高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

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第二十六話

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返す言葉が見つからなくて僕が口をつぐんでしまうと、場が静寂に包まれる。沈黙を破る様に拍手の音が響く。僕ら3人ともそちらの方へ目を向ける。そこにはこの話を一番聞かせたくない人物がいた。

「ああ、なんて素晴らしいのでしょう!兄君のためにご自分を犠牲にされるなんて!カリーノ殿下がここまで仰られているのですから、たった一度フィリアス卿と交わることくらい許せますよね?ヴィルム殿下」

「それは…僕が決める事じゃないだろ」

父上達との会談終わりにカリーノの様子を見に来たのだろう。素晴らしいなんて言っているが、レトア卿はカリーノに憐れみの視線を向ける。それに僕がそれに応じるのが当然といった口振りだ。

「フィリアス卿は愛するヴィルムあなたからお願いすれば断らないですよ。それとも、彼はあなたを抱くのでいっぱいいっぱいですか?これだけ強い匂いがしてるってことは昨日抱かれたのでしょ?」

わざとカリーノに聞かせる様に言うとレトア卿は僕に近寄り首元に顔を近づける。案の定、カリーノは涙を溜めた目をつりあげ僕を睨みつける。

「兄上、これ以上この場をひっかき回すのはお辞めください」

「はぁ…。ひっかき回して等いないさ。私はカリーノ殿下に真実をお伝えしているだけだ。それより、ベータのお前がなぜここに居るんだ?お前には王城に来る資格はないと、私は言ったはずだが?」

僕との間に割って入ったアルヴィにレトア卿は冷たい言葉を浴びせる。

「それは…アーシュレイ殿からカリーノ殿下のことを伺ったので」

「まったく。お前のカリーノ殿下への好意をフィリアス卿にまんまと利用されるなんて。
これだからベータは嫌いなんだ」

レトア卿に思わぬ暴露をされた上に侮蔑の視線を向けられたアルヴィは気まずそうに顔を俯ける。アルヴィの気持ちを思わぬ形で知った僕はカリーノの方へ視線を向ける。カリーノも気づいて無かった様で驚いた表情をしている。

「レトア卿いい加減にしろ。アーシュはアルヴィを利用したわけじゃない。カリーノと仲がいいから、彼ならカリーノも心を開くと信じて託したんだ。それにお前はベータやオメガに何を言っても許されると勘違いしてないか?誰かを傷つける言葉を平然と言えるなんて人として間違えてる」

僕はレトア卿を睨みつけそう言う。例え能力はアルファの方が優れていたとしても、人間性ではレトア卿なんてアルヴィの足元にすら及ばない。僕の言葉を聞いたレトア卿は怒るかと思っていたが、そんなことはなくニヤリと笑った。

「間違えてる?なんとでも言っていただいて結構です。ただ、慈悲深い私はそれを証明するチャンスをあなたに差し上げます」

得意気に言うと、僕とカリーノを試す様に見る。

「先程、フィリアス侯爵家からヴィルム殿下の側室入りは了承しかねると申し出がありました。ただレトア侯爵家うちもカリーノ殿下の本意ではない縁談を勧めるのは大変心苦しいのです。なので今回の縁談は先方のご指名通りヴィルム殿下を。と陛下に進言したいと思います」

もしかしてアーシュが大丈夫と言っていたのは、フィリアス家当主から反対の意を表明させる自信があったからなのかもしれない。それにフィリアス家が反対すれば、これ幸いとレトア家がカリーノを代わりに差し出すと予想していたのだろう。
でも今、その予想に反する事態になってしまった。完全に僕の失態だ。

この縁談でフィリアス侯爵家とレトア侯爵家が対立して国が割れる事は避けたいと父上は考えるはず。そうなるとリドールの希望に沿う様に、僕を側室入りさせるためフィリアス家当主を説得するはず。アーシュが何て説得したのかは分からないが、貴族ならばリドールの王子の寵妃の方がエステートの王位より魅力があるはずだ。最悪な結末が頭を巡る。レトア卿はそんな僕を満足気に見下す。

「もしオメガあなたが優秀ならこの状況をひっくり返せますよね?
妹の恋心を利用すれば側室入り望まないことを回避できると、今はあなたしか知らない。それをフィリアス卿に伝えて協力してもらえばいい。そうすれば、あなたは嫌なことから逃れられ、私に優秀だと示すことができる。あなたにとってメリットしかありませんよ?」

レトア卿はカリーノが納得すればカリーノがリドールに嫁ぐ様な口ぶりで言う。
でも妹を傷つけるやり方なんてできない。それにアーシュが僕以外に触れる事を考えると胸が苦しくなる。それにしてもレトア卿にはなんのメリットもないのに、こんな提案をするのは完全な嫌がらせだろう。表情にこそ出ていないが、僕の言葉がレトア卿の怒りに触れたのだろう。

「分かった。ただ、カリーノを利用するやり方はしない。僕なりにベストな道を探してお前に証明してみせる」

「せいぜい頑張って楽しませてくださいね」

レトア卿は高らかに笑うと元来た道へ踵を返す。どうやら、形だけでも僕やカリーノに挨拶することもやめたみたいだ。僕は遠のいていく背中を忌々しく睨みつけた。

* * *
沈む気持ちがのしかかり、体をさらに重くしている気がする。重くなった体を引きずり自分の執務室へノックなしに入ると、お目当ての人物の姿が見えた。

「誰だ?…ヴィル、今日の仕事は大丈夫だよ?」

「ありがとう。でも、仕事をしに来たわけじゃないんだ。アーシュに話があって」

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