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第二十三話
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「では、その元婚約者さんにはもう未練はないのですか……? 何事もなければ結婚をされていたのに……」
メーリンガム王国の高地に広がる森林で結界を貼り終えた私とノエル。
ノエルはニック殿下について尋ねてきました。
「未練が全くないと言えば嘘になりますね。彼のことは好きでしたし、クラリスが嵌めたのですから、ある意味被害者ですから」
クラリスに結界術を指南して、ボルメルン王国を去る際に……私はニック殿下に復縁を迫られます。
彼はボルメルン国王から国外追放の刑に処されており、助けて欲しいと懇願されました。
ノエルの未練はなかったかと問いかけにはイエスと答えます。
私は本気でしたし、彼もまた私を大切に想ってくれていたことは知っていました。
しかし、クラリスの奸計に嵌まり……心が離れた。
ニック殿下は私のことを卑劣な罪人だと一度信じたとき、もうすでに私のことを見放していたのです。
それから、無実だということが判明しても私を前のように元通りの感情にならないのは当然でした。
彼は私のことをもう好きでは無くなっている――。
自分を好きでもない男が助かりたい為だけに復縁を求めている、と知ったとき……私の中でどうしても冷めてしまった感情が表に出てきたのです。
「冷たい……のかもしれませんね」
「そ、そんなことありませんよ。エミリアさんは優しい方です」
「ありがとうございます。でも、壊れてしまったものを自覚すると、色々と頭の中の整理がつかなくて……」
ノエルに優しい言葉をかけてもらって、私は幾分楽にはなりました。
ボルメルン王国から離れたかったのは、父と母には悪いですが恐らくあそこには良い想い出が無いからです。
要するに私は居心地の悪さから逃げ出しただけなのでした。
「良いじゃないですか。逃げたって。そのおかげで私はエミリアさんと出会えましたし。良かったと思ってます。勝手な意見ですけどね」
「ノエルさん……」
「そーそー、ノエル様の言うとおり。あたしだってエミリアちゃんが帰ってきてくれて嬉しいんだぞ」
「イリーナさんも……」
ノエルの言葉に合わせて、いつの間にか近くにきていたイリーナが私の肩を抱きました。
彼女は一人でボルメルン王国に行き、メリッサと接触して共に私の無罪を証明してくれました。それも短期間の内に……。
なりふり構わなくなったクラリスがメリッサとイリーナを殺すように仕向けた刺客を彼女が返り討ちにしたことが、偽の証人確保と共に決め手になったようです。
「イリーナの言うとおりだ。いや、無事にエミリア様が帰ってきて私たちだけじゃない――国民も皆……、あなたの帰りを喜んでいるのです。逃げただなんて、悲しいことを仰せにならないでください」
「クラウドさん、それは言い過ぎですよ」
私はクラウドの言い回しが少し大袈裟だと言いました。
まだメーリンガムに住んでそれほど時間が経っていないのですから。
「時間は関係ありませんよ。エミリア様、ご覧になってください。これがあなたの守ってくれたモノです」
彼が指さした方向には町並みが広がっていました。
特に何の変哲もない風景ですが……。守ったとは……どういう意味なんでしょう。
「エミリアさんがこの何でもないような日常を守ってくれたということです。皆さん、それを知ってますから」
「感謝してるってことよ。多分、故郷の連中も同じ気持ちだと思うわ。エミリアちゃん」
――ノエルとイリーナの言葉を受けて私は平和な町並みを眺める。
そうですか。これが私が守った所で、私の居場所――。
メーリンガム王国の高地に広がる森林で結界を貼り終えた私とノエル。
ノエルはニック殿下について尋ねてきました。
「未練が全くないと言えば嘘になりますね。彼のことは好きでしたし、クラリスが嵌めたのですから、ある意味被害者ですから」
クラリスに結界術を指南して、ボルメルン王国を去る際に……私はニック殿下に復縁を迫られます。
彼はボルメルン国王から国外追放の刑に処されており、助けて欲しいと懇願されました。
ノエルの未練はなかったかと問いかけにはイエスと答えます。
私は本気でしたし、彼もまた私を大切に想ってくれていたことは知っていました。
しかし、クラリスの奸計に嵌まり……心が離れた。
ニック殿下は私のことを卑劣な罪人だと一度信じたとき、もうすでに私のことを見放していたのです。
それから、無実だということが判明しても私を前のように元通りの感情にならないのは当然でした。
彼は私のことをもう好きでは無くなっている――。
自分を好きでもない男が助かりたい為だけに復縁を求めている、と知ったとき……私の中でどうしても冷めてしまった感情が表に出てきたのです。
「冷たい……のかもしれませんね」
「そ、そんなことありませんよ。エミリアさんは優しい方です」
「ありがとうございます。でも、壊れてしまったものを自覚すると、色々と頭の中の整理がつかなくて……」
ノエルに優しい言葉をかけてもらって、私は幾分楽にはなりました。
ボルメルン王国から離れたかったのは、父と母には悪いですが恐らくあそこには良い想い出が無いからです。
要するに私は居心地の悪さから逃げ出しただけなのでした。
「良いじゃないですか。逃げたって。そのおかげで私はエミリアさんと出会えましたし。良かったと思ってます。勝手な意見ですけどね」
「ノエルさん……」
「そーそー、ノエル様の言うとおり。あたしだってエミリアちゃんが帰ってきてくれて嬉しいんだぞ」
「イリーナさんも……」
ノエルの言葉に合わせて、いつの間にか近くにきていたイリーナが私の肩を抱きました。
彼女は一人でボルメルン王国に行き、メリッサと接触して共に私の無罪を証明してくれました。それも短期間の内に……。
なりふり構わなくなったクラリスがメリッサとイリーナを殺すように仕向けた刺客を彼女が返り討ちにしたことが、偽の証人確保と共に決め手になったようです。
「イリーナの言うとおりだ。いや、無事にエミリア様が帰ってきて私たちだけじゃない――国民も皆……、あなたの帰りを喜んでいるのです。逃げただなんて、悲しいことを仰せにならないでください」
「クラウドさん、それは言い過ぎですよ」
私はクラウドの言い回しが少し大袈裟だと言いました。
まだメーリンガムに住んでそれほど時間が経っていないのですから。
「時間は関係ありませんよ。エミリア様、ご覧になってください。これがあなたの守ってくれたモノです」
彼が指さした方向には町並みが広がっていました。
特に何の変哲もない風景ですが……。守ったとは……どういう意味なんでしょう。
「エミリアさんがこの何でもないような日常を守ってくれたということです。皆さん、それを知ってますから」
「感謝してるってことよ。多分、故郷の連中も同じ気持ちだと思うわ。エミリアちゃん」
――ノエルとイリーナの言葉を受けて私は平和な町並みを眺める。
そうですか。これが私が守った所で、私の居場所――。
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