その付喪神、鑑定します!

陽炎氷柱

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第九章 景品を取り返せ!

80.突撃

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 私は急いで荷物部屋の近くまで戻り、廊下の置物の陰に身を潜める。
 ちらりとスマホを確認すれば、ちょうど予定された清掃の時間だった。今ごろ颯馬くんは中で待機しているだろう。


(箒の付喪神が言っていた通り、時間にルーズだなぁ)


 早く来てくれとやきもきしていると、ふと関係者入り口の方から足音が聞こえてきた。
 五分ほど遅刻だが、ちゃんと掃除に来たようだ。
 私はより体を縮込めて、息を押し殺して斎藤清が来るのを待った。


(来たっ!)


 カチャリ、と扉の開く音。
 姿を現したのは写真で見た通り……いや、写真よりもずっと顔色が悪く、痩せて神経質そうな青年だ。確か二十代前半のはずだが、髪もぼさぼさで身なりが整ってないから三十代に見える。
 清掃に来ているはずなのにやけに周りを気にしているように歩いており、その手には不透明なビニール袋と清掃用具を持っていた。
 スペアキーで荷物部屋を開けると、中を見た斎藤清は肩を揺らす。


「お、ラッキー……! ヒヒッ、今日も誰もいない」


 小さな声でそう言うと、斎藤清はゆっくりと部屋に足を踏み入れた。
 そして扉が完全に閉まる前、桜二くんが物陰からダッシュで近づいて手で押さえた。わずかに残った隙間にスマホのカメラを向け、そのままじっと構える。
 私の方から見えないが、おそらくカメラを通して中の様子を伺っているのだろう。


(でもあれって、録画中だよね? もしかして……また盗んでる!?)


 信じられない気持ちで状況が動くのを待つ。カチャカチャと何かしている音が離れた私の場所でも時折聞こえる。
 やがて十分立つかというところで、スマホをしまってレコーダーに持ち替えた桜二くんが勢いよく扉を開けた。


「お兄さん、二日連続で窃盗は大胆すぎじゃない?」
「ッ誰だ!?」


 斎藤清が声を上げるのと同時に、部屋の中から激しい物音が聞こえる。
 何かが落ちるような音と、割れるような音。それから人間が倒れたような音。


「っな、何するんだ! 離せっ!」


 次いで聞こえた斎藤清の苦しそうな声で、私は颯馬くんが取り押さえに成功したことを察する。
 少しは大丈夫だろうと、私は物陰から出て部屋に近づく。といっても姿を見せて斎藤清を興奮させるつもりはないから、あくまでも中の様子が見える程度の距離だ。


「はいはい、動かないでね。こっちはちゃんと証拠もバッチ取れてるから」


 桜二くん越しに部屋の中を見れば、颯馬くんにうつぶせで床に押さえつけられている斎藤清の姿が見えた。その近くにはごみ袋が中身をまき散らして落ちており、中には先生の私物や備品と思われると思われるものがほとんどだった。


(本当にまた盗んだんだ……!)


 身長で言えば斎藤清の方が高いが、抑え方がうまいのか馬鹿力なのか。両手を後ろでまとめられ、颯馬くんに上から乗られている状態でピクリとも動いていなかった。
 必死な表情で息も荒いから、抵抗はしているはずなのだけど……。


「いやあ、色んな方法を考えてきたのに、まさか昨日の今日で再犯するとは思わなかったなあ」


 煽るような口調だが、その声は冷たい。
 桜二くんはスマホで取った動画をもがく斎藤清に見せて、鼻で笑った。


「映像証拠に、完璧な現行犯逮捕。しかも前科の可能性大。無駄な抵抗をやめて、罪を軽くするためにも大人しくしたら?」
「う、うるさいっ! ぼ、ぼぼ僕は何もしてない! これはっ、これは掃除してただけなんだ!」
「んなワケないでしょ。さっき先生の財布から札を抜いたの、見たからね。それとも何、近くに持ち主がいない物は自由にとっていいって考え? ここ日本だけど」
「いや、置き引きは海外でも犯罪ではあるんだが」


 斎藤清はぎょろっとした目で桜二くんを睨む。
 だけど颯馬くんがさらに力を入れたようで、声にならない悲鳴を上げる。
 その声を聞きつけたように、私はエレベーターの方が騒がしいことに気が付いた。任された仕事をこなそうとすると、桜二くんが私を止めた。


「証拠も取れたし、もう先生たちに見つかってもいいよ。なんならそろそろ引き渡したいしね」
「ならいいけど……」


 アキくんにも大丈夫だと知らせなきゃ。
 そう考えてスマホを開こうとしたとき、落ち着きかけていた斎藤清が再び声を張り上げた。


「くそっ! 女もいるのか!? 金持ちのボンボンどもが、なめやがって……! どうせ僕を見下してんだろッ」
「いい加減にしないと、どこかの骨を折るぞ」


 颯馬くんがイラ立ったように注意しても、興奮状態の斎藤清に耳には届いていないようだ。


「やれるもんならやってみろ!! そしたらてめえを傷害罪で訴えてやる! お前らの人生を台無しにしてやるっ!」
「っ……」
「ほら! なんもできねえだろ! 毎日毎日大事に育てられたおめえには出来ねえよなあ!」


 颯馬くんが小さく舌打ちをする。
 それに気をよくした斎藤清が汚い笑い声をあげた。

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