モテ期なんて聞いていない!ー若手実業家社長の幼馴染と元カレ刑事に求婚されています

雪本 風香

文字の大きさ
7 / 30

なんで知ってるんだ! 2

しおりを挟む
 あかりが恐る恐る尋ねた疑問に、理貴は一言で答えた。
「僕、その近くの大学に通ってたの」

(あぁ!! やっぱり!!)

 声にならない声を上げてあかりは再びテーブルに突っ伏した。
 理貴との年の差が三歳ということを考えると、あかりが本郷の交番にいた最後の年だろう。
 勤めて三年。警察官に限らず勤め人が辞めがちな時期である。
 例に違わず警察学校からの同期もポロポロ辞めていたし、あかり自身も明日辞表を出そうか、もう少し続けようかと葛藤していた。

(私の人生の消したい出来事トップ三、理貴は全部知ってんじゃんか……)

 ハイスペックな男と結婚する、って言い張っていたこと。
 新人の頃の馴染めない生活で憧れの職を辞めることを考えていたこと。
 そして、いじめを見ぬふりして年下の男の子理貴が引っ越すハメになったこと。

 濃いか薄いかは別として、あかりが過去に戻って人生をやり直せるなら、この時に戻ってやり直したいと思っているターニングポイントを全て理貴は知っているのだ。

 あかりの顔は恥ずかしさで真っ赤になる。

(あ、穴があったら入りたい……ってか理貴の記憶消し去りたい……)

 恥ずかしさで悶絶しているあかりは、あることに気づいた。

(本郷の交番の近くって、大学は確か……一つだけ、だよね……)
 小学校や中学校はあるが、あの辺りの大学と言ったら……。

「ええっ!? 理貴って頭いいんだ!?」
 サラリと重要なことを打ち明けられていたことを、あかりはようやく気付いた。赤門で有名な、日本一のあの大学しかない。
 幸人から「理貴は頭がいい」とは聞いていたけれど、ここまでいいとは思っていなかった。
 あかりはポカンと理貴を見つめる。
「ま、そのことは置いておいて」
 理貴は少しだけ照れたようにはにかむと、改めてあかりの目を見つめる。

「昔からの夢を叶えるだけでもすごいのに、いきいきと仕事しているあかりちゃんに励まされたんだ。……僕、特に目標もなく大学進学したから」
「目標もない人が、日本一の大学に入らないでしょ」
「ただ勉強が出来ただけだよ」
 苦笑する理貴だが、並大抵の努力で行けるところではないのは、あかりだって容易に想像できる。
 入学するのがどれほど大変なのか高卒のあかりには想像もつかないが、理貴の頭がずば抜けているのはわかる。
 日本一の大学に合格する頭脳は並大抵ではない。大卒で警視庁に入職している兄の雅人が口癖のように言っているのだ。
「トップ層の大学出身のキャリア組は、俺とは頭の出来が全く違う」と。

 そのことを口にしたあかりに、理貴は「そんなことないよ」と謙遜しているかのように首を振る。

「あかりちゃんのように夢を叶えている人のほうがずっとすごいよ」
 褒め称える理貴がむずがゆくて、当時の自分が不甲斐なくてついマイナスな言葉をぶつけてしまう。

「一番ダメダメだった頃なのに?」
 言ってすぐに後悔した。
 理貴が、当時の自分を「すごい」と思ってくれているなら、そのまま理想の自分でいれば良かったのだ。過去の弱い自分を今更さらけ出しても何も発展しない。
 むしろ、理貴に変な気遣いをさせてしまうだけなのに。
 後悔しても、一度口にした言葉は戻らないのだ。
  
 あかりの投げやりなセリフに理貴は眉をあげただけだった。あかりにはそれがどういう感情なのかは読み取れなかった。
 なら、もうどうにでもなれ、とあかりは開き直ってうなずいた。
「そうなの。理想と違って現実は……ってやつで、仕事辞めるかどうか迷っていたんだ」
「全然そんな風には見えなかったよ」

 あかりは苦笑いを浮かべながら首を振った。

 すでに異動してペアは解消していたが、なにかにかけて気にかけてくれていた久保がいなければ、そしてまだ顔見知りにもなっていなかった颯がいなければ、あかりはきっと警察官を辞めていただろう。

 そう、颯がいなければ……。

 別れたばかりの彼のことを思い出すと胸がキュッと締め付けられたあかりは、言葉に詰まる。

「あかりちゃん?」
 黙り込んだあかりに理貴は声をかける。その声で顔を上げたあかりに理貴はいつものような穏やかな笑みを浮かべていた。
「どうしたの、急に黙って。何か考えていた? ……たとえば元カレのこととか」

 ……図星だった。
 だけど、それを理貴に伝える必要はない。だって、理貴と会うのは今日で終わらせるつもりなのだから。
 先程は動揺してしまったが、顔に出さないのは職業柄得意だ。
 わからないように一呼吸置くと、あかりは意図的に口角を上げながら首を振った。
「違うよ。本郷の時のこと色々思い出していただけ。っていうか、本郷の交番で私を見かけて励まされたのはわかったけど。なんでそこから幸人経由で連絡取って挙句の果てに結婚しよう、って流れになるのよ」
 少々強引に話を逸らす。そもそもこの話題を振ったのは、理貴にどうしても聞いておきたかったのだ。
 そして、理貴の想いをきちんと断ち切ってあげなければ。
 使命感に燃えたあかりは、答えを聞くまで逃さないという視線を理貴に投げかける。理貴もなにか勘づいたのか、背筋を正して答える。

「あかりちゃんが
「どういうこと?」
「そのままの意味。昔と全然変わっていなかったから。僕がどんな立場になってもあかりちゃんは変わらない。今だってそうでしょ」
「社長ー! って言って接待したほうがよかった?」
「遠慮しとく」
 理貴は笑って首を振った。一つ息を吐いた後、再び真顔に戻ると理貴は言った。
「有名大学に進学したら、社長になったら、金稼いでいたら。自分では何も変わっていないのに周りは変わるんだよ。全員とは言わないけど、昔のような付き合いが難しくなるのも事実でさ。……あかりちゃんや幸人みたいに、大衆居酒屋に連れてきたり、割り勘しようとしたりはしない」
「……悪かったね、大衆居酒屋に連れてきて」
「嬉しいんだよ、に接してくれるのが」
 わざとジト目で睨むあかりを、理貴は表情を変えずサラリと受け流す。

「交番であかりちゃんを見たときに、昔惚れていた頃と同じだって思ったんだ。そんなに大きくないのにいつも胸張って前を見て。自分を持っていて、凛としていて」
 理貴の顔がふいに柔らかいものに変わる。
 愛おしい者をみるような優しい顔になった理貴に、不覚にもあかりはドキリとする。
 あかりの動揺に気付いた様子のない理貴は、柔らかい顔のまま、あかりに告白するのだ。

「変かもしれないけど、その時に想像できたんだ。あかりちゃんと家族になるのを。でも、その時の僕は何も持っていなかったから。……だから、君に釣り合う存在になれたら、会いに行こうって決めていたんだ」
 それが今ってこと、と理貴は笑った。


 理貴以外の者から聞いたら、何を言っているのかと一笑に付しただろう。けれど、あかりは知っていた。

 理貴が、冗談でこんなことを言うはずない、ということを。

 その証拠にテーブルの上に出ている理貴の両手は、話し始めた時から硬く組まれているままだ。
 その仕草は大事なことを話す時の理貴のクセ。

 ならばこちらも真剣に答えないといけない。

「理貴」
「はい」
「私、彼氏と別れたばっかだし、しばらく恋愛はしないの」
「なんで?」
 理貴はあかりに問いかける。
「なんで、って……」
「未練があるの?」
「未練……」
「じゃあさ、……まだ好きなん?」
「……」

 あかりは言葉に詰まる。

 自分から別れを切り出したけれど、颯のことをキライになったわけではないのだ。それでも今でも好きかどうか問われると答えられない。
 颯のいいところも素敵なところも知っている。けれど、やっぱり相容れないところもあった。
 両方を天秤にかけ別れを決意するまで散々考えて決断したのだ。

 言葉が出てこないあかりに理貴は安心したようにニコリと微笑んだ。
「よかった、僕にもチャンスありそうだ」
「何を聞いたらそうなるのよ」
「一回僕と付き合ってみない? じゃないとどっちがいいか比べられないでしょ」
「何言ってるのよ。職業柄、そんな簡単に付き合えないし。そもそも理貴のことそういう対象として見てない」
「じゃあ付き合ってくれるまで頑張る」
「やだって。時間の無駄だよ。他の女の子と付き合いなよ」
「付き合ったよ。でも長続きしなかった」
「あっそう……」
「オススメだと思うよ、僕。時間の融通が利くからあかりちゃんの都合に合わせられるし」

 理貴と押し問答を繰り広げるが、どこまでいっても話は平行線だ。唯一わかっているのは、理貴は一切譲る気がないということ。
 あかりは理貴に気付かれないようにため息をついた。

(めんどくさい……)

「どう、あかりちゃん。お友達から、っていうのでもいいよ、とりあえずは、ね」
「わかった、わかった。じゃあとりあえずお友達で」

 もう帰りたくなったあかりはテキトーに話を終わらせることにしたのだ。連絡が来たとしても、仕事が忙しいと理由をつけて断り続ければ、さすがの理貴も諦めるだろう。
 それもまためんどくさいのはわかっていたが、ここで終わりがない押し問答を続けるよりもマシだと思ったのだ。

 後で散々その判断を後悔するとは思わずに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

羽柴弁護士の愛はいろいろと重すぎるので返品したい。

泉野あおい
恋愛
人の気持ちに重い軽いがあるなんて変だと思ってた。 でも今、確かに思ってる。 ―――この愛は、重い。 ------------------------------------------ 羽柴健人(30) 羽柴法律事務所所長 鳳凰グループ法律顧問 座右の銘『危ない橋ほど渡りたい。』 好き:柊みゆ 嫌い:褒められること × 柊 みゆ(28) 弱小飲料メーカー→鳳凰グループ・ホウオウ総務部 座右の銘『石橋は叩いて渡りたい。』 好き:走ること 苦手:羽柴健人 ------------------------------------------

サンスクミ〜学園のアイドルと偶然同じバイト先になったら俺を3度も振った美少女までついてきた〜

野谷 海
恋愛
「俺、やっぱり君が好きだ! 付き合って欲しい!」   「ごめんね青嶋くん……やっぱり青嶋くんとは付き合えない……」 この3度目の告白にも敗れ、青嶋将は大好きな小浦舞への想いを胸の内へとしまい込んで前に進む。 半年ほど経ち、彼らは何の因果か同じクラスになっていた。 別のクラスでも仲の良かった去年とは違い、距離が近くなったにも関わらず2人が会話をする事はない。 そんな折、将がアルバイトする焼鳥屋に入ってきた新人が同じ学校の同級生で、さらには舞の親友だった。 学校とアルバイト先を巻き込んでもつれる彼らの奇妙な三角関係ははたしてーー ⭐︎第3部より毎週月・木・土曜日の朝7時に最新話を投稿します。 ⭐︎もしも気に入って頂けたら、ぜひブックマークやいいね、コメントなど頂けるととても励みになります。 ※表紙絵、挿絵はAI作成です。 ※この作品はフィクションであり、作中に登場する人物、団体等は全て架空です。

時間を止めて ~忘れられない元カレは完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な人でした 【完結】

remo
恋愛
どんなに好きになっても、彼は絶対に私を愛さない。 佐倉ここ。 玩具メーカーで働く24歳のOL。 鬼上司・高野雅(がく)に叱責されながら仕事に奔走する中、忘れられない元カレ・常盤千晃(ちあき)に再会。 完璧な容姿と天性の才能を持つ世界一残酷な彼には、悲しい秘密があった。 【完結】ありがとうございました‼

氷雨と猫と君〖完結〗

カシューナッツ
恋愛
彼とは長年付き合っていた。もうすぐ薬指に指輪をはめると思っていたけれど、久しぶりに呼び出された寒い日、思いもしないことを言われ、季節外れの寒波の中、帰途につく。

あなたがいなくなった後 〜シングルマザーになった途端、義弟から愛され始めました〜

瀬崎由美
恋愛
石橋優香は夫大輝との子供を出産したばかりの二十七歳の専業主婦。三歳歳上の大輝とは大学時代のサークルの先輩後輩で、卒業後に再会したのがキッカケで付き合い始めて結婚した。 まだ生後一か月の息子を手探りで育てて、寝不足の日々。朝、いつもと同じように仕事へと送り出した夫は職場での事故で帰らぬ人となる。乳児を抱えシングルマザーとなってしまった優香のことを支えてくれたのは、夫の弟である宏樹だった。二歳年上で公認会計士である宏樹は優香に変わって葬儀やその他を取り仕切ってくれ、事あるごとに家の様子を見にきて、二人のことを気に掛けてくれていた。 息子の為にと自立を考えた優香は、働きに出ることを考える。それを知った宏樹は自分の経営する会計事務所に勤めることを勧めてくれる。陽太が保育園に入れることができる月齢になって義弟のオフィスで働き始めてしばらく、宏樹の不在時に彼の元カノだと名乗る女性が訪れて来、宏樹へと復縁を迫ってくる。宏樹から断られて逆切れした元カノによって、彼が優香のことをずっと想い続けていたことを暴露されてしまう。 あっさりと認めた宏樹は、「今は兄貴の代役でもいい」そういって、優香の傍にいたいと願った。 夫とは真逆のタイプの宏樹だったが、優しく支えてくれるところは同じで…… 夫のことを想い続けるも、義弟のことも完全には拒絶することができない優香。

シンデレラは王子様と離婚することになりました。

及川 桜
恋愛
シンデレラは王子様と結婚して幸せになり・・・ なりませんでした!! 【現代版 シンデレラストーリー】 貧乏OLは、ひょんなことから会社の社長と出会い結婚することになりました。 はたから見れば、王子様に見初められたシンデレラストーリー。 しかしながら、その実態は? 離婚前提の結婚生活。 果たして、シンデレラは無事に王子様と離婚できるのでしょうか。

不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました

入海月子
恋愛
有本瑞希 仕事に燃える設計士 27歳 × 黒瀬諒 飄々として軽い一級建築士 35歳 女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。 彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。 ある日、同僚のミスが発覚して――。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

処理中です...