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しおりを挟む「……何を仰っているのですか」
「……レティ」
冷たい声が響き、ミゲルの戸惑いが伝わってきた。だが、レティは怒りを抑えきれなかった。身体の芯が熱くなっていくのを感じた。
「ミゲル様は王女様と婚約するのだと聞きました」
「ちが……っ」
「アーネスト殿下がミゲル様へお尋ねになった時、ミゲル様は否定されなかったじゃないですか」
「あれは……」
「わ、私と婚約するなんて信じられません……っ!」
いつの間にか止まっていた涙がまたせり上がりぼろぼろと零れていった。レティはミゲルから離れようと腕に力を入れるが反対により力強く抱き締められてしまう。
「……悪かった。ごめん、レティ」
「……へ」
八年も一緒にいてミゲルの謝罪の言葉を初めて聞いたレティはまた目を見開いた。「……弁解させて欲しい」そう言ったミゲルへレティは小さく頷くしかなかった。
八年前。レティがスタマーズ公爵家に初めて訪れた時の話だ。ミゲルは四つ年下の女の子が料理人として加わっていると聞き、少々興味を持った。
「うわ」
厨房をこっそり覗くと彼女は嬉しそうに人参を握っていた。ミゲルの一番嫌いな人参を。
「嫌がらせか」
ミゲルが特に人参嫌いなことは恐らく今日やってきたペルジーニ伯爵家の料理人たちにも伝わっている筈だ。それなのにレティはいの一番に人参を握ったのだ。だが、レティは「よぉし!」と腕捲りをし手早く料理を始めた。
「ふふ、絶対に美味しくなるわ!」
そう微笑んだ彼女からミゲルは目が離せなかった。
その日のディナーの最後には彼女の作った人参のトライフルが並んだ。ミゲルは内心、恐々と口に入れた。
(……嫌な味がしない)
それはミゲルにとって初めての経験だった。大抵のものは食べても嫌な味や食感がして、食事の時間がいつも苦痛だった。だが何故かレティのトライフルだけは口に入れても嫌な感覚が無かった。
「もう食べ終わったの?」
「……ああ」
「あのね、これ人参のスポンジケーキだったのよ!」
「……それくらい分かる」
作っている様子を見ていたのだからよく知っている、そう言いたくなるのを飲み込んだ。
「分かっていて食べたの?すごいわ!」
喜びを素直に表現する彼女をミゲルはじっと見つめた。
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だがレティの笑顔は彼女たちのものとはまるで違う。ずっと見ていたくなるような笑顔だった。
「お父さまのデザートはもっともっと美味しいのよ!だからね、お父様の料理を食べたら好きな食べ物がもっと増えるわ」
そんな彼女の言葉にミゲルは口を開いた。
「俺は……」
「うん」
「……これでいい」
ミゲルの言葉にレティはぱぁっと綻ぶように笑った。心の中に湧いた嬉しさにミゲルは戸惑いを隠せなかった。
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