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第二十一話
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「エミリア、よくぞ故郷に帰ってきてくれた。お前が罪を犯したと聞いたが、私はそんなはずはないと信じていたよ」
「ごめんね。あなたが苦しんでいるときに何もしてあげられなくて。主人に失礼なく接しなさいと厳しく言い過ぎたかもしれないわ」
「お、お父様、お母様……」
まず、出迎えてくれたのは父と母でした。両親は目に涙を溜めて私との再会を喜んでくれました。
二人が信じてくれていたことに嘘は無いと思います。使者の方によると、二人はずっと私が冤罪だという証拠を探し続けてくれたそうです。
そして、メリッサという以前に私が魔物から助けた女性が協力してくれて偽の証人を見つけてくれたみたいでした。
メリッサとは数度しか会ったことのない仲なのですが、まさか私を助けてくれるなんて――びっくりです。
「君のような優秀なメイドは居なかったというのに……今回はウチの愚かな娘がとんでもない事を――許して欲しいとは思わない。マーティラス家は私の代で終わりとなろう……」
ボロ切れのような服を一枚だけ着ていて両手を鎖で拘束されているクラリス様を尻目に、彼女の父親であるマーティラス伯爵は頭を下げました。
使用人だった私に自分ではなく娘がやらかしたことで頭を下げるとは……彼は本当に今回の事態を重く見ているのでしょう。
「頭を上げてください。これは、クラリス様の問題ですから。謝る必要なんてございません」
「そういうわけにはいかんのだよ。クラリス! お前も謝らんか! 頭を下げろ!」
「い、痛いっ! お、お父様……、実の娘にあんまりですわ」
マーティラス伯爵は力強くクラリス様の頭を押して、地面に這いつくばらせました。
こんなに弱々しい表情をする彼女を見るのは初めてです。
どういうわけか、本当に彼女の企みが全て白日に晒されたみたいですね……。
「早く謝らんか! クラリス!」
「う、うう……。え、エミリア……、あ、あなたに罪を着せるような真似をして……、ご、ごめんな――誰があなたなんかにィィィ! こうなったら、あなたも道連れにしてェェェ!!」
クラリスは凄い形相で私の首に手枷のついた腕を伸ばしてきました。
――分かっていましたよ。プライドの高いあなたが素直に謝罪に応じるはずないことくらい。
「……本当に残念です。クラリス様……」
私は拘束術式を発動しました。クラリス様の首、両手両足が白い光の糸でグルグル巻になり、彼女は芋虫のように地面に再び倒れます。
血走った目で私を睨み、罵声を浴びせる彼女の気の強さはお見事。この状態でも自分の敗北を認めないのはクラリス様ならではです。
「私にはクラリス様の行動が思考が手に取るように分かります。あなたは決して私に謝らない。本当に死んだ方がマシだと思っていますから」
「ふーっ、ふーっ!」
まるで盛りのついた猫のように息を荒げているクラリス様に、私はしゃがみ込んで彼女の目を見てそう語りかけました。
「別に良いんですよ。私はクラリス様に謝って欲しくなんてありませんから。ほら、綺麗な髪がこんなに傷んで――お可哀想に……」
優しく彼女の頭を撫でてやると、彼女は今度はガタガタと震えだします。
どうしたのでしょう。そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか……。
「あ、あなた、何のつもりなの!? 私をどうしたいの!?」
恐怖で顔を歪ませる彼女。どうもこうもありません。私の願いは大したことではない――。
それは、すなわち……。
「クラリス様、これからあなたはずっと罪人として聖女の仕事をし続けてください。あなた以外に結界が張れないのですから。安心してください。私があなたに結界の張り方を教えます」
「はぁ?」
「あなたの頭の中に隷属魔術をかけました。私が魔力を注入するとクラリス様の頭が吹き飛びます」
「そ、そ、それじゃ一生私はあんたに私が逆らえないじゃない!」
そう、この国には彼女しか聖女が居ない。それならば、監獄暮らしだろうと仕事はしてもらわないと困るのです。
だから、私はクラリス様に罪人として生きてもらうことを強制しました。
彼女は声にならぬ声で叫び……。土下座のような体勢で私の前で頭を垂れます。
辛いでしょうね。あなたが一番嫌がることを述べましたから……。
クラリス様、簡単には人生は終わらせませんよ――。
「ごめんね。あなたが苦しんでいるときに何もしてあげられなくて。主人に失礼なく接しなさいと厳しく言い過ぎたかもしれないわ」
「お、お父様、お母様……」
まず、出迎えてくれたのは父と母でした。両親は目に涙を溜めて私との再会を喜んでくれました。
二人が信じてくれていたことに嘘は無いと思います。使者の方によると、二人はずっと私が冤罪だという証拠を探し続けてくれたそうです。
そして、メリッサという以前に私が魔物から助けた女性が協力してくれて偽の証人を見つけてくれたみたいでした。
メリッサとは数度しか会ったことのない仲なのですが、まさか私を助けてくれるなんて――びっくりです。
「君のような優秀なメイドは居なかったというのに……今回はウチの愚かな娘がとんでもない事を――許して欲しいとは思わない。マーティラス家は私の代で終わりとなろう……」
ボロ切れのような服を一枚だけ着ていて両手を鎖で拘束されているクラリス様を尻目に、彼女の父親であるマーティラス伯爵は頭を下げました。
使用人だった私に自分ではなく娘がやらかしたことで頭を下げるとは……彼は本当に今回の事態を重く見ているのでしょう。
「頭を上げてください。これは、クラリス様の問題ですから。謝る必要なんてございません」
「そういうわけにはいかんのだよ。クラリス! お前も謝らんか! 頭を下げろ!」
「い、痛いっ! お、お父様……、実の娘にあんまりですわ」
マーティラス伯爵は力強くクラリス様の頭を押して、地面に這いつくばらせました。
こんなに弱々しい表情をする彼女を見るのは初めてです。
どういうわけか、本当に彼女の企みが全て白日に晒されたみたいですね……。
「早く謝らんか! クラリス!」
「う、うう……。え、エミリア……、あ、あなたに罪を着せるような真似をして……、ご、ごめんな――誰があなたなんかにィィィ! こうなったら、あなたも道連れにしてェェェ!!」
クラリスは凄い形相で私の首に手枷のついた腕を伸ばしてきました。
――分かっていましたよ。プライドの高いあなたが素直に謝罪に応じるはずないことくらい。
「……本当に残念です。クラリス様……」
私は拘束術式を発動しました。クラリス様の首、両手両足が白い光の糸でグルグル巻になり、彼女は芋虫のように地面に再び倒れます。
血走った目で私を睨み、罵声を浴びせる彼女の気の強さはお見事。この状態でも自分の敗北を認めないのはクラリス様ならではです。
「私にはクラリス様の行動が思考が手に取るように分かります。あなたは決して私に謝らない。本当に死んだ方がマシだと思っていますから」
「ふーっ、ふーっ!」
まるで盛りのついた猫のように息を荒げているクラリス様に、私はしゃがみ込んで彼女の目を見てそう語りかけました。
「別に良いんですよ。私はクラリス様に謝って欲しくなんてありませんから。ほら、綺麗な髪がこんなに傷んで――お可哀想に……」
優しく彼女の頭を撫でてやると、彼女は今度はガタガタと震えだします。
どうしたのでしょう。そんなに怖がらなくてもいいじゃないですか……。
「あ、あなた、何のつもりなの!? 私をどうしたいの!?」
恐怖で顔を歪ませる彼女。どうもこうもありません。私の願いは大したことではない――。
それは、すなわち……。
「クラリス様、これからあなたはずっと罪人として聖女の仕事をし続けてください。あなた以外に結界が張れないのですから。安心してください。私があなたに結界の張り方を教えます」
「はぁ?」
「あなたの頭の中に隷属魔術をかけました。私が魔力を注入するとクラリス様の頭が吹き飛びます」
「そ、そ、それじゃ一生私はあんたに私が逆らえないじゃない!」
そう、この国には彼女しか聖女が居ない。それならば、監獄暮らしだろうと仕事はしてもらわないと困るのです。
だから、私はクラリス様に罪人として生きてもらうことを強制しました。
彼女は声にならぬ声で叫び……。土下座のような体勢で私の前で頭を垂れます。
辛いでしょうね。あなたが一番嫌がることを述べましたから……。
クラリス様、簡単には人生は終わらせませんよ――。
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