たった一度フィリアス卿と交わることくらい許せますよね?ヴィルム殿下」
「それは…僕が決める事じゃないだろ」
父上達との会談終わりにカリーノの様子を見に来たのだろう。素晴らしいなんて言っているが、レトア卿はカリーノに憐れみの視線を向ける。それに僕がそれに応じるのが当然といった口振りだ。
「フィリアス卿は愛するヴィルムからお願いすれば断らないですよ。それとも、彼はあなたを抱くのでいっぱいいっぱいですか?これだけ強い匂いがしてるってことは昨日抱かれたのでしょ?」
わざとカリーノに聞かせる様に言うとレトア卿は僕に近寄り首元に顔を近づける。案の定、カリーノは涙を溜めた目をつりあげ僕を睨みつける。
「兄上、これ以上この場をひっかき回すのはお辞めください」
「はぁ…。ひっかき回して等いないさ。私はカリーノ殿下に真実をお伝えしているだけだ。それより、ベータのお前がなぜここに居るんだ?お前には王城に来る資格はないと、私は言ったはずだが?」
僕との間に割って入ったアルヴィにレトア卿は冷たい言葉を浴びせる。
「それは…アーシュレイ殿からカリーノ殿下のことを伺ったので」
「まったく。お前のカリーノ殿下への好意をフィリアス卿にまんまと利用されるなんて。
これだからベータは嫌いなんだ」
レトア卿に思わぬ暴露をされた上に侮蔑の視線を向けられたアルヴィは気まずそうに顔を俯ける。アルヴィの気持ちを思わぬ形で知った僕はカリーノの方へ視線を向ける。カリーノも気づいて無かった様で驚いた表情をしている。
「レトア卿いい加減にしろ。アーシュはアルヴィを利用したわけじゃない。カリーノと仲がいいから、彼ならカリーノも心を開くと信じて託したんだ。それにお前はベータやオメガに何を言っても許されると勘違いしてないか?誰かを傷つける言葉を平然と言えるなんて人として間違えてる」
僕はレトア卿を睨みつけそう言う。例え能力はアルファの方が優れていたとしても、人間性ではレトア卿なんてアルヴィの足元にすら及ばない。僕の言葉を聞いたレトア卿は怒るかと思っていたが、そんなことはなくニヤリと笑った。
「間違えてる?なんとでも言っていただいて結構です。ただ、慈悲深い私はそれを証明するチャンスをあなたに差し上げます」
得意気に言うと、僕とカリーノを試す様に見る。
「先程、フィリアス侯爵家からヴィルム殿下の側室入りは了承しかねると申し出がありました。ただレトア侯爵家もカリーノ殿下の本意ではない縁談を勧めるのは大変心苦しいのです。なので今回の縁談は先方のご指名通りヴィルム殿下を。と陛下に進言したいと思います」
もしかしてアーシュが大丈夫と言っていたのは、フィリアス家当主から反対の意を表明させる自信があったからなのかもしれない。それにフィリアス家が反対すれば、これ幸いとレトア家がカリーノを代わりに差し出すと予想していたのだろう。
でも今、その予想に反する事態になってしまった。完全に僕の失態だ。
この縁談でフィリアス侯爵家とレトア侯爵家が対立して国が割れる事は避けたいと父上は考えるはず。そうなるとリドールの希望に沿う様に、僕を側室入りさせるためフィリアス家当主を説得するはず。アーシュが何て説得したのかは分からないが、貴族ならばリドールの王子の寵妃の方がエステートの王位より魅力があるはずだ。最悪な結末が頭を巡る。レトア卿はそんな僕を満足気に見下す。
「もしオメガが優秀ならこの状況をひっくり返せますよね?
妹の恋心を利用すれば側室入りを回避できると、今はあなたしか知らない。それをフィリアス卿に伝えて協力してもらえばいい。そうすれば、あなたは嫌なことから逃れられ、私に優秀だと示すことができる。あなたにとってメリットしかありませんよ?」
レトア卿はカリーノが納得すればカリーノがリドールに嫁ぐ様な口ぶりで言う。
でも妹を傷つけるやり方なんてできない。それにアーシュが僕以外に触れる事を考えると胸が苦しくなる。それにしてもレトア卿にはなんのメリットもないのに、こんな提案をするのは完全な嫌がらせだろう。表情にこそ出ていないが、僕の言葉がレトア卿の怒りに触れたのだろう。
「分かった。ただ、カリーノを利用するやり方はしない。僕なりにベストな道を探してお前に証明してみせる」
「せいぜい頑張って楽しませてくださいね」
レトア卿は高らかに笑うと元来た道へ踵を返す。どうやら、形だけでも僕やカリーノに挨拶することもやめたみたいだ。僕は遠のいていく背中を忌々しく睨みつけた。
* * *
沈む気持ちがのしかかり、体をさらに重くしている気がする。重くなった体を引きずり自分の執務室へノックなしに入ると、お目当ての人物の姿が見えた。
「誰だ?…ヴィル、今日の仕事は大丈夫だよ?」
「ありがとう。でも、仕事をしに来たわけじゃないんだ。アーシュに話があって」
25
あなたにおすすめの小説
アルファだけど愛されたい
屑籠
BL
ベータの家系に生まれた突然変異のアルファ、天川 陸。
彼は、疲れていた。何もかもに。
そんな時、社の視察に来ていた上流階級のアルファに見つかったことで、彼の生活は一変する。
だが……。
*甘々とか溺愛とか、偏愛とか書いてみたいなぁと思って見切り発車で書いてます。
*不定期更新です。なるべく、12月までメインで更新していきたいなとは思っていますが、ムーンライトノベルさんにも書きかけを残していますし、イスティアもアドラギも在りますので、毎日は出来ません。
完結まで投稿できました。
婚約破棄?しませんよ、そんなもの
おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。
アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。
けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり……
「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」
それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。
<嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>
番を持ちたがらないはずのアルファは、何故かいつも距離が近い【オメガバース】
さか【傘路さか】
BL
全10話。距離感のおかしい貴族の次男アルファ×家族を支えるため屋敷で働く魔術師オメガ。
オメガであるロシュは、ジール家の屋敷で魔術師として働いている。母は病気のため入院中、自宅は貸しに出し、住み込みでの仕事である。
屋敷の次男でアルファでもあるリカルドは、普段から誰に対しても物怖じせず、人との距離の近い男だ。
リカルドは特殊な石や宝石の収集を仕事の一つとしており、ある日、そんな彼から仕事で収集した雷管石が魔力の干渉を受けない、と相談を受けた。
自国の神殿へ神が生み出した雷管石に魔力を込めて預ければ、神殿所属の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれる。
貴族達の間では大振りの雷管石は番との縁を繋ぐ品として高額で取引されており、折角の石も、魔力を込められないことにより、価値を著しく落としてしまっていた。
ロシュは調査の協力を承諾し、リカルドの私室に出入りするようになる。
※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。
無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。
自サイト:
https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/
誤字脱字報告フォーム:
https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f
僕が死んだあと、あなたは悲しんでくれる?
いちみやりょう
BL
死神 × 不憫なオメガ
僕を大切にしてくれる青砥と、ずっと一緒に居られると思ってた。
誰も感じない僕のオメガのフェロモンを青砥だけはいい匂いと言ってくれた。
だけど。
「千景、ごめん。ごめんね」
「青砥……どうしたの?」
青砥は困った顔で笑って、もう一度僕に“ごめん”と謝った。
「俺、和樹と付き合うことにした。だから、ごめん」
「そんな……。もう僕のことは好きじゃないってこと?」
「……ごめん」
「……そっか。分かった。幸せにね」
「ありがとう、千景」
分かったと言うしか僕にはできなかった。
※主人公は辛い目に遭いますし、病気で死んでしまいますが、最終的に死神に愛されます。
無理です!僕は絶対にこんな屑駄目王子の嫁になりませんからね?
竜鳴躍
BL
見た目と才能を隠していた第二王子と第一王子の婚約者候補のラブコメ?王家ざまあ。番確定なのに未成熟で分かってない主人公(受)とすれ違いの攻。あげく第一王子は変装した弟に恋をするし、たいへんです。
※前半あらすじ?
「なんでウチは公爵なのぉ!?」ハイリ5歳は絶望した。ちょっと顔が綺麗なだけで傲慢な第一王子。外面が良いだけの悪魔の婚約者候補に選ばれてしまう。ハイリは男の子だけどΩでお嫁に行く。だから女の子に混じって、実家の爵位と年齢から選ばれてしまった。死にそうになったところを助けてしまったり、あまりのアホさにやらかす男を助けてしまい、なんとか自分だとバレないように裏工作するハイリ。見た目と才能をひた隠しにして、どうにかこうにか誰かに第一王子を押し付けようとするのだった。
☆短編になりました。
オメガなのにムキムキに成長したんだが?
未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。
なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。
お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。
発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。
※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。
同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる