負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

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第五章

第一話

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 その日も何事もなく授業が終わっていって、紫ノくんは俺の家で泊まることになった。
 いつも通り、カフェで待ち合わせをしている時だった。
 軒下でぼんやりとしていたら、ふと、女の子がこちらに近づいてくる。
 どうしたのだろうと、でもまだ話しかけられたわけでもないから、俺は素知らぬふりをした。すると、女の子が俺に声をかけてくる。
「あの、田手くん、だよね?」
「うん、そうだけど」
「あの、私、二年生の河辺です。……連絡先、聞いても良いですか」
「え?」
 俺は人生初めての体験に、思わず目を見開いた。紫ノくんの連絡先を聞かれると思ったからだ。だって、今までも紫ノくんの連絡先をしつこく聞いて来ようとする女子は居たけど、俺の連絡先を知りたいと言う人間が現れたのが初めてだった。
「申し訳ないけど、俺と連絡先交換しても、染崎くんの連絡先は教えないよ?」
 すると河辺さんが違う、と首を横に振るのだ。
「違うの、私は、田手くんと話したいの」
「……どこかで話したことある?」
「うん、一年生の頃、グループワークで」
「……ああ、思い出した。リーダーしてくれてたよね?」
 俺は河辺さんが初対面じゃない人間であることを思い出した。物静かな女の子で、押し付けられるように他の生徒からリーダーをさせられていたのだ。それが可哀想で、俺は資料作りやスライド作りを教えた記憶がある。
 それから、もう一年以上経っているが、この河辺さんは、その時の想いが過去にならなかった、と言うことなのだろうか。
「河辺さん」
「何?」
「俺ゲイだよ」
 だから、貴方のことは恋愛的な意味で好きになることも、興味を持つこともない。そう伝えたらきっと、嫌悪感と動揺、人としての体裁を保とうとする。そんな反応を返されると思っていた。
 でも河辺さんは瞬いただけで、頷いた。
「それでもいい。私、お友達になれるだけで嬉しいから」
「……ずっと、そう思い続けてきてくれたってこと?」
「うん。ずっと、あの時のお礼が言いたくて。私、押し付けられて、やっぱり私みたいな自分の言いたいことを言えない人間が損するなんてわかってるのに、変われなかった。でも田手くんが助けてくれて、その時気づいたの。優しい人は、たくさんいる訳じゃないんだって。大切にしないといけないんだって。私、田手くんの連絡先が知りたいんじゃなくて、……今言うね。田手くん、好きです。あの時、助けてもらってありがとうございました」
 頭を下げて、そして立ち去ろうとする河辺さんに、今度は俺が引き止めた。
 これを言うのに、一体どれほどの勇気を振り絞っただろう。
「河辺さん、連絡先交換しよ」
「えっ!?」
「ごめん。河辺さんのことは恋愛的には見えない。でも、俺がゲイだって知って、何の動揺も見せずに頷いてくれた女の子と、友達になりたい。なってくれる?」
 今度は俺が真剣になる場面だった。
 俺はじっと、河辺さんに視線を向ける。
 河辺さんは驚いていたが、恐る恐るポケットからスマホを取り出してくれた。
「私で良ければ」
「本当? ありがとう」
 そして連絡先を交換して、俺は河辺さんとそこで別れた。
 すると計ったように、紫ノくんが現れた。
「行こう」
 手を差し出されて、俺は躊躇って、でも握り返した。
 そして電車に乗って、俺の家の最寄駅で降りて、母さんは居なかった。大方買い物にでも行っているのだろう。電動自転車がなかったから。
 紫ノくんはずっと黙って俺と手を繋いでいた。俺はどうしたのか聞こうと思って、でも思いつくのはさっきのことで。見られていたのかもしれないなと思った。
 俺が女の子と連絡先を交換して、その先に何があるのか。
 俺は女の子を好きになれない。そんなこと、知ってるくせに。
 俺は家の鍵を開けた。
 俺が先に入って、靴を脱ぐ。そして紫ノくんも靴を脱ぐと、買い物袋を置いて、俺の腕を引っ張った。
 そして、腕の中に抱きしめられる。
「さっきの女、誰」
「一年生の時、グループワークで一緒になった子だよ」
「日生くんことが好きなの?」
「らしいね」
 すると、紫ノくんは静かになって、俺を抱きしめる力が強くなる。
「紫ノくん、俺、男しか好きになれないよ」
「わかってる。でも日生くんに好意がむけられてるっていう時点で嫌なんだ。日生くんのことは俺がわかってたらいい」
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