花嫁と貧乏貴族

寿里~kotori ~

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婚礼本番~前編~

 「天から恵みの雨が降り注ぎ、そして、雲の間から祝福の光りさす、この佳き日!神の恩寵の兆しである虹が大聖堂にかかった、この佳き日に!晴れて婚姻の誓いをする地上の迷い子たちに神の祝福を授け、その誓いに……云々」

 いよいよ、ダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀の第1段階である『宣誓の儀』が大聖堂で執り行われているが、王女と王子の結婚の誓いを朗々と述べる大司教の前置きが予想外に長くて既に1時間以上は大司教の祝福リサイタルが続いている。

 少し大司教の話が止まると今度は聖歌隊の賛美歌タイムとなり儀式は遅々として進まない。

 この大司教のリサイタル&聖歌隊の賛美歌タイムの間中、ダイアナ王女とミモザ王子は直立不動で2人ならんで儀式に挑んでいるのだ。

 参列している者もツラいが、大司教の祝福リサイタルと聖歌隊コーラスを顔色変えず、微動だにせず、聴いてなくてはならない、本日の主役2名……ダイアナ王女とミモザ王子の心身は大丈夫かユーリは心配になってきた。

 婚礼の儀に集まった王侯貴族や海外から来賓した王族たちは新郎新婦……特に今まで殆ど公の席におらず、存在感も薄かったミモザ王子の一挙手一投足を容赦なく見物して値踏みしている。

 ダイアナ王女が将来的に王位を継ぐが、その婿殿となるミモザ王子だって当然ながら王家では強い発言力を持つとされ、他国としてはミモザ王子の才気が未知数な分、注目度は高いのだ。

 つまり、脅威となるか、利用価値があるか、などミモザ王子の力量を見極める目的で他国の王侯貴族や大使は大勢参列している。

 ミモザ王子だってそんな諸外国の思惑など分かっているから、神妙な表情で大司教の祝福を聴きながら、その実、注意深く参列席を確認しているのだ。

 「この宣誓の儀って、あとどれくらい続くんだ?」

 大司教が聖書を取り出して本格的なリサイタルを始めたところでユーリは隣に座るリンに訊ねた。

 「聖書を大司教が出したと云うことは、ここからはミモザ王子がダイアナ王女の花婿になることを受け入れるターンです。大司教の問いに応じて王女の花婿として相応しいことを皆に知らしめる時間ですよ」

 「え?そんな抜き打ち口頭試験があるのか?」

 「はい。この大司教の問いに答えたところでダイアナ王女がミモザ王子を婿に認めるか最後の誓いをする段取りです」

 聖書が出てきたので神学に関する口頭試験をするのかと思ったユーリは固唾を呑んだが、大司教は厳かな声で祭壇の前に立つミモザ王子に問題を投げ掛けた。

 「この婚姻をなんと受けとめる?」

 大司教の問いかけにミモザ王子は落ち着いた様子でこう答えた。

 「これは神のみわざ。僕には奇跡としか思えません」

 ミモザ王子が淀みのない声で告げると大司教は次の質問をする。

 「神が汝に求めし姿は如何に?」

 「服従、忍耐、愛、貞節、その4つを徳として生きることです」

 「その4つの徳目を生涯、誰に捧げる?」

 この設問の正解ってなんだろうとユーリは考え込んでしまった。

 しかし、ミモザ王子は迷うことなく大司教の問いに答えた。

 「全ては神に捧げる所存です。神に祝福を受け、今日の佳き日、こうして僕は婚姻に臨める」

 大司教はミモザ王子の答えに深く頷くと聖書を閉じて最後の質問をした。

 「朝は四本足、昼は二本足、夜は三本足、これ、なーんだ?」

 ん?これ単なる謎なぞじゃないかとユーリがキョトンとしている間にミモザ王子の凛とした声が響いた。

 「それは、人間、である」

 最後の質問だけ婚姻と関係なくないかと思うが大司教は厳格な面持ちで頷くと次はダイアナ王女に向けて声をかけた。

 「汝に問う。ミモザを花婿とすることを認めるか?」

 ダイアナ王女が静かに首を縦にふったので参列席からどよめきが起こった。

 「これで宣誓の儀は終了だな」

 エドガーが澄ました顔で告げると大司教が祝辞を述べた。

 「王女が結婚を認めたことで、ミモザ・エルキュールは正式に王女の花婿となる。神の祝福がありますように!」

 最初からミモザ王子に何の拒否権も選択権もなく、ダイアナ王女が認めたことで晴れて宣誓の儀のターンは終わった。

 「前半から中盤の大司教の祝福リサイタルと聖歌隊の賛美歌の意味は?」

 あとついでにミモザ王子だけが口頭試験を受けるのも理不尽かつ訳が分からない。

 ユーリがそう感じていると察したのかリンは声を潜めて教えたのだ。

 「この宣誓の儀はあくまでミモザ王子を試す儀式ですから。服従、忍耐、愛、貞節なんて王女に捧げて当然という段階から儀式は始まってます」

 「だから、ミモザ王子は4つの徳目をダイアナ王女でなく神に捧げると宣言したのか!」

 「そうです。これからミモザ王子はダイアナ王女の花婿を天職……神から与えられた使命として生きることになります。その覚悟が本当にあるかを見極める儀式がこれです」

 王家の花婿になるとはそういうことですと告げるリンにユーリは息を吐いた。

 「誓うのはミモザ王子だけ。ダイアナ王女は認めるだけなんだな……」

 やはり自分とリンのように貴族として格差はあれど対等な夫婦関係は築けないのかとユーリが思っていたら指輪交換が始まった。

 ミモザ王子の側近であるモモがダイアナ王女に指輪を渡して、ダイアナ王女の側近であるミシェルがミモザ王子に指輪を渡す。

 それを王女と王子が左手薬指に嵌めて、ミモザ王子が跪いて、ダイアナ王女の手の甲にキスをしてようやく宣誓の儀は終わり、次のお披露目パレードに移れる。

 滞りなく儀式は終了したのでダイアナ王女とミモザ王子はお披露目パレードの為の衣装直しで退出、参列した者は休憩時間となるのだ。

 「長かった……。ダイアナ王女とミモザ王子はこれだけで相当にお疲れだろうな?」

 ユーリがホッと息を吐くと、休憩なのでエロ小説を読み始めたエドガーがポツリと言った。

 「ユーリ殿、これしきで疲れていたら王家は務まらん」

 「エドガー、お前、大司教様のリサイタル中に寝てたろ?目をあけたまま?」

 あきれ顔のシオンに問われ、エドガーは小説から目を離すとシオンを見ながら言った。

 「眠ってはいない。シオンの礼服を乱して破廉恥なことをしたい妄想をしていた。私は常時3本足……両足と股間の……!グフゥ!」

 シオン、エドガーの発言が終わらぬうちに急所を足で攻撃した。

 ミモザ王子が大司教の謎かけ試練に晒されている間もずっとエロ妄想をしていたらしいエドガーは愛しいシオンに金的されて悶絶している。

 「はい!これで2本足だな!神聖な婚礼に参列中に俺をオカズにエロ妄想するな!殺すぞ?」

 神聖な王家の婚礼の儀が行われている大聖堂で恋人に金的しているシオンも相当にバイオレンスであった。

 「シオン!目立つからエドガー義兄上に物理的アタックは止めてくれ!」

 「ユーリ、シオンが金的しなくても、私たち……。目立ちまくってますよ?」

 ダイアナ王女とミモザ王子がお色直しの為に退出している間、貴族たちの興味はシルバー家次男のエドガーに集中しており、シルバー家の身内として近くにいるユーリたちにも注がれていた。

 貴族たちがこちらを眺めながらひそひそ話をしているのでユーリは心臓がバクバクしたが助け舟が来てくれた。

 「シオン殿、先程の金的もエドガー様へのプレイですか?」

 シルバー家と同等の大貴族ヴィオレッド家の令息ジゼルが近くに寄ってきたのだ。

 18歳で素直な気性のジゼルは28歳で気性は荒いが、どこか翳のあるシオンのことを恋敵なのに憧れている。

 ジゼルが親しげに接してくれたので他の貴族たちの好奇な視線も和らいだ。

 「エドガーが破廉恥なことを大聖堂でほざくので制裁していました」

 「大聖堂でも破廉恥なエロ妄想をしているなんてエドガー様は素敵です!」

 エドガーの恋人になることは諦めたが、エドガーを全肯定するジゼルにユーリは引いたが、リンは微笑んでいる。

 「それにしてもミモザ王子の存在感は素晴らしかったですね!?華やかで凛々しくて!」

 リンが褒めるとミモザ王子の親戚にあたるジゼルは嬉しそうに同意した。

 「王子とは殆どお会いしたことがないのですが、諸外国の大使や王族もダイアナ王女に劣らぬ存在感を放つミモザ王子に圧倒されたようです」

 親戚としてミモザ王子が立派な花婿となり喜ばしい限りです、とジゼルは笑顔で話していた。

 おそらく諸外国からの来賓はミモザ王子を一筋縄ではいかない花婿だと認識したのだろう。

 15歳を迎えたばかりで、あんな毅然とした態度で衆人環視のなか大司教の問いかけに答えられるのだから。

 「婚礼の儀はダイアナ王女とミモザ王子が夫婦になることを祝う場ですが、国王陛下の目論みはミモザ王子の存在を知らしめることですからね」

 リンの言葉にユーリはそういうことかと納得をした。

 「婚礼はダイアナ王女のお披露目というよりミモザ王子のお披露目だったんだな」

 「そうですよ。次期女王陛下となる王女の花婿は容姿端麗で才気ある15歳だと諸外国に見せびらかしてマウントをとる。王家の婚礼のもう1つの醍醐味ですね」

 シルバー家の令息らしいリンの発言にユーリは改めて考えた。

 服従、忍耐、愛、貞節……そして国と王家を支える鋭敏な知性を問われたミモザ王子の婚礼は試練への幕開けだ。

 そう思うと手放しで喜べないが、ミモザ王子が望んだ使命ならばユーリが心配しても無駄である。

 「リンは俺の花嫁になってくれただけでいい。それだけで俺は幸せだから」

 神妙な顔でつぶやくユーリの顔を見てリンはポカンとしたがすぐにユーリの手を繋いだ。

 「私の使命はユーリの花嫁です。それを全うするのが私の幸せですよ」

 神が与えるとされる使命を幸福に思うか、不幸と思うかは人それぞれだが、リンは没落した貧乏貴族の次男ユーリに嫁げて幸せであった。

 そしてミモザ王子もまた重責とも云える使命を果たすことが幸福であるとユーリとリンは信じたい。

 黙り込むユーリとリンのそばでエドガーはシオンに告げた。

 「先程の金的はよかった。もう1度やってくれまいか?」

 「金的が快楽になるって、エドガーの変態も末期だな」

 「何のこれしき。世の中には肛門を入り口と……グハァ!」

 シオン、大聖堂にて本日2度目の金的!

 「シオン殿のプレイには迷いがありませんね!流石はエドガー様が愛するお方です」

 エドガー絡みのことには何でも全肯定なジゼルが拍手すると貴族たちは小声で話し出した。

 「シルバー家のエドガー様に金的を2度もお見舞いしているお方はどなた?」

 「シルバー家の姫君の婿殿の執事だそうだよ。元は隣国の貴族だとか?」

 「まあ!通りでお顔立ちが高貴だと!隣国ですと恋人への愛情表現が金的なのかしら?」

 ユーリやリンは貴族の関心から逃れたが、エドガーに金的を2発もお見舞いしたシオンは目立ってしまった。

 服従、忍耐、愛、貞節、の愛以外の徳目を失ったシオンの使命はエドガーに金的する恋人であり、服従、忍耐、愛、貞節に加えて変態という徳目アドバンテージがあるエドガーの使命はシオンを愛することなのだ、とユーリは無理やり結論付けたが、単にエドガーはエロバカ変態であり、シオンはバイオレンスなだけである。

 ユーリは自分の使命はリンの夫であり、夫婦でラン・ヤスミカ領で質素だが幸せに暮らすことだと理解した。

 こうして、シオンが金的をエドガーに2発お見舞いしているうちにダイアナ王女とミモザ王子のお色直しが終わり、婚礼の儀は次のステージへと移るのであった。

End 

 

 
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