王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

文字の大きさ
1 / 6

1

しおりを挟む


「……」

 デリンラード国の王太子アーネストは、空っぽになった王太子妃の部屋を見て言葉を失った。


『わたくしは、お飾りの王太子妃ですから』

 彼女は度々そう言っていた。悲しそうな顔をする訳でもなく、アーネストの瞳を真っ直ぐと見据え淡々と口にしていた。王宮は自分の場所ではないという意思表明だったのだろう。彼女は王太子妃の部屋に自分の私物を殆ど持ち込まなかった。一方アーネストが贈ったドレスや装飾品類は、几帳面な彼女らしく衣裳部屋に綺麗に並べられており何一つ持ち出さなかったようだ。数少ない私物だけを纏めて、彼女はアーネストに何一つ告げることなく出て行ってしまった。

『アーネスト殿下、この結婚は白い結婚にしましょう』

『……理由を聞いても?』

『殿下には大切なお方がいるじゃありませんか』

 あの時、彼女はどんな顔をしていたのだろうか。アーネストは必死に思い出そうとしたが、思い出すことは叶わなかった。

 どうして、なんて独り言でも口にすることは憚られた。彼女が出て行ってしまった理由はアーネストがよく知っているからだ。そして、思ったよりも自分が動揺していないことに気付いた。それはアーネストが王太子妃を筵にしていたから、ではない。


 アーネストが彼女に逃げられたのは、二度目だったからだ。





 アーネストは幼い頃から非常に優秀だった。
 デリンラードの第一王子として生まれ、その弟も生まれたが、彼の方が王の適性があると判断され十歳の頃には王太子として即位した。

 アーネストが王の適性があると判断されたのは、その秀才さから、だけでは無い。アーネストは人当たりも良く明るい青年ではあるが、一方で目的の為ならば手段を選ばないところがあった。十歳にしてそんな顔を見せるアーネストに母親である王妃は頭を抱えたが、いずれ国王になった時にはアーネストの妃が彼の持たない慈愛を国民に与えれば良いと父である現国王や大臣たちは考えているようだった。

 そんな少々人間味の無いアーネストが唯一執着を見せる相手がいた。従妹のアメリアである。彼女は隣国の公爵令嬢であり、アーネストの婚約者に据える身分としても申し分ない。アーネストが八歳の頃にアメリアを婚約者にと願ったが、両国の話し合いにより却下された。そしてアメリアは隣国の第二王子の婚約者になってしまった。

 他の者の婚約者となれば通常なら諦めるだろう。特に王族や高位貴族の婚姻は本人の意は重視されず政略的な意味合いが強い。通常のアーネストであれば国政に利のある相手を選ぶ筈だ。だが、アーネストはアメリアに婚約者ができ、彼と仲を深めている間も決して諦めることは無くアプローチを続けていた。周りの者がいくら止めても彼は耳を貸さなかった。自分がアメリアの唯一だと信じてやまなかった。

しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

私のことを愛していなかった貴方へ

矢野りと
恋愛
婚約者の心には愛する女性がいた。 でも貴族の婚姻とは家と家を繋ぐのが目的だからそれも仕方がないことだと承知して婚姻を結んだ。私だって彼を愛して婚姻を結んだ訳ではないのだから。 でも穏やかな結婚生活が私と彼の間に愛を芽生えさせ、いつしか永遠の愛を誓うようになる。 だがそんな幸せな生活は突然終わりを告げてしまう。 夫のかつての想い人が現れてから私は彼の本心を知ってしまい…。 *設定はゆるいです。

妻を蔑ろにしていた結果。

下菊みこと
恋愛
愚かな夫が自業自得で後悔するだけ。妻は結果に満足しています。 主人公は愛人を囲っていた。愛人曰く妻は彼女に嫌がらせをしているらしい。そんな性悪な妻が、屋敷の最上階から身投げしようとしていると報告されて急いで妻のもとへ行く。 小説家になろう様でも投稿しています。

冷たい王妃の生活

柴田はつみ
恋愛
大国セイラン王国と公爵領ファルネーゼ家の同盟のため、21歳の令嬢リディアは冷徹と噂される若き国王アレクシスと政略結婚する。 三年間、王妃として宮廷に仕えるも、愛されている実感は一度もなかった。 王の傍らには、いつも美貌の女魔導師ミレーネの姿があり、宮廷中では「王の愛妾」と囁かれていた。 孤独と誤解に耐え切れなくなったリディアは、ついに離縁を願い出る。 「わかった」――王は一言だけ告げ、三年の婚姻生活はあっけなく幕を閉じた。 自由の身となったリディアは、旅先で騎士や魔導師と交流し、少しずつ自分の世界を広げていくが、心の奥底で忘れられないのは初恋の相手であるアレクシス。 やがて王都で再会した二人は、宮廷の陰謀と誤解に再び翻弄される。 嫉妬、すれ違い、噂――三年越しの愛は果たして誓いとなるのか。

【完結】ずっと、ずっとあなたを愛していました 〜後悔も、懺悔も今更いりません〜

高瀬船
恋愛
リスティアナ・メイブルムには二歳年上の婚約者が居る。 婚約者は、国の王太子で穏やかで優しく、婚約は王命ではあったが仲睦まじく関係を築けていた。 それなのに、突然ある日婚約者である王太子からは土下座をされ、婚約を解消して欲しいと願われる。 何故、そんな事に。 優しく微笑むその笑顔を向ける先は確かに自分に向けられていたのに。 婚約者として確かに大切にされていたのに何故こうなってしまったのか。 リスティアナの思いとは裏腹に、ある時期からリスティアナに悪い噂が立ち始める。 悪い噂が立つ事など何もしていないのにも関わらず、リスティアナは次第に学園で、夜会で、孤立していく。

『話さない王妃と冷たい王 ―すれ違いの宮廷愛

柴田はつみ
恋愛
王国随一の名門に生まれたリディア王妃と、若き国王アレクシス。 二人は幼なじみで、三年前の政略結婚から穏やかな日々を過ごしてきた。 だが王の帰還は途絶え、宮廷に「王が隣国の姫と夜を共にした」との噂が流れる。 信じたいのに、確信に変わる光景を見てしまった夜。 王妃の孤独が始まり、沈黙の愛がゆっくりと崩れていく――。 誤解と嫉妬の果てに、愛を取り戻せるのか。 王宮を舞台に描く、切なく美しい愛の再生物語。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

本日、私の妹のことが好きな婚約者と結婚いたしました

音芽 心
恋愛
私は今日、幼い頃から大好きだった人と結婚式を挙げる。 ____私の妹のことが昔から好きな婚約者と、だ。 だから私は決めている。 この白い結婚を一年で終わらせて、彼を解放してあげることを。 彼の気持ちを直接聞いたことはないけれど……きっとその方が、彼も喜ぶだろうから。 ……これは、恋を諦めていた令嬢が、本当の幸せを掴むまでの物語。

離婚した彼女は死ぬことにした

はるかわ 美穂
恋愛
事故で命を落とす瞬間、政略結婚で結ばれた夫のアルバートを愛していたことに気づいたエレノア。 もう一度彼との結婚生活をやり直したいと願うと、四年前に巻き戻っていた。 今度こそ彼に相応しい妻になりたいと、これまでの臆病な自分を脱ぎ捨て奮闘するエレノア。しかし、 「前にも言ったけど、君は妻としての役目を果たさなくていいんだよ」 返ってくるのは拒絶を含んだ鉄壁の笑みと、表面的で義務的な優しさ。 それでも夫に想いを捧げ続けていたある日のこと、アルバートの大事にしている弟妹が原因不明の体調不良に襲われた。 神官から、二人の体調不良はエレノアの体内に宿る瘴気が原因だと告げられる。 大切な人を守るために離婚して彼らから離れることをエレノアは決意するが──。

処理中です...