負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

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第四章

第五話

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「あとは母さんがしとくから、あんたはお風呂入ってきなさい。紫ノくんの分のパジャマもちゃんと貸してあげるのよ」
「あるかなあ」
「前、サイズ間違えたって言ってた上下セットのやつ、なかった?」
「あ、あったね。そうする」
 俺は言われた通りシャワーを浴びて、リビングに戻る。すると続くように父さんがシャワーを浴びて、俺はその間に自分の部屋に客用布団を敷いていた。
(何かあった時のようにと思って、干してて良かったあ)
 久しぶりだ。この家に紫ノくん泊まるのは。小学生の頃は、月に二、三回、この家に泊まっては俺と紫ノくんは遅くまで起きて、一枚の布団で、何でもない話を続けた。迷宮の扉を、母さんにバレないように月明かりを頼りに探したり、紫ノくんが持ってきた図鑑を読んだり。
「楽しかったなあ」
「何が?」
「うわっ」
 振り返れば、紫ノくんが頭にタオルを乗せながら、俺の間違えて買った上下セットのスウェットを着ていた。
「暑くない?」
「夜は涼しいから平気」
「そっか。布団敷いといたよ」
「ありがとう。日生くん」
「ん?」
「髪の毛、乾かしてくれる?」
 俺はまた、過去を思い出した。紫ノくんは小学生の頃、俺の家に泊まるたび、髪を乾かしてくれと俺に頼んできたのだ。今になればわかる。あれは、紫ノくんなりの甘え方だったのだろう。
 ドライヤーを差し出されて、俺は笑う。忘れてなかったんだ。
「いいよ、ここ座って」
 俺は敷布団の上に紫ノくんを座らせると、ドライヤーのコンセント差し込む。そして、紫ノくんの髪に触れる。
「ちょっと熱いですよ~」
「うん」
 そうして、俺は紫ノくんの髪を梳く。サラサラのクセのない髪は乾きやすくて、変わらず丸い頭が可愛い。
「はい、おしまい」
 俺は紫ノくんの髪が根本から乾いたか確認すると、電源を落とした。そしてドライヤーを元に戻すため、部屋を出て脱衣所の棚に戻す。紫ノくんはまるで子供のように俺の背にくっついては、一緒に部屋に戻る。
 そして、俺のベッドにダイブした。
「紫ノくん、ベッドで寝たいの?」
 すると紫ノくんは俺の方に振り返って手招いてくる。何だろう。
 俺がベッドに腰かけると、紫ノくんは俺の手を引いた。俺は最も簡単にベッドに推し倒されてしまう。
 そしてその上に紫ノくんが覆い被さってくる。
「し、紫ノくん?」
 そして紫ノくんは、俺の身体を抱きしめる。
 俺はびっくり半分、緊張半分で何も言えなかった。
 紫ノくんの匂いは、俺の家のシャンプーとボディソープだ。でもそれは紫ノくんが纏うと、また違う匂いになる。
「どしたの、紫ノくん」
 百八十の男の身体は重い。俺の声は掠れていた。
「ね、日生くん」
「うん?」
「一緒に寝よ」
「……いいよ」
 本当は拒否しないといけないのかもしれない。だって俺は紫ノくんの好意に頷こうとは思っていない。確かに、俺も紫ノくんと居れば幸せになれるということはわかっている。
 でも失うのが怖いのだ。紫ノくんを失ったら、俺は今度こそ立ち直れないだろう。
 俺たちは一枚の敷布団、二枚の上かけ、そして二つの枕で眠りについた。
 紫ノくんの腕の中は、いつもより特別、暖かく感じられた。
 
 俺たちは一限から一緒の電車に乗って大学に向かった。
 紫ノくんの服は母さんが洗濯して干してくれたらしい。紫ノくんは麻のシャツを着て、スキニーを履く。それだけで何かモデルの撮影なのかと思わせてくるから、紫ノくんの美男子っぷりはいつだって罪だ。
 満員電車の中、俺は半ば紫ノくんに抱きしめられていた。電車の遅延が起きて、電車が来た瞬間、みんな人を押し込めるように乗車してきたのだ。
 俺たちはその前の駅で乗車したからまだ電車の出入り口ではない方で居ることが出来るけど、開閉をする度大勢降りては乗ってくる。流石、朝の出勤登校ラッシュだ。
 そして俺はもう隙間なんてないから、紫ノくんとくっついていた。


 初夏も徐々に深まっていって今度はあの人殺すような日差しが地上に降り注ぐようになる。
 でも紫ノくんの体温は不快になんてならない。落ち着く温かさだった。
「もうそろそろ」
 囁くように言われて、俺は頷く。
「〇〇~! 〇〇~!」
 大学の最寄駅で降りるのはやっぱり学生だらけで。窮屈な場所から抜け出せて、俺は大きく息を吐いた。
「大学二年目だけど、やっぱり慣れないなあ」
「夏だから、今度、臭いとかもあるでしょ」
「そうなんだよ。嫌なんだよね」
 俺が愚痴れば、紫ノくんは頷いてくれる。やっぱり通勤に電車を使う人間なら誰だって思うだろう。
「今日暑くない?」
 俺は半袖のシャツに風が通るように揺らしては、空を見た。太陽が翳ることなく輝いている。
「日差し強いね。今朝、ニュースで真夏日だって言ってたよ」
「まだ六月なのに!? え、世界ってそんなもんだっけ」
「後少しで七月だからね」
「でもまだ六月も始まったばっかりだよ?」
「地球温暖化?」
「地球温暖化かぁ……」
 軽く汗をかきながら、俺たちは十分くらい歩く。
 そして正門を通れば、二人とも、一度別れて、各々の授業に向かっていった。
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