負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

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第五章

第九話

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「お邪魔します」
 俺が部屋の中に入ると、紫ノくんはさっさと部屋に戻った。そしてベッドに腰掛けると、俺には座布団の上に座るように言う。
 距離がある。当然だ。俺は紫ノくんを傷つけた。
 紫ノくんは静かに言った。
「俺に好きって言われるの、辛い?」
 俺は初めて、紫ノくんが俺への気持ちに不安定さを抱いている姿を見た。多分このまま俺が辛いと言えば、紫ノくんは俺の元から去っていくのだろう。
 でも、正直に言わないといけない。
 俺は、紫ノくんを真っ直ぐに見た。
「紫ノくんに、好きって言われるたび、俺、怖かったんだ」
「うん」
「だって俺、今まで一回だって好きだった人に、好きだって言ってもらえなかった。紫ノくんしかいなかったんだよ。俺を愛してくれた人は」
 紫ノくんは黙って俺の目を見ていた。その真意を見定めようとするみたいに。
「失ったら、おしまいだと思ってた」
 紫ノくんを失ったら、きっと俺は最後まで一人で静かに生きて、死んでいっていただろう。だって、紫ノくん以上に俺を愛してくれる人などいないだろうから。それがわかっていたから、尚更怖かったのだ。俺に一体なんの取り柄があると言うんだ。容姿も平凡、成績も、運動だって一番になる事はない。ただのゲイ。
 でも紫ノくんは、容姿も成績も輝かしいものだった。俺とは違う。ちょっと人に深く執着する節があるけれど、別にそれで暴力を振るうとか、恐怖支配をしてこようとする人でもなかった。
 ただずっと、愛を伝えてくれる。向けてくれる。
 一途に。
 俺は最初、紫ノくんのその態度が怖かった。もう五年以上、いや、それ以上だろうか、離れていた俺に、恋心を募らせてくれていたなんて。
 でも、そんな紫ノくんにも、恋をする機会があったのかと思うと、怖かった。もしかしたら、今向けられているこの感情も、刹那のものなんじゃないかと思って。
「紫ノくん」
 だから、聞こうと思った。現実を受け止めようと思った。紫ノくんはずっと、なんの感情も見せてくれない。
「何」
「彼女、いたの?」
「居たよ」
 俺の心が、透明な刃で傷つけられる。
 でも紫ノくんは、先ほどと変わらぬ表情で俺を見ていた。
「好きじゃなかったけどね」
「え?」
 俺が呆けた声を上げると、紫ノくんは淡々と言う。
「好きじゃなかったよ。当たり前でしょ、ストーカーが複数人いるから、ダミーで付き合ってくれって、必死に訴えかけられたから、協力しただけ。警察もほとんど助けてくれないって、その子が泣いたんだよ。見捨てられなくて」
「マジか……」
 付き合う理由としては重すぎるが、俺にとっては幸いな事だった。もし紫ノくんの恋の結果だと思うと、俺の心はズタズタになってしまうから。
 紫ノくんは足を組んで、興味のかけらもない事を話すように、淡々と話す。
「で、途中、本当に好きになったとか言われたけど断った。だから、地元からちょっと離れた今の大学選んだんだ。あの子がついてこれないくらいの成績の場所に」
「徹底してるね」
「当たり前でしょ。彼女が反対に付き纏いになりかけてたけどね」
「こわ……」
 俺が若干引いたような声を上げると、紫ノくんは平気そうに語る。
「ちゃんと、しっかり断ったらもう付き纏ってこなくなったよ」
「そうなんだ。……良かった」
「で、もう僕に離れてほしいんなら、ちゃんと言ってよ」
 紫ノくんの言葉に、俺の体は硬直する。そうだ、俺は、ここに自分の気持ちを伝えるために、やって来たのだ。
「紫ノくん」
「うん」
「俺と、付き合ってください」
 アンドロイドみたいに無機質だった、紫ノくんの表情が温かみを帯びて、驚愕に染まっていく。
 紫ノくんはアンドロイドじゃない、ちゃんと感情を持った人間なのだ。俺はそれを知っていたのに、まるで紫ノくんは俺がどれだけ振り返らなかったって、ずっと追いかけてきてくれる人だと思っていた。
 その中で、傷ついているとも知らないで。
 俺は、紫ノくんをずっと待たせていた、俺は紫ノくんを傷つけた。
 でも今からは、紫ノくんを幸せにしたいと思った。紫ノくんと幸せになりたいと思った。
 いつか、俺たちの心は移り変わるかも知れない。
 でも紫ノくんとなら、ずっと手を繋いで歩いていけるような気がしていた。
 もし衝突することがあるなら、話し合って、ずっと手を繋いで喧嘩をしよう。
 病める時は、もう嫌になる程そばにいて。
 健やかなる時は、二人で色んなところへ行きたいなと思った。 富める時は二人で美味しいご飯を食べにいって、  
貧しい時は、二人して雑草を天ぷらにするのも悪くないかも知れない。
 二人でなら、なんだって乗り越えられる。
 紫ノくんは、自らの耳を疑うように、呆然としていた。だから俺はもう一度、紫ノくんに向けて言う。
「染崎紫ノさん、俺と、付き合ってくれませんか」
「……僕で良いの?」
 俺は笑う。
 ずっと、俺もそう思っていた。俺で良いのかなって。
 紫ノくんもそう思っていたんだ。
 俺は愛おしさのあまり、立ち上がって、紫ノくんにダイブした。
「紫ノくんがいい!」
 大きな声で叫ぶ。
 紫ノくんは俺を抱きしめた。強く強く。
「一生離さないからね」
「うん、俺も一生離さない」
 俺は、ちょっと顔を上げて、紫ノくんの唇を見た。
 それに、紫ノくんも気づいたらしい。目が伏せられる。
 俺は、紫ノくんの唇を奪った。
 後から聞いたら、やっぱり紫ノくんのファーストキスは俺だったらしい。そうじゃなかったら、怒っているところだった。
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