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別れた理由
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「はぁ、めんど……」
昨日の夜に理貴から連絡が来ていたようだ。あかりは当直明けの動かない頭でメッセージを読んでため息をついた。
「どしたー、あかりー」
あかりのグチに、同期の田代 結が反応する。
地域課所属の結は普段は交番勤務なのだが、月に数回当直で一緒になるのだ。幸いにも今日は通報も少なく、きちんと仮眠も取れたし、所定の時間での退勤もできた。
同じく当直明けで退社するという結と連れ立って、ファミレスにモーニングを食べに来たのだ。
何でも聞くよーと、モリモリと朝ごはんを食べながら結はあかりを促す。あかりも結に言われるまでもなく、端からそのつもりだった。
ドリンクバーから持ってきた食後のコーヒーを飲む頃には颯と別れたことや理貴との関係を洗いざらい話し終えていた。
「う、羨ましい!!」
開口一番、結は叫ぶ。
「ちょっと!」
あかりは焦るが、朝のファミレスなんてほとんど人がいない。幸いにも非難の目を浴びることはなかった。
ホッと胸をなで下ろすあかりに結はズルいという目を向け、唇を尖らせる。
「いいじゃん、その彼。付き合っちゃいなよ」
言っていることと表情が真逆だ。器用な結にあかりは感心する。
結は半分くらい残っていたコーヒーを一気飲みすると、あかりに切り込んだ。
「それともまだ山科主任のこと、引きずってるの?」
「……」
あかりは返事ができなかった。
理貴にまだ好きなのか、と問われた時も同じように答えられなかったのに、まだ自分の中での解が見つかっていないのだ。
悩んでいるあかりをほっぽって、コーヒーのおかわりを取りに行った結は、戻ってくるなり問いかけた。
「結婚したいなら、その幼馴染としたらいいじゃん。山科主任はそういう気なかったんでしょ?」
「……うん」
結の言葉は事実だ。胸が抉られるように痛むのは、まだあかりが受け止めきれていないから。
颯と結婚すると思っていた。彼と結婚できると、当たり前に思っていた。
警察官は上司に付き合っていることを報告する義務があるから、遊びで付き合うことはない。当然のように付き合いの先に結婚があると思っていた。
そもそも警官は結婚が早いのだ。
独身寮も出れるし、よっぽどのことがなければ遠い場所に転勤になることもない。同じ部署では働けないが、それは恋人の時も同じだ。
あかりも今年で二十八歳。颯は三十歳で結婚適齢期だ。付き合いも二年程。更に颯はこの間警部補の昇進試験に合格して出世したばかりだ。
タイミングとしてもそろそろ結婚の話が出ると思っていた。でも颯はいつまでたってもそんなそぶりを見せなかったのだ。
しびれを切らしたあかりが将来どう考えているかを追及しても、煮えきらない返事しかしない。
散々考えて苦しんで、やっとのことで結婚が考えられないなら別れると切り出したあかりに、颯は「仕方ないな」と、一言口にしただけ。
それで颯との関係は終わったのだ。
颯のことを考えると、辛いと思うのは憎んで別れたからじゃないから。だけど、別れを選ぶ前に散々悩んだのだ。
家庭を持ちたいし、子どもも出来れば授かりたいあかりに反して、颯は明確に答えを返さなかったのだ。すれ違っている以上、必然的に付き合い続けるのは難しかった。
だけど。
「別れてすぐ他の人と付き合うのはさ……」
あかりのボヤキに結は「何言ってんのよ」と返す。
「よくあることじゃん」
「それはそうだけど……。そんな気持ちはすぐに変わらないよ」
「そんなん言ってたら婚期逃すよ。特に私達は職場結婚じゃない限り、好きだから結婚できるとは限らないんだし」
結の言う通り警官は国防の一端を担っている関係上、一般人と付き合ったり結婚する時には身辺調査が入る。
本人は問題がなくても親類縁者で引っかかって、泣く泣く別れを選んだり、仕事を辞めたりする人を見てきた。
その点、警官同士の結婚は容易だ。
警察官の試験に合格する前には必ず身辺調査がある。警察官になっているということは、結婚できる条件を既にクリアしているということだからだ。
だから――特に女性警官は数が少ないこともあり――職場結婚が多いのだ。
理貴と付き合っても結婚まではたどり着かないかもしれない。
わかってはいるけれど。
「理貴とは付き合う気になれないんだよなぁ」
「なんでよ。スペックいいじゃん。山科主任より断然お金持ってるじゃん」
「いや、だってあの理貴だよ?」
「あの理貴って言われてもわかんないよ。私は知らないんだから」
結は呆れた様子だ。あかりは何とか自分の中の理貴を伝えようと言葉を重ねる。
「だって昔からひょろひょろだし」
そうか? と結は携帯を手に取り理貴の画像を検索する。
いくつか画像を見た結は、「贅沢言うな」とピシャリと告げた。
「そりゃあ、アンタんとこみたいに小さい頃から周りに警察官がいたらそう見えるだろうし、山科主任も機動隊上がりだからガタイがいいのが好きなのはわかるけど。彼もいい身体してるじゃん」
「え? そうかな?」
あかりから見ると、理貴は細い。
理貴も剣道していたからソコソコ筋肉はあるし、肩幅もあるけれど、全体的に線が細いのだ。
あかりの言葉を聞いた結は今日一番大きいため息をついた。
「……アンタ、もうゴリラと結婚したら?」
結の投げやりな言葉にあかりは「勘弁して」と呟くしかなかった。
昨日の夜に理貴から連絡が来ていたようだ。あかりは当直明けの動かない頭でメッセージを読んでため息をついた。
「どしたー、あかりー」
あかりのグチに、同期の田代 結が反応する。
地域課所属の結は普段は交番勤務なのだが、月に数回当直で一緒になるのだ。幸いにも今日は通報も少なく、きちんと仮眠も取れたし、所定の時間での退勤もできた。
同じく当直明けで退社するという結と連れ立って、ファミレスにモーニングを食べに来たのだ。
何でも聞くよーと、モリモリと朝ごはんを食べながら結はあかりを促す。あかりも結に言われるまでもなく、端からそのつもりだった。
ドリンクバーから持ってきた食後のコーヒーを飲む頃には颯と別れたことや理貴との関係を洗いざらい話し終えていた。
「う、羨ましい!!」
開口一番、結は叫ぶ。
「ちょっと!」
あかりは焦るが、朝のファミレスなんてほとんど人がいない。幸いにも非難の目を浴びることはなかった。
ホッと胸をなで下ろすあかりに結はズルいという目を向け、唇を尖らせる。
「いいじゃん、その彼。付き合っちゃいなよ」
言っていることと表情が真逆だ。器用な結にあかりは感心する。
結は半分くらい残っていたコーヒーを一気飲みすると、あかりに切り込んだ。
「それともまだ山科主任のこと、引きずってるの?」
「……」
あかりは返事ができなかった。
理貴にまだ好きなのか、と問われた時も同じように答えられなかったのに、まだ自分の中での解が見つかっていないのだ。
悩んでいるあかりをほっぽって、コーヒーのおかわりを取りに行った結は、戻ってくるなり問いかけた。
「結婚したいなら、その幼馴染としたらいいじゃん。山科主任はそういう気なかったんでしょ?」
「……うん」
結の言葉は事実だ。胸が抉られるように痛むのは、まだあかりが受け止めきれていないから。
颯と結婚すると思っていた。彼と結婚できると、当たり前に思っていた。
警察官は上司に付き合っていることを報告する義務があるから、遊びで付き合うことはない。当然のように付き合いの先に結婚があると思っていた。
そもそも警官は結婚が早いのだ。
独身寮も出れるし、よっぽどのことがなければ遠い場所に転勤になることもない。同じ部署では働けないが、それは恋人の時も同じだ。
あかりも今年で二十八歳。颯は三十歳で結婚適齢期だ。付き合いも二年程。更に颯はこの間警部補の昇進試験に合格して出世したばかりだ。
タイミングとしてもそろそろ結婚の話が出ると思っていた。でも颯はいつまでたってもそんなそぶりを見せなかったのだ。
しびれを切らしたあかりが将来どう考えているかを追及しても、煮えきらない返事しかしない。
散々考えて苦しんで、やっとのことで結婚が考えられないなら別れると切り出したあかりに、颯は「仕方ないな」と、一言口にしただけ。
それで颯との関係は終わったのだ。
颯のことを考えると、辛いと思うのは憎んで別れたからじゃないから。だけど、別れを選ぶ前に散々悩んだのだ。
家庭を持ちたいし、子どもも出来れば授かりたいあかりに反して、颯は明確に答えを返さなかったのだ。すれ違っている以上、必然的に付き合い続けるのは難しかった。
だけど。
「別れてすぐ他の人と付き合うのはさ……」
あかりのボヤキに結は「何言ってんのよ」と返す。
「よくあることじゃん」
「それはそうだけど……。そんな気持ちはすぐに変わらないよ」
「そんなん言ってたら婚期逃すよ。特に私達は職場結婚じゃない限り、好きだから結婚できるとは限らないんだし」
結の言う通り警官は国防の一端を担っている関係上、一般人と付き合ったり結婚する時には身辺調査が入る。
本人は問題がなくても親類縁者で引っかかって、泣く泣く別れを選んだり、仕事を辞めたりする人を見てきた。
その点、警官同士の結婚は容易だ。
警察官の試験に合格する前には必ず身辺調査がある。警察官になっているということは、結婚できる条件を既にクリアしているということだからだ。
だから――特に女性警官は数が少ないこともあり――職場結婚が多いのだ。
理貴と付き合っても結婚まではたどり着かないかもしれない。
わかってはいるけれど。
「理貴とは付き合う気になれないんだよなぁ」
「なんでよ。スペックいいじゃん。山科主任より断然お金持ってるじゃん」
「いや、だってあの理貴だよ?」
「あの理貴って言われてもわかんないよ。私は知らないんだから」
結は呆れた様子だ。あかりは何とか自分の中の理貴を伝えようと言葉を重ねる。
「だって昔からひょろひょろだし」
そうか? と結は携帯を手に取り理貴の画像を検索する。
いくつか画像を見た結は、「贅沢言うな」とピシャリと告げた。
「そりゃあ、アンタんとこみたいに小さい頃から周りに警察官がいたらそう見えるだろうし、山科主任も機動隊上がりだからガタイがいいのが好きなのはわかるけど。彼もいい身体してるじゃん」
「え? そうかな?」
あかりから見ると、理貴は細い。
理貴も剣道していたからソコソコ筋肉はあるし、肩幅もあるけれど、全体的に線が細いのだ。
あかりの言葉を聞いた結は今日一番大きいため息をついた。
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結の投げやりな言葉にあかりは「勘弁して」と呟くしかなかった。
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