王太子は妃に二度逃げられる

たまこ

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 翌日からアーネストは滞っていた公務を再開させた。いつも通り登城したマルコから散々文句を言われながら書類を片付けていたアーネストだが、暫くするとフランチェスカがまだ登城していないことに気が付いた。マルコに尋ねるが、苦い顔で「知りません」と首を振るだけだ。


「サルヴァトーリ公爵に確認するか」

「それが宜しいかと」

 フランチェスカの父であるサルヴァトーリ公爵は外務大臣をしており、国王と共に仕事をしていることが多い。アーネストはすぐ国王の執務室へと向かった。国王の執務室に入ると予想通り、国王の隣でサルヴァトーリ公爵が何やら仕事の話をしていた。アーネストは彼に近付き声を掛けた。


「サルヴァトーリ公爵」

「殿下、お帰りになられていたのですね」

「不在中は迷惑を掛けた。ところでフランチェスカが登城していないようだが、体調不良だろうか」

 アーネストの問いにサルヴァトーリ公爵は表情を変えずに淡々と答えた。


「ああ、娘は領地へやりました」

「な……」

 公爵の言葉にアーネストは目を丸くした。サルヴァトーリ公爵家の領地は辺境にあり、王都から馬車で丸二日は掛かる。サルヴァトーリ公爵は大臣職に就いており王都で暮らしているので、領地では公爵の従弟が領主代行として領地経営を行っていると聞く。公爵と従弟は、実の兄弟のように仲が良く従弟もまたフランチェスカを可愛がっているようだった。


「すぐ帰ってくるのじゃろう?」

 国王がフォローするようにそう尋ねるが公爵は首を振った。

「いえ。王都にはもう戻らなくて良いと伝えています」

「なっ……なぜ?」

 国王は珍しく声を上擦らせた。国王からの問いにサルヴァトーリ公爵はすらすらと答えた。

「お二人も良く知っているでしょうが、あちらは騎士は多くても文官は人材不足ですからね。娘がいれば助かることでしょう。まぁ、娘があちらの仕事では満足できないようなら留学でもさせようかと」

 アーネストは言葉が出なかった。昨日会った彼女はいつも通りアーネストを叱ったり呆れていただけでそんなこと一言も話していなかった。呆然とするアーネストの代わりに国王が尋ねた。

「ま、待ってくれ、公爵。フランチェスカはアーネストの側近候補だ。それなのに……」

「ええ。ですから側近候補を辞させていただきたい。候補なのですから何も問題ないでしょう」

「急に何を言ってるんだ」

「急に不在になったのは殿下でしょうに」

 サルヴァトーリ公爵は冷ややかにそう言うと、うんざりとした顔を隠そうとはしなかった。

「陛下も殿下も臣下の者を馬鹿にしておりますよね」

「な……そんなことはない」

「長期で不在になる前に相談するなんて平民でも行いますよ。私たちを馬鹿にしているから、駒としか思っていないから、そんな真似が出来るのです」

「公爵……待ってくれ」

 国王は縋るように止めるが、公爵は言葉を続けた。アーネストは動揺し彼らの言葉をただ聞いていることしか出来ないでいた。鼓動の音がやけに煩く感じた。


「殿下の不在の間、娘たちは学園を休んでまで公務に当たった。殿下の馬鹿馬鹿しい初恋とやらに蹴りを付けるために留学へ行っていたせいで。陛下はそれを止めなかった。陛下は常々恋愛結婚を推奨していますが、あれは政略結婚をしている貴族たちを見下しているようにしか思えません」

 国王は事あるごとに恋愛結婚を推奨する話題を挙げていた。ただ恋愛結婚が素晴らしいことは分かっていても、家の都合で政略結婚になる貴族もまだまだ多い。彼らは婚姻してから仲を深めており、配偶者を愛している……にも関わらず、恋愛結婚に拘る国王の言葉を聞かされると自分たちが悪いと言われているように思えてうんざりしていた。


「……そんなことはない」

「そして、貴方たちが娘に尻拭いさせようとしているのは公務だけでは無いでしょう」

「何を言って」

「くだらない初恋を終えた殿下の婚約者に娘を据えようとしている。貴方たちの嫌いな政略結婚だ……だがそんなことは絶対にさせません。娘を殿下の婚約者にするくらいなら私は娘と共に国を出ます」

 公爵の言葉にアーネストだけでなく国王まで青褪めた。


「貴方たちの尻拭いの為に、娘を育ててきたんじゃない……!」

 憎々し気にそう吐き捨てた公爵の言葉が部屋中に響いた。


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