高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど

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第三十二話

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リドールの第一王子の誕生日パーティーでは、大国リドールの力をまざまざと見せつけられた。小国のエステートでは招待することすら許されない国々のアルファの王族や重臣達が我先にとリドールの有力者に声をかけている姿を目の当たりにすれば尚更だ。

それに他の参加者が僕達を一瞥した後に「何故オメガがここに?」などとコソコソと話す声が聞こえてくれば僕達は場違いなのではないかと不安になる。

「ヴィルム殿下、猫背になっていますよ。例えオメガでもあなたはシャロル王子に招待されてたのだから胸を張って居ればいいのです」

レトア卿が僕の背中を軽く叩き、そう声をかけてくる。いつもなら嫌味の一つでも言ってくるのに。流石のレトア卿も外交の場では、あからさまなオメガ蔑視は控えているのだろう。
慣れない大国の雰囲気に、いつもと態度が違う重臣、オメガというだけで向けられる好奇の目。それら全てに居心地の悪さを感じ、無意識にアーシュを探してしまう。アーシュは僕に飽きてしまったことを昨日思い知ったはずなのに。それなのにアーシュへの思いを断ち切れない僕は、なんて馬鹿なんだろう。

「兄様!見て見て!」

少し暗い思考になりかけた僕の耳に明るい声が入りそして、後から肩を叩かれる。振り返ると、そこにはアーシュにエスコートされたカリーノの姿があった。

「カリーノは僕に何を見せたいんだ?ドレスか?髪飾りか?…」

それとも、アーシュにエスコートされている姿か?と聞くのは癪だったので飲み込んだ。

「どっちでもないの!アーシュと私、お似合いでしょ?」

やはり、この質問をされるのは勘に触った。僕の心中を知らないカリーノはエスコートするアーシュに体をわざと寄せ僕に聞いてくる。少しカリーノの顔が赤らんでいる気がするのは、大胆な行動をしておきながら照れたのだろう。アーシュはそんなカリーノに苦笑いはしているが、相変わらず制止する様子はない。カリーノと仲睦まじそうにしている姿を見せつけられなくてもアーシュの気持ちは分かっているのに。

「…ああ、そうだな。ただ、あまり恥ずかしい行動は控えるように。エステートの品位が疑われかねないからな」

「よくお似合いですよ、カリーノ殿下!」

レトア卿の賛辞が僕の小言をかき消す。今日のこいつは何なんだ。普段はカリーノを褒めたりなんてしないのに。

「レトア卿、ありがとう。でもそれは、あなたが選んでくれたドレスとアクセサリーが素敵だからよ」

そしてカリーノも少し変だ。いつもはレトア卿に微笑むことなんてしないのに。
それにしても、今日のカリーノのドレスは普段レトアのが選ぶものと種類が違っていたので、てっきりアーシュが選んだのだと思っていた。いつもみたいにセクシーさを強調するものでなくて、カリーノに似合う可愛らしいデザインのドレスは、カリーノによく似合っていた。

「パーティー前に、レトア卿とコソコソ何か話していると思っていましたが、ドレスの相談だったのですね」

「ええ。まぁ、たまにはね」

アーシュが何かを納得したようにカリーノに話を振るとカリーノは歯切れ悪く答える。その様子に何故か違和感を感じた。うまく説明することはできない違和感にモヤモヤしていると、大きなベルの音が会場に響き渡る。参加者が各々に会話を楽しんでいたのだが、その音を合図に会場が静寂に包まれる。そして広間の正面の扉が開くと、本日の主役がゆっくり会場に足を踏み入れる。シャロル王子の登場に静まりかえっていた会場には拍手の音と王子を賛辞する声が響く。
綺麗な金糸の髪をなびかせ、主賓の玉座に向かうシャロル王子と目があった。すると王子は厳かな顔つきから笑顔になり、あろうことか僕に向かって歩いてくる。

「ヴィルム王子!よく来てくれた!」

シャロル王子に手を握られ、うっとりする笑顔を向けられる。当然、会場内の来客はどよめき、驚きをみせる。中には「シャロル王子はオメガがお好きだから」と僕に侮蔑の視線を向ける者もいた。

あぁ、どうしよう。断るために来たのに、こんな事をされてしまったら断れなくなる。

アーシュに助けを求められない今の僕はただ困った様に王子を見つめるしか出来なかった。



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