高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

文字の大きさ
34 / 85

第三十四話

しおりを挟む
「そんなに見つめられると照れてしまうよ」

「あっ!すみません!なんと言葉を返したらいいのか迷ってしまって…」

目の前で俺の大切なヴィルが口説かれているという不愉快な状況に、表情が崩れない様に歯を食いしばる。普段ならばヴィルに悪い虫が近づいた段階で叩き落とすところだが、今それをしたら、シャロル王子の思惑通りに事が進むことになる。それだけは避けたい。ヴィルが俺以外のものになるなんて許せない。

ヴィルごめん。と心の中でヴィルに謝り、ヴィルへの気持ちが失せた様に装う。そして、わざとカリーノの腰を抱きシャロル王子にみせつける。王子はさっきヴィルの首筋に顔を寄せていたから、俺の匂いが薄くなっていることに気付いているはずだ。約二月の間、ヴィルを抱くことを我慢していた。ヴィルがそれとなく誘ってきても、泣く泣くかわしヴィルに触れないでいたのだ。そのせいでヴィルが欲求不満になってフェロモンを垂れ流したのは誤算だったし、ヴィルが求めてくれているのに応えられないのが何より辛かった。

それに俺がヴィルに代わりカリーノを慈しみ大切にしているとシャロル王子に誤解させなければいけない。そのためにヴィルの目の前でもカリーノと密接しているのだが、その度にヴィルが傷つき辛い顔をさせてしまうことが心苦しい。すぐにでも抱きしめてヴィルを愛してると言ってしまいたくなる。

本来ならヴィルに事情を伝えるべきなのだろうが、ヴィルは良くも悪くもわかりやすいから。聡いシャロル王子を騙し切るためといえど、ヴィルの悲し気な顔を見て心がいたんだ。

* * *
二月前のとある日の昼下がり

「アーシュが俺を呼び出すなんて珍しいじゃん」

レトア卿が父上を丸め込んだ事を分かってすぐに俺は悪友をフィリアス邸に呼び出した。
精悍な顔立ちをしているのに、ひとたび話し出すと人好きな笑顔を浮かべる。この笑顔で何人のご令嬢が堕ちたのだろうか。それに騎士でもないのに鍛え抜かれた体躯は男でも見惚れてしまう。

「バナト商会の会長のお前ならリドールのシャロル王子の側室達の情報を持っていると思ってな」

バナト商会は元々はエステートを商圏にしていた小さな商会だったが代替わりをし、この悪友が会長になった途端に南北に商圏を急拡大した。今やどこの国の王族や貴族にも顔がきく大商会だ。

「あぁ、あのオメガの園の方々ね。まぁ、無いわけじゃないかな。ちなみにどんな情報を知りたいんだ?」

「彼らがリドールに輿入れした経緯が知りたい」

「それなら分かるぞ。でも、いくら親友の頼みでも無料ただで教えるわけにはいけないなぁ。情報も俺達商人にとっては大切な商売道具だからよぉ」

顎に手をつきこちらを伺い、俺からどんな交渉材料が出てくるのかを様子見している。

「そうだな。金か?爵位か?フィリアス家の権限だと騎士爵までだが」 

「うーん。分かっている癖に焦らすねぇ。金は持ってるし権力なんて興味はないって知ってるよな?」

そういうと頭をかくが、そのせいでオールバックにセットされた前髪が少し乱れる。硬そうなストレートの茶髪がハラリと顔にかかる。こいつが、この仕草をする時はイラついているサインだ。多分つぎに来るのは長年片思いしている相手の話しだろう。

「久々にエステートに戻ってきたら、あの人の悪い癖が相変わらずみたいだったからよぉ。流石にもう指を咥えて待っているのは辞めようと思った訳だ。という訳だから、親友の恋路を応援してくれるよな?」

想像通りの流れに眉間に皺がよったので、それを隠す様に指で目頭を揉む。

「またその話か…。何度も言っているが、あいつは辞めておけ。お前が」

諭す様に言い聞かせようとしている途中で、ダンッと大きな音に遮られる。

「説教を聞きにきた訳じゃねぇ。お前の大切なヴィルムお姫様をリドールの王子に渡したくないから、俺からリドールの情報を引き出したいんだろ?お前が俺に協力しなければ、俺は話さない。どうする?アーシュ」

初恋の相手があいつ、レトア卿じゃなきゃ悪友の恋路を喜んで応援できるのだが。でも、ヴィルと悪友に悪い虫がつくことを天秤にかけたら、考えるまでもない。

「…分かった。ヴィルム殿下と番になれたら、お前に協力する。だから、リドールのオメガの園について聞きたい」

「そうこなくっちゃなぁ。リドールに娶られたオメガの子達には面白い共通点があるんだ。オメガなら母国からお払い箱になった子かと思えば、その逆で皆、母国では有能な後ろ盾がいる」

「つまり、万一戦争になればオメガ彼らを助けるために母国は動くということか」

「そういうこと。オメガの子達との縁談は、全てリドールから持ちかけられたらしいな。でも、今回のヴィルム殿下お姫様の件はリドールの重臣達も驚いているみたいだぞ。なんてたって特別待遇だからな。小国の王族をわざわざ王子の誕生日パーティーに招待するなんて今まで無かったのによぉ」

悪友の話を聞き、王子の行動に合点がいった。オメガに限定している理由は分からないが、側室に迎え入れているのは戦争を回避するためだろう。リドールは軍事力で国土を拡大してきた歴史があるが、そのため国内は一枚岩ではない。だからこそ、軍事力に頼るやり方からの脱却のための婚姻外交なのだろう。特別待遇にしてまでヴィルを欲しがったのは、『愛なんて幻想』という言葉を現実にするためといった所か。

でも、王子が欲しいのは、あくまで守ってくれる重臣がいる王族。それなら、それを逆手に取ればいい。
レトア卿からエスコート案を提案された時は正直不服だったが、今回はそれも利用できる。

俺はこの日から、ヴィルから俺の匂いを消すため、ヴィルを抱かずにすごした。
そしてカリーノを気にかけている素振りをするようにした。

ヴィルは絶対誰にも渡さない。それが俺の原動力だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ただ愛されたいと願う

藤雪たすく
BL
自分の居場所を求めながら、劣等感に苛まれているオメガの清末 海里。 やっと側にいたいと思える人を見つけたけれど、その人は……

あなたは僕の運命なのだと、

BL
将来を誓いあっているアルファの煌とオメガの唯。仲睦まじく、二人の未来は強固で揺るぎないと思っていた。 ──あの時までは。 すれ違い(?)オメガバース話。

アルファだけど愛されたい

屑籠
BL
ベータの家系に生まれた突然変異のアルファ、天川 陸。 彼は、疲れていた。何もかもに。 そんな時、社の視察に来ていた上流階級のアルファに見つかったことで、彼の生活は一変する。 だが……。 *甘々とか溺愛とか、偏愛とか書いてみたいなぁと思って見切り発車で書いてます。 *不定期更新です。なるべく、12月までメインで更新していきたいなとは思っていますが、ムーンライトノベルさんにも書きかけを残していますし、イスティアもアドラギも在りますので、毎日は出来ません。 完結まで投稿できました。

婚約破棄?しませんよ、そんなもの

おしゃべりマドレーヌ
BL
王太子の卒業パーティーで、王太子・フェリクスと婚約をしていた、侯爵家のアンリは突然「婚約を破棄する」と言い渡される。どうやら真実の愛を見つけたらしいが、それにアンリは「しませんよ、そんなもの」と返す。 アンリと婚約破棄をしないほうが良い理由は山ほどある。 けれどアンリは段々と、そんなメリット・デメリットを考えるよりも、フェリクスが幸せになるほうが良いと考えるようになり…… 「………………それなら、こうしましょう。私が、第一王妃になって仕事をこなします。彼女には、第二王妃になって頂いて、貴方は彼女と暮らすのです」 それでフェリクスが幸せになるなら、それが良い。 <嚙み痕で愛を語るシリーズというシリーズで書いていきます/これはスピンオフのような話です>

番を持ちたがらないはずのアルファは、何故かいつも距離が近い【オメガバース】

さか【傘路さか】
BL
全10話。距離感のおかしい貴族の次男アルファ×家族を支えるため屋敷で働く魔術師オメガ。 オメガであるロシュは、ジール家の屋敷で魔術師として働いている。母は病気のため入院中、自宅は貸しに出し、住み込みでの仕事である。 屋敷の次男でアルファでもあるリカルドは、普段から誰に対しても物怖じせず、人との距離の近い男だ。 リカルドは特殊な石や宝石の収集を仕事の一つとしており、ある日、そんな彼から仕事で収集した雷管石が魔力の干渉を受けない、と相談を受けた。 自国の神殿へ神が生み出した雷管石に魔力を込めて預ければ、神殿所属の鑑定士が魔力相性の良いアルファを探してくれる。 貴族達の間では大振りの雷管石は番との縁を繋ぐ品として高額で取引されており、折角の石も、魔力を込められないことにより、価値を著しく落としてしまっていた。 ロシュは調査の協力を承諾し、リカルドの私室に出入りするようになる。 ※小説の文章をコピーして無断で使用したり、登場人物名を版権キャラクターに置き換えた二次創作小説への転用は一部分であってもお断りします。 無断使用を発見した場合には、警告をおこなった上で、悪質な場合は法的措置をとる場合があります。 自サイト: https://sakkkkkkkkk.lsv.jp/ 誤字脱字報告フォーム: https://form1ssl.fc2.com/form/?id=fcdb8998a698847f

僕が死んだあと、あなたは悲しんでくれる?

いちみやりょう
BL
死神 × 不憫なオメガ 僕を大切にしてくれる青砥と、ずっと一緒に居られると思ってた。 誰も感じない僕のオメガのフェロモンを青砥だけはいい匂いと言ってくれた。 だけど。 「千景、ごめん。ごめんね」 「青砥……どうしたの?」 青砥は困った顔で笑って、もう一度僕に“ごめん”と謝った。 「俺、和樹と付き合うことにした。だから、ごめん」 「そんな……。もう僕のことは好きじゃないってこと?」 「……ごめん」 「……そっか。分かった。幸せにね」 「ありがとう、千景」 分かったと言うしか僕にはできなかった。 ※主人公は辛い目に遭いますし、病気で死んでしまいますが、最終的に死神に愛されます。

無理です!僕は絶対にこんな屑駄目王子の嫁になりませんからね?

竜鳴躍
BL
見た目と才能を隠していた第二王子と第一王子の婚約者候補のラブコメ?王家ざまあ。番確定なのに未成熟で分かってない主人公(受)とすれ違いの攻。あげく第一王子は変装した弟に恋をするし、たいへんです。 ※前半あらすじ? 「なんでウチは公爵なのぉ!?」ハイリ5歳は絶望した。ちょっと顔が綺麗なだけで傲慢な第一王子。外面が良いだけの悪魔の婚約者候補に選ばれてしまう。ハイリは男の子だけどΩでお嫁に行く。だから女の子に混じって、実家の爵位と年齢から選ばれてしまった。死にそうになったところを助けてしまったり、あまりのアホさにやらかす男を助けてしまい、なんとか自分だとバレないように裏工作するハイリ。見た目と才能をひた隠しにして、どうにかこうにか誰かに第一王子を押し付けようとするのだった。 ☆短編になりました。

オメガなのにムキムキに成長したんだが?

未知 道
BL
オメガという存在は、庇護欲が湧く容姿に成長する。 なのに俺は背が高くてムキムキに育ってしまい、周囲のアルファから『間違っても手を出したくない』と言われたこともある。 お見合いパーティーにも行ったが、あまりに容姿重視なアルファ達に「ざっけんじゃねー!! ヤルことばかりのくそアルファ共がぁああーーー!!」とキレて帰り、幼なじみの和紗に愚痴を聞いてもらう始末。 発情期が近いからと、帰りに寄った病院で判明した事実に、衝撃と怒りが込み上げて――。 ※攻めがけっこうなクズです。でも本人はそれに気が付いていないし、むしろ正当なことだと思っています。 同意なく薬を服用させる描写がありますので、不快になる方はブラウザバックをお願いします。

処理中です...