王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

文字の大きさ
3 / 51
本編

3



「少し休憩しましょうか」

 書類に煮詰まったフランチェスカはマルコへそう提案した。マルコの顔にも疲労の色が浮かんでおり、大きく頷いている。マルコは城内を散歩してくると足早に退室した。フランチェスカも中庭に出て一息ついていると彼女の元へ見慣れた顔が現れた。

「フランチェスカ嬢」

「……ミゲル様」

 ミゲル=スタマーズ公爵令息、現宰相の息子であり現在は学園に通いながら父の補佐をしている。アーネストが国王となった頃には宰相として彼の右腕となる人だ。そしてアーネストやフランチェスカ、マルコの同級生でもある。

「そちらの進捗は?」

「まずまず、といったところかしらね?ミゲル様もお忙しいでしょう?」

「ああ、あのクズのせいで」

「あらあら」

 国の王太子をクズ呼ばわりするのも彼だけだろう。冷徹なこの公爵令息はいつも容赦なくアーネストを𠮟りつけていた。

「……君ももっと怒った方がいい」

「ふふ、そうですわね。ですがマルコがあんまり怒るものですから、つい宥める側に回ってしまって」

「君も損な性格だな」

「まぁ、ミゲル様には言われたくありませんわ」

 通常、貴族の令息令嬢は将来の為に人付き合いを大切にするがミゲルは人付き合いを嫌う珍しい令息だった。そのくせ能力は人一倍高いので、よくやっかみを受けていた。それにしても今日はよく話すな、とフランチェスカが内心思っていると珍しくじっと見据えられ、フランチェスカは少々戸惑った。

「フランチェスカ嬢」

「何でしょうか」

「……心配しなくていい」

「ミゲル様?」

 フランチェスカが聞き返すとミゲルは決まり悪そうに視線を逸らした。どうやらフランチェスカの企みは彼にはバレているようだ。

「……これからミゲル様にはご迷惑をお掛けしますね。申し訳ありません」

「ふん。フランチェスカ嬢は悪くないだろう……手を貸してほしいことがあれば言え」

「まぁ!ミゲル様もこんなお優しい言葉を言えるのですね。婚約者様のおかげかしら?」

「……まだ、婚約者じゃない」

 フランチェスカがくすくすと笑うとミゲルは眉間に皺を寄せた。スタマーズ公爵家が一年前からミゲルの婚約者候補を屋敷に囲っているのは高位貴族の間ではよく知られていた。婚約者候補と出会ってからのミゲルはほんの少しだけ変わったように見える。フランチェスカとミゲルは幼い頃からの顔馴染みだが、こんな風に気に掛けて貰うことは初めてだった。

「ミゲル様。いつか……どうしようもなくなってしまった時は助けを求めても良いかしら?」

「ああ」

 表情を変えないミゲルへフランチェスカはにっこりと微笑んだ。気を抜いたらきっと泣き出してしまうだろう。人嫌いでアーネストやフランチェスカ以外の同級生の名前をまともに覚えていない彼ですらフランチェスカの想いには気付いていたのだ。フランチェスカは奥歯を噛み締めて、笑顔のままミゲルと別れた。

感想 23

あなたにおすすめの小説

三度裏切られた私が、四度目で「離婚」を選ぶまで

狛犬
恋愛
三度、夫に裏切られた。 一度目は信じた。 二度目は耐えた。 三度目は――すべてを失った。 そして私は、屋上から身を投げた。 ……はずだった。 目を覚ますと、そこは過去。 すべてが壊れる前の、まだ何も起きていない時間。 ――四度目の人生。 これまでの三度、私は同じ選択を繰り返し、 同じように裏切られ、すべてを失ってきた。 だから今度は、もう決めている。 「もう、陸翔はいらない」 愛していた。 けれど、もう疲れた。 今度こそ―― 自分を守るために、家族を守るために、 私は、自分から手を放す。 これは、三度裏切られた女が、 四度目の人生で「選び直す」物語。

【完結】拗らせ王子と意地悪な婚約者

たまこ
恋愛
 第二王子レイナルドはその見た目から酷く恐れられていた。人を信じられなくなってしまった彼の婚約者になったのは……。 ※恋愛小説大賞エントリー作品です。

【完結】先に求めたのは、

たまこ
恋愛
 ペルジーニ伯爵の娘、レティは変わり者である。  伯爵令嬢でありながら、学園には通わずスタマーズ公爵家で料理人として働いている。  ミゲル=スタマーズ公爵令息は、扱いづらい子どもである。  頑固者で拘りが強い。愛想は無く、いつも不機嫌そうにしている。  互いを想い合う二人が長い間すれ違ってしまっているお話。 ※初日と二日目は六話公開、その後は一日一話公開予定です。 ※恋愛小説大賞エントリー中です。

片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜

橘しづき
恋愛
 姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。    私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。    だが当日、姉は結婚式に来なかった。  パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。 「私が……蒼一さんと結婚します」    姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。

あなたが遺した花の名は

きまま
恋愛
——どうか、お幸せに。 ※拙い文章です。読みにくい箇所があるかもしれません。 ※作者都合の解釈や設定などがあります。ご容赦ください。

【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を

川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」  とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。  これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。  だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。 新聞と涙 それでも恋をする  あなたの照らす道は祝福《コーデリア》 君のため道に灯りを点けておく 話したいことがある 会いたい《クローヴィス》  これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。 第22回書き出し祭り参加作品 2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます 2025.2.14 後日談を投稿しました

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

【完結】愛くるしい彼女。

たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。 2023.3.15 HOTランキング35位/24hランキング63位 ありがとうございました!