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雪那 由多

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教育とは 1

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「親父ー、居るー?」
「藪から棒に何を言ってる。そしてここは会社の社長室だ。居るに決まってるだろうと言うかどうやって入って来た……」
「ん? 普通に親父から預かった書類を提出に来たって言ったら受付の人が桂司叔父さんを呼んでくれて書類のチェックしてもらってOKもらったからここに来たんだけど」
「あいつは……」
「叔父さん曰くこれだけの仕事をさせておいて社員証を発行しない親父が悪いんだって。まあ、今のところ社員証なんていらないんだけど」
「じゃあ、桂司とお前の希望を兼ねて用意はしておくが発行はしていない状態にしておこう」
「発酵すればいいのに」
「欲しくなるころにはそれなりの席を用意しておくよ」

 腐らせるためではなく上物にさせるための発酵かと俺の嫌味を上手く使う親父に年の功を思い知らされるが

「ところで作家活動は進んでいるか?」
「嫌な事を聞くな」

 ふてくされてしまう。
 翻訳活動は一度出版社に送ってみたものの大学生の和訳レベルから飛び出せば、なんて言う事を遠回しに言われてしまった。
 まあ、分かってたけどそれなりに傷つく。
 さらに言えば大学時代から成長していない事に泣きそうになった。
 こういう表現とかはしのさんが上手くて大学時代に何度もディスカッションさせてもらったけど、本を読んだ数が圧倒的に違うのだろう。表現力と知識の豊富さにいつの間にか俺はただ学ぶだけの生徒になっていた。
 根気強く俺に付き合ってくれたしのさんが本当に素敵な話なんだけどね。
 そこで気持ち的にも俺には希望のない世界だという事は理解したが……

『修司って英語の図鑑とか色々読み込んでたよね?』

 とある夏休み前にしのさんに聞かれて
『まあ、それなりに読み込んできたけど』
 うちの会社的事情にも関係あるのでさりげなく幼少期からいろんな知識を英語でさりげなく学ぶ機会を与えられてきた。英語で学ぶ事に疑問を覚えなかったぐらいに。
『夏休みアルバイト代を出してくれる人がいるから翻訳する仕事手伝ってくれないかなって言う人がいるんだけど?』
『因みにどんな?』
 聞けばノートパソコンからファイルをダウンロードをしたものを俺に見せてくれて……
『なんか面白い仕事だな?』
『うん。本当は俺が受け持ったお仕事なんだけど専門用語? それがいっぱいでちょっと手間取って……
 その人に修司の事を教えたら試しにこのファイルを全部訳してもらってから決めるって言っていて……』
『なるほど。テストっていう事か』
『ファイルの1ページにつき1,000円なんだけど……』
『この際金額は問題じゃないな』
 
 なんてうきうきと充実した夏休みを過ごしたことを思い出した。
 そう。
 俺は物語向けの翻訳者ではなく学術者向けの翻訳者に知らぬ間に育っていたのだ。
よく考えれば読んできた洋書も最初こそ児童向け物語だったけど、気が付いたら医薬用語満載の小説だったり、コンピュータ用語満載の小説だったりとかなりマニアックに傾いた系統の本を好んでいた事に本棚に並ぶタイトルに自分の得意分野をやっと理解した。

 まあ、そのおかげで小説の翻訳家と言う俺の一番憧れるジャンルからかなり遠ざかっていた事にも気付けたけど……

 それでしのさんのお願いを引き受けることが出来てしのさんとさらに仲良く出来るのなら安い物じゃないか。
俺の夢は翻訳家。
希望ジャンルが変わっただけで夢が途絶えなかったことに喜びを見つけつつもこれじゃない、そんな気持ちいっぱいでその夏を過ごしたことまで思い出した。
 思ったよりも多く報酬をもらえたのでその気持ちはふっとんだが……

「お前の情緒教育と言うのか? もう少し余裕を与えても良かったと今なら思ったが……」
「いや、バイオリンとか油絵とか乗馬とか無理だったからある程度はすぐに切り捨ててくれて本当に助かったよ」
「まあ、母さんの趣味だったからな」
「このお袋の少女趣味、何とかならないかな……」
「父さんは諦めて慣れる事を選んだよ」

 そう、一見バリバリのキャリアウーマンだった母さんの仕事ぶりに惚れた親父を見ていた爺さんが見合いをセッティングしてまさかのそのまま結婚ルートになったという馴れ初め。
 母さん曰く周囲がどんどん結婚をしていく環境だったので自社の社長がセッティングしてくれた見合いに乗っただけで気が付けば社長夫人になっていたという、どこか天然な所もあるが……
 バリキャリの皮をはがせばただの社畜だったことは父さんたちも知らない俺だけが知る秘密。いや、みんな知ってたけど。
 なんせいろんな塾の送り迎えをしてくれたのはお袋で、掛け持ちになる日も精力的に付き合ってくれたのもお袋で、それで家庭の事と会社の事もこなす、社会人になってはじめてその偉大さを理解した。


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