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第三章
第二話
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照れてる。
「僕のこと、試してるの?」
「いや、……昔は、手繋いだりするだけで幸せだったなって」
すると紫ノくんは黙った。過去を振り返るように、紫ノくんの視線がどこか遠くを見る。俺の向こう側、戻れない過去。
「昔じゃなくて、今も幸せだから困る」
「え?」
「俺のこと、そういう目で見てないんでしょ? それなのに、俺の心は解放してくれないの? こうやって、手なんか握られてさ、好きな人に。思わせぶりって言われない?」
「ご、ごめんなさい……」
確かにその通りだと思った。紫ノくんは最初から一貫として俺に好意を伝え続けてくれている。俺はそれを、一度断った。それなのに、意趣返しがしたくて、簡単に体に触れてしまった。それは、確かに罪だ。
今度こそ嫌われるかもしれない。俺は立ち止まる紫ノくんの前で、小さくなった。まるで叱られた犬だ。
「でも」
「?」
「幸せだよ。まだ俺と、手繋いでくれるんだね」
視線を上げたら、そこには優しく微笑む紫ノくんが居て、俺はどうしたら良いのかわからなくなった。
もう傷つきたくない。でも、目の前には幸せにしたい人がいた。
俺に何が出来る?
離れた手に、今度は紫ノくんの手が伸びる。
俺の小指を握って、紫ノくんは歩き出す、それに釣られて、俺も坂道をのぼる足を動かした。
「ここだよ」
「うわ、ちゃんとしたマンションだ」
二階の一番端の部屋だった。角部屋は広いというが、本当なのだろうか。
紫ノくんが鍵を開ける。俺はその時、ようやく荷物を持った。やっぱり重い。これをなんの声も上げず平然と持っていた紫ノくんは、やっぱり昔のヒョロガリだった紫ノくんとは違うのだろう。
「どうぞ」
「あ、お邪魔しま~す」
「手洗ってうがいして」
「うん」
紫ノくんが先に入ると、明かりをつけてくれる。俺は洗面所に入って手を洗った。どうやらお風呂と別らしい。洗濯機が左側にある。右が風呂場だ。
俺が玄関に置いた荷物はみんな部屋のほうに持って行かれたみたいで、俺は紫ノくんと入れ替わるように部屋に入った。
「わあ!」
そこには“紫ノくん“の部屋があった。寝室になっている六畳くらいの部屋にベッドがあって、窓のある壁にくっついている。それ以外の壁には、本棚が置かれていた。そして小さなソファ、ローテーブル。
キッチンのある部屋は畳床で、座卓と座布団が二枚置かれていた。どうして二枚あるのか。紫ノくんにはもしかしたら俺に言わないだけで友達がいるのかもしれない。それは紫ノくんの自由だった。
でも、嫉妬してしまう。醜い自分が消えるように、捻り上げた。
「日生くん」
「! はい」
「作ってくれるんでしょ? キッチンの方に袋、置いてるよ」
「はーい」
俺はなんでもない風を装って、さっさとキッチンに向かう。言われた通り、米櫃のそばにスーパーの袋があって、中身をキッチンに出していく。冷やさないといけない物もあるから、振り返って紫ノくんを見た。
そこには、ワイシャツを脱いでタンクトップ一枚になっている紫ノくんがいた。
「わああ!?」
俺が思わず叫んでしまうと、紫ノくんは目に見えて動揺した。
「な、何?」
「ご、ごめん。何でもない、冷蔵庫に必要なもの入れていい?」
「どうぞ」
俺は気づかれぬように深呼吸した。同性の裸を見て、それがなんだ。俺は紫ノくんを性的な目なんかで見ていない。見てはいけない。だからこんなところで、勘違いしてはいけない。
そう言い聞かせて、俺はなんとか、食材を調理していく。
今日は豚バラ大根と、ほうれん草の煮浸し、卵焼きだ。一応、色合いに気をつけた結果がこれだった。
その前に、と炊飯器から内釜を出して洗う。そしてお米をといて、俺は炊飯器の電源をつけた。
「三十分かあ」
炊けるくらいの時間に、おかずもできているだろうか。
それは俺の手腕が問われるなと思った。
「僕のこと、試してるの?」
「いや、……昔は、手繋いだりするだけで幸せだったなって」
すると紫ノくんは黙った。過去を振り返るように、紫ノくんの視線がどこか遠くを見る。俺の向こう側、戻れない過去。
「昔じゃなくて、今も幸せだから困る」
「え?」
「俺のこと、そういう目で見てないんでしょ? それなのに、俺の心は解放してくれないの? こうやって、手なんか握られてさ、好きな人に。思わせぶりって言われない?」
「ご、ごめんなさい……」
確かにその通りだと思った。紫ノくんは最初から一貫として俺に好意を伝え続けてくれている。俺はそれを、一度断った。それなのに、意趣返しがしたくて、簡単に体に触れてしまった。それは、確かに罪だ。
今度こそ嫌われるかもしれない。俺は立ち止まる紫ノくんの前で、小さくなった。まるで叱られた犬だ。
「でも」
「?」
「幸せだよ。まだ俺と、手繋いでくれるんだね」
視線を上げたら、そこには優しく微笑む紫ノくんが居て、俺はどうしたら良いのかわからなくなった。
もう傷つきたくない。でも、目の前には幸せにしたい人がいた。
俺に何が出来る?
離れた手に、今度は紫ノくんの手が伸びる。
俺の小指を握って、紫ノくんは歩き出す、それに釣られて、俺も坂道をのぼる足を動かした。
「ここだよ」
「うわ、ちゃんとしたマンションだ」
二階の一番端の部屋だった。角部屋は広いというが、本当なのだろうか。
紫ノくんが鍵を開ける。俺はその時、ようやく荷物を持った。やっぱり重い。これをなんの声も上げず平然と持っていた紫ノくんは、やっぱり昔のヒョロガリだった紫ノくんとは違うのだろう。
「どうぞ」
「あ、お邪魔しま~す」
「手洗ってうがいして」
「うん」
紫ノくんが先に入ると、明かりをつけてくれる。俺は洗面所に入って手を洗った。どうやらお風呂と別らしい。洗濯機が左側にある。右が風呂場だ。
俺が玄関に置いた荷物はみんな部屋のほうに持って行かれたみたいで、俺は紫ノくんと入れ替わるように部屋に入った。
「わあ!」
そこには“紫ノくん“の部屋があった。寝室になっている六畳くらいの部屋にベッドがあって、窓のある壁にくっついている。それ以外の壁には、本棚が置かれていた。そして小さなソファ、ローテーブル。
キッチンのある部屋は畳床で、座卓と座布団が二枚置かれていた。どうして二枚あるのか。紫ノくんにはもしかしたら俺に言わないだけで友達がいるのかもしれない。それは紫ノくんの自由だった。
でも、嫉妬してしまう。醜い自分が消えるように、捻り上げた。
「日生くん」
「! はい」
「作ってくれるんでしょ? キッチンの方に袋、置いてるよ」
「はーい」
俺はなんでもない風を装って、さっさとキッチンに向かう。言われた通り、米櫃のそばにスーパーの袋があって、中身をキッチンに出していく。冷やさないといけない物もあるから、振り返って紫ノくんを見た。
そこには、ワイシャツを脱いでタンクトップ一枚になっている紫ノくんがいた。
「わああ!?」
俺が思わず叫んでしまうと、紫ノくんは目に見えて動揺した。
「な、何?」
「ご、ごめん。何でもない、冷蔵庫に必要なもの入れていい?」
「どうぞ」
俺は気づかれぬように深呼吸した。同性の裸を見て、それがなんだ。俺は紫ノくんを性的な目なんかで見ていない。見てはいけない。だからこんなところで、勘違いしてはいけない。
そう言い聞かせて、俺はなんとか、食材を調理していく。
今日は豚バラ大根と、ほうれん草の煮浸し、卵焼きだ。一応、色合いに気をつけた結果がこれだった。
その前に、と炊飯器から内釜を出して洗う。そしてお米をといて、俺は炊飯器の電源をつけた。
「三十分かあ」
炊けるくらいの時間に、おかずもできているだろうか。
それは俺の手腕が問われるなと思った。
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