未来スコープ  ―キスした相手がわからないって、どういうこと!?―

米田悠由

文字の大きさ
7 / 11

エピソード5:予期せぬ交錯、二つの想い Ver.7

しおりを挟む
清風学園から電車とバスを乗り継ぎ、彩奈と結花は、あの盾形の刺繍が特徴的な制服の高校――陽光学園にたどり着いた。
想像以上に広大な敷地に、重厚な校舎がそびえ立つ。
壁には、見慣れない盾形の校章が誇らしげに掲げられている。

「わぁ…!ここが陽光学園か~!なんか、うちの学校と全然違うね!」

彩奈が思わず感嘆の声を漏らした。
目の前の厳重な門を見て、二人は立ち止まる。

「すごいね…。でも、これじゃ、中に入るわけにはいかないかぁ。どうしよう…」

結花が困ったように眉を下げた。
正門には警備員らしき男性が立っており、生徒以外の立ち入りを厳しくチェックしているようだ。

二人が途方に暮れていると、その時、彩奈のスクールバッグに入れていた未来スコープが、スマートフォンが震えるような微かな振動を始めた。
彩奈は慌ててバッグから取り出す。
レンズが淡く光り、視界いっぱいに緑色の文字が広がる。

『課題:猫を探せ!』

「えっ!? 猫っ!? 猫っ!? ええっ!? 何? いったいどういうこと!?」

彩奈は激しく動揺し、半ば叫ぶように声を上げた。

「結花! 次の課題、猫を探せってっ!」

彩奈から未来スコープを受け取った結花は、冷静な顔で文字を読み上げる。

「猫?ん~猫、猫…。ひったくり犯の次は猫、ねえ~。ん~ちょっと待ってね、考察するから…」

結花が腕を組み、考え込む仕草を見せた。
彩奈はそんな結花に焦りの声を上げる。

「ちょっと、結花! 今、考察なんてしてる場合じゃないよ! 
意味不明だけど、とにかく課題が出たんだから、まずは、猫探そうよ!」

彩奈に促され、結花は「そっか、そうだね!」と笑顔で頷いた。

「分かった! じゃあ手分けしよう、彩奈!」
「うん! じゃあ、私はこっちを探すから、結花はあっちお願い!」

彩奈はそう言うと、校舎の裏手へと回り込んだ。
結花は校舎の周囲を大きく迂回する方へと歩き出した。
彩奈は校舎の壁沿いを、木々や植え込みの陰を覗き込みながら、猫を探し始めた。

しばらく校舎の周りを捜索した。
日差しが傾き始めた頃、彩奈は校舎の裏手に続く、ひとけのない小道で、一匹の猫を見つけた。
毛並みの良い、どこか気品を感じさせる三毛猫だった。
その瞳は、彩奈をじっと見つめている。

「あ! あの時の猫だっ! あ、待って!」

彩奈が声を上げると、猫はひらりと身を翻し、校舎の裏手にある小さな通用口へと駆け込んだ。
その通用口は、古びた木製で、鍵が掛かっていないのか、猫は軽々とその隙間からすり抜けていく。彩奈は迷うことなく、猫の後を追って、その通用口から陽光学園の敷地内へと足を踏み入れた。

敷地内に入ると、猫の姿を見失ってしまった。
(どこ行っちゃったんだろう…)
 「猫さん~ニャーニャー」

彩奈は息を切らせながら、植え込みの陰を覗き、建物と建物の隙間を覗き込む。校舎と体育館の間の通路だろうか、人気のない空間は静まり返っている。
ウロウロと猫の姿を探し、角を曲がろうとしたその瞬間、足元に小石があってバランスを崩した。

「きゃっ!」

転びそうになった彩奈の腕を、すかさず別の手が掴んだ。

「大丈夫ですか!?」

見上げると、そこには陽光学園の制服を着たショートヘアの女子生徒が立っていた。
彩奈は慌てて体制を立て直した。

その女子生徒と彩奈の視線が交差した。
彩奈の胸に、かつてないほどのざわめきが起こる。
未来スコープの映像で見た、あの彼の隣で笑う少女が、今、目の前にいた。

美咲「あ、夢の子の…」
彩奈「あ、映像の子…」

二人の声が、驚きと混乱とともに同時に重なった。

美咲「えっ、映像の…?」
彩奈「えっ、夢の…?」
再び、言葉が重なる。
彩奈 美咲「えっと、あの…」

三度重なり、ショートヘアの女子生徒がふっと小さく微笑んだ。

美咲「どうぞ」
彩奈「あ、あの…私、清風学園の月島彩奈と言います…」 
美咲「私、陽光学園の桜井美咲です。えっと…」
彩奈「あ、はい!知ってます!あ、いえっあの・・えっと…あの、突然こんなことを言っても、信じてもらえないかもしれないんですけど…私、未来が見える不思議な道具を持っていて、それであなたのことも見て知っていたんです!」
美咲「はい!信じますよ!私も、あなたのこと知ってますから・・」
彩奈「えっ?」

彩奈は目を見開いた。

彩奈「えっ、えっと、どういうこと・・ですか?」 
美咲「夢でね、あなたが出てきたの。あ、いえ、出てきたって聞いたの」
彩奈「夢?聞いた?」 
美咲「うん、夢。彼が見たの」 

美咲は、彩奈の目を見て、わずかに唇を震わせた。
 
美咲「あなたは道具で彼と私を見た。彼は夢であなたを見た」
彩奈「その人も私のことを知ってるの?」 
美咲「知ってるどころか、探してるわ」 

美咲は、ふっと自嘲するように笑った。
その目に、みるみるうちに涙が滲んでいく。

美咲「あなたのその道具と彼の夢は繋がってるみたいだから」
美咲「私ね。彼のことが好きなの。でも駄目だって分かってる。分かってるけど、、、」

美咲の瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
彩奈は、その場に立ち尽くすことしかできない。
目の前の美咲が、自分と同じ人を想い、そして傷ついている。
その事実に、彩奈の胸が締め付けられた。

彩奈「ごめんなさい。わたし、なんにも知らなくて、、彼の名前さえも、、」

美咲は、涙を拭いもせず、それでも彩奈を真っ直ぐ見つめた。

美咲「うん。彼に会いなよ。まだ校舎内にいると思うわ。きっと全てが分かると思うわ」 
彩奈「桜井さん・・・」 
彩奈「あ、えっと、あの、その人はどこに、、」 
美咲「もう!それくらい自分で探してよね!」
彩奈「あ、ごめんなさい」 
美咲「もう!もうめっちゃ近くなんじゃないの!」 
彩奈「あ、ごめんなさい」 
美咲「もう!何度も謝らないで!」
彩奈「あ、ごめんなさい」 
美咲「もう!あははは」
彩奈「あははは」

二人の間に、悲しみと、諦めと、そして僅かな笑いが混じり合った、複雑な空気が流れる。

その時だった。
彩奈の足元から、ひょっこりとあの三毛猫が顔を出し、にゃあと短く鳴いた。
猫は、美咲と彩奈の顔を交互に見上げてから、くるりと身を翻し、再び校舎の奥へと走り去る。

「あ…猫さん…!あ、待って!」

彩奈は思わず声を上げ、猫の姿を追うように走り出した。
美咲に、何か言葉をかける間もなく。

彩奈が走り去った直後、桜井美咲は、その場に一人立ち尽くしていた。
心の中は、嵐のように感情が渦巻いている。
一条悟への一途な想い、そして、今、目の前で現実となった夢の女の子の存在。
一条悟の言葉を信じて、ずっと心の中で抱き続けてきた希望が、音を立てて崩れ落ちた。

美咲は、震える手で目元を拭った。
一条悟への想いは、彼女の心に深く根を張っていた。
今、彩奈を応援すると口にしたものの、このまま彼の前から立ち去ることは、どうしてもできなかった。

美咲の胸に、最後の、そして切ない決意が生まれた。

その時、敷地内の通用門の方から、一人の男子生徒が歩いてきた。
一条悟だ。

「桜井さん?どうしたの?こんなところで」

悟の優しい声が、美咲の胸に響く。
美咲は、その声を聞いた瞬間、居ても立っても居られなくなった。
もう、後には引けない。

「悟くん…!」
「私…悟くんのことが、好きです。ずっと、そばにいたい。
ずっと、あなたのことを、一番近くで支えていきたいと思っていました」
「桜井さん…。ありがとう。気持ち、嬉しいよ」
「でも、ごめん。僕には、夢に出てくる、探したい相手がいるんだ。だから、桜井さんの気持ちには、応えられない」

悟の言葉は、まるで研ぎ澄まされた刃のように、美咲の心を切り裂いた。
わかっていた。分かっていたはずなのに、彼の口から直接告げられると、これほどまでに痛いのか。
美咲は、涙が溢れてくるのを必死で堪えた。

「そっか…。そうだよね…。分かってた、けど…」

美咲は、無理に笑顔を作ろうとしたが、唇が震えてうまくいかない。
悟は、そんな美咲の様子に、申し訳なさそうに眉を下げた。

「本当にごめん。桜井さんは、素敵な人だよ」
悟のその言葉が、美咲の心をさらに締め付けた。

「…ううん。私こそ、ごめんなさい。変なこと言っちゃって」 
「…ううん。僕こそ、」
 「探してるんでしょ!その子」 
「あ、うん。なんか今日会える気がしたんだ・・・」 
「もう!もうめっちゃ近くなんじゃないの!」
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

未来スコープ  ―この学園、裏ありすぎなんですけど!? ―

米田悠由
児童書・童話
「やばっ!これ、やっぱ未来見れるんだ!」 平凡な女子高生・白石藍が偶然手にした謎の道具「未来スコープ」。 それは、未来を“見る”だけでなく、“触れたものの行く末を映す”装置だった。 好奇心旺盛な藍は、未来スコープを通して、学園に潜む都市伝説や不可解な出来事の真相に迫っていく。 旧校舎の謎、転校生・蓮の正体、そして学園の奥深くに潜む秘密。 見えた未来が、藍たちの運命を大きく揺るがしていく。 未来スコープが映し出すのは、甘く切ないだけではない未来。 誰かを信じる気持ち、誰かを疑う勇気、そして真実を暴く覚悟。 藍は「信じるとはどういうことか」を問われていく。 この物語は、好奇心と正義感、友情と疑念の狭間で揺れながら、自分の軸を見つけていく少女の記録です。 感情の揺らぎと、未来への探究心が交錯するSFラブストーリー、シリーズ第3作。 読後、きっと「誰かを信じるとはどういうことか」を考えたくなる一冊です。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

四尾がつむぐえにし、そこかしこ

月芝
児童書・童話
その日、小学校に激震が走った。 憧れのキラキラ王子さまが転校する。 女子たちの嘆きはひとしお。 彼に淡い想いを抱いていたユイもまた動揺を隠せない。 だからとてどうこうする勇気もない。 うつむき複雑な気持ちを抱えたままの帰り道。 家の近所に見覚えのない小路を見つけたユイは、少し寄り道してみることにする。 まさかそんな小さな冒険が、あんなに大ごとになるなんて……。 ひょんなことから石の祠に祀られた三尾の稲荷にコンコン見込まれて、 三つのお仕事を手伝うことになったユイ。 達成すれば、なんと一つだけ何でも願い事を叶えてくれるという。 もしかしたら、もしかしちゃうかも? そこかしこにて泡沫のごとくあらわれては消えてゆく、えにしたち。 結んで、切って、ほどいて、繋いで、笑って、泣いて。 いろんな不思議を知り、数多のえにしを目にし、触れた先にて、 はたしてユイは何を求め願うのか。 少女のちょっと不思議な冒険譚。 ここに開幕。

パンダを演じたツキノワグマ:愛されたのは僕ではなく、塗りたくった小麦粉だった

tom_eny
児童書・童話
「なぜ、あいつばかりが愛される?」 山奥の孤独なツキノワグマ・ゴローは、人々に熱狂的に愛される「パンダ」に嫉妬した。 里で見つけた小麦粉を被り、彼は偽りのアイドルへと変貌を遂げる。 人々を熱狂させた「純白の毛並み」。 しかし、真夏の灼熱がその嘘を暴き出す。 脂汗と混じり合い、ドロドロの汚泥となって溶け落ちる自己肯定感。 承認欲求の果てに、孤独な獣が最後に見つけた「本当の自分」の姿とは。 SNS時代の生きづらさを一頭の獣に託して描く、切なくも鋭い現代の寓話。 #AI補助利用

笑いの授業

ひろみ透夏
児童書・童話
大好きだった先先が別人のように変わってしまった。 文化祭前夜に突如始まった『笑いの授業』――。 それは身の毛もよだつほどに怖ろしく凄惨な課外授業だった。 伏線となる【神楽坂の章】から急展開する【高城の章】。 追い詰められた《神楽坂先生》が起こした教師としてありえない行動と、その真意とは……。

14歳で定年ってマジ!? 世界を変えた少年漫画家、再起のノート

谷川 雅
児童書・童話
この世界、子どもがエリート。 “スーパーチャイルド制度”によって、能力のピークは12歳。 そして14歳で、まさかの《定年》。 6歳の星野幸弘は、将来の夢「世界を笑顔にする漫画家」を目指して全力疾走する。 だけど、定年まで残された時間はわずか8年……! ――そして14歳。夢は叶わぬまま、制度に押し流されるように“退場”を迎える。 だが、そんな幸弘の前に現れたのは、 「まちがえた人間」のノートが集まる、不思議な図書室だった。 これは、間違えたままじゃ終われなかった少年たちの“再スタート”の物語。 描けなかった物語の“つづき”は、きっと君の手の中にある。

【運命】と言われて困っています

桜 花音
児童書・童話
小6のはじまり。 遠山彩花のクラスである6年1組に転校生がやってきた。 男の子なのに、透き通るようにきれいな肌と、お人形さんみたいに、パッチリした茶色い瞳。 あまりにキレイすぎて、思わず教室のみんな、彼に視線が釘付けになった。 そんな彼が彩花にささやいた。 「やっと会えたね」 初めましてだと思うんだけど? 戸惑う彩花に彼はさらに秘密を教えてくれる。 彼は自らの中に“守護石”というものを宿していて、それがあると精霊と関われるようになるんだとか。 しかも、その彼の守護石の欠片を、なぜか彩花が持っているという。 どういうこと⁉

処理中です...