19 / 35
静かにならない昼下がり 1
しおりを挟む
「この後お台所借りてもいいでしょうか」
「いや、普通に住んでる人たちに使ってもらうための台所だから好きに使っていいよ」
今年度入居した海野渉の朝食の場での質問。
そう言えばアパートを使ってる奴らの為に俺がここを使っているけど俺以外が使ってるところ見た事ないな。
いや、夜食を作った後は各自の冷蔵庫の上に置かれた洗いっぱなしの食器や鍋が物語っているけど作ってる姿は見た事ない。
「お前ら料理とかどうしてる?」
なんて聞けば
「基本修司さんのご飯で満足してる。たまにラーメン食べたくなったら作るぐらいかな」
なんて瑞己の言葉にうなずく皆。
「ちゃんと足りてたな」
むしろまだ食べていたのかと驚いたけど
「がっつり美味しく頂いてます!」
陽人もご機嫌に言う顔は確かに満足顔。
「で、渉は足りなかったとか?」
渉が来てから見ていたけど他の三人より少食なのに足りないとかあるのかと思うも
「お弁当を持って行こうかと思いまして。
最初は学食に憧れて食べてみたのですが……」
「あー、学食ね。高いよねー。混んでるし」
「外で食べるよりは安いって言う程度だよね」
なんて颯也と瑞己の意見に頷いて
「いつもおかずが多めで苦しいからお弁当に詰めて分けて食べようかと思いまして」
少し恥ずかしそうに言う渉の言葉に思わず不憫と言いそうになる口を両手で押さえて言葉を飲み込む。
確かに俺は裕福な家で育って食べる物にも困ったことはないと言いきれる。
おなかいっぱいに、嫌いなものを残したりそんなわがままもしょうがないわねえと許されてきた。
だけど渉は好き嫌いを一切言う事もなく、出されたご飯はいつもきっちり食べきっていたとはいえ、まさか多いなんて言われるとは思ってなかった。
確かに瑞己たちは良く食べると思ったけど、俺より少し多めに食べるぐらいでしかないと思っていたからまさか女の子みたいな少量でいいなんてと驚かずにはいられない。
「だったら前日の晩御飯のおかずを冷蔵庫で保管とか、朝ご飯は少し多めに炊いておくからご飯の時間前に先に取り分けておけばいいよ」
「ですが……」
「一緒に炊いた方が電気代が安く上がる。
昼の弁当だって毎日要らないんだろ?」
聞けば小さな頭が頷いた。
「カレンダーにお弁当の日を記入しておいてくれればそれに合わせてご飯を多く炊くからしっかり弁当に詰めて行けよ」
「ありがとうございます!」
少しだけ情けないように、だけど嬉しそうな顔を隠せずに立ち上がり
「ごちそうさまでした。
じゃあ、お借りします」
「つかってー。あと残ったご飯もお弁当に使っていいぞ」
俺のお昼にと思ってとっておいたご飯だけど、食べるものは他にもあるから使っていいぞと言えば
「じゃあ、遠慮なく頂きます!」
お茶碗二杯分ぐらいの残ったご飯を熱したフライパンの上に置いて炒めだした。
そして手際よく冷蔵庫から取り出した卵を綺麗に割って、かき混ぜて……
じゅわっ
フライパンの中のご飯を片隅に寄せたと思えば開いた場所で卵液を流し込み軽くかき混ぜてからご飯と合わせる。
中華味の調味料に塩コショウ、そして醤油をさっと鍋肌に流して水分を軽く飛ばしたものにご飯を絡めて炒めていく。
「手際良いな」
他に何も入れないの?とは聞かずに言えば
「母さんが働いてるから妹にご飯を食べさせてたので」
簡単な物なので恥ずかしいですがと言いながらもお弁当なのでしっかり卵に火を通してあっという間に炒飯を作り上げた。
それを用意していたお弁当箱に詰めて蓋をして……
「え、それで終わり?」
おかずは?
思わず聞いてしまった。
それに渉は恥ずかしそうな顔で
「また今度買ってこようかと……」
知ってる。
俺が大学に行っていた時だって渉みたいな弁当を作って持ってきた奴もいた。不通におにぎりだけとか、中の具なし。そう言うのもありなのかなと思っていたバカな俺もいた。
しばらくして家庭の事情で退学してしまったそいつの話はその後今も知らないままだが、苦労していた、と言う話はあとから聞いた。
だから渉の言うまた今度、と言う言葉は二度とこない今度の話しで……
「待ってろ」
言って俺は家へと戻り、自分の冷蔵庫を開けて小さな袋を取り出した。
それを握りしめてアパートへと戻り
「昨日使ったやつの残りだけど焼いて弁当に入れていけ」
「ですが……」
「卵いれたからは通用しないぞ。ご飯だけの弁当なんてうちから通ってる間は許さないからな」
「ええ……」
困惑する渉に瑞己が
「もらっておけ。ちゃんと食べるのがお前の仕事だ」
「だけど……」
「申し訳ないと思うのなら流しの洗い物を引き受ければいいんじゃない?」
なんて颯也の提案。
「お、それ良いな」
なんて陽人まで乗っかる物の
「お前らは自分が使ったものは自分で洗え。
間違ってもどさくさに紛れて渉に洗わせる真似はするんじゃねーよ」
「うわー、そこはやっぱり大家さんの孫。いう事が同じなんだけどwww」
なんて笑う瑞己。
「ったり前だろ。
少なくともお婆ちゃんはお前らにちゃんとした人間らしい行動を教えただけだ。
その精神は俺の代になっても続くぞ」
笑いながらそこまでは甘やかせてやらんとくぎを刺しておく。
当面渉が学校生活に慣れるまでここで監視だなと俺は自分の茶碗は最後に洗うという様にお茶を淹れて全員が大学に向かう準備をするのを眺めながら
「今日の予定は?」
聞けば
「終わったらそのまま野田さんの所に行きまーす」
「同じく」
「俺もそうします」
瑞己、陽人、渉がそう言えば
「俺は午前中だから一度帰ってきます。昼は買ってある冷凍うどんがあるので大丈夫っす」
「さすがダブり、時間が余りすぎるな」
チクリと遊んでる場合じゃないだろうと言えば
「一応興味ある授業も追加したり、資格とかも挑戦したいので」
「ふーん?」
何をと思うも
「大型免許とか家に戻った時の事を考えて最低限の資格は準備しておこうかと思いまして」
なんてちゃんと未来を考えているあたり心配はないなと思うも、こいつなら大丈夫と思っていたのにダブったのを思い出せば安心なんてできない。
「そこまでちゃんと考えているのなら廃業した後の事も考えておけよ」
「ひでぇwww」
なんて笑っていたけど、どうなるかなんてわからない未来。
俺も体験したことだから大学で何の資格が取れるのか調べてみようかと考えてみた。
「いや、普通に住んでる人たちに使ってもらうための台所だから好きに使っていいよ」
今年度入居した海野渉の朝食の場での質問。
そう言えばアパートを使ってる奴らの為に俺がここを使っているけど俺以外が使ってるところ見た事ないな。
いや、夜食を作った後は各自の冷蔵庫の上に置かれた洗いっぱなしの食器や鍋が物語っているけど作ってる姿は見た事ない。
「お前ら料理とかどうしてる?」
なんて聞けば
「基本修司さんのご飯で満足してる。たまにラーメン食べたくなったら作るぐらいかな」
なんて瑞己の言葉にうなずく皆。
「ちゃんと足りてたな」
むしろまだ食べていたのかと驚いたけど
「がっつり美味しく頂いてます!」
陽人もご機嫌に言う顔は確かに満足顔。
「で、渉は足りなかったとか?」
渉が来てから見ていたけど他の三人より少食なのに足りないとかあるのかと思うも
「お弁当を持って行こうかと思いまして。
最初は学食に憧れて食べてみたのですが……」
「あー、学食ね。高いよねー。混んでるし」
「外で食べるよりは安いって言う程度だよね」
なんて颯也と瑞己の意見に頷いて
「いつもおかずが多めで苦しいからお弁当に詰めて分けて食べようかと思いまして」
少し恥ずかしそうに言う渉の言葉に思わず不憫と言いそうになる口を両手で押さえて言葉を飲み込む。
確かに俺は裕福な家で育って食べる物にも困ったことはないと言いきれる。
おなかいっぱいに、嫌いなものを残したりそんなわがままもしょうがないわねえと許されてきた。
だけど渉は好き嫌いを一切言う事もなく、出されたご飯はいつもきっちり食べきっていたとはいえ、まさか多いなんて言われるとは思ってなかった。
確かに瑞己たちは良く食べると思ったけど、俺より少し多めに食べるぐらいでしかないと思っていたからまさか女の子みたいな少量でいいなんてと驚かずにはいられない。
「だったら前日の晩御飯のおかずを冷蔵庫で保管とか、朝ご飯は少し多めに炊いておくからご飯の時間前に先に取り分けておけばいいよ」
「ですが……」
「一緒に炊いた方が電気代が安く上がる。
昼の弁当だって毎日要らないんだろ?」
聞けば小さな頭が頷いた。
「カレンダーにお弁当の日を記入しておいてくれればそれに合わせてご飯を多く炊くからしっかり弁当に詰めて行けよ」
「ありがとうございます!」
少しだけ情けないように、だけど嬉しそうな顔を隠せずに立ち上がり
「ごちそうさまでした。
じゃあ、お借りします」
「つかってー。あと残ったご飯もお弁当に使っていいぞ」
俺のお昼にと思ってとっておいたご飯だけど、食べるものは他にもあるから使っていいぞと言えば
「じゃあ、遠慮なく頂きます!」
お茶碗二杯分ぐらいの残ったご飯を熱したフライパンの上に置いて炒めだした。
そして手際よく冷蔵庫から取り出した卵を綺麗に割って、かき混ぜて……
じゅわっ
フライパンの中のご飯を片隅に寄せたと思えば開いた場所で卵液を流し込み軽くかき混ぜてからご飯と合わせる。
中華味の調味料に塩コショウ、そして醤油をさっと鍋肌に流して水分を軽く飛ばしたものにご飯を絡めて炒めていく。
「手際良いな」
他に何も入れないの?とは聞かずに言えば
「母さんが働いてるから妹にご飯を食べさせてたので」
簡単な物なので恥ずかしいですがと言いながらもお弁当なのでしっかり卵に火を通してあっという間に炒飯を作り上げた。
それを用意していたお弁当箱に詰めて蓋をして……
「え、それで終わり?」
おかずは?
思わず聞いてしまった。
それに渉は恥ずかしそうな顔で
「また今度買ってこようかと……」
知ってる。
俺が大学に行っていた時だって渉みたいな弁当を作って持ってきた奴もいた。不通におにぎりだけとか、中の具なし。そう言うのもありなのかなと思っていたバカな俺もいた。
しばらくして家庭の事情で退学してしまったそいつの話はその後今も知らないままだが、苦労していた、と言う話はあとから聞いた。
だから渉の言うまた今度、と言う言葉は二度とこない今度の話しで……
「待ってろ」
言って俺は家へと戻り、自分の冷蔵庫を開けて小さな袋を取り出した。
それを握りしめてアパートへと戻り
「昨日使ったやつの残りだけど焼いて弁当に入れていけ」
「ですが……」
「卵いれたからは通用しないぞ。ご飯だけの弁当なんてうちから通ってる間は許さないからな」
「ええ……」
困惑する渉に瑞己が
「もらっておけ。ちゃんと食べるのがお前の仕事だ」
「だけど……」
「申し訳ないと思うのなら流しの洗い物を引き受ければいいんじゃない?」
なんて颯也の提案。
「お、それ良いな」
なんて陽人まで乗っかる物の
「お前らは自分が使ったものは自分で洗え。
間違ってもどさくさに紛れて渉に洗わせる真似はするんじゃねーよ」
「うわー、そこはやっぱり大家さんの孫。いう事が同じなんだけどwww」
なんて笑う瑞己。
「ったり前だろ。
少なくともお婆ちゃんはお前らにちゃんとした人間らしい行動を教えただけだ。
その精神は俺の代になっても続くぞ」
笑いながらそこまでは甘やかせてやらんとくぎを刺しておく。
当面渉が学校生活に慣れるまでここで監視だなと俺は自分の茶碗は最後に洗うという様にお茶を淹れて全員が大学に向かう準備をするのを眺めながら
「今日の予定は?」
聞けば
「終わったらそのまま野田さんの所に行きまーす」
「同じく」
「俺もそうします」
瑞己、陽人、渉がそう言えば
「俺は午前中だから一度帰ってきます。昼は買ってある冷凍うどんがあるので大丈夫っす」
「さすがダブり、時間が余りすぎるな」
チクリと遊んでる場合じゃないだろうと言えば
「一応興味ある授業も追加したり、資格とかも挑戦したいので」
「ふーん?」
何をと思うも
「大型免許とか家に戻った時の事を考えて最低限の資格は準備しておこうかと思いまして」
なんてちゃんと未来を考えているあたり心配はないなと思うも、こいつなら大丈夫と思っていたのにダブったのを思い出せば安心なんてできない。
「そこまでちゃんと考えているのなら廃業した後の事も考えておけよ」
「ひでぇwww」
なんて笑っていたけど、どうなるかなんてわからない未来。
俺も体験したことだから大学で何の資格が取れるのか調べてみようかと考えてみた。
277
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
私はいけにえ
七辻ゆゆ
ファンタジー
「ねえ姉さん、どうせ生贄になって死ぬのに、どうしてご飯なんて食べるの? そんな良いものを食べたってどうせ無駄じゃない。ねえ、どうして食べてるの?」
ねっとりと息苦しくなるような声で妹が言う。
私はそうして、一緒に泣いてくれた妹がもう存在しないことを知ったのだ。
****リハビリに書いたのですがダークすぎる感じになってしまって、暗いのが好きな方いらっしゃったらどうぞ。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~
山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」
母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。
愛人宅に住み屋敷に帰らない父。
生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。
私には母の言葉が理解出来なかった。
なぜ、私に関係あるのかしら?
シエル
ファンタジー
「初めまして、アシュフォード公爵家一女、セシリア・アシュフォードと申します」
彼女は、つい先日までこの国の王太子殿下の婚約者だった。
そして今日、このトレヴァント辺境伯家へと嫁いできた。
「…レオンハルト・トレヴァントだ」
非道にも自らの実妹を長年にわたり虐げ、婚約者以外の男との不適切な関係を理由に、王太子妃に不適格とされ、貴族学院の卒業式で婚約破棄を宣告された。
そして、新たな婚約者として、その妹が王太子本人から指名されたのだった。
「私は君と夫婦になるつもりはないし、辺境伯夫人として扱うこともない」
この判断によって、どうなるかなども考えずに…
※ 中世ヨーロッパ風の世界観です。
※ ご都合主義ですので、ご了承下さい、
※ 画像はAIにて作成しております
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる