6 / 51
本編
6
「あのクソ王太子、許せません……!」
馬車の中に備え付けのクッションに拳を打ち付けながら、フランチェスカの専属侍女サラは悔しそうに声を荒げた。
領地に向かうこととなり、フランチェスカは誰も連れて行かなくて良いと考えていた。領地にも使用人や騎士たちは大勢いるし不自由なく暮らせる筈だ。しかし、公爵とサラはそれを許さなかった。サラは絶対に付いていくと断言したし、公爵は必要以上の人数の護衛騎士を同行させた。
「サラ、不敬に当たるわ」
「構いませんよ。あの失礼極まりないクズ男、国のトップでなくてクズの中のトップです!」
「何を言ってるの、サラ。落ち着いて頂戴」
「ですが」
「私も悪いのよ」
「お嬢様の悪いところなど一つもございません!」
やや錯乱気味のサラは高らかにそう言ってのけた。サラはフランチェスカの十以上年上だが、元々平民ということもあり感情表現が豊かだ。彼女のそんな性格もフランチェスカは好ましいと思っている。フランチェスカの亡き母が偶々彼女を公爵家に連れて来てくれた経緯もあり、サラは公爵家に恩義を感じている。主の亡き母に代わってフランチェスカを守りたい思いが強く少々過保護な面もある。フランチェスカにとっては心強い味方の一人だ。
「……お父様には散々迷惑を掛けてしまったわ」
「旦那様は喜ばれていると思いますよ。お嬢様は全く我儘を仰いませんから」
「そうかしら?」
フランチェスカが勉学に勤しむようになったのは父の影響が大きい。
フランチェスカが物心つく前に、彼女の母は流行り病で他界してしまった。気落ちする父を励ましたい一心でフランチェスカは当時まだ侍女見習いだったサラに習いながら文字を学んだ。
『たくさんお勉強して、お父さまのお手伝いをするの!』
フランチェスカがそう宣言するとサルヴァトーリ公爵は涙を流し、フランチェスカを抱き締めた。
『ああ、フランチェスカは賢いなぁ』
沢山のお礼と愛の言葉の後にそう嬉しそうに呟いた父の顔が忘れられない。フランチェスカはその日からサラの力を借りながらせっせと読み書きの練習に励んだ。そして、父が国の重要な役割に就いていること、その為に努力を重ねてきたことを知ったフランチェスカは父のようになりたいと優秀な家庭教師を付けて貰った。フランチェスカは勉学にのめり込んだ。
最初は父の影響からだったが、フランチェスカは学ぶこと自体に楽しみを見出していた。学ぶことで、国を豊かにできることはとても魅力的に思えた。時折父が『勉強をしていても、していなくても、お前は愛する娘だからな』と念を押すように言っていた。父の為だと気負っているように見えたのかもしれない。
『私は学ぶことが好きなのです』そう伝えると、父はまた優秀な家庭教師を探したり、フランチェスカの喜びそうな書籍を探してきてくれた。令嬢が学ぶことに対して眉を顰められることが多いこの国で、サルヴァトーリ公爵は愛娘が目一杯学べるよう常に応援してくれていた。
あなたにおすすめの小説
【完結】先に求めたのは、
たまこ
恋愛
ペルジーニ伯爵の娘、レティは変わり者である。
伯爵令嬢でありながら、学園には通わずスタマーズ公爵家で料理人として働いている。
ミゲル=スタマーズ公爵令息は、扱いづらい子どもである。
頑固者で拘りが強い。愛想は無く、いつも不機嫌そうにしている。
互いを想い合う二人が長い間すれ違ってしまっているお話。
※初日と二日目は六話公開、その後は一日一話公開予定です。
※恋愛小説大賞エントリー中です。
片想い婚〜今日、姉の婚約者と結婚します〜
橘しづき
恋愛
姉には幼い頃から婚約者がいた。両家が決めた相手だった。お互いの家の繁栄のための結婚だという。
私はその彼に、幼い頃からずっと恋心を抱いていた。叶わぬ恋に辟易し、秘めた想いは誰に言わず、二人の結婚式にのぞんだ。
だが当日、姉は結婚式に来なかった。 パニックに陥る両親たち、悲しげな愛しい人。そこで自分の口から声が出た。
「私が……蒼一さんと結婚します」
姉の身代わりに結婚した咲良。好きな人と夫婦になれるも、心も体も通じ合えない片想い。
【完結】愛しき冷血宰相へ別れの挨拶を
川上桃園
恋愛
「どうかもう私のことはお忘れください。閣下の幸せを、遠くから見守っております」
とある国で、宰相閣下が結婚するという新聞記事が出た。
これを見た地方官吏のコーデリアは突如、王都へ旅立った。亡き兄の友人であり、年上の想い人でもある「彼」に別れを告げるために。
だが目当ての宰相邸では使用人に追い返されて途方に暮れる。そこに出くわしたのは、彼と結婚するという噂の美しき令嬢の姿だった――。
新聞と涙 それでも恋をする
あなたの照らす道は祝福《コーデリア》
君のため道に灯りを点けておく
話したいことがある 会いたい《クローヴィス》
これは、冷血宰相と呼ばれた彼の結婚を巡る、恋のから騒ぎ。最後はハッピーエンドで終わるめでたしめでたしのお話です。
第22回書き出し祭り参加作品
2025.1.26 女性向けホトラン1位ありがとうございます
2025.2.14 後日談を投稿しました
最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。
佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。
幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。
一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。
ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。
【完結】愛くるしい彼女。
たまこ
恋愛
侯爵令嬢のキャロラインは、所謂悪役令嬢のような容姿と性格で、人から敬遠されてばかり。唯一心を許していた幼馴染のロビンとの婚約話が持ち上がり、大喜びしたのも束の間「この話は無かったことに。」とバッサリ断られてしまう。失意の中、第二王子にアプローチを受けるが、何故かいつもロビンが現れて•••。
2023.3.15
HOTランキング35位/24hランキング63位
ありがとうございました!
彼は亡国の令嬢を愛せない
黒猫子猫
恋愛
セシリアの祖国が滅んだ。もはや妻としておく価値もないと、夫から離縁を言い渡されたセシリアは、五年ぶりに祖国の地を踏もうとしている。その先に待つのは、敵国による処刑だ。夫に愛されることも、子を産むことも、祖国で生きることもできなかったセシリアの願いはたった一つ。長年傍に仕えてくれていた人々を守る事だ。その願いは、一人の男の手によって叶えられた。
ただ、男が見返りに求めてきたものは、セシリアの想像をはるかに超えるものだった。
※同一世界観の関連作がありますが、これのみで読めます。本シリーズ初の長編作品です。
※ヒーローはスパダリ時々ポンコツです。口も悪いです。