その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

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第九章 景品を取り返せ!

79.桜二くんの作戦

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「液体のりと化粧品とあとは生肉とかが入ってる。これで怪我メイクをして先生を騙すんだ」
「な、生肉……?」
「売店に血のりはなかったからね。生々しさと匂いのためにもいいかなって、代用品」


 パック肉の容器の隅にたまっている血を使えってことだろうか。
 ちょっと嫌だなと思っている横で、アキくんはレジの中を確認した。


「怪我メイクくらい、アキなら簡単だろ?」
「それはそうだけど……遠目ならともかく、メイクと怪我はさすがに誤魔化せない気がする」
「保険の先生は今ごろ外でスタンプラリーにつきっきりだよ。見張りの先生は雑務で医学に詳しいわけじゃないから」


 それでも無理があるのは変わらない気がする。
 眉をひそめた私に気付いたのか、桜二くんは悪い顔をした。


「雑務の先生は、他の先生と比べて立場が弱いんだよねぇ。怪我の対応で何か間違えたら、それこそクビだってありえるくらい」
「桜二お前、まさか……」
「怪我メイクの半分くらいをハンカチで押さえて、酷いけがを負っているっていう認識さえ与えたら十分。何もメイクは二人じゃなくたっていいし……」


 あごに手を当てて悩むふりをして、桜二くんは説明を続けた。


「たとえば、アキの足にメイクを施したとしよう。まずはユキが先生のところに『痛くて歩けなくなったんです!』って言って、アキの部屋まで連れて行く。それから手当てしようとする先生に『大げさに心配していただけ』って断る」
「誤魔化せるの、それ」
「彫刻でよくグサッとやるっとでも言い訳してよ。そこはアキの演技力次第だし、得意でしょ? そういうの」
「ほんとそういうとこ……わかった。やればいいんでしょ、やれば」


 何か痛いところを刺されたのか、アキくんは唇を尖らせつつも大人しくレジ袋を受け取った。
 その姿を見届けてから、桜二くんは颯馬くんの方を向く。


「ソウは犯人を抑える役ね。先に部屋の中に隠れて、隙を狙って押さえてくれ。ソウなら正面突破でも問題ないと思うけど、念のためね」
「わかった、任せろ」
「ユキはちょっと離れて、連絡係になってほしい。それと途中、誰か荷物部屋に来そうになったらそれとなく追い払って」
「うん、がんばるよ!」


 自分にできることをしっかりこなす。
 颯馬くんたちのおかげでそう気づけた私は、守ろうとしてくれた桜二くんの言葉を素直に受け入れられた。


「最後に、オレはレコーダーを持って自白させる役。手札がそろったから、上手いこと煽って見せるよ」


 そういってボイスレコーダーを鞄から取り出した桜二くんは、とても恐ろしかった。


(なんで旅行先にボイスレコーダーを持ってきてるんだろう……)


 一通り話が終わったところで、私たちは解散してお互いの仕事を始めた。

 颯馬くんたちの部屋に残ったまま、私はアキくんと『言い訳』をすり合わせながら、怪我メイクを手伝った。
 始終嫌そうな顔でふくらはぎにメイクをしていたアキくんは、「今日はこの匂いが残る部屋で寝ろ……!」と呪詛を吐いていたが……ちなみに私の感想として、肉の血を使った怪我メイクは二度としたくないとだけ言っておく。



♢♢♢



 それから準備を終えた私たちは、それぞれ配置についた。
 斎藤清が清掃に来る十分前、颯馬くんと桜二くんが荷物部屋の近くで待機を終える。
 二人が頷いたのを確信して、私はドアをノックする。数秒と立たないうちに中から気だるげな女の先生が出てきて、私の顔を見てぎょっとした。


「えっ、もうスタンプラリーが終わったの!?」
「すみません、違うんです! 私、友達と迷子になっちゃったんですけど、その子が足を怪我しちゃって、歩けないんです……!」


 アキくんの怪我メイクで使った血を少しだけ手の甲につけてある。それをそれとなく見せつけながら、私は演技だとバレないように必死に声を上げた。
 私の勢いに押されて、先生はうろたえを見せる。わたわたと手を泳がせながら、こちらの話を聞いた。


「ええっ!? 歩けないって、そんな大けがの連絡なんて……」
「さっきホテルに戻ったばかりなんですっ! それよりも、早く血を止めなきゃ……!」
「大変! でも保健の先生が——いえ、わかったわ。場所を教えて!」


 先生は迷う素振りを見せるが、頑張って急かせば折れてくれた。
 向こうも若干混乱しているようで、救急箱を掴むや否や慌ただしく私たちについて来た。わざと上の階に止まらせたエレベーターを使い、なるべく時間をかけて案内する。

 男子の部屋だと言えば、先生に怪しまれることもなかった。
 部屋の近くまで案内したところで、あとはお願いしますと頭を下げて押し付ける。
 あとはアキくんが上手くやってくれることを願って、先生が部屋へと入った瞬間くるりと踵を返した。


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