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2人だけの時間
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とりあえず何とかブランチの時間だけはもぎ取ったロビンは、ナオが薄いピンクのガウンを着て現れるとさっそくエスコートを開始しました。
明日には王都に旅立つことになるので、ロビンの仕事はそれこそ大量にあります。
今、このひと時を逃したら、ナオに新婚らしい時間を味あわせてやることもできないでしょう。
ロビンはこの年若い妻に、少しでも安らぎを与えてやりたかったのです。
ナオはロビンが近寄ると、嬉し気にロビンにすり寄ってくるようになっていました。
確かにどうやらこの子猫は、すっかり私に懐いたらしい。
そうおもうと、ロビンの顔も思わずほころんでしまします。
さぁ、これから食事というところで、執事が大奥様の到着を知らせました。
「まぁ、お母さまが到着されたのね。大急ぎでこちらにもう一組食事を用意してくださいね。お母さまは、私がお出迎えにいきますわ。共の者の昼食の用意もお願いね」
ナオは女主人として、テキパキと指示を出していきます。
「旦那様、お食事はもう少し待って下さいね。私、すぐにお母さまを案内して参りますわ」
「ナオ、母上など、待たせておけばよかろう。あんまり気を使い過ぎるな」
ロビンは思わずナオを気遣えば、間の悪いことにそこに大奥様がやってきました。
「ナオ、わざわざ案内してもらわなくても、どうせここだと思ったので、来てしまいました。どうやら息子には邪魔にされているようだけれどもね」
母親に皮肉を言われて、ロビンは苦笑いです。
「歓迎いたしますよ。母上。そもそもナオに付き添って頂くのは、私が頼んだことですからね」
「そうですとも、お母さま。どうぞお座りください」
ロビンもナオも、大慌てで大奥様をもてなします。
「明日の王都への出発なのですが、少し困ったことになりましてね。ロビン。私はしばらくリード侯爵家に戻らねばならなくなりました」
「当主である兄上がどうやら危ないらしいの。兄嫁も昨年亡くなったから、あの家には今、女手が足りないのよ。それでナオの付き人はには、私の腹心であるアキレス子爵夫人に頼もうとおもうのだけれど」
大奥様は生家のリード侯爵家に帰りたいようです。
しかしナオの付き人の件が気になって、わざわざやってきたのでしょう。
「それは。私からもお見舞いを贈らせましょう。母上にはマリウスをお付けしますから、転移をお使い下さい。それにアキレス子爵夫人はずっと母上についていた人だ。こんな時ですから腹心の友はいて貰う方がいいでしょう」
ロビンは母上を気遣って、自分の魔術師を同行させることにしました。
「でもロビン。付き人がアンジェだけでは、王都の社交は乗り切れませんよ」
「大丈夫です。私に考えがあります。ナオはちゃんと王都の社交界デビューを、成功させますよ。だからほら、すぐに叔父上のところに行ってあげてください。」
それを聞くと、母上はすぐにマリウスとともに生家へと向かうのでした。
「やれやれ、ごめんよナオ。プレシュス家の城は、いつだってこんな風に何かが起きるんだ。とりあえず、次に邪魔が入る前に、食事を済ませてしまおう」
そうやって、やっと二人きりになったナオは、ずっと気になっていたことを、ロビンに聞いてみました。
「ねぇ、ロビン、あの結婚式のとき、クレメンタイン公爵さまはロビンに何といったの?」
「あぁ、別に大したことじゃないんだ。と言ってもナオは気になるよね。いずれ戦争になったら、なんとか王太子殿下に大手柄をたてさせてくれって、王からの伝言なのさ」
「なんで、わざわざ結婚式にそんなことを言うの? やっぱりそれも私のせいなのね」
ロビンは自分の妻が、どうしてこう勘がいいんだろうかと、少し天を恨みたくなりました。
今回のナオ暗殺未遂で、ロビンが報復したことを黙認した見返りとして、いずれ起きるアトラス王国との戦争は、王太子の手によって勝利をもたらすことを要求してきたのでした。
それでなくとも戦上手で知られるバルザック将軍に勝利する道筋を作るために腐心しているロビンに、王は勝利することを全く疑わない能天気さで、息子に手柄をよこせと言うのです。
手柄をくれてやることぐらいは少しも気にならないロビンですが、今回の戦はかなり厳しいことが予想されるのに、その上王太子の子守までしろと言われたので、ロビンは酢を飲んだような顔になってしまったのです。
しかしそんなことは、ナオには知らせたくはないロビンなのでした。
「まさかナオ、それは君のせいではないよ。王太子殿下は私にライバル心を持っているからね。それを宥めるためにも、次の勝利は王太子の威光を高めるために使いたいだけだよ」
「無茶をいうのね。素人が何とかできる相手ではないでしょうに。ロビンは足枷を付けて戦わなきゃいけないのね」
ナオ発言は言い得て妙だったので、ロビンは大笑いをしました。
ナオはどうやら武人の妻としても合格のようです。
「ねぇ、ナオ。僕はナオがそうしてここにいてくれるだけで、どんな難問でも解ける気がするよ」
「まぁ、じゃぁどうやったら私が社交界デビューに成功できるか教えて頂戴。正直このプレシュス領の社交界ですら、上手く渡っていけないのに、王都でなんて失敗する未来しか見えないわ。しかもお母さまのサポートまで、無いんですもの」
ナオがそうこぼすと、ロビンは途端に自信満々の様子になりました。
「おやおや、ナオには母上よりも凄い味方がいるだろう? ロッテさ、青銀の姫が橋渡しをしてくれれば、社交界なんて簡単に泳げるようになるさ」
「ロッテですって! 私が一番迷惑をかけたのがロッテなのよ。それなのにロッテに社交界の付き人を頼むなんて」
「そうかな?だってナオ。君も魔法を教えて貰う相手としてロッテを選んだんだろう? つまりナオはロッテなら誠心誠意謝れば、許してくれると思っているわけだ」
確かに言われてみればその通りです。
魔法の勉強を頼んでおいて、社交界の橋渡しを頼めないなんて理屈に合いません。
「ロッテは『お放しの学び舎』ソサエティーの一員だし、しかもリリーのサロンメンバーでもある。その上リリーが王太子妃になれば上級侍女として仕えるだろうと目されている人物なんだよ」
ナオはびっくりしてしまいました。
同じように日本からこの世界にやってきたのに、ロッテは着々とこの世界に実績を積み重ねています。
それに比べて自分は人を妬んだり恨んだり、どうしてそんな回り道をしてしまったのでしょうか。
ナオが考えていることは、ロビンにはお見通しだったようです。
ロビンはいきなりふわりとナオをかかえ上げると、しっかりとナオを抱きしめました。
「ねぇ、ナオ。僕はこうして、君がいてくれるだけで幸せなんだ。だからね。あんまり焦るな。ナオはまだまだ若いんだから、ゆっくりと進んでいけばいい。ゆっくりとかのんびりって言葉、いいと思わない?」
ナオはロビンが、ゆっくりとかのんびりという言葉が好きだと聞いて、ちょっぴり意外でした。
だってロビンって、何でも素早く進める人だと思っていたからです。
ロビンはナオを膝に座らせると、ゆったりと空を眺めました。
それでナオもつい一緒になって、空を見上げてしまいました。
空にはゆったりと雲が浮かんでいて、どうも実に呑気そうにみえます。
たまにはこうやって、のんびりとするのもいいものです。
ロビンは自分の膝の中で、ナオの身体の力が緩やかにほどけていくのを感じていました。
「ようやく、身体の力が抜けたようだね。それでいいんだよ。ゆったりと身体の力を抜く方が、いざって時には上手く行動できるんだからさ」
ギュッとナオはロビンに抱き着いて、ロビンの温かさを身体中で感じていました。
ロビンといると、ナオはいつだって安心することができます。
「ねぇ、ロビン。ロビンは私より先に死んではいけないわよ」
唐突にそんなことを言い出したので、ロビンは不思議そうにナオを見ました。
「あのね、ロビン。私ロビンがいないと、生きていけない気がするの。ロビンがいない世界で、私がどうして生きてこれたのかもわからないくらい、ロビンと一緒にいたいの」
ロビンは優しくナオを撫でてやりました。
きっとこの少女は、初めて愛といものを知ったのでしょう。
あまりに素直なその言葉に、ロビンは少女の孤独の深さを感じたのでした。
たった1日、されど1日。
ロビンとナオはこのプレシュス辺境伯の城で、お互いを分かちがたい伴侶として認めあったのでした。
翌朝、ロビンたち一行は、王都を目指して出発しました。
転移魔法を使うには大人数だったので、馬車での移動となったのです。
そして気の毒なことにロビンの馬は、その背中に御主人を乗せることがめったにありませんでした。
ロビンは必要な指示さえ送れば、すぐにナオの馬車に潜りこんでしまうからです。
どうやらプレシュス辺境伯夫妻の中は、とても睦まじいらしい。
政略結婚だと思われた2人の、そんな微笑ましい姿は、あっという間に噂となって広がっていきました。
どうやらあの軍神ロビンにもアキレス腱が出来たらしい。
それは愛らしい、彼の新妻だと。
そうしてもうひとつの噂も広まりました。
ロビンの妻に手をだす奴は、どうやら根絶やしにされたらしい。
命が惜しくば、ロビンの妻には手を出すなと。
そんな噂話は、ロビンが見事な緘口令をひいたので、全くナオの耳には入りませんでした。
いったいだれがナオに余計なことを言って、あのロビンを怒らせようなんて思うでしょうか?
ロビンたちは、旅の途中の宿泊場所として、その領地の領主の館に泊めてもらいます。
部下たちが宿をとることはあっても、ロビンやナオが泊まるのは、その地の領主の館なのです。
そこでナオは、ロビンが男性にも女性にも人気があることを知りました。
男性は英雄であるロビンの話を聞きたがりましたし、上手くいけば一手御指南に与かれるかもしれないと、ワクワクしたような憧憬の目でロビンを見つめます。
女性はもっと露骨で、英雄ロビンの気をひこうとしなを作ったり、なんとかして誑しこもうとするのです。
そう言った女性のあしらいも、ロビンは慣れたものです。
けれどもそうしてロビンが上手く女性を躱していても、ナオは少し不機嫌になってしまいます。
ロビンに女性が寄りかかるだけで、なんだかイライラしてしまうのです。
そんなナオのやきもちでさえ、ロビンは可愛いと思うのでした。
それでもナオは、それなりには上手く社交が出来るようになってきました。
例えロビンにまとわりついていた女性でも、穏やかな笑みを浮かべて知らんぷりをしてみせます。
王都への道中は、ナオにとっては良い実践経験を積む場所になっていました。
明日はいよいよ、あの王都の壁を越えることになるでしょう。
明日には王都に旅立つことになるので、ロビンの仕事はそれこそ大量にあります。
今、このひと時を逃したら、ナオに新婚らしい時間を味あわせてやることもできないでしょう。
ロビンはこの年若い妻に、少しでも安らぎを与えてやりたかったのです。
ナオはロビンが近寄ると、嬉し気にロビンにすり寄ってくるようになっていました。
確かにどうやらこの子猫は、すっかり私に懐いたらしい。
そうおもうと、ロビンの顔も思わずほころんでしまします。
さぁ、これから食事というところで、執事が大奥様の到着を知らせました。
「まぁ、お母さまが到着されたのね。大急ぎでこちらにもう一組食事を用意してくださいね。お母さまは、私がお出迎えにいきますわ。共の者の昼食の用意もお願いね」
ナオは女主人として、テキパキと指示を出していきます。
「旦那様、お食事はもう少し待って下さいね。私、すぐにお母さまを案内して参りますわ」
「ナオ、母上など、待たせておけばよかろう。あんまり気を使い過ぎるな」
ロビンは思わずナオを気遣えば、間の悪いことにそこに大奥様がやってきました。
「ナオ、わざわざ案内してもらわなくても、どうせここだと思ったので、来てしまいました。どうやら息子には邪魔にされているようだけれどもね」
母親に皮肉を言われて、ロビンは苦笑いです。
「歓迎いたしますよ。母上。そもそもナオに付き添って頂くのは、私が頼んだことですからね」
「そうですとも、お母さま。どうぞお座りください」
ロビンもナオも、大慌てで大奥様をもてなします。
「明日の王都への出発なのですが、少し困ったことになりましてね。ロビン。私はしばらくリード侯爵家に戻らねばならなくなりました」
「当主である兄上がどうやら危ないらしいの。兄嫁も昨年亡くなったから、あの家には今、女手が足りないのよ。それでナオの付き人はには、私の腹心であるアキレス子爵夫人に頼もうとおもうのだけれど」
大奥様は生家のリード侯爵家に帰りたいようです。
しかしナオの付き人の件が気になって、わざわざやってきたのでしょう。
「それは。私からもお見舞いを贈らせましょう。母上にはマリウスをお付けしますから、転移をお使い下さい。それにアキレス子爵夫人はずっと母上についていた人だ。こんな時ですから腹心の友はいて貰う方がいいでしょう」
ロビンは母上を気遣って、自分の魔術師を同行させることにしました。
「でもロビン。付き人がアンジェだけでは、王都の社交は乗り切れませんよ」
「大丈夫です。私に考えがあります。ナオはちゃんと王都の社交界デビューを、成功させますよ。だからほら、すぐに叔父上のところに行ってあげてください。」
それを聞くと、母上はすぐにマリウスとともに生家へと向かうのでした。
「やれやれ、ごめんよナオ。プレシュス家の城は、いつだってこんな風に何かが起きるんだ。とりあえず、次に邪魔が入る前に、食事を済ませてしまおう」
そうやって、やっと二人きりになったナオは、ずっと気になっていたことを、ロビンに聞いてみました。
「ねぇ、ロビン、あの結婚式のとき、クレメンタイン公爵さまはロビンに何といったの?」
「あぁ、別に大したことじゃないんだ。と言ってもナオは気になるよね。いずれ戦争になったら、なんとか王太子殿下に大手柄をたてさせてくれって、王からの伝言なのさ」
「なんで、わざわざ結婚式にそんなことを言うの? やっぱりそれも私のせいなのね」
ロビンは自分の妻が、どうしてこう勘がいいんだろうかと、少し天を恨みたくなりました。
今回のナオ暗殺未遂で、ロビンが報復したことを黙認した見返りとして、いずれ起きるアトラス王国との戦争は、王太子の手によって勝利をもたらすことを要求してきたのでした。
それでなくとも戦上手で知られるバルザック将軍に勝利する道筋を作るために腐心しているロビンに、王は勝利することを全く疑わない能天気さで、息子に手柄をよこせと言うのです。
手柄をくれてやることぐらいは少しも気にならないロビンですが、今回の戦はかなり厳しいことが予想されるのに、その上王太子の子守までしろと言われたので、ロビンは酢を飲んだような顔になってしまったのです。
しかしそんなことは、ナオには知らせたくはないロビンなのでした。
「まさかナオ、それは君のせいではないよ。王太子殿下は私にライバル心を持っているからね。それを宥めるためにも、次の勝利は王太子の威光を高めるために使いたいだけだよ」
「無茶をいうのね。素人が何とかできる相手ではないでしょうに。ロビンは足枷を付けて戦わなきゃいけないのね」
ナオ発言は言い得て妙だったので、ロビンは大笑いをしました。
ナオはどうやら武人の妻としても合格のようです。
「ねぇ、ナオ。僕はナオがそうしてここにいてくれるだけで、どんな難問でも解ける気がするよ」
「まぁ、じゃぁどうやったら私が社交界デビューに成功できるか教えて頂戴。正直このプレシュス領の社交界ですら、上手く渡っていけないのに、王都でなんて失敗する未来しか見えないわ。しかもお母さまのサポートまで、無いんですもの」
ナオがそうこぼすと、ロビンは途端に自信満々の様子になりました。
「おやおや、ナオには母上よりも凄い味方がいるだろう? ロッテさ、青銀の姫が橋渡しをしてくれれば、社交界なんて簡単に泳げるようになるさ」
「ロッテですって! 私が一番迷惑をかけたのがロッテなのよ。それなのにロッテに社交界の付き人を頼むなんて」
「そうかな?だってナオ。君も魔法を教えて貰う相手としてロッテを選んだんだろう? つまりナオはロッテなら誠心誠意謝れば、許してくれると思っているわけだ」
確かに言われてみればその通りです。
魔法の勉強を頼んでおいて、社交界の橋渡しを頼めないなんて理屈に合いません。
「ロッテは『お放しの学び舎』ソサエティーの一員だし、しかもリリーのサロンメンバーでもある。その上リリーが王太子妃になれば上級侍女として仕えるだろうと目されている人物なんだよ」
ナオはびっくりしてしまいました。
同じように日本からこの世界にやってきたのに、ロッテは着々とこの世界に実績を積み重ねています。
それに比べて自分は人を妬んだり恨んだり、どうしてそんな回り道をしてしまったのでしょうか。
ナオが考えていることは、ロビンにはお見通しだったようです。
ロビンはいきなりふわりとナオをかかえ上げると、しっかりとナオを抱きしめました。
「ねぇ、ナオ。僕はこうして、君がいてくれるだけで幸せなんだ。だからね。あんまり焦るな。ナオはまだまだ若いんだから、ゆっくりと進んでいけばいい。ゆっくりとかのんびりって言葉、いいと思わない?」
ナオはロビンが、ゆっくりとかのんびりという言葉が好きだと聞いて、ちょっぴり意外でした。
だってロビンって、何でも素早く進める人だと思っていたからです。
ロビンはナオを膝に座らせると、ゆったりと空を眺めました。
それでナオもつい一緒になって、空を見上げてしまいました。
空にはゆったりと雲が浮かんでいて、どうも実に呑気そうにみえます。
たまにはこうやって、のんびりとするのもいいものです。
ロビンは自分の膝の中で、ナオの身体の力が緩やかにほどけていくのを感じていました。
「ようやく、身体の力が抜けたようだね。それでいいんだよ。ゆったりと身体の力を抜く方が、いざって時には上手く行動できるんだからさ」
ギュッとナオはロビンに抱き着いて、ロビンの温かさを身体中で感じていました。
ロビンといると、ナオはいつだって安心することができます。
「ねぇ、ロビン。ロビンは私より先に死んではいけないわよ」
唐突にそんなことを言い出したので、ロビンは不思議そうにナオを見ました。
「あのね、ロビン。私ロビンがいないと、生きていけない気がするの。ロビンがいない世界で、私がどうして生きてこれたのかもわからないくらい、ロビンと一緒にいたいの」
ロビンは優しくナオを撫でてやりました。
きっとこの少女は、初めて愛といものを知ったのでしょう。
あまりに素直なその言葉に、ロビンは少女の孤独の深さを感じたのでした。
たった1日、されど1日。
ロビンとナオはこのプレシュス辺境伯の城で、お互いを分かちがたい伴侶として認めあったのでした。
翌朝、ロビンたち一行は、王都を目指して出発しました。
転移魔法を使うには大人数だったので、馬車での移動となったのです。
そして気の毒なことにロビンの馬は、その背中に御主人を乗せることがめったにありませんでした。
ロビンは必要な指示さえ送れば、すぐにナオの馬車に潜りこんでしまうからです。
どうやらプレシュス辺境伯夫妻の中は、とても睦まじいらしい。
政略結婚だと思われた2人の、そんな微笑ましい姿は、あっという間に噂となって広がっていきました。
どうやらあの軍神ロビンにもアキレス腱が出来たらしい。
それは愛らしい、彼の新妻だと。
そうしてもうひとつの噂も広まりました。
ロビンの妻に手をだす奴は、どうやら根絶やしにされたらしい。
命が惜しくば、ロビンの妻には手を出すなと。
そんな噂話は、ロビンが見事な緘口令をひいたので、全くナオの耳には入りませんでした。
いったいだれがナオに余計なことを言って、あのロビンを怒らせようなんて思うでしょうか?
ロビンたちは、旅の途中の宿泊場所として、その領地の領主の館に泊めてもらいます。
部下たちが宿をとることはあっても、ロビンやナオが泊まるのは、その地の領主の館なのです。
そこでナオは、ロビンが男性にも女性にも人気があることを知りました。
男性は英雄であるロビンの話を聞きたがりましたし、上手くいけば一手御指南に与かれるかもしれないと、ワクワクしたような憧憬の目でロビンを見つめます。
女性はもっと露骨で、英雄ロビンの気をひこうとしなを作ったり、なんとかして誑しこもうとするのです。
そう言った女性のあしらいも、ロビンは慣れたものです。
けれどもそうしてロビンが上手く女性を躱していても、ナオは少し不機嫌になってしまいます。
ロビンに女性が寄りかかるだけで、なんだかイライラしてしまうのです。
そんなナオのやきもちでさえ、ロビンは可愛いと思うのでした。
それでもナオは、それなりには上手く社交が出来るようになってきました。
例えロビンにまとわりついていた女性でも、穏やかな笑みを浮かべて知らんぷりをしてみせます。
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