2 / 8
2
しおりを挟む「アーネスト殿下はアメリア様のことばかりだな」
アーネストの側近候補の一人、マルコ=ヴィラッジョ男爵令息が大きな溜め息と共に漏らした。
「昔からそうですもの。もう呆れることすら時間が惜しいですわ」
側近候補のもう一人、フランチェスカ=サルヴァトーリ公爵令嬢もうんざりした顔でそう返した。
アーネストは、爵位を重視せず能力の高い者を側近候補や護衛候補として選んでいた。また令嬢であるフランチェスカも通常なら側近候補などという立場にはなり得ないのだがその能力の高さと本人の希望もあり側近候補に選ばれていた。前例のないことだがフランチェスカの勤勉さや事務処理能力の高さから周りの文官たちからも高い評価を得るようになっていた。それは良い、それは良いのだが……。
「俺達に黙って隣国に行っちゃうなんてさ」
「ええ」
「せめて相談してくれたら良かったのに」
マルコは眉を寄せ、口を尖らせている。そんな彼へフランチェスカは苦笑いを浮かべることしか出来なかった。
現在十五歳になったアーネストはフランチェスカやマルコと共に平和な学園生活を送っていた。だが一週間前、アーネストは相談も無く急に隣国に留学してしまったのだ。アーネストが隣国に行ってから、マルコは毎日のように愚痴を零している。その気持ちはフランチェスカにも痛いほどよく分かる。アーネストが不在のせいで多くの業務をフランチェスカとマルコで回す羽目になっているからだ。
勿論二人には決裁権が無いので、それはアーネストの弟であるエミリオ第二王子に任せ、それ以外の庶務を中心に行っているがそれでも大忙しだ。加えて、第三子を身籠っている王妃殿下の体調が思わしくないこともあり、フランチェスカは王妃の公務の手伝いに駆り出されることもあった。
緊急事態と言うことで二人は休学の許可を得ていた。二人とも学園で学ぶ範囲は既に修了しているため多少休んだところで困ることは無いのだが、それでも前もって相談が無かったことはとても腹立たしいことだ。
「なにも王妃殿下が体調の悪い時期に行かなくても良いじゃないか」
「それはそうね」
王妃は二人に何度も頭を下げていた。彼女もまた留学には反対していたのだが、アーネストは陛下を味方につけ強行したようだ。王妃も相当腹に据えかねている様子だが、妊娠中の彼女にそれは毒となる。王妃とよく顔を合わせるフランチェスカは彼女の苛立ちを宥めるのにいつも苦戦していた。
「はぁ……嫌になっちゃうよ」
「タイミングが悪いわよね。でも陛下は特別手当を約束してくれたじゃない。それにアーネスト殿下が戻ったら、殿下の個人資産から更に手当を出させるって」
「うん。褒賞も出すって言ってた」
「だから元気出して頂戴」
フランチェスカが優しく微笑むとマルコは漸く頬を緩めた。正直言うと、金銭面で不自由な思いをしたことのない公爵令嬢のフランチェスカにとっては王家からの手当など大した魅力では無かった。
だがマルコは違う。裕福で無い男爵家に生まれた彼は、領地の為にアーネストの側近に志願した。しかしマルコが側近候補となって少し経った頃に彼の弟に難病が見つかり、彼の生家には高額な治療費がのしかかり更に財政をひっ迫させることになった。アーネストもフランチェスカも自分の個人資産から治療費を手助けしようと何度も提案したがマルコが首を縦に振ることは無かった。その代わりに王家や公爵家の伝手を使って優秀な医師や薬師を紹介した。そのおかげもあり現在マルコの弟は回復の兆しにあると言う。それでも治療は続いていく。マルコは領地と弟の治療費の為にと日々懸命に働いているのだ。
手当には目の眩まないフランチェスカだが褒賞の方は有難かった。陛下は褒賞として『どんな望みでも叶える』と言った。フランチェスカにとってそれはとても魅力的で―――麻薬のような言葉だった。
「―――叶えて貰わなきゃ」
「ん?フランチェスカ、何か言った?」
「いいえ、何も。さぁ、この書類の山を片付けましょう」
「うげぇ」
顔を顰めるマルコへフランチェスカはにっこりと笑った。
31
あなたにおすすめの小説
お望み通り、消えてさしあげますわ
梨丸
恋愛
一国の次期王妃と言われていた子爵令嬢アマリリス。
王太子との結婚前夜、彼女は自ら火を放ち、死んだ。
国民達は彼女の死を特に気にもしなかった。それどころか、彼女の死を喜ぶ者もいた。彼女の有していた聖女の力は大したものではなかったし、優れているのは外見だけの「性悪女」だと噂されるほどだったから。
彼女の死後、すぐさま後釜として皆に好かれていた聖女が次期王妃に召し上げられた。
この国はより豊かになる、皆はそう確信した。
だが、“役立たずの聖女”アマリリスの死後──着実に崩壊は始まっていた。
※投稿してから、誤字脱字などの修正やわかりにくい部分の補足をすることがあります。(話の筋は変わらないのでご安心ください。)
愛する女性を側室に望むのなら、いっそ私との婚約は解消してほしいのですが?
四折 柊
恋愛
公爵令嬢ジョゼフィーヌには好きな人がいた。その人は隣国の王子様リック。ジョゼフィーヌはリックと結婚したくて努力をしてきた。そして十六歳になり立派な淑女になれたと自信を得たジョゼフィーヌは、リックにプロポーズをしようとした。ところが彼に婚約者がいたことが発覚し悲しみに暮れる。今まで確認しなかった自分も悪いが、なぜかリックも家族もそのことを教えてくれなかった。そんなときジョゼフィーヌに婚約の打診が来た。その相手は自国のアルバン王太子殿下。断りたいが王命が下り仕方なく受け入れた。それなのに、ある日夜会でアルバンが可憐な令嬢に一目惚れをした。その後、アルバンはその令嬢を側室にしたいと望んだので、お互いのために婚約を解消したいと申し出たが拒絶されて……。ジョゼフィーヌの未来はどうなるのか?!
さようなら、私の初恋
しょくぱん
恋愛
「さよなら、私の初恋。……もう、全部お返しします」
物心ついた時から、彼だけが世界のすべてだった。 幼馴染の騎士団長・レオンに捧げた、十数年の純粋な初恋。 彼が「無敵」でいられたのは、アリアが無自覚に与え続けた『治癒の加護』があったから。
だが婚約直前、アリアは知ってしまう。 彼にとって自分は、仲間内で競い合う「賭けの対象」でしかなかったことを。
「あんな女、落とすまでのゲームだよ」
ブスすぎて嫁の貰い手がないから閨勤侍女になれと言われたので縁を切ります、完全に!完全縁切りの先にあったのは孤独ではなくて…
ハートリオ
恋愛
ルフスは結婚が決まった従姉の閨勤侍女になるよう父親に命令されたのをきっかけに父に無視され冷遇されて来た日々を終わらせようとブラコン父と完全に縁を切る決意する。
一方、従姉の結婚相手はアルゲンテウス辺境伯とのことだが、実は手違いがあって辺境伯が結婚したいのはルフス。
そんなこんなの異世界ファンタジーラブです。
読んでいただけると嬉しいです。
裏切ったのはあなたですよね?─湖に沈められ記憶を失った私は、大公女として返り咲き幸せを掴みます
nanahi
恋愛
婚約者ウィルとその幼馴染ベティに罠にはめられ、湖へ沈められた伯爵令嬢アミアン。一命を取り留め、公女として生まれ変わった彼女が見たのは、裏切り者の幸せな家庭だった。
アミアンは絶望を乗り越え、第二の人生を歩む決意をする。いまだ国に影響力を持つ先の王弟の大公女として、輝くほど磨き上げられていったアミアンに再会したウィルは激しく後悔するが、今更遅かった。
全ての記憶を取り戻したアミアンは、ついに二人の悪事を断罪する。
『恋心を凍らせる薬を飲みました』 - 残りの学園生活、どうぞご自由にお遊びください、婚約者様
恋せよ恋
恋愛
愛されることを諦めた。だから、私は心を凍らせた。
不誠実な婚約者・ユリアンの冷遇に耐えかねたヤスミンは、
伝説の魔女の元を訪れ、恋心を消し去る「氷の薬」を飲む。
感情を捨て、完璧な「人形」となった彼女を前に、
ユリアンは初めて己の罪と執着に狂い始める。
「お願いだ、前のように僕を愛して泣いてくれ!」
足元に跪き、涙を流して乞う男に、ヤスミンは冷酷に微笑む。
「愛?……あいにく、そのような無駄な感情は捨てましたわ」
一度凍りついた心は、二度と溶けない。
後悔にのたうち回る男と、心を凍らせた冷徹な公爵夫人の、
終わりのない贖罪の記録。
🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。
🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。
🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。
🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。
🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?
Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。
簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。
一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。
ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。
そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。
オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。
オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。
「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」
「はい?」
ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。
*--*--*
覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾
★全31話7時19時更新で、全話予約投稿済みです。
★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓
このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。
第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」
第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」
第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」
どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ
もしよかったら宜しくお願いしますね!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる