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婚礼の儀の寸前の悲喜劇
王家の至宝とも云うべきダイアナ王女の婚礼の儀当日は大雨から始まった。
しかも霙混じりで異常に寒い!
「雨天中止にしませんか?姉上」
婚礼用の装束に身を包んだミモザ王子……婚礼後に夫になる従弟が苦笑いしながら訊いてくる。
「わたくしだってこんな天候最悪な日に大聖堂で何時間も儀式に臨みたくないわよ。でも、お祝いに来てくれた方々に雨天中止なんて言えないわ」
「承知しました。宣誓の儀が終わる頃には雨が止めばよいのですが。霙雨のなか馬車でお披露目のパレードなんてしたら冗談でなく肺炎になります」
飄々としているがミモザ王子が極寒のなか長時間、婚礼の儀に臨まないといけないことを心底嫌がっているのはダイアナ王女にも伝わる。
だが、学校の運動会ではないので王家婚礼の儀を雨天程度で延期させる訳にはいかない。
ダイアナ王女だってこんな寒くて大雨の日に何時間も拘束されるのなんて本音では嫌なのである。
「ミモザ、大雨のなかパレードするのを極力避けるために協力して。せめて雨が止むまで儀式を引き延ばすわよ?」
「承知しました。お任せください」
これから結婚するはずの王女と王子が限りなく婚礼の儀をダルがっている。
ミシェルとモモはこの期に及んで甘い雰囲気にならないダイアナ王女とミモザ王子を見守りつつ、雨が少しでも弱まることを祈っていた。
「この寒さと雨って夫婦仲が冷えきるって云う暗示じゃねーよな?」
「モモ!縁起でもないこと言わないでくれ!ダイアナ王女、大聖堂で宣誓の儀が終わる頃には雨も弱まるかと?」
保証はないがミシェルとしては婚礼前にテンション下がっているダイアナ王女にそれぐらいしか掛ける言葉が見つからない。
「ミモザ王子、既に口角が下がってるけど大丈夫か?絶対に国王陛下や王妃様の御前で仏頂面するなよ?」
「しないよ。本番で絶対に口角を下げないために今は存分に表情筋を自由にさせているだけだ。姉上、僕が全く嬉しそうではないのは姉上との結婚が嫌なのではなく婚礼の儀が億劫なだけなので誤解しないでください」
「ミモザ、弁解しなくてもいいわ。わたくしも貴方と結婚すること自体は吝かでもないけれど婚礼の儀式全般が面倒で仕方ないの。更に大雨でテンションがドン底まで下がっているわ。なにか楽しい話題はないかしら?」
「楽しい話ですか?モモ、ミシェル、何でもよいから姉上と僕のテンションを上げるような話をしておくれ」
自分達の婚礼を前にひたすらテンション下げている無茶苦茶な主君2名に面白い話を要求されて、ミシェルとモモは顔を見合わせて頷き合った。
これ以上新郎新婦にテンションを下げられるとミシェルとモモだって側近として困るからだ。
「エドガー様ネタだけど……。エドガー様に一方的に想いを寄せていたヴィオレッド家のジゼル様っていただろ?あの方がエドガー様がシルバー家本邸に戻っていると知って訪ねてきた」
ジゼルとはシルバー家と同じく王家の傍流にあたる大貴族の嫡男でエドガーに恋する青年である。実はミモザ王子の母方の親戚でもある。
「そんで!会いには来たけどエドガー様にはシオンがいる。長年の想い人を28歳の元妻子持ちに盗られたと知ってジゼル様が……」
そこで言葉を切ったモモにダイアナ王女が身をのり出して続きをせがんだ。
「あら?どうなったのか教えて!エドガーにはシオンがいるのだからジゼルだって引き下がるでしょう?それともひと悶着あったの?」
「姉上、ジゼルはひと悶着起こせるような勇気あるタイプではありませんよ」
ジゼルの親戚筋なのに手厳しいミモザ王子の言葉にモモは息を吐き出した。
「俺もミシェルもその場にいませんでしたが、居合わせたユーリ殿の証言では号泣した挙げ句にシルバー家本邸の庭園でエドガー様を刺殺しようとしてリン様に阻止され修羅場だったらしいです。その後にシオンに説得されて大人しく帰りました」
「エドガー刺殺未遂か。ジゼルにそこまで度胸があったとはな。笑えぬが興味深い話だ」
シルバー家の次男をヴィオレッド家の嫡男が刺そうとしたなど大スキャンダルになるので事件は内々で処理されたが、今回ばかりはエドガーには何の非もなくシオンだってとばっちりである。
ユーリとリンが見守るなか、ジゼルは恋敵であるシオンに切々とエドガーが如何にバカチンで変態仮面であり恋仲になっても人生ろくなことにならないと説かれたのだ。
「ジゼル様、エドガーはやめとけ。このヴァカを刺殺して人生棒に振る必要ない。俺も勢いで母と兄を刺殺したから、憎悪で刺殺したくなる気持ちは理解できるが貴族が貴族を殺すと最悪斬首だ。エドガーに恋した挙げ句に斬首される人生なんて俺なら絶対ごめんこうむる」
そんな具合でシオンが誠意を持ってエドガーを刺殺することの馬鹿らしさを説いたので、ジゼルは冷静になりエドガーに謝罪すると皆で紅茶を飲んで帰って行ったという。
「エドガー様でも刃物で刺されたら流石に死にますからね。シオンの説得が功を奏して良かったとリン様が教えてくれました」
結構楽しい話だったでしょう、と笑顔で告げるモモに対してダイアナ王女とミモザ王子は無言で顔を見合わせた。
「大事にならなくて幸いだが、エドガー刺殺未遂事件よりシオンの勢いで母兄を刺殺した件を白状の方が重大ではないか?」
「その説得で納得してから呑気にお茶して帰るジゼルも大丈夫かしら?」
ダイアナ王女とミモザ王子は自分達の婚礼よりもシルバー家本邸での刃傷沙汰の方が重要に思えてきた。
何故ならシルバー家もヴィオレッド家も王家の親戚筋である。親戚筋の大貴族2家の子弟が泥沼恋愛劇を繰り広げて、最後はガチの殺人者の説得で丸く収まるなんて不安でしかない。
「ジゼルは本日参列させて良いものか?数日前に刺殺しようとしたエドガーとその恋人のシオンに再び会うことになるが?」
「なんだか、わたくしたちの婚礼で事件が起きる気がしてきたわ。今からでもお父様とお母様にお願いして雨天中止にして頂こうかしら?」
ダイアナ王女とミモザ王子の不安を煽ったモモの面白い話であったがミシェルは心配ないと断言した。
「心配ご無用です!ジゼル殿とシオンは意気投合して友人になったので!」
「ミシェル、なにがどう転んでエドガー刺殺未遂をした側と現在のエドガーの恋のお相手がお友達になれるの?どこにも意気投合する点がないわ?」
「流れでシオンが隣国の伯爵家の元嫡男だったことが露見したそうで!隣国の王家にはジゼル殿の姉君……。私の元妻が再婚して王太子妃になっていますので話が合ったそうですよ」
忘れがちだが、ミシェルは政略結婚でジゼルの姉と結婚していたが、そもそも美少年好きでモモにぞっこん過ぎて元妻がぶちギレた。
ヴィオレッド家は姉弟揃ってシルバー家の長男と次男を殺そうとしたことになる。ミシェルは元妻を敬遠してモモを寵愛したので元妻がモモまで暗殺しようとする惨事に発展したのだ。
そのミシェルの元妻は隣国の王太子と共にダイアナ王女とミモザ王子の婚礼に参列する。
「姉上、婚礼の儀が修羅場になりそうで逆に楽しみになってきました」
「わたくしも同じよ。ミモザ、誓いの言葉の最中に刃傷沙汰が起こっても不思議ではない状況だわ」
ヤバい側近のヤバい身内が勢ぞろいする婚礼の儀が一周回って楽しくなってきたダイアナ王女とミモザ王子であった。
「ほら?エドガー様ネタでお二人のテンションが上がっただろ?ミシェル、雨も止みそうだし婚礼の儀は問題ないな?」
「そうだね。私の元妻も今では隣国の王太子妃だ。婚礼の儀で騒ぎは起こすまい」
ミシェルがそう語った矢先に従者が入ってきて、隣国の王太子ご夫妻がご到着ですと告げに来た。
式典前に是非ともダイアナ王女とミモザ王子にお祝いを述べたいと隣国の王太子が希望したのでダイアナ王女とミモザ王子は承諾して迎え入れることにしたがこれがいけなかった。
迂闊にミシェルの元妻で現隣国の王太子妃をミシェルに接近させてしまったのである。
「1発殴られなさい!この美少年好きの変態が~!」
ミシェル……離縁した元妻で現隣国の王太子妃にまだ恨まれていた!
右ストレートで殴られたミシェルが床に転がったところで隣国の王太子が笑顔で挨拶をする。
「妻が失礼しました。王太子のクリス・バディストでございます。ダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀に参列できて恐悦至極に存じます」
王太子妃はモモには罪はないと判断したのか殴り掛かってはこない。ミシェルだけ殴ればOKだったらしい。
「見事な右ストレートですこと!実は婚礼の儀を前に緊張していたので心が晴れましたわ」
側近が隣国の王太子妃にぶん殴られたのに何事もなく会話するダイアナ王女!
「では、妻の悲願を果たしたので、私どもは失礼いたします。ミモザ王子、のちほどゆっくりお話できれば幸いです」
本当にミシェルを殴っただけで隣国の王太子妃は王太子クリス・バディストと一緒に出ていってしまった。
「さて……。ミシェルが殴られたところで婚礼の儀に臨むとするか。姉上、お時間です」
「テンションあがってきたわね!モモ、ミシェルの応急措置が済んだら始めるわよ?」
ミモザ王子にエスコートされてダイアナ王女が控え室から退出したのでモモはミシェルに簡単な手当てをした。
「まあ!お前は殴られても文句は言えない!エドガー様みたいに刺殺未遂に発展しなくて良かったな!」
「痛い……。元妻がモモに危害を加えなくて不幸中の幸いだよ」
頬をおさえているミシェルを立たせるとモモはニヤリとして告げた。
「まだまだ婚礼の儀は始まってもいない!ミシェルの手当て待ちだから行くぞ!?」
俄然楽しそうにしているモモに手を引っ張られてミシェルはダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀の進行のために控え室を出たのである。
いつの間に雨は止んで雲の中から陽光がさしている。
これならお披露目パレードも滞りなく出来そうだとミシェルは安堵して思わず口からこぼれた。
「私が元妻に殴られたから晴れたのかな?」
「ハァ?んな訳ねーだろ?早く持ち場に急げ!」
容赦ないモモの一喝にミシェルは笑うとダイアナ王女の側近として、着飾った王女の介添え役を果たすべく大聖堂の宣誓の間に向かった。
一方参列席ではユーリが緊張していたが、リンは落ち着いている。エドガーは暇なのでエロ小説を読んでいた。
「王家の婚礼直前までエロ小説を読むな。ヴァカ」
「シオン、いま物語が佳境なのだ。ルクレチアが3度目の流産の後に強姦されていて」
晴れの婚礼の儀の前にド級に下衆で破廉恥な小説を読んでいるエドガー・イリス・シルバー25歳無職!
「お前……やっぱジゼル様に刺殺されてこい」
「私としてはシオンが刺してくれた方が有り難いのだが?」
「ふざけんな。エドガーを刺殺する価値なんてないからエロ小説を閉じろ。殺すぞ?」
「殺すのか殺さないのかハッキリしてくれないか?シオン」
婚礼の儀直前に物騒な会話をしているエドガーとシオンを眺めながらユーリは思った。
ミシェルにしてもエドガーにしてもシルバー家の子息とはモモやシオンのように、ある意味では突き抜けたヤバさがないと恋仲にはなれない。
「では?リンと結婚した俺はなんだろう?」
今さら考え込むユーリにリンは可憐な笑顔で言ったのだ。
「ユーリは今のままでいいのです。私はそんなユーリが大好きなので」
リンに微笑まれユーリが照れると同時に大聖堂の鐘の音が厳かに響いた。
ダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀の開始を告げる鐘の音である。
End
しかも霙混じりで異常に寒い!
「雨天中止にしませんか?姉上」
婚礼用の装束に身を包んだミモザ王子……婚礼後に夫になる従弟が苦笑いしながら訊いてくる。
「わたくしだってこんな天候最悪な日に大聖堂で何時間も儀式に臨みたくないわよ。でも、お祝いに来てくれた方々に雨天中止なんて言えないわ」
「承知しました。宣誓の儀が終わる頃には雨が止めばよいのですが。霙雨のなか馬車でお披露目のパレードなんてしたら冗談でなく肺炎になります」
飄々としているがミモザ王子が極寒のなか長時間、婚礼の儀に臨まないといけないことを心底嫌がっているのはダイアナ王女にも伝わる。
だが、学校の運動会ではないので王家婚礼の儀を雨天程度で延期させる訳にはいかない。
ダイアナ王女だってこんな寒くて大雨の日に何時間も拘束されるのなんて本音では嫌なのである。
「ミモザ、大雨のなかパレードするのを極力避けるために協力して。せめて雨が止むまで儀式を引き延ばすわよ?」
「承知しました。お任せください」
これから結婚するはずの王女と王子が限りなく婚礼の儀をダルがっている。
ミシェルとモモはこの期に及んで甘い雰囲気にならないダイアナ王女とミモザ王子を見守りつつ、雨が少しでも弱まることを祈っていた。
「この寒さと雨って夫婦仲が冷えきるって云う暗示じゃねーよな?」
「モモ!縁起でもないこと言わないでくれ!ダイアナ王女、大聖堂で宣誓の儀が終わる頃には雨も弱まるかと?」
保証はないがミシェルとしては婚礼前にテンション下がっているダイアナ王女にそれぐらいしか掛ける言葉が見つからない。
「ミモザ王子、既に口角が下がってるけど大丈夫か?絶対に国王陛下や王妃様の御前で仏頂面するなよ?」
「しないよ。本番で絶対に口角を下げないために今は存分に表情筋を自由にさせているだけだ。姉上、僕が全く嬉しそうではないのは姉上との結婚が嫌なのではなく婚礼の儀が億劫なだけなので誤解しないでください」
「ミモザ、弁解しなくてもいいわ。わたくしも貴方と結婚すること自体は吝かでもないけれど婚礼の儀式全般が面倒で仕方ないの。更に大雨でテンションがドン底まで下がっているわ。なにか楽しい話題はないかしら?」
「楽しい話ですか?モモ、ミシェル、何でもよいから姉上と僕のテンションを上げるような話をしておくれ」
自分達の婚礼を前にひたすらテンション下げている無茶苦茶な主君2名に面白い話を要求されて、ミシェルとモモは顔を見合わせて頷き合った。
これ以上新郎新婦にテンションを下げられるとミシェルとモモだって側近として困るからだ。
「エドガー様ネタだけど……。エドガー様に一方的に想いを寄せていたヴィオレッド家のジゼル様っていただろ?あの方がエドガー様がシルバー家本邸に戻っていると知って訪ねてきた」
ジゼルとはシルバー家と同じく王家の傍流にあたる大貴族の嫡男でエドガーに恋する青年である。実はミモザ王子の母方の親戚でもある。
「そんで!会いには来たけどエドガー様にはシオンがいる。長年の想い人を28歳の元妻子持ちに盗られたと知ってジゼル様が……」
そこで言葉を切ったモモにダイアナ王女が身をのり出して続きをせがんだ。
「あら?どうなったのか教えて!エドガーにはシオンがいるのだからジゼルだって引き下がるでしょう?それともひと悶着あったの?」
「姉上、ジゼルはひと悶着起こせるような勇気あるタイプではありませんよ」
ジゼルの親戚筋なのに手厳しいミモザ王子の言葉にモモは息を吐き出した。
「俺もミシェルもその場にいませんでしたが、居合わせたユーリ殿の証言では号泣した挙げ句にシルバー家本邸の庭園でエドガー様を刺殺しようとしてリン様に阻止され修羅場だったらしいです。その後にシオンに説得されて大人しく帰りました」
「エドガー刺殺未遂か。ジゼルにそこまで度胸があったとはな。笑えぬが興味深い話だ」
シルバー家の次男をヴィオレッド家の嫡男が刺そうとしたなど大スキャンダルになるので事件は内々で処理されたが、今回ばかりはエドガーには何の非もなくシオンだってとばっちりである。
ユーリとリンが見守るなか、ジゼルは恋敵であるシオンに切々とエドガーが如何にバカチンで変態仮面であり恋仲になっても人生ろくなことにならないと説かれたのだ。
「ジゼル様、エドガーはやめとけ。このヴァカを刺殺して人生棒に振る必要ない。俺も勢いで母と兄を刺殺したから、憎悪で刺殺したくなる気持ちは理解できるが貴族が貴族を殺すと最悪斬首だ。エドガーに恋した挙げ句に斬首される人生なんて俺なら絶対ごめんこうむる」
そんな具合でシオンが誠意を持ってエドガーを刺殺することの馬鹿らしさを説いたので、ジゼルは冷静になりエドガーに謝罪すると皆で紅茶を飲んで帰って行ったという。
「エドガー様でも刃物で刺されたら流石に死にますからね。シオンの説得が功を奏して良かったとリン様が教えてくれました」
結構楽しい話だったでしょう、と笑顔で告げるモモに対してダイアナ王女とミモザ王子は無言で顔を見合わせた。
「大事にならなくて幸いだが、エドガー刺殺未遂事件よりシオンの勢いで母兄を刺殺した件を白状の方が重大ではないか?」
「その説得で納得してから呑気にお茶して帰るジゼルも大丈夫かしら?」
ダイアナ王女とミモザ王子は自分達の婚礼よりもシルバー家本邸での刃傷沙汰の方が重要に思えてきた。
何故ならシルバー家もヴィオレッド家も王家の親戚筋である。親戚筋の大貴族2家の子弟が泥沼恋愛劇を繰り広げて、最後はガチの殺人者の説得で丸く収まるなんて不安でしかない。
「ジゼルは本日参列させて良いものか?数日前に刺殺しようとしたエドガーとその恋人のシオンに再び会うことになるが?」
「なんだか、わたくしたちの婚礼で事件が起きる気がしてきたわ。今からでもお父様とお母様にお願いして雨天中止にして頂こうかしら?」
ダイアナ王女とミモザ王子の不安を煽ったモモの面白い話であったがミシェルは心配ないと断言した。
「心配ご無用です!ジゼル殿とシオンは意気投合して友人になったので!」
「ミシェル、なにがどう転んでエドガー刺殺未遂をした側と現在のエドガーの恋のお相手がお友達になれるの?どこにも意気投合する点がないわ?」
「流れでシオンが隣国の伯爵家の元嫡男だったことが露見したそうで!隣国の王家にはジゼル殿の姉君……。私の元妻が再婚して王太子妃になっていますので話が合ったそうですよ」
忘れがちだが、ミシェルは政略結婚でジゼルの姉と結婚していたが、そもそも美少年好きでモモにぞっこん過ぎて元妻がぶちギレた。
ヴィオレッド家は姉弟揃ってシルバー家の長男と次男を殺そうとしたことになる。ミシェルは元妻を敬遠してモモを寵愛したので元妻がモモまで暗殺しようとする惨事に発展したのだ。
そのミシェルの元妻は隣国の王太子と共にダイアナ王女とミモザ王子の婚礼に参列する。
「姉上、婚礼の儀が修羅場になりそうで逆に楽しみになってきました」
「わたくしも同じよ。ミモザ、誓いの言葉の最中に刃傷沙汰が起こっても不思議ではない状況だわ」
ヤバい側近のヤバい身内が勢ぞろいする婚礼の儀が一周回って楽しくなってきたダイアナ王女とミモザ王子であった。
「ほら?エドガー様ネタでお二人のテンションが上がっただろ?ミシェル、雨も止みそうだし婚礼の儀は問題ないな?」
「そうだね。私の元妻も今では隣国の王太子妃だ。婚礼の儀で騒ぎは起こすまい」
ミシェルがそう語った矢先に従者が入ってきて、隣国の王太子ご夫妻がご到着ですと告げに来た。
式典前に是非ともダイアナ王女とミモザ王子にお祝いを述べたいと隣国の王太子が希望したのでダイアナ王女とミモザ王子は承諾して迎え入れることにしたがこれがいけなかった。
迂闊にミシェルの元妻で現隣国の王太子妃をミシェルに接近させてしまったのである。
「1発殴られなさい!この美少年好きの変態が~!」
ミシェル……離縁した元妻で現隣国の王太子妃にまだ恨まれていた!
右ストレートで殴られたミシェルが床に転がったところで隣国の王太子が笑顔で挨拶をする。
「妻が失礼しました。王太子のクリス・バディストでございます。ダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀に参列できて恐悦至極に存じます」
王太子妃はモモには罪はないと判断したのか殴り掛かってはこない。ミシェルだけ殴ればOKだったらしい。
「見事な右ストレートですこと!実は婚礼の儀を前に緊張していたので心が晴れましたわ」
側近が隣国の王太子妃にぶん殴られたのに何事もなく会話するダイアナ王女!
「では、妻の悲願を果たしたので、私どもは失礼いたします。ミモザ王子、のちほどゆっくりお話できれば幸いです」
本当にミシェルを殴っただけで隣国の王太子妃は王太子クリス・バディストと一緒に出ていってしまった。
「さて……。ミシェルが殴られたところで婚礼の儀に臨むとするか。姉上、お時間です」
「テンションあがってきたわね!モモ、ミシェルの応急措置が済んだら始めるわよ?」
ミモザ王子にエスコートされてダイアナ王女が控え室から退出したのでモモはミシェルに簡単な手当てをした。
「まあ!お前は殴られても文句は言えない!エドガー様みたいに刺殺未遂に発展しなくて良かったな!」
「痛い……。元妻がモモに危害を加えなくて不幸中の幸いだよ」
頬をおさえているミシェルを立たせるとモモはニヤリとして告げた。
「まだまだ婚礼の儀は始まってもいない!ミシェルの手当て待ちだから行くぞ!?」
俄然楽しそうにしているモモに手を引っ張られてミシェルはダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀の進行のために控え室を出たのである。
いつの間に雨は止んで雲の中から陽光がさしている。
これならお披露目パレードも滞りなく出来そうだとミシェルは安堵して思わず口からこぼれた。
「私が元妻に殴られたから晴れたのかな?」
「ハァ?んな訳ねーだろ?早く持ち場に急げ!」
容赦ないモモの一喝にミシェルは笑うとダイアナ王女の側近として、着飾った王女の介添え役を果たすべく大聖堂の宣誓の間に向かった。
一方参列席ではユーリが緊張していたが、リンは落ち着いている。エドガーは暇なのでエロ小説を読んでいた。
「王家の婚礼直前までエロ小説を読むな。ヴァカ」
「シオン、いま物語が佳境なのだ。ルクレチアが3度目の流産の後に強姦されていて」
晴れの婚礼の儀の前にド級に下衆で破廉恥な小説を読んでいるエドガー・イリス・シルバー25歳無職!
「お前……やっぱジゼル様に刺殺されてこい」
「私としてはシオンが刺してくれた方が有り難いのだが?」
「ふざけんな。エドガーを刺殺する価値なんてないからエロ小説を閉じろ。殺すぞ?」
「殺すのか殺さないのかハッキリしてくれないか?シオン」
婚礼の儀直前に物騒な会話をしているエドガーとシオンを眺めながらユーリは思った。
ミシェルにしてもエドガーにしてもシルバー家の子息とはモモやシオンのように、ある意味では突き抜けたヤバさがないと恋仲にはなれない。
「では?リンと結婚した俺はなんだろう?」
今さら考え込むユーリにリンは可憐な笑顔で言ったのだ。
「ユーリは今のままでいいのです。私はそんなユーリが大好きなので」
リンに微笑まれユーリが照れると同時に大聖堂の鐘の音が厳かに響いた。
ダイアナ王女とミモザ王子の婚礼の儀の開始を告げる鐘の音である。
End
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