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第二十二話(メリッサ視点)
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なるほど、エミリアはそんな選択をしたのか。
正直に言って生ぬるいと思った。クラリスは実際に死罪になってもおかしくないくらいの罪を犯しているのに。
まぁ、仕方がないのもわかる。聖女が一人しかいないし、エミリアはメーリンガムで巫女としてやっていくみたいだから。
結局、聖女頼りのこの国のシステムじゃ、あの女がどんなにクズでも生かしとかなきゃならないんだ。
だからって、何で私がクラリスの面倒を……。
そりゃあ、エミリアには感謝してるからこの女を叩き落とすことに力を入れたけれど。レヴィナス公爵とマーティラス伯爵はそんな私がクラリスの扱いに長けているとかで、こんな仕事を押し付けてきた。
「ほら、グズグズせずに行きますよ。聖女様……」
「はい……。つ、強く引っ張らないで……ください」
私が鎖を引っ張るとクラリスの首輪が引っ張られて彼女は顔を歪める。
両手は拘束され、腕や脚には無数の鞭打ちの跡が生々しく残っていた。
クラリスは檻の中で暮らしている。聖女としての立場はそのままに……。一生を罪人として過ごすことになっているのだ。
「すぐサボろうとする。今日も鞭で叩かれたいみたいですね」
「い、嫌……です。もう叩かないで……。言われたとおりしますから……」
余程の恐怖を刻まれたのだろう。クラリスは鎖で首を繋がれて両手の自由が利かないまま、結界を作り始めた。
エミリア直伝の結界は堅固で、魔物の侵入を許さない。
ここに来て、ようやく彼女は聖女としての責務を果たすことが出来たのだ。
「ちょっと遅れてますよ。急いで下さい」
「――んぎゃあ! い、痛い、痛い! 急いでますから。も、もう止めて……ください」
彼女に罰を与えることを忘れてはならない。こういうタイプの人間は直ぐに調子に乗る。
ちょっとの気の緩みも許してはならないのだ。
「エミリアさんにした仕打ちを忘れてはなりませんからね。もう一回、やっておきましょう」
「お、覚えてます。私が彼女に酷いことをした。反省してますから。痛っ! 本当に反省して――」
嘘ね……。あなたはまだエミリアを恨んでる。逆恨みしている。
エミリアさえ居なければって、呪っている。
それが透けて見えるから、しおらしくしても反省が見えないのよ……。
「んあっ! や、止めてください! 痛い! 痛い!」
毎日こうして、クラリスの体を鞭で叩くのが私の仕事。
この女は結局……強制しないと何も出来ないのだ。力で何もかも好き勝手してきたのだから、いざ自分にそれが回ってきたとき――自分は御免被るなんて理屈……通らないでしょう。
鞭の音と悲鳴の音、私はそれを奏で続けていた――。まったく、愚かな人ね……。そして、無様だ……。
あ、そうそう。愚か者といえばニック殿下だ。
あの人、チョロすぎてクラリスの嘘を見抜けず、結果的に婚約者を罪人にして国家追放してるけど、国王陛下がカンカンだった。
本人の希望を聞いてエミリアに謝罪したんだけど、何を間違ったのかもう一度求婚したらしい。
あり得ないでしょう? もっとあり得ないのは、本人は復縁する気満々だったみたい。
なんか、「全てを水に流して幸せな家庭を築こう」とか言ってたらしいけど、普通にエミリアにお断りされてた。
で、このままだと自分が国家追放になると涙目でエミリアの同情買おうとしたんだと。
国王は怒り、容赦なくニックを追放。彼はエミリアを追いかけてデルナストロ山脈に入ったらしいけど……大丈夫なのかしら。
そんな感じで、今はネルシュタイン家はマーティラス家との主従関係はなくなり、独立した上にエミリアの功績から家の格式が上がるらしい。
国王としても息子の不祥事に負い目があったのでしょうね。
メーリンガムにいるエミリアもその知らせを聞いて安心しているでしょう。
「はぁ、はぁ……、終わりま、した。み、水を少しだけ……の、飲ませて……。――痛い!」
「さっさと、次の現場に行きますよ。聖女様……」
はぁ、この仕事……誰か代わってくれないかしら――。
正直に言って生ぬるいと思った。クラリスは実際に死罪になってもおかしくないくらいの罪を犯しているのに。
まぁ、仕方がないのもわかる。聖女が一人しかいないし、エミリアはメーリンガムで巫女としてやっていくみたいだから。
結局、聖女頼りのこの国のシステムじゃ、あの女がどんなにクズでも生かしとかなきゃならないんだ。
だからって、何で私がクラリスの面倒を……。
そりゃあ、エミリアには感謝してるからこの女を叩き落とすことに力を入れたけれど。レヴィナス公爵とマーティラス伯爵はそんな私がクラリスの扱いに長けているとかで、こんな仕事を押し付けてきた。
「ほら、グズグズせずに行きますよ。聖女様……」
「はい……。つ、強く引っ張らないで……ください」
私が鎖を引っ張るとクラリスの首輪が引っ張られて彼女は顔を歪める。
両手は拘束され、腕や脚には無数の鞭打ちの跡が生々しく残っていた。
クラリスは檻の中で暮らしている。聖女としての立場はそのままに……。一生を罪人として過ごすことになっているのだ。
「すぐサボろうとする。今日も鞭で叩かれたいみたいですね」
「い、嫌……です。もう叩かないで……。言われたとおりしますから……」
余程の恐怖を刻まれたのだろう。クラリスは鎖で首を繋がれて両手の自由が利かないまま、結界を作り始めた。
エミリア直伝の結界は堅固で、魔物の侵入を許さない。
ここに来て、ようやく彼女は聖女としての責務を果たすことが出来たのだ。
「ちょっと遅れてますよ。急いで下さい」
「――んぎゃあ! い、痛い、痛い! 急いでますから。も、もう止めて……ください」
彼女に罰を与えることを忘れてはならない。こういうタイプの人間は直ぐに調子に乗る。
ちょっとの気の緩みも許してはならないのだ。
「エミリアさんにした仕打ちを忘れてはなりませんからね。もう一回、やっておきましょう」
「お、覚えてます。私が彼女に酷いことをした。反省してますから。痛っ! 本当に反省して――」
嘘ね……。あなたはまだエミリアを恨んでる。逆恨みしている。
エミリアさえ居なければって、呪っている。
それが透けて見えるから、しおらしくしても反省が見えないのよ……。
「んあっ! や、止めてください! 痛い! 痛い!」
毎日こうして、クラリスの体を鞭で叩くのが私の仕事。
この女は結局……強制しないと何も出来ないのだ。力で何もかも好き勝手してきたのだから、いざ自分にそれが回ってきたとき――自分は御免被るなんて理屈……通らないでしょう。
鞭の音と悲鳴の音、私はそれを奏で続けていた――。まったく、愚かな人ね……。そして、無様だ……。
あ、そうそう。愚か者といえばニック殿下だ。
あの人、チョロすぎてクラリスの嘘を見抜けず、結果的に婚約者を罪人にして国家追放してるけど、国王陛下がカンカンだった。
本人の希望を聞いてエミリアに謝罪したんだけど、何を間違ったのかもう一度求婚したらしい。
あり得ないでしょう? もっとあり得ないのは、本人は復縁する気満々だったみたい。
なんか、「全てを水に流して幸せな家庭を築こう」とか言ってたらしいけど、普通にエミリアにお断りされてた。
で、このままだと自分が国家追放になると涙目でエミリアの同情買おうとしたんだと。
国王は怒り、容赦なくニックを追放。彼はエミリアを追いかけてデルナストロ山脈に入ったらしいけど……大丈夫なのかしら。
そんな感じで、今はネルシュタイン家はマーティラス家との主従関係はなくなり、独立した上にエミリアの功績から家の格式が上がるらしい。
国王としても息子の不祥事に負い目があったのでしょうね。
メーリンガムにいるエミリアもその知らせを聞いて安心しているでしょう。
「はぁ、はぁ……、終わりま、した。み、水を少しだけ……の、飲ませて……。――痛い!」
「さっさと、次の現場に行きますよ。聖女様……」
はぁ、この仕事……誰か代わってくれないかしら――。
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