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結婚式
大奥様は離宮から戻ってきた2人を見て、胸をなでおろしました。
ナオはこの神殿に来てから、いつも何かしら緊張しているようなところがあったのです。
そうして愛し合っているという息子とナオですが、それは恋人同士というよりは、保護者と被保護者の関係のようにしか見えませんでした。
ナオはなんとなくロビンの顔色を伺っていますし、ロビンはと言えば恋人というよりは愛娘を溺愛する父親と間違えてしまいそうなありさまです。
そんな2人ですから、大奥様もかなり心配をしていたのです。
ロビンは軍人で領主でもあり、実のところは宰相閣下と並ぶこの国の重鎮です。
ナオはと言えばどう見ても世間ずれしていない小娘に過ぎず、釣り合いと取れなさ加減は痛々しいほどでした。
それなのに今日の2人は、まったく自然な恋人同士にみえます。
ナオはようやくロビンの側でくつろぐことができたようです。
昨夜、大泣きをしたナオを見て、大奥様は少し結婚を急ぎ過ぎたのではないかと心配していたのです。
「お帰りなさいロビン、ナオ。2人とも良い夜を過ごせたようね。安心しました。それじゃぁナオ、さっそくだけれどアンジェについて行ってね。花嫁は忙しいのよ」
ナオは美しい礼をすると素直にアンジェに導かれていきました。
今から、ナオは徹底的に磨き上げられることになります。
「それで、ロビン。一体どうなっているのかしら?」
大奥さまは、ロビンに昨夜のことを問いただしたい様子です。
「別になにもありませんよ。ナオは今も純潔を保っていますしね」
「わが子ながら嫌になるわね。聞きたいのはそんな事ではないことぐらい、わかっているでしょうに。ロビン、どうやらあの人馴れしない野生の子猫は、あなたに懐いたみたいだわ。ちゃんと最後まで責任をもてるんでしょうね」
大奥様に言い方だと、ペットを飼うなら最後まで責任を持ちましょうね、と言っているようにしか聞こえないのが不思議です。
さすがにロビンも苦笑してしまいました。
「母上、どうやら私は、あれに惚れたようです。私が惚れた女の一人も守れない男に見えますか?」
大奥様はそれはそれは困った顔をしました。
「いいえ、それじゃロビン。あなたはあえて弱点を抱え込んだと言う訳ですね。弱みを作らない為に、誰にも心を分かち与えなかったあなたが」
「はい、母上。このことは既にエルやアンバーの耳に届いているでしょうね。あいつらが大笑いをしていると思うと、それだけが忌々しいのですがね」
「いいえ、私はナオを考えなしに襲った人たちこそ、気の毒に思えますけれどもね。ほとんどの人は誰もあなたが本気でナオを愛しているなんて、思わなかった筈ですからね。いわば政略的なバランスの為に押し付けられた花嫁。あの子の立ち位置はそんな認識でしょう」
「まぁ、それが妥当なところでしょうね。ところが多分今日中に、その認識は一変しますよ。もう誰もナオをないがしろにはできなくなるでしょう」
そう言ったロビンの顔は実の母親にさえ恐ろしく映りました。
「肝に命じておきますわ。それではロビン。花婿にも仕度は必要ですのよ」
「母上、3時間ばかり眠ります。強行軍で3日ばかり寝ていないのでね」
そう言うと、ロビンは母親にうやうやしく口づけして出ていきました。
「大奥様、大司教さまが式の打ち合わせをしたいとおっしゃっています。それからアキレス子爵夫人が、式場の飾りつけの最終確認を頂きたいと言ってきております。それに……」
大奥様は結婚式の準備に集中することになりました。
そしてロビンは、その発言通りにぐっすりと眠っていました。
母親には3日と言いましたが、この2週間まともにベッドで眠った日は一日もなかったのです。
ナオはと言えば大鏡のまえで、大きく目を見開いて固まっていました。
「姫さま、いかがですか?」
花嫁衣装を担当した責任者が、気がかりそうに質問をしたので、ナオはようやく我に返りました。
花嫁衣装は、首筋から袖先にいたるまで、全く肌の露出がないタイプのドレスなのです。
その純白のドレスは精巧なレースが使われているので、遠目にはただの純白に見えて、よく見ると豪奢に何層にも重ねられたレースがずしりとした重量感を持っていました。
薄いベールはナオの身体全体を覆い隠し、しかも背後に何メートルも伸びているのでした。
そのベールの上に、額飾りを装着します。
プレシュス家では、ティアラではなく、額飾りを用いるのが伝統なのでした。
そしてその額飾りは、辺境伯夫人の身分を表すものとして生涯使うことになるのです。
ロビンから贈られた額飾りは、頭を取り巻く部分には金を細いレースのように編み込んで、所々にサファイヤやルビー、アメジストなどの細かな宝石を縫い留めています。
そうして額の中央の宝玉には貴重な大振りのアレキサンドライトが煌いているのでした。
前の辺境伯夫人であった大奥様の宝玉は紫水晶でしたし、これは当代の辺境伯によってえらばれるものです。
ロビンは陰陽の姫というナオにあわせて、赤と青の光を持つアレキサンドライトを額飾りとして選んだのでした。
結婚式当日、ナオを引率するのは養父であるリード侯爵ではありませんでした。
なんとクレメンタイン公爵がその役を買ってでたのです。
それはクレメンタイン公爵家による、ナオの社交界追放を解除するとの表明でした。
ナオはクレメンタイン公爵閣下の姿をみると、青ざめて頭を下げたのですが、公爵はとても穏やかでした。
「子供というものはつまずいて学ぶものだ。いつまでも過去に囚われていると老人になってしまうぞ」
そう言ってナオの不安を笑い飛ばしたのです。
噂雀たちも、さすがにクレメンタイン公爵、ひいては王家がナオも異界渡りの姫君として正式に認めたとあっては、公然とナオを非難できなくなりました。
式場でナオをクレメンタイン公爵から譲りうけたロビンが、短く礼を述べると、クレメンタイン公爵はロビンの耳元に何事かを囁きました。
それを聞いたロビンは酢でも飲んだような顔をしましたが、さすがに結婚式の真っ最中では何も言い返せずに、黙って式は滞りなく進行しました。
ロビンがナオのベールを取り去り、ナオがその姿を現すと、式場にどよめきがさざ波のように広がっていきます。
それほどナオは美しく愛らしい花嫁だったのです。
結婚の誓約がすむと、晴れて夫婦となった2人は、天蓋のない式典用の馬車に乗って、一路プレシュス辺境伯の城へと向けて、山を下りていきます。
道中のいたるところで、我らが英雄の結婚を祝おうと領民たちが待ち構えていますから、午後12時かっきりに式場を後にしたというのに、城に入ったのは夜も更けてからです。
しかも夜も遅いというのに、ここでも民衆が、ランプをかかげて城の前の広場に集まってきたので、ロビンもナオも、バルコニーに何度もその姿を現して、手をふることになってしまいました。
ナオ達がようやく開放されたのは、もはや日が変わる時間帯でした。
ナオはこれまた侍女たちに、もう一度磨きあげられ繊細な夜着を纏って、夫婦の寝室へと案内されました。
寝室ではロビンが待ちかねていて、侍女に伴われてやってきた花嫁を手ずから迎えにきました。
「ナオ、疲れたろう。今日はオレたちはまるで見世物だったからな」
「ロビンさま、先ずは花嫁の美しさを褒めて下さいまし」
ナオを連れてきたのはアンジェだったらしく、アンジェは素直に引き下がるどころか、ロビンにダメ出しをしてきます。
「うるせぇ、アンジェ。邪魔だ。さっさと失せやがれ」
ロビンが悪態をつくと、アンジェは楽しそうに姿を消しました。
「ロビン、怒らないでね。アンジェは嬉しいのよ。ちょっとばかり素直じゃないけどね」
ナオは優しくロビンを宥めようとします。
ロビンはそんな可憐な花嫁をその胸に抱き寄せました。
「わかってるさ、それにアンジェが正しい。ナオ、とってもきれいだよ。花嫁姿のお前も妖精のように美しかったが、今におまえはまるで子猫みたいに愛らしい」
そしてそっとナオに口づけしました。
急がないと約束したように、ロビンの口づけは甘やかで、とても優しいものでした。
そのままロビンは己の花嫁を、静かにベッドへと誘います。
ようやく本当に2人っきりになれたのでした。
翌朝、ナオが目を開けると、その横にはロビンの無防備な寝顔がありました。
あの英雄が、こうして私の隣で無防備に寝顔を見せてくれている。
そう思うと、ナオの心は暖かな気持ちでいっぱいになりました。
そのままそっと、ロビンの胸に頭を押し付けて、ロビンの逞しい腕に手をおくと、ナオは安心したようにまた眠りに落ちてしまうのでした。
「お寝坊姫さま。もうお昼だよ。起きてくれないかな。さすがに何か食べないと身体に悪いよ。ほら、ナオ」
ロビンに起こされて、ナオはゆっくりと目をあけました。
既にロビンは、白いシャツにズボン、その上にゆったりとしたガウンを纏っています。
「ごめんなさい、旦那様。私、寝坊しちゃったんですね」
ナオが慌てて起き出そうとすると、ロビンがナオを抱きしめました。
「今、僕のこと、なんて呼んだんだい?」
「えっと、旦那様って。だってロビンは私の旦那様になったんでしょう? 結婚したんだもの」
ロビンは上機嫌になって頷きました。
「そうだとも。僕たちは夫婦さ。名実ともにね」
そう言って意味ありげにナオを見るので、ナオは真っ赤になってしまいました。
そこにノックの音が勇ましく響いてアンジェがやってきました。
「旦那さま、若奥様の湯あみとお着換えをいたしますので、若奥様をお借りしますわ」
ナオは若奥様という言葉に、はにかみますし、ロビンはロビンでぶつぶつとひとりごとを言っています。
「おかしい、同じ旦那さまって言葉が、言う人によってこんなにも違って聞こえるなんて」
アンジェは、そんな2人をまるっと無視して、テキパキとナオを連れ出してしまいました。
「何なんだ、あいつは。オレたちは新婚初日なんだぞ。少しは気を使ったらどうなんだろうねぇ」
しかし新婚だろうと何だろうと、ロビンの城では、ロビンの仕事が口を開けて待っていました。
さっそく執事がやってきて、訪問客だの、今日の予定だのと並べたてるので、せめて昼飯ぐらいは2人で食わせろと追い出したのです。
どうやらロビン夫婦以外の人は、彼等が新婚であることに配慮するつもりは、欠片もなさそうです。
ロビンやナオが求める、恋人同士の時間はどこにもありませんでした。
しかしあんまりロビンを欲求不満にすると、何をしでかすかわかりませんよね。
ナオはこの神殿に来てから、いつも何かしら緊張しているようなところがあったのです。
そうして愛し合っているという息子とナオですが、それは恋人同士というよりは、保護者と被保護者の関係のようにしか見えませんでした。
ナオはなんとなくロビンの顔色を伺っていますし、ロビンはと言えば恋人というよりは愛娘を溺愛する父親と間違えてしまいそうなありさまです。
そんな2人ですから、大奥様もかなり心配をしていたのです。
ロビンは軍人で領主でもあり、実のところは宰相閣下と並ぶこの国の重鎮です。
ナオはと言えばどう見ても世間ずれしていない小娘に過ぎず、釣り合いと取れなさ加減は痛々しいほどでした。
それなのに今日の2人は、まったく自然な恋人同士にみえます。
ナオはようやくロビンの側でくつろぐことができたようです。
昨夜、大泣きをしたナオを見て、大奥様は少し結婚を急ぎ過ぎたのではないかと心配していたのです。
「お帰りなさいロビン、ナオ。2人とも良い夜を過ごせたようね。安心しました。それじゃぁナオ、さっそくだけれどアンジェについて行ってね。花嫁は忙しいのよ」
ナオは美しい礼をすると素直にアンジェに導かれていきました。
今から、ナオは徹底的に磨き上げられることになります。
「それで、ロビン。一体どうなっているのかしら?」
大奥さまは、ロビンに昨夜のことを問いただしたい様子です。
「別になにもありませんよ。ナオは今も純潔を保っていますしね」
「わが子ながら嫌になるわね。聞きたいのはそんな事ではないことぐらい、わかっているでしょうに。ロビン、どうやらあの人馴れしない野生の子猫は、あなたに懐いたみたいだわ。ちゃんと最後まで責任をもてるんでしょうね」
大奥様に言い方だと、ペットを飼うなら最後まで責任を持ちましょうね、と言っているようにしか聞こえないのが不思議です。
さすがにロビンも苦笑してしまいました。
「母上、どうやら私は、あれに惚れたようです。私が惚れた女の一人も守れない男に見えますか?」
大奥様はそれはそれは困った顔をしました。
「いいえ、それじゃロビン。あなたはあえて弱点を抱え込んだと言う訳ですね。弱みを作らない為に、誰にも心を分かち与えなかったあなたが」
「はい、母上。このことは既にエルやアンバーの耳に届いているでしょうね。あいつらが大笑いをしていると思うと、それだけが忌々しいのですがね」
「いいえ、私はナオを考えなしに襲った人たちこそ、気の毒に思えますけれどもね。ほとんどの人は誰もあなたが本気でナオを愛しているなんて、思わなかった筈ですからね。いわば政略的なバランスの為に押し付けられた花嫁。あの子の立ち位置はそんな認識でしょう」
「まぁ、それが妥当なところでしょうね。ところが多分今日中に、その認識は一変しますよ。もう誰もナオをないがしろにはできなくなるでしょう」
そう言ったロビンの顔は実の母親にさえ恐ろしく映りました。
「肝に命じておきますわ。それではロビン。花婿にも仕度は必要ですのよ」
「母上、3時間ばかり眠ります。強行軍で3日ばかり寝ていないのでね」
そう言うと、ロビンは母親にうやうやしく口づけして出ていきました。
「大奥様、大司教さまが式の打ち合わせをしたいとおっしゃっています。それからアキレス子爵夫人が、式場の飾りつけの最終確認を頂きたいと言ってきております。それに……」
大奥様は結婚式の準備に集中することになりました。
そしてロビンは、その発言通りにぐっすりと眠っていました。
母親には3日と言いましたが、この2週間まともにベッドで眠った日は一日もなかったのです。
ナオはと言えば大鏡のまえで、大きく目を見開いて固まっていました。
「姫さま、いかがですか?」
花嫁衣装を担当した責任者が、気がかりそうに質問をしたので、ナオはようやく我に返りました。
花嫁衣装は、首筋から袖先にいたるまで、全く肌の露出がないタイプのドレスなのです。
その純白のドレスは精巧なレースが使われているので、遠目にはただの純白に見えて、よく見ると豪奢に何層にも重ねられたレースがずしりとした重量感を持っていました。
薄いベールはナオの身体全体を覆い隠し、しかも背後に何メートルも伸びているのでした。
そのベールの上に、額飾りを装着します。
プレシュス家では、ティアラではなく、額飾りを用いるのが伝統なのでした。
そしてその額飾りは、辺境伯夫人の身分を表すものとして生涯使うことになるのです。
ロビンから贈られた額飾りは、頭を取り巻く部分には金を細いレースのように編み込んで、所々にサファイヤやルビー、アメジストなどの細かな宝石を縫い留めています。
そうして額の中央の宝玉には貴重な大振りのアレキサンドライトが煌いているのでした。
前の辺境伯夫人であった大奥様の宝玉は紫水晶でしたし、これは当代の辺境伯によってえらばれるものです。
ロビンは陰陽の姫というナオにあわせて、赤と青の光を持つアレキサンドライトを額飾りとして選んだのでした。
結婚式当日、ナオを引率するのは養父であるリード侯爵ではありませんでした。
なんとクレメンタイン公爵がその役を買ってでたのです。
それはクレメンタイン公爵家による、ナオの社交界追放を解除するとの表明でした。
ナオはクレメンタイン公爵閣下の姿をみると、青ざめて頭を下げたのですが、公爵はとても穏やかでした。
「子供というものはつまずいて学ぶものだ。いつまでも過去に囚われていると老人になってしまうぞ」
そう言ってナオの不安を笑い飛ばしたのです。
噂雀たちも、さすがにクレメンタイン公爵、ひいては王家がナオも異界渡りの姫君として正式に認めたとあっては、公然とナオを非難できなくなりました。
式場でナオをクレメンタイン公爵から譲りうけたロビンが、短く礼を述べると、クレメンタイン公爵はロビンの耳元に何事かを囁きました。
それを聞いたロビンは酢でも飲んだような顔をしましたが、さすがに結婚式の真っ最中では何も言い返せずに、黙って式は滞りなく進行しました。
ロビンがナオのベールを取り去り、ナオがその姿を現すと、式場にどよめきがさざ波のように広がっていきます。
それほどナオは美しく愛らしい花嫁だったのです。
結婚の誓約がすむと、晴れて夫婦となった2人は、天蓋のない式典用の馬車に乗って、一路プレシュス辺境伯の城へと向けて、山を下りていきます。
道中のいたるところで、我らが英雄の結婚を祝おうと領民たちが待ち構えていますから、午後12時かっきりに式場を後にしたというのに、城に入ったのは夜も更けてからです。
しかも夜も遅いというのに、ここでも民衆が、ランプをかかげて城の前の広場に集まってきたので、ロビンもナオも、バルコニーに何度もその姿を現して、手をふることになってしまいました。
ナオ達がようやく開放されたのは、もはや日が変わる時間帯でした。
ナオはこれまた侍女たちに、もう一度磨きあげられ繊細な夜着を纏って、夫婦の寝室へと案内されました。
寝室ではロビンが待ちかねていて、侍女に伴われてやってきた花嫁を手ずから迎えにきました。
「ナオ、疲れたろう。今日はオレたちはまるで見世物だったからな」
「ロビンさま、先ずは花嫁の美しさを褒めて下さいまし」
ナオを連れてきたのはアンジェだったらしく、アンジェは素直に引き下がるどころか、ロビンにダメ出しをしてきます。
「うるせぇ、アンジェ。邪魔だ。さっさと失せやがれ」
ロビンが悪態をつくと、アンジェは楽しそうに姿を消しました。
「ロビン、怒らないでね。アンジェは嬉しいのよ。ちょっとばかり素直じゃないけどね」
ナオは優しくロビンを宥めようとします。
ロビンはそんな可憐な花嫁をその胸に抱き寄せました。
「わかってるさ、それにアンジェが正しい。ナオ、とってもきれいだよ。花嫁姿のお前も妖精のように美しかったが、今におまえはまるで子猫みたいに愛らしい」
そしてそっとナオに口づけしました。
急がないと約束したように、ロビンの口づけは甘やかで、とても優しいものでした。
そのままロビンは己の花嫁を、静かにベッドへと誘います。
ようやく本当に2人っきりになれたのでした。
翌朝、ナオが目を開けると、その横にはロビンの無防備な寝顔がありました。
あの英雄が、こうして私の隣で無防備に寝顔を見せてくれている。
そう思うと、ナオの心は暖かな気持ちでいっぱいになりました。
そのままそっと、ロビンの胸に頭を押し付けて、ロビンの逞しい腕に手をおくと、ナオは安心したようにまた眠りに落ちてしまうのでした。
「お寝坊姫さま。もうお昼だよ。起きてくれないかな。さすがに何か食べないと身体に悪いよ。ほら、ナオ」
ロビンに起こされて、ナオはゆっくりと目をあけました。
既にロビンは、白いシャツにズボン、その上にゆったりとしたガウンを纏っています。
「ごめんなさい、旦那様。私、寝坊しちゃったんですね」
ナオが慌てて起き出そうとすると、ロビンがナオを抱きしめました。
「今、僕のこと、なんて呼んだんだい?」
「えっと、旦那様って。だってロビンは私の旦那様になったんでしょう? 結婚したんだもの」
ロビンは上機嫌になって頷きました。
「そうだとも。僕たちは夫婦さ。名実ともにね」
そう言って意味ありげにナオを見るので、ナオは真っ赤になってしまいました。
そこにノックの音が勇ましく響いてアンジェがやってきました。
「旦那さま、若奥様の湯あみとお着換えをいたしますので、若奥様をお借りしますわ」
ナオは若奥様という言葉に、はにかみますし、ロビンはロビンでぶつぶつとひとりごとを言っています。
「おかしい、同じ旦那さまって言葉が、言う人によってこんなにも違って聞こえるなんて」
アンジェは、そんな2人をまるっと無視して、テキパキとナオを連れ出してしまいました。
「何なんだ、あいつは。オレたちは新婚初日なんだぞ。少しは気を使ったらどうなんだろうねぇ」
しかし新婚だろうと何だろうと、ロビンの城では、ロビンの仕事が口を開けて待っていました。
さっそく執事がやってきて、訪問客だの、今日の予定だのと並べたてるので、せめて昼飯ぐらいは2人で食わせろと追い出したのです。
どうやらロビン夫婦以外の人は、彼等が新婚であることに配慮するつもりは、欠片もなさそうです。
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