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第二十五話
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「レトア卿に弟が居るのは聞いていたが、兄の方と雰囲気が違うから驚いた」
「よく言われます。セラフ兄上と違って僕はベータなので。兄上はアルファであることに誇りと自信を持っていますから」
僕がよく知る兄の方は自信に溢れ上から目線で接してくる。でも目の前の弟はもの腰が低い印象だった。それはアルファとベータの差というより人間性の違いな気がした。だから引きこもっているカリーノも彼とは会話するのだろう。
「そうなのか。そういえば君は兄に指示されてカリーノの話し相手になってくれていたのか?」
「いえ、兄上の指示ではなくアーシュレイ様からお話を伺いました。」
「アーシュがなぜ君に?」
「私とカリーノ殿下は幼い頃からの知り合いなのでお話しくださったのだと思います」
カリーノが部屋に籠った翌日には彼は居なかった。だからレトア卿が手を回したものだと思っていた。でも意外な人物の名前が出て驚いたが理由を聞いて納得した。
アーシュはカリーノの幼馴染がレトア卿の弟だと知っていたのか。僕がカリーノの件でヤキモキしていたのを知っていたのだから、僕にも教えて欲しかった。
「そうだったんだな。それよりカリーノの様子はどうだ?」
「それが…。私とは話してくれるのですが、他の方が近くに居ると全く反応がなくなります」
レトア卿の弟もといアルヴィが節目がちに言う。この言い方は僕以外にもアーシュやレトア卿がカリーノの様子を見に来たのだろう。
僕がカリーノの部屋の扉に近づくとアルヴィが体をよける。部屋の内部の様子は分からないがさっきまでアルヴィと会話していたのなら扉の近くにカリーノはいるはずだ。
「カリーノ」
「……」
「カリーノに聞いてほしい話がある。だから部屋の中に入れてくれないか?」
「……」
ダメ元で呼びかけてみたが、もちろん返事はない。次に要件に触れてみても、やはり反応はない。顎に手を当てどうしたものかと考えているとアルヴィが助け船をだしてくれた。
「ヴィルム殿下、差し障りなければカリーノ殿下にお伝えしたい事を私が伺ってもよろしいですか?」
アルヴィは扉に目配せをする。どうやらアルヴィに話している体でカリーノにも聞かせる作戦みたいだ。少し気恥ずかしさを感じるが、カリーノにきちんと僕とアーシュの気持ちを伝えなければならない。
「ああ。もちろんだ。カリーノに伝えたかったのは、アーシュとの関係についてだ」
端的に本題に触れると、扉の向こう側でカリーノが身じろぎした音がする。きちんと聞いてくれているみたいだ。
「長い間、僕とアーシュの仲がギクシャクしていた。だから僕たちは番にならないと、カリーノだけでなく他の者も思っていただろう。僕自身もつい最近まではそう思っていた」
「つい最近までということは今は違うのですか?」
アルヴィは僕が話しやすい様に相槌を打ってくれる。僕はアルヴィに向けていた視線を扉に向ける。そしてカリーノに伝える様にはっきりと言葉を口にした。
「ああ。今は…アーシュと番になりたいと思っている」
ガタンッと扉から大きな音がなる。カリーノが室内から扉を殴ったのだろう。きっとあと一押ししたら、カリーノが扉を開ける気がする。だってカリーノも僕に似て感情的になりやすい所があるから。
「カリーノには、申し訳ないがアーシュを諦めて欲しいと伝えたかったんだ」
「う"」
僕がそう言うとダンッと扉が乱暴に開きアルヴィの顔面に直撃する。アルヴィは呻き声をあげた後、鼻をおさえる。ものすごく痛いだろうな。アルヴィに同情を覚えた。でもそんなの一瞬でカリーノの悲痛な叫びに現実に引き戻される。
「なんで⁉︎あんなにアーシュを拒否してた癖に!なんで今さら番になりたいなんて言うの⁈私にだって少しは可能性があるかもって思ってたのに!」
早口で捲し立てる様に言うカリーノの目は腫れていた。きっと僕たちが一緒のベッドにいる姿を見た時から泣いていたのだろう。
「カリーノ殿下落ち着いてください」
「私にわざわざその話をしに来たって事は、リドールの側室に私を差し出すつもりだからなんでしょ⁉︎」
アルヴィをたしなめるがカリーノの勢いは止まらなかった。レトア卿と話すのも拒否していたからかリドールの王子が僕を指名したことは知らないみたいだ。
「そうじゃない。カリーノに僕らの気持ちを知ってもらいたかっただけだ」
「知ったら、はいそうですかって言うと思ったの⁈兄様はどれだけおめでたいの⁈」
「カリーノ殿下、少し落ち着きましょう」
なおも僕にくってかかるカリーノにアルヴィが声をかけその背中を撫でる。ゆっくり撫でられるとカリーノは目一杯に涙を溜める。
「…酷い。兄様もアーシュも私の気持ちをもてあそんだ。最低よ」
「ごめん」
「私にリドールの側室になって欲しい?」
「それは…」
カリーノの質問に対し僕は言い淀む。本音を言えば答えはイエスだが、この流れでいうのは憚られた。カリーノの気を立てない返答を考えている僕に対しカリーノが言葉を続ける。
「一度だけでもいい。アーシュが私を抱いてくれるなら、リドールへの輿入れを前向きに検討するわ」
カリーノの返事に僕は遠くで耳鳴りが聞こえた気がした。
「よく言われます。セラフ兄上と違って僕はベータなので。兄上はアルファであることに誇りと自信を持っていますから」
僕がよく知る兄の方は自信に溢れ上から目線で接してくる。でも目の前の弟はもの腰が低い印象だった。それはアルファとベータの差というより人間性の違いな気がした。だから引きこもっているカリーノも彼とは会話するのだろう。
「そうなのか。そういえば君は兄に指示されてカリーノの話し相手になってくれていたのか?」
「いえ、兄上の指示ではなくアーシュレイ様からお話を伺いました。」
「アーシュがなぜ君に?」
「私とカリーノ殿下は幼い頃からの知り合いなのでお話しくださったのだと思います」
カリーノが部屋に籠った翌日には彼は居なかった。だからレトア卿が手を回したものだと思っていた。でも意外な人物の名前が出て驚いたが理由を聞いて納得した。
アーシュはカリーノの幼馴染がレトア卿の弟だと知っていたのか。僕がカリーノの件でヤキモキしていたのを知っていたのだから、僕にも教えて欲しかった。
「そうだったんだな。それよりカリーノの様子はどうだ?」
「それが…。私とは話してくれるのですが、他の方が近くに居ると全く反応がなくなります」
レトア卿の弟もといアルヴィが節目がちに言う。この言い方は僕以外にもアーシュやレトア卿がカリーノの様子を見に来たのだろう。
僕がカリーノの部屋の扉に近づくとアルヴィが体をよける。部屋の内部の様子は分からないがさっきまでアルヴィと会話していたのなら扉の近くにカリーノはいるはずだ。
「カリーノ」
「……」
「カリーノに聞いてほしい話がある。だから部屋の中に入れてくれないか?」
「……」
ダメ元で呼びかけてみたが、もちろん返事はない。次に要件に触れてみても、やはり反応はない。顎に手を当てどうしたものかと考えているとアルヴィが助け船をだしてくれた。
「ヴィルム殿下、差し障りなければカリーノ殿下にお伝えしたい事を私が伺ってもよろしいですか?」
アルヴィは扉に目配せをする。どうやらアルヴィに話している体でカリーノにも聞かせる作戦みたいだ。少し気恥ずかしさを感じるが、カリーノにきちんと僕とアーシュの気持ちを伝えなければならない。
「ああ。もちろんだ。カリーノに伝えたかったのは、アーシュとの関係についてだ」
端的に本題に触れると、扉の向こう側でカリーノが身じろぎした音がする。きちんと聞いてくれているみたいだ。
「長い間、僕とアーシュの仲がギクシャクしていた。だから僕たちは番にならないと、カリーノだけでなく他の者も思っていただろう。僕自身もつい最近まではそう思っていた」
「つい最近までということは今は違うのですか?」
アルヴィは僕が話しやすい様に相槌を打ってくれる。僕はアルヴィに向けていた視線を扉に向ける。そしてカリーノに伝える様にはっきりと言葉を口にした。
「ああ。今は…アーシュと番になりたいと思っている」
ガタンッと扉から大きな音がなる。カリーノが室内から扉を殴ったのだろう。きっとあと一押ししたら、カリーノが扉を開ける気がする。だってカリーノも僕に似て感情的になりやすい所があるから。
「カリーノには、申し訳ないがアーシュを諦めて欲しいと伝えたかったんだ」
「う"」
僕がそう言うとダンッと扉が乱暴に開きアルヴィの顔面に直撃する。アルヴィは呻き声をあげた後、鼻をおさえる。ものすごく痛いだろうな。アルヴィに同情を覚えた。でもそんなの一瞬でカリーノの悲痛な叫びに現実に引き戻される。
「なんで⁉︎あんなにアーシュを拒否してた癖に!なんで今さら番になりたいなんて言うの⁈私にだって少しは可能性があるかもって思ってたのに!」
早口で捲し立てる様に言うカリーノの目は腫れていた。きっと僕たちが一緒のベッドにいる姿を見た時から泣いていたのだろう。
「カリーノ殿下落ち着いてください」
「私にわざわざその話をしに来たって事は、リドールの側室に私を差し出すつもりだからなんでしょ⁉︎」
アルヴィをたしなめるがカリーノの勢いは止まらなかった。レトア卿と話すのも拒否していたからかリドールの王子が僕を指名したことは知らないみたいだ。
「そうじゃない。カリーノに僕らの気持ちを知ってもらいたかっただけだ」
「知ったら、はいそうですかって言うと思ったの⁈兄様はどれだけおめでたいの⁈」
「カリーノ殿下、少し落ち着きましょう」
なおも僕にくってかかるカリーノにアルヴィが声をかけその背中を撫でる。ゆっくり撫でられるとカリーノは目一杯に涙を溜める。
「…酷い。兄様もアーシュも私の気持ちをもてあそんだ。最低よ」
「ごめん」
「私にリドールの側室になって欲しい?」
「それは…」
カリーノの質問に対し僕は言い淀む。本音を言えば答えはイエスだが、この流れでいうのは憚られた。カリーノの気を立てない返答を考えている僕に対しカリーノが言葉を続ける。
「一度だけでもいい。アーシュが私を抱いてくれるなら、リドールへの輿入れを前向きに検討するわ」
カリーノの返事に僕は遠くで耳鳴りが聞こえた気がした。
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