王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

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 だが、周りの令息令嬢たちの目は厳しいものだった。公爵令嬢のフランチェスカに面と向かって暴言を吐く者は流石に居なかったが、聞こえるように陰口を叩かれることはしばしばあった―――『勉強ばかりしている風変わりな令嬢』だと。

 父に相談すればきっと彼らを……というより彼らの親を成敗しただろう。しかしフランチェスカは父に相談することはしなかった。父に落胆されることを恐れたのだ。歯を食いしばりながら茶会に参加していたあの日、フランチェスカの人生は変わった。


『君が博識だと噂のフランチェスカ嬢か』

『令嬢が学ぶべきではないという慣習は随分古いと私も考えているんだ。君のような高位貴族の令嬢が学んでくれるなんてこんなに嬉しいことは無いよ』

『フランチェスカ嬢、私と一緒に切磋琢磨してほしい』

 そう言ったアーネストがあまりにも眩しくて、フランチェスカはあの時の彼の表情を忘れられないでいる。アーネストの言葉はどん底にいたフランチェスカを救ってくれた。そしてその日から令息令嬢がフランチェスカに陰口を叩くことは一切無くなった。

 それからフランチェスカは王城への出入りを許され、アーネストが受けている講義を共に受けるようになり、王宮図書館で好きなだけ本を読むことを許された。

『君はもうそんなことまで学んでいるのか、優秀だな』

『フランチェスカ、よく知っているな』

『なぁ、フランチェスカ。君はどう思う?』

 少しずつ日が経つとアーネストはフランチェスカ、と呼ぶようになった。彼からそう呼ばれて、認められて、頼られて、その度にフランチェスカの心は優しく揺れた。暫く経ってアーネストの側近候補の打診が来た時も迷うこと無く頷いていた。




「ねぇ、サラ。アーネスト殿下だってかっこいいところもあるのよ?」

「いいえ。あの男にそんなところは一切ありません。お嬢様、騙されてはなりませんよ」

「もう、サラったら」

 馬車の窓から景色を覗くと、王都から随分遠くまで来たことが分かる。アーネストがアメリアを想い続けた七年間、フランチェスカはアーネストを想っていた。あの日から自分のヒーローとなった彼を想い、フランチェスカは小さく息を吐いた。






 一方その頃王宮では……最悪の空気となった国王の執務室を出て、アーネストは自身の執務室に戻っていた。マルコは呆れ半分労り半分の顔でアーネストを迎えた。


「……マルコは知っていたのか」

「ええ。何も言わずに去るほどフランチェスカは非道ではありませんから」

「……っ」

 マルコの返事にアーネストは言葉を失った。こちらに戻ってからフランチェスカからもマルコからも散々叱られたアーネストだが、叱られるのはいつものことだからとあまり真面目に受け止めていなかった。今になって、彼らの怒りや不満がじわじわと伝わってくる。

「……すまなかった」

 肩を落とすアーネストへマルコは大きく溜め息を吐いた。


「殿下。遠くにいる想い人より、周りにいる人間をもっと大切にした方が良いと思いますよ」

「……ああ」

「俺は良いんですよ。殿下も知っての通り、金さえ貰えれば良いと思ってる。でもそんな考えの奴ばかり周りにいたら殿下だって嫌でしょう」

「マルコが金だけでは動かないことは知っている」

 マルコの言動や生家の事情から守銭奴のように見えてしまうことも少なくない。だが、それだけの人間ではないことをアーネストはよく知っていた。


「そう思って貰えるのは嬉しいですけどね。でもそんな俺でも今回のことは正直落ち込んだし、腹も立ちましたよ。そんなに信用されていないのかって」

「……っ、それは違う」

「でも殿下の行動は相手にそう思わせていますよ」

「そう、だな……」

 すまない、と頭を下げるアーネストを見てもマルコの口は止まらなかった。
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