王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

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「少し休憩しましょうか」

 書類に煮詰まったフランチェスカはマルコへそう提案した。マルコの顔にも疲労の色が浮かんでおり、大きく頷いている。マルコは城内を散歩してくると足早に退室した。フランチェスカも中庭に出て一息ついていると彼女の元へ見慣れた顔が現れた。

「フランチェスカ嬢」

「……ミゲル様」

 ミゲル=スタマーズ公爵令息、現宰相の息子であり現在は学園に通いながら父の補佐をしている。アーネストが国王となった頃には宰相として彼の右腕となる人だ。そしてアーネストやフランチェスカ、マルコの同級生でもある。

「そちらの進捗は?」

「まずまず、といったところかしらね?ミゲル様もお忙しいでしょう?」

「ああ、あのクズのせいで」

「あらあら」

 国の王太子をクズ呼ばわりするのも彼だけだろう。冷徹なこの公爵令息はいつも容赦なくアーネストを𠮟りつけていた。

「……君ももっと怒った方がいい」

「ふふ、そうですわね。ですがマルコがあんまり怒るものですから、つい宥める側に回ってしまって」

「君も損な性格だな」

「まぁ、ミゲル様には言われたくありませんわ」

 通常、貴族の令息令嬢は将来の為に人付き合いを大切にするがミゲルは人付き合いを嫌う珍しい令息だった。そのくせ能力は人一倍高いので、よくやっかみを受けていた。それにしても今日はよく話すな、とフランチェスカが内心思っていると珍しくじっと見据えられ、フランチェスカは少々戸惑った。

「フランチェスカ嬢」

「何でしょうか」

「……心配しなくていい」

「ミゲル様?」

 フランチェスカが聞き返すとミゲルは決まり悪そうに視線を逸らした。どうやらフランチェスカの企みは彼にはバレているようだ。

「……これからミゲル様にはご迷惑をお掛けしますね。申し訳ありません」

「ふん。フランチェスカ嬢は悪くないだろう……手を貸してほしいことがあれば言え」

「まぁ!ミゲル様もこんなお優しい言葉を言えるのですね。婚約者様のおかげかしら?」

「……まだ、婚約者じゃない」

 フランチェスカがくすくすと笑うとミゲルは眉間に皺を寄せた。スタマーズ公爵家が一年前からミゲルの婚約者候補を屋敷に囲っているのは高位貴族の間ではよく知られていた。婚約者候補と出会ってからのミゲルはほんの少しだけ変わったように見える。フランチェスカとミゲルは幼い頃からの顔馴染みだが、こんな風に気に掛けて貰うことは初めてだった。

「ミゲル様。いつか……どうしようもなくなってしまった時は助けを求めても良いかしら?」

「ああ」

 表情を変えないミゲルへフランチェスカはにっこりと微笑んだ。気を抜いたらきっと泣き出してしまうだろう。人嫌いでアーネストやフランチェスカ以外の同級生の名前をまともに覚えていない彼ですらフランチェスカの想いには気付いていたのだ。フランチェスカは奥歯を噛み締めて、笑顔のままミゲルと別れた。

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