花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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婚礼本番~後編~

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 婚礼の儀の第1ステージである『宣誓の儀』が無事に終了して、ダイアナ王女とミモザ王子は民衆が祝う王都を豪華な馬車にてパレードする。

 街には若く見目麗しい王家の新婚夫婦を一目でも見ようと大勢の民衆が押し寄せて、極めて密な状態であった。

 華やかな美少女であるダイアナ王女が微笑むと群がる民衆は大歓喜で祝福の言葉を叫ぶ。

 「王女様~!万歳!!婚礼万歳!」

 「お美しいダイアナ王女に祝福を!王家に栄光あれ!」

 「ダイアナ王女様!ご結婚おめでとうございます!」

 このようにダイアナ王女推しの民衆が大熱狂している側で街の女性陣はミモザ王子に萌えていた。

 「お姿を見るのは初めてだけど、ミモザ王子!可愛い~!」

 「チョイと細いけど、そこがいいわ~!深窓の王子様!」

 「想像以上に美少年!お人形さんみたい!家に飾りたいわ~!ミモザ王子!」

 「キャー!こちらを向いたわよ!可愛いわ~!萌えるわ~!キャー!引きこもり美少年王子!」

 なんだか……民衆の特に女性陣のミモザ王子への黄色い声の熱量と熱気が凄まじいが、少しは言葉を選べとミモザ王子の側近であるモモは思っていた。

 「貴族でもミモザ王子は初見って輩が多いから騒ぐのは分かるが街の女たちが早速、ミモザ王子推しになってる」

 ダイアナ王女は王家の正当な王位継承者なので民衆にも馴染みがあり、その美しさから大人気だが、ミモザ王子は貴族には存在をある程度は認識されていたが、民衆にとっては同じ王族なのにまるで未知の存在であった。

 長らくいるかいないか分からないような存在だった王子様が想定外に美少年で、しかも繊細で知的なオーラを出していたら女性陣の心は釘付けだろう。

 実際にパレード中に民衆に向かって微笑むミモザ王子は高貴で端正な顔立ちに加えて、細身でどこか儚い雰囲気であり、そういう美少年を好む男女には堪らない。

 そう!美少年といえばミシェルの守備範囲だと思われるが、ミシェルは何故かミモザ王子にそういう類いの関心はないようだった。

 これはミシェルに最も愛されているモモにも大きな謎である。

 (異母弟のリン様のことは割りとガチで溺愛していたのにミシェルってミモザ王子は範疇外だよな?)

 やはり国王陛下の甥っ子であり、養子のような存在であるミモザ王子では出自が高貴過ぎて流石のミシェルでも気後れして手を出せなかったのか?

 それともミモザ王子は美少年であってもミシェルの好みではないのだろうかとモモはパレードに随行しながら密かに考えていた。

 婚礼のお披露目パレードは大盛況で民衆は熱狂的な祝福をしてくれて、ダイアナ王女とミモザ王子は笑顔で沿道にいる民衆に振る舞い菓子を配っている。

 王女と王子から菓子をもらった民衆は大歓喜で、街中には婚礼を祝う花が飾られ、舞い上がり盛大なパレードは終わった。

 お披露目パレードが終了したら舞踏会が王宮にて開催されるが、舞踏会に合わせた衣装に着替える名目でダイアナ王女とミモザ王子は少し休憩を挟む。

 「これから舞踏会をして花火大会で王宮のバルコニーで民衆に手を振って、初夜の儀でミモザと寝れば、婚礼の儀は終了ね!長いわ。ミモザ、初夜の儀は既成事実を作ったら早々に終わらせてね」

 「承知しました。表情筋のライフが限りなくゼロなので初夜の儀の段階で口角もテンションもドン底まで下がっていると思いますがお役目は果たします」

 婚礼の儀の楽屋裏である控え室にてダイアナ王女もミモザ王子も1番肝心である初夜の儀に羞じらうどころか一刻も早く終わらせたいと本音を吐露している。

 名実ともに夫婦となるにはダイアナ王女とミモザ王子はそういう営みをしないとダメであり、それらを見届けるのがミシェルとモモの役目なのだ。

 「初夜を前に既に萎えている新婚夫婦っているんだな。まあ、むしろヤル気満々なミモザ王子なんて想像できねーから、これがデフォルトか?」

 「モモ、ミシェル。僕と姉上が初夜を遂行中はお前たち2人も適当によろしくやっていておくれ」

 「王子!それでは見届け役の意味がありません!楽屋裏でここぞとばかりに仏頂面をしないでください!笑顔でいれば初夜も楽しみになります」

 ミシェルの励まし方も少しずれているが、ミモザ王子だって皆に祝福されて嬉しくない訳では決してないが、控え室でくらいテンションと口角を下げたいと思っていた。

 ダイアナ王女も婚礼の儀は1種のお仕事であり、ミモザ王子に激しい恋慕の情もないので、態度は事務的になってくる。

 これでは綺麗なお人形2体が操られているようだと、ミシェルが悶々としていたらモモが唐突に疑問をぶつけてきた。

 「話は脱線するけど、ミシェルってミモザ王子は好みじゃねーのか?美少年好きとして?」

 いきなりぶっ飛んだ質問を投げ掛けるモモに対してダイアナ王女も興味深げに同意をした。

 「そうよね?ミシェルは可愛くて美しい男の子が大好きだもの。ミモザだってこんなだけれど割りと美形よ?趣味嗜好としていかが?」

 自分の夫君となるミモザ王子は好みではないのかとダイアナ王女が大概な問いかけをするとミシェルは潔く答えた。

 「ミモザ王子はたしかに見目麗しいですが、私の好みの美少年とは違います。私の好みは広範囲ですがミモザ王子は範疇外です」

 「あら?ミモザのどこがご不満かしら?わたくしの従弟で弟のような子よ?自分の花婿を範疇外と告げられると地味に腹立つわね?」

 これから正式な夫君となるミモザ王子がミシェルの範疇外で何気に面白くないダイアナ王女に向かってミシェルは微笑んで口を開いた。

 「ダイアナ王女が大切に想うお方は恋愛対象外です」

 「ほう?ならば僕が姉上と結婚しなければ対象内となるのか?」

 少し意地悪なミモザ王子の質問にミシェルは礼儀正しく頭を下げるとハッキリ告げた。

 「それはないです!いくら美少年でもご自分の婚礼で口角を下げているお方は無理!」

 ミシェルは最愛のモモにしても、美少年トリオのステフ、マックス、ヒナリザにしても感情を素直に出すタイプの美少年が好きであり、必要以上に口角下げている気難しいタイプのミモザ王子はどんなに美少年でも最初から好みの範疇外であった。

 清々しいミシェルの発言にミモザ王子はようやく口角を少し上げると愉快そうに告げた。

 「なるほど。節操なしなようでミシェルにも拘りがあるのだな。口癖が『殺す』なモモはミシェルの好みのど真ん中と言うわけか?」

 「はい!モモの殺す発言は愛情表現ですから!私とモモの馴れ初め……聞きたいですか?」

 ミシェルとモモの馴れ初めはダイアナ王女もミモザ王子も10回は耳にしているが、舞踏会まで時間があるので聞いておいた。

 「モモが11歳の頃に私が屋敷に連れて帰り、その日のうちに関係を!」

 誰の口からも「おまわりさーん!コイツです!」と叫び声が出そうなミシェルとモモの馴れ初め話が終わると舞踏会の時間が来た。

 ダイアナ王女とミモザ王子が仕事を片付けようと云った様子で笑みを浮かべて大広間に移動するのを見ながらモモはミシェルに問うた。

 「……で!?その実、どうなんだよ?ミモザ王子は完全に範疇外なのか?」

 疑わしい視線でモモに見据えられて、ミシェルは素直に白状した。

 「ふて腐れた顔が可愛いと結構タイプでした」

 「やっぱりかよ!この変態!ミモザ王子まで守備範囲にしやがって!殺すぞ!?」

 「モモ!それは嫉妬かい?ミモザ王子は既婚者になるし結局範疇外だよ!」

 「当然だ!俺の大事な主君に手を出したらマジで殺すぞ!?」

 それだけ叫ぶとモモはミモザ王子の後を追いかけて走っていった。ミシェルも後を追いかけて大広間に歩を進める。

 大広間の中心ではダイアナ王女とミモザ王子が手を取り合って踊っていて、貴族たちは微笑ましそうにその姿を眺めている。

 皆に祝福されてダンスを披露するダイアナ王女とミモザ王子は存外楽しそうな様子であった。

 なんだかんだダルそうにしていても仕事はキッチリ果たしている王女と王子を見守りながらミシェルは思った。

 「私もできればモモと踊りたいものだ」

 形式上は異母兄弟であるミシェルとモモは大広間で仲良く踊ることはできない。それは仕方ないとミシェルは承知しているが、やはり最愛の恋人と堂々とダンスがしたかった。

 そんなことは公の場では不可能と諦めていたら不意に頭をはたかれた。

 「ボケッとすんな!ミシェル、踊るぞ?」

 「モモ……。今夜の舞踏会ではちょっと……」

 「いいんだよ!表向きお前はシルバー家の嫡男で俺は庶子だ。うぶな異母弟の相手をしているお兄様を演じてればバレない」

 モモに引っ張られるようにミシェルは大広間でダンスを踊ったが不思議と注目は浴びなかった。
 思えばミシェルの本当の異母弟のリンだって男の子なのに姫と偽り、夫君のユーリと踊っている。同母弟のエドガーは孔雀の羽根飾りの衣装で恋人のシオンを追いかけているので実質、舞踏会の大広間はカオスである。

 「エドガーの奇行で私とモモが踊っていても注目されない」

 「今日は晴れの婚礼でみんなお祭りムードだからスルーされる。ミシェル、俺はミシェルの花嫁にはなれない。でも、11歳の俺に手を出した節操なしなお前が好きだ」

 これからもよろしくなと笑うモモをミシェルが抱き締めて囁いた。

 「ありがとう……。ミモザ王子が初夜の儀の最中は2人でよろしくやっていろと命じてくれてよかった」

 「いや!初夜の儀を主君2名がしてる最中に俺らがヤってるのはダメ!」

 こうして舞踏会も和やかに幕を閉じて、ダイアナ王女とミモザ王子は初夜の儀の為に寝室に行くべく退出した。

 ミシェルとモモも側近として随行したが、ミシェルは土壇場になってある現実に気づいてしまった。

 17歳を迎えて女性としての魅力が出てきたダイアナ王女に対してミモザ王子はまだ15歳で細くて少年であり身体が男性になっていない。

 これは初夜の儀が達成されない危険性があるのではとハラハラしたが心配ご無用であった。

 「リン様が調合したシオンの理性をぶっ飛ばした薬をミモザ王子のシャンパンに混ぜたから初夜の儀は完遂される」

 「モモ!主君に一服もったのかい!?」

 モモの見事な采配によってダイアナ王女とミモザ王子は晴れて名実ともに夫婦となり、間もなくダイアナ王女は懐妊した。

 「あんなに綺麗なお人形みたいでも、ミモザ王子だって男なんだね~!?」

 ダイアナ王女のご懐妊は祝福すべきものなのにミモザ王子推しになった1部の乙女は落胆したと云う。

 こんな具合にミシェルとモモの愛を再確認できた王家の婚礼が無事に幕を閉じて、ユーリとリン、そしてエドガーとシオンはラン・ヤスミカ領へと帰ることになる。

 婚礼後、3ヶ月はユーリたちはシルバー家に滞在する約束なのでまだまだ帰れないがとりあえずつつがなく王家の婚礼の儀は終了したのであった。

End

 

 
 

 

 

 





 
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