王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

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「あのクソ王太子、許せません……!」

 馬車の中に備え付けのクッションに拳を打ち付けながら、フランチェスカの専属侍女サラは悔しそうに声を荒げた。

 領地に向かうこととなり、フランチェスカは誰も連れて行かなくて良いと考えていた。領地にも使用人や騎士たちは大勢いるし不自由なく暮らせる筈だ。しかし、公爵とサラはそれを許さなかった。サラは絶対に付いていくと断言したし、公爵は必要以上の人数の護衛騎士を同行させた。

「サラ、不敬に当たるわ」

「構いませんよ。あの失礼極まりないクズ男、国のトップでなくてクズの中のトップです!」

「何を言ってるの、サラ。落ち着いて頂戴」

「ですが」

「私も悪いのよ」

「お嬢様の悪いところなど一つもございません!」

 やや錯乱気味のサラは高らかにそう言ってのけた。サラはフランチェスカの十以上年上だが、元々平民ということもあり感情表現が豊かだ。彼女のそんな性格もフランチェスカは好ましいと思っている。フランチェスカの亡き母が偶々彼女を公爵家に連れて来てくれた経緯もあり、サラは公爵家に恩義を感じている。主の亡き母に代わってフランチェスカを守りたい思いが強く少々過保護な面もある。フランチェスカにとっては心強い味方の一人だ。


「……お父様には散々迷惑を掛けてしまったわ」

「旦那様は喜ばれていると思いますよ。お嬢様は全く我儘を仰いませんから」

「そうかしら?」

 フランチェスカが勉学に勤しむようになったのは父の影響が大きい。

 フランチェスカが物心つく前に、彼女の母は流行り病で他界してしまった。気落ちする父を励ましたい一心でフランチェスカは当時まだ侍女見習いだったサラに習いながら文字を学んだ。

『たくさんお勉強して、お父さまのお手伝いをするの!』

 フランチェスカがそう宣言するとサルヴァトーリ公爵は涙を流し、フランチェスカを抱き締めた。

『ああ、フランチェスカは賢いなぁ』

 沢山のお礼と愛の言葉の後にそう嬉しそうに呟いた父の顔が忘れられない。フランチェスカはその日からサラの力を借りながらせっせと読み書きの練習に励んだ。そして、父が国の重要な役割に就いていること、その為に努力を重ねてきたことを知ったフランチェスカは父のようになりたいと優秀な家庭教師を付けて貰った。フランチェスカは勉学にのめり込んだ。

 最初は父の影響からだったが、フランチェスカは学ぶこと自体に楽しみを見出していた。学ぶことで、国を豊かにできることはとても魅力的に思えた。時折父が『勉強をしていても、していなくても、お前は愛する娘だからな』と念を押すように言っていた。父の為だと気負っているように見えたのかもしれない。

 『私は学ぶことが好きなのです』そう伝えると、父はまた優秀な家庭教師を探したり、フランチェスカの喜びそうな書籍を探してきてくれた。令嬢が学ぶことに対して眉を顰められることが多いこの国で、サルヴァトーリ公爵は愛娘が目一杯学べるよう常に応援してくれていた。


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