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しおりを挟むフランチェスカとマルコがヘトヘトになりながらどうにか公務をこなし三か月が経った頃、アーネストは漸く隣国から帰って来た。
彼は王宮に戻る前にフランチェスカが暮らす公爵邸に顔を出した。先に国王と王妃に挨拶をしない彼に呆れ切ったが、フランチェスカの苦言は響かないようだ。アーネストは楽しそうに留学の報告をした後で最後に想い人について語った。
「―――と、いう訳で振られちゃったんだよねぇ」
アーネストはそう言ってにこにこと笑った。片思いの相手である従妹のアメリアにどんな態度を取られても……誰がどう聞いても嫌われているようにしか思えない態度を取られても、攻めの姿勢を崩さなかったアーネストとは思えない言葉だ。留学して暫くアメリアと過ごした中で七年間も拗らせた初恋に漸く蹴りを付けられたように見えた。
「当たり前でしょう。あなたって人は……」
隣国の第二王子の婚約者に懸想するなど有り得ないことだ。しかも彼らの仲睦まじい様子はこちらの国にまで聞こえてくるほどだというのに。その後フランチェスカは延々と彼を叱ったがアーネストは飄々とした様子で聞いている。全く意に介していない彼を見てフランチェスカは大きく溜め息を吐いた。
「フランチェスカ。買ってきたお土産、一緒に見ようよ」
「まったく……こんな無駄遣いをして」
「無駄遣いじゃないさ、フランチェスカへの贈り物なんだから」
沢山のお土産の中には美しい髪飾りが紛れていた。小さな青磁色の宝石で彩られている。確かこの色はアーネストの想い人の瞳の色だった筈だ。フランチェスカがじっと見ているとアーネストはにっこりと笑った。
「フランチェスカ、これ気に入ってくれたんだ?」
「いえ、こういったお土産は消え物が助かるなと考えておりました」
「そんな……大体、公爵家へのお土産に食べ物は少し難しいよ」
「そうですねぇ」
アーネストは想い人に渡せずに髪飾りを持て余していたのだろう。だからといってフランチェスカが引き取る義理は無いのだが、仕方なく髪飾りを手に取ると身に付けた。アーネストは満足そうに「似合ってる」と頷いた。フランチェスカは再び呆れ切ってこっそりと息を吐いた。
「……殿下」
「うん?」
「お帰りなさい」
「ふふっ、ただいま。フランチェスカ」
狡い人だとフランチェスカは思う。この笑顔だけで全て許してしまいそうになるのだから。散々傷つけられた心には蓋をして、フランチェスカはもう一度息を吐いた。
こんなに近くで彼の笑顔を見るのはこれがきっと最後になるだろう。フランチェスカは紅茶を飲むふりをしながら傍若無人な彼の表情を必死で目に焼き付けていた。
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