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第五章
第二話
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俺は紫ノくんの感情の重さに、ちょっと笑ってしまった。
でもこんなこと言われたって、俺は紫ノくんを拒絶しようと思わない。
反対に嬉しいくらいだ。
「大丈夫大丈夫、俺もう誰のことも好きにならないって言ったでしょ」
「僕のこと、好きでしょ」
「……ううん」
俺は紫ノくんの腕の中、穏やかに首を横に振った。
すると紫ノくんが俺を抱きしめる手を緩める。
「僕のこと、恋人にしてよ」
「……」
「ずっと待つからさ、人生の終わりに、俺が恋人だったって言って」
「待ちすぎだよ」
「そうかな。でもそれくらい、待てるよ」
俺は、息をついた。
だって、もう良いかなと思い始めているから。
こんなにも想ってくれている。それに応えないのは、俺が逃げている証拠で。
裏切られたって、紫ノくんにならもう良いかな。
俺は蒸し暑い玄関口、少しの間抱きしめあっていた。
「紫ノくん」
「うん?」
「ちょっとだけ、考えさせてくれる?」
「待つよ、ずっと待つ」
「ありがとう。出来るだけ、待たせないようにするから」
俺たちは身体を二つに戻すと、冷蔵庫に買ったものを入れて、溶けているカップアイスを食べた。今の俺は、このアイスみたいなものだ。曖昧で、ドロドロして、いつまでも過去を恐れて、自分の心を掴み取れない。
紫ノくんはくつろいだ様子でアイスを食べている。
口をつけて、コーヒー味のアイスを食べる紫ノくんをぼんやり見ていたら、ふと、目の前に差し出された。
「ん」
「え、良いよ。大丈夫」
「美味しいよ」
そう言われたら、俺は一口吸い上げて、バニラに満ちていた口の中にコーヒーの味を入れる。
いつもより苦さが増しているような気がしたけど、美味しかった。
そして俺たちは母さんの作った夕飯を食べて、お風呂に入った。
でもその日、俺たちは何故か、二人で風呂に入っていた。
俺が風呂に入っていると、紫ノくんがさっさと服を脱いで、浴室の中に入ってきたのだ。
二人で入ると狭い風呂の中、俺は紫ノくんの身体をできるだけ見ないようにしながら、浴槽に入っていた。
「なんで入ってくるの、紫ノくん」
「久しぶりに、一緒に入りたくなって」
「それ小学校の時の話でしょ」
「大丈夫、大きくなってもそんなに変わらないよ」
「変わるよ……」
紫ノくんは変わらず、マイペースだ。
そして俺に手を伸ばすと、濡れた髪に指が触れる。
そしてその指は頬に伝って、目元を撫でる。
その手は穏やかだったけど、確かに熱を孕んでいた。俺は何をされるんだと思って、静かにその手を甘受しながら少し、ドキドキしていた。
紫ノくんに触れられながら、俺はまだ、やっぱり怖くて、のぼせる前に上がろうとする。
「じゃあ紫ノくん、俺先に上がるから」
「はーい」
そして俺は自分の身体を洗うと、浴室を出た。
でもその時点でわかる。フラフラする。
俺は急いで冷蔵庫から冷えた水を取り出して飲んだ。でもそこで力尽きてしまって、俺は母さんに行って自室に戻る。
そして、紫ノくんが部屋に戻ってきた。
ついで、俺の状態に気付いたのだろう。足早に近づいてくる。
「のぼせた?」
「うん……」
「わかった。もうちょっと水飲もう。冷却シートとかある? それか氷枕」
「両方、ある」
「わかった」
倒れる俺の頭を抱えて、紫ノくんは水を飲むと、俺の顔に近づいてくる。
そして、唇が触れ合った。これが紫ノくんじゃなかったら、俺は叫び出して相手を殴っているところだっただろう。
ファーストキスだった。でも、紫ノくんが相手で良かったのかもしれない。だって、こんなにも俺を愛してくれている人に唇を奪われるなんて、反対に幸運なことだ。
少し温くなった水を何度も飲み干して、俺は一息ついた。
でもこんなこと言われたって、俺は紫ノくんを拒絶しようと思わない。
反対に嬉しいくらいだ。
「大丈夫大丈夫、俺もう誰のことも好きにならないって言ったでしょ」
「僕のこと、好きでしょ」
「……ううん」
俺は紫ノくんの腕の中、穏やかに首を横に振った。
すると紫ノくんが俺を抱きしめる手を緩める。
「僕のこと、恋人にしてよ」
「……」
「ずっと待つからさ、人生の終わりに、俺が恋人だったって言って」
「待ちすぎだよ」
「そうかな。でもそれくらい、待てるよ」
俺は、息をついた。
だって、もう良いかなと思い始めているから。
こんなにも想ってくれている。それに応えないのは、俺が逃げている証拠で。
裏切られたって、紫ノくんにならもう良いかな。
俺は蒸し暑い玄関口、少しの間抱きしめあっていた。
「紫ノくん」
「うん?」
「ちょっとだけ、考えさせてくれる?」
「待つよ、ずっと待つ」
「ありがとう。出来るだけ、待たせないようにするから」
俺たちは身体を二つに戻すと、冷蔵庫に買ったものを入れて、溶けているカップアイスを食べた。今の俺は、このアイスみたいなものだ。曖昧で、ドロドロして、いつまでも過去を恐れて、自分の心を掴み取れない。
紫ノくんはくつろいだ様子でアイスを食べている。
口をつけて、コーヒー味のアイスを食べる紫ノくんをぼんやり見ていたら、ふと、目の前に差し出された。
「ん」
「え、良いよ。大丈夫」
「美味しいよ」
そう言われたら、俺は一口吸い上げて、バニラに満ちていた口の中にコーヒーの味を入れる。
いつもより苦さが増しているような気がしたけど、美味しかった。
そして俺たちは母さんの作った夕飯を食べて、お風呂に入った。
でもその日、俺たちは何故か、二人で風呂に入っていた。
俺が風呂に入っていると、紫ノくんがさっさと服を脱いで、浴室の中に入ってきたのだ。
二人で入ると狭い風呂の中、俺は紫ノくんの身体をできるだけ見ないようにしながら、浴槽に入っていた。
「なんで入ってくるの、紫ノくん」
「久しぶりに、一緒に入りたくなって」
「それ小学校の時の話でしょ」
「大丈夫、大きくなってもそんなに変わらないよ」
「変わるよ……」
紫ノくんは変わらず、マイペースだ。
そして俺に手を伸ばすと、濡れた髪に指が触れる。
そしてその指は頬に伝って、目元を撫でる。
その手は穏やかだったけど、確かに熱を孕んでいた。俺は何をされるんだと思って、静かにその手を甘受しながら少し、ドキドキしていた。
紫ノくんに触れられながら、俺はまだ、やっぱり怖くて、のぼせる前に上がろうとする。
「じゃあ紫ノくん、俺先に上がるから」
「はーい」
そして俺は自分の身体を洗うと、浴室を出た。
でもその時点でわかる。フラフラする。
俺は急いで冷蔵庫から冷えた水を取り出して飲んだ。でもそこで力尽きてしまって、俺は母さんに行って自室に戻る。
そして、紫ノくんが部屋に戻ってきた。
ついで、俺の状態に気付いたのだろう。足早に近づいてくる。
「のぼせた?」
「うん……」
「わかった。もうちょっと水飲もう。冷却シートとかある? それか氷枕」
「両方、ある」
「わかった」
倒れる俺の頭を抱えて、紫ノくんは水を飲むと、俺の顔に近づいてくる。
そして、唇が触れ合った。これが紫ノくんじゃなかったら、俺は叫び出して相手を殴っているところだっただろう。
ファーストキスだった。でも、紫ノくんが相手で良かったのかもしれない。だって、こんなにも俺を愛してくれている人に唇を奪われるなんて、反対に幸運なことだ。
少し温くなった水を何度も飲み干して、俺は一息ついた。
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