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第三十三話
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「そんなに見つめられると照れてしまうよ」
「あっ!すみません!なんと言葉を返したらいいのか迷ってしまって…」
シャロル王子の綺麗な顔に苦笑いが浮かぶ。いつもなら、こう言う場面はアーシュが助け船を出してくれていた。だから僕が困ることなんて無かったのだと知る。
「ヴィルム王子は初々しくて可愛いな。ますます欲しくなる」
「僕を可愛いなどとお戯れはよしてください。それに僕ばかりが王子を独占してしまうのは、会場にいる他の来客の方々に申し訳ないので…」
シャロル王子は僕の耳元に顔を寄せ囁く。その様子を見守っていた来客達はざわめき、視線に敵意が混ざる。シャロル王子に握られたままの手で王子の胸を押して体を離す。それにしても囁いた内容が他の人に聞こえなくて良かった。もし聞こえていたら、来客達の神経を逆撫でしていただろう。
「シャロル王子のご機嫌が麗しく何よりです。きっと他の皆様も王子とお話しできるのを楽しみにしていらっしゃいます。ヴィルム殿下とは、その後にでもゆっくり語らってはいかがですか?そうした方が邪魔は入らないですよ」
レトア卿が柔和な笑をたたえ王子に進言する。レトア卿の外面の良さには脱帽する。
「それもそうだな。お前とは一度会った事があるが、名はなんだったか?」
「あぁ、申し遅れました。私は、セラフ・レトアと申します。今はヴィルム殿下の従者をしております」
「ほぉ…。そうなるとフィリアス卿、お前はそちらの姫君の従者になったのか?」
シャロル王子は、僕の後にカリーノと一緒にいるアーシュに訝しげな視線を向ける。
「そうなりますね」
「そうか。…なら、私がヴィルム王子をダンスに誘っても、フィリアス卿は口を出さないのだな?」
「そうですね。ヴィルム殿下が嫌がらないのであれば、私が口を出すべきことではないので」
アーシュは王子が挑発するように言った言葉を受け流す。そして腕を絡めていたカリーノの腰をこれ見よがしに抱き寄せる。その行動に僕の心はズキズキと痛み、二人からそっと視線をはずす。そんな僕の心中を察した王子が僕の頬をサラリと撫でる。
「ヴィルム王子、あんな薄情な奴のことなんて忘れたらいい。リドールに滞在している間に、この前の返事を聞かせてくれないか?」
「…分かりました」
「殿下のお心はもう決まっていらっしゃいますよね?きっとシャロル王子のご希望に沿えると思いますので、楽しみにしていてください」
レトア卿が背後から僕の肩を掴む。そして、僕が断るはずがないと確信した口ぶりだ。今は礼儀正しい好青年にしか見えないレトア卿の声音には僕に対する優越感が滲んでいる気がした。
シャロル王子は紳士的で何事も完璧にこなす、アルファの鏡の様な人物だ。前に襲われかけたことを除けば、この人以上に好条件の結婚相手なんていないと頭では理解している。
パーティーが進行し、ダンスの時間になり王子と僕が踊っているときもアーシュはカリーノの側から離れなかった。カリーノに近づいた他国のアルファの王族をいなし、他に悪い虫がつかないように守っていた。前までなら、カリーノの場所には僕がいたはずなのに…。
カリーノなんて、アーシュ以外のアルファに噛まれてしまえばいいのに。
カリーノは大切な妹のはずなのに、そんな風に思ってしまった僕はなんて最低なんだろう。このままきっと二人を近くで見続けたら、もっと酷い事を考えてしまうに違いない。それなら、エステートに帰らなきゃいい。リドールに残れば、アーシュの一挙一動に傷付かなくて済む。
「ヴィルム王子、疲れたか?」
僕がぼんやり考え事をしていると、シャロル王子が気遣う様に一緒に踊る僕の顔を覗き込む。ダシャロル王子のリードはスマートで自然と体が動いた。だから、変に考え事をする余裕ができてしまったのだろう。
「シャロル王子、僕をあなたの…」
気遣ってくれるシャロル王子に微笑み、今さっき考え決めた事を告げようとした。その時、周囲が大きくどよめく。ダンスを踊っていた者達は足を止める。そして僕たちは騒ぎが起きている方へ視線を向ける。そこには顔を赤らめ苦しそうにしているカリーノの姿が。
「あれは発情期だな。ここまでフェロモンの匂いがするな」
シャロル王子がそう言ったのと同時に、アーシュがカリーノを横抱きにして会場を後にする。
今日もし、アーシュがカリーノを噛んだらと考え心が締め付けられる。でもカリーノの首にはネックガードがしているから、それはないと咄嗟にその考えを否定する。それに、僕はもう決めたじゃないか。改めて、シャロル王子に伝えるために、王子に向き直る。
「シャロル王子」
「ん?何だ?」
「僕の発情期が1週間後にきます。
その時に僕を抱いて噛んでくれませんか?」
「あっ!すみません!なんと言葉を返したらいいのか迷ってしまって…」
シャロル王子の綺麗な顔に苦笑いが浮かぶ。いつもなら、こう言う場面はアーシュが助け船を出してくれていた。だから僕が困ることなんて無かったのだと知る。
「ヴィルム王子は初々しくて可愛いな。ますます欲しくなる」
「僕を可愛いなどとお戯れはよしてください。それに僕ばかりが王子を独占してしまうのは、会場にいる他の来客の方々に申し訳ないので…」
シャロル王子は僕の耳元に顔を寄せ囁く。その様子を見守っていた来客達はざわめき、視線に敵意が混ざる。シャロル王子に握られたままの手で王子の胸を押して体を離す。それにしても囁いた内容が他の人に聞こえなくて良かった。もし聞こえていたら、来客達の神経を逆撫でしていただろう。
「シャロル王子のご機嫌が麗しく何よりです。きっと他の皆様も王子とお話しできるのを楽しみにしていらっしゃいます。ヴィルム殿下とは、その後にでもゆっくり語らってはいかがですか?そうした方が邪魔は入らないですよ」
レトア卿が柔和な笑をたたえ王子に進言する。レトア卿の外面の良さには脱帽する。
「それもそうだな。お前とは一度会った事があるが、名はなんだったか?」
「あぁ、申し遅れました。私は、セラフ・レトアと申します。今はヴィルム殿下の従者をしております」
「ほぉ…。そうなるとフィリアス卿、お前はそちらの姫君の従者になったのか?」
シャロル王子は、僕の後にカリーノと一緒にいるアーシュに訝しげな視線を向ける。
「そうなりますね」
「そうか。…なら、私がヴィルム王子をダンスに誘っても、フィリアス卿は口を出さないのだな?」
「そうですね。ヴィルム殿下が嫌がらないのであれば、私が口を出すべきことではないので」
アーシュは王子が挑発するように言った言葉を受け流す。そして腕を絡めていたカリーノの腰をこれ見よがしに抱き寄せる。その行動に僕の心はズキズキと痛み、二人からそっと視線をはずす。そんな僕の心中を察した王子が僕の頬をサラリと撫でる。
「ヴィルム王子、あんな薄情な奴のことなんて忘れたらいい。リドールに滞在している間に、この前の返事を聞かせてくれないか?」
「…分かりました」
「殿下のお心はもう決まっていらっしゃいますよね?きっとシャロル王子のご希望に沿えると思いますので、楽しみにしていてください」
レトア卿が背後から僕の肩を掴む。そして、僕が断るはずがないと確信した口ぶりだ。今は礼儀正しい好青年にしか見えないレトア卿の声音には僕に対する優越感が滲んでいる気がした。
シャロル王子は紳士的で何事も完璧にこなす、アルファの鏡の様な人物だ。前に襲われかけたことを除けば、この人以上に好条件の結婚相手なんていないと頭では理解している。
パーティーが進行し、ダンスの時間になり王子と僕が踊っているときもアーシュはカリーノの側から離れなかった。カリーノに近づいた他国のアルファの王族をいなし、他に悪い虫がつかないように守っていた。前までなら、カリーノの場所には僕がいたはずなのに…。
カリーノなんて、アーシュ以外のアルファに噛まれてしまえばいいのに。
カリーノは大切な妹のはずなのに、そんな風に思ってしまった僕はなんて最低なんだろう。このままきっと二人を近くで見続けたら、もっと酷い事を考えてしまうに違いない。それなら、エステートに帰らなきゃいい。リドールに残れば、アーシュの一挙一動に傷付かなくて済む。
「ヴィルム王子、疲れたか?」
僕がぼんやり考え事をしていると、シャロル王子が気遣う様に一緒に踊る僕の顔を覗き込む。ダシャロル王子のリードはスマートで自然と体が動いた。だから、変に考え事をする余裕ができてしまったのだろう。
「シャロル王子、僕をあなたの…」
気遣ってくれるシャロル王子に微笑み、今さっき考え決めた事を告げようとした。その時、周囲が大きくどよめく。ダンスを踊っていた者達は足を止める。そして僕たちは騒ぎが起きている方へ視線を向ける。そこには顔を赤らめ苦しそうにしているカリーノの姿が。
「あれは発情期だな。ここまでフェロモンの匂いがするな」
シャロル王子がそう言ったのと同時に、アーシュがカリーノを横抱きにして会場を後にする。
今日もし、アーシュがカリーノを噛んだらと考え心が締め付けられる。でもカリーノの首にはネックガードがしているから、それはないと咄嗟にその考えを否定する。それに、僕はもう決めたじゃないか。改めて、シャロル王子に伝えるために、王子に向き直る。
「シャロル王子」
「ん?何だ?」
「僕の発情期が1週間後にきます。
その時に僕を抱いて噛んでくれませんか?」
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