負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

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第三章

第三話

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 調理器具が揃っているかと周囲を確認して、包丁やまな板、ボウルを見つけると俺は、もう一度手を洗って、包丁を握った。
 二口コンロがあって良かったなと思う、俺はほうれん草をゆがいて、その間に大根をイチョウ切りにする。
「慣れてるね」
「うおっ」
 集中していたら、いつの間にか隣に紫ノくんが立っていた。少し布のよれた麻のシャツを着た紫ノくんは、何を着ていてもかっこいい。
「……メガネ」
「うん。コンタクト外してきた。嫌いだから」
「いつから目、悪くなったの」
「中学生の成長期の頃から」
「あー、目、悪くなるらしいね。急激に伸びると」
 それにしても。
 メガネもよく似合ってるなあ。
「似合ってるね、メガネ」
 素直に口にすれば、紫ノくんは目を瞬かせた。
「ずっとこれが良い?」
「ええ? 好きにしてくれたらいいよ。つけてもつけてなくてもかっこいいと思うよ」
 俺がそう付け足せば、紫ノくんは満更でもない顔をする。俺は小さく笑った。紫ノくんは、結構わかりやすい。そんなこと言うの、俺だけらしいけど、ちゃんと見てたらわかる。
 キッチンの左側には冷蔵庫があって、その上にレンジが置かれている。
 紫ノくんはそこらへんに立って、俺の邪魔にならないように、でも俺の料理姿は見たいらしい。じっとしていた。
 俺は湯がいていたほうれん草を冷水で冷やして、フライパンで大根を炒める。
「水、捨てといてもいい?」
「あ、ありがと。やけど気をつけて」
 そして紫ノくんはさっさと鍋に取っ手をつけて、お湯を流してくれた。俺は豚バラ大根の素を入れて、肉を切ってその中に入れる。そして肉に火が通って、大根に刺し箸をした。大丈夫。
 俺は豚バラ大根を皿に乗せると、フライパンをすぐ洗って、水を切る。
「紫ノくん」
「うん?」
「卵焼き、丸くてもいい? だし巻きなんだけど」
「気にしない」
「オッケー」
 卵を溶いて、白だしを入れて、味を整えると俺は卵液をフライパンに流した。
 その間に手早くほうれん草を切って、皿に持って醤油をかける。そしてカツオ節を散らして、完成。
「紫ノくん、ほうれん草と豚バラ完成したから、味見しておいて。多分大丈夫だと思うんだけど」
「わかった」
 紫ノくんは俺の言った通りに座卓に料理を運んでくれる。
 俺はなんとか卵焼きをフライ返しすると、無事にでき上がったそれを皿に乗せた。
 同時に、炊飯器が音を鳴らす。どうやら白米が炊き上がったらしい。
「紫ノくん、大盛りでいいよね?」
「うん」
「はーい」
 俺は食器棚から茶碗を探した。一つしかない。
 どうしようかと迷っていると、隣に紫ノくんが立つ。
「俺のご飯、その青いどんぶりに入れて」
「え?」
「いつもそれで食べてる。普通の茶碗じゃ間に合わない」
「そっか。わかった」
 本当に大食漢だ。俺は言われた通りどんぶりに米を盛って、自分の分はその茶碗に入れた。
 おかず、足りるだろうか。もっと大量に作ったほうがいいんじゃなかっただろうか。俺はドキドキした。
 そして二人して正座をして、手を合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
 俺が先に言って、紫ノくんが続くように言った。
 紫ノくんは箸を手に取ると、一番に豚バラ大根に手を伸ばす。
 俺はなんと言われるかわからなくて、じっと感想を待った。
 紫ノくんの口に、俺の作った料理が入る。
 紫ノくんは無言でご飯をかき込んだ。俺にとっては手に汗握る光景だった。どうだ、どうなんだ。
「……美味しい」
「ほんと!?」
 俺は前のめりに聞く。紫ノくんはまた豚バラ大根を箸でつついて、頷いた。
「美味しいよ。自分で作ったのより美味しい」
「いや、それは褒めすぎだよ」
「褒めすぎてないよ」
 そうはっきり言ってくれるから。俺ははにかんだ。
「それは良かった」
 俺は自分の作った料理に手を伸ばして、確かに、味は大丈夫だなと確認する。調理中もするけど、やっぱり目の前に初めて自分の料理を食べてくれる人がいると、緊張するものだ。
「紫ノくん、中学生の頃、図書委員だったんだよね」
「うん」
「なんの仕事してたの?」
 緊張を誤魔化すため、話題を出したら、紫ノくんは必ず口の物を全部飲み込んでから話をする。上品だなと思った。俺、誰かとご飯食べてる時、ちゃんと口の中空にしてるかな。
「教室の図書の管理と図書室の本の貸し、返却受付とか、新刊何を入れるか司書の先生と相談したりしてた」
「え、すご、新刊にも口出せるの?」
「俺は司書の先生と仲良かったから、いつの間にか、口出してた」
「へえ……」
 俺はうんうん頷きながらご飯を食べる。本を読む中学生の紫ノくんか。見て見たかったなと思った。
「中学生の時、トランペット吹いてたんでしょ? 高校は?」
「ああ、俺、高校の時生徒会入ってたんだ。だから、部活はしてない」
「そう。生徒会で何してたの?」
「うーん、行事の中心には結構立たされてたかな。体育祭、文化祭、他にも色々してたけど、校則の見直し、とか」
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