負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

文字の大きさ
25 / 30
第五章

第八話

しおりを挟む
 ばあちゃんはどこか遠くを見ていた。
 きっと、じいちゃんを見ているのだろう。その横顔は、恋をしてた。
 ばあちゃんは死ぬまで、じいちゃんに恋をしているのだ。そしてきっと、じいちゃんもまだ、ばあちゃんに恋をしている。
 それを目の当たりにして、思い出すのはただ一人のこと。
「俺も、紫ノくんのために、ご飯作りたいな」
 いつも美味しいと、たくさん食べてくれる紫ノくんに、ご飯を作りたいと思った。
 そのためには、正直になって、ちゃんと、返事をしないといけない。
 一緒に生きようとするための勇気がいる。
 俺はまだ、境界線を越えられないでいる。
 伸ばされた手を掴めないでいる。負け犬になるのが、また惨めになるのが怖いから。
 俺は夕飯を食べ終えると、恐る恐るスマホの電源を入れた。
 すると、河辺さんの謝罪のメッセージと、怒涛の紫ノくんからの着信履歴が重なっていた。
「話聞いた。僕から事実を伝えられてないのに逃げないで、僕は君が好きなんだよ。何度も言ってるでしょ」
「帰ってきたら絶対逃さないから」
 そして最後に、寂しそうに一言、送られてきていた。
「バベルの塔、一緒に行くんでしょ」
 その文字をなぞれば、紫ノくんの切なさが伝わってくるようで、俺は眉を下げる。
 俺は苦笑いした。怖い。きっとどこかで捕まって、紫ノくんは俺に、どれだけ自分が愛しているか、語り聞かされて、もう二度と疑わないようにと刻み込まれるのだろう。
 でもそれくらいじゃないと、俺は理解できないのかも知れない。
 今までの恋に、俺は、自分は負け犬だと思って生きてきた。好きな人に好きになってもらえない、伝えられもしないまま、愛した人は別の人の手を取る。
 でも紫ノくんは違う。紫ノくんは俺に、ずっと誠実だった。それは何度だって思うことだ。俺が誰か、別の人間に恋している間だって、ずっと俺のことを好きでいてくれた。
 一途に俺を好きで居続けてくれていた。
 だから俺も、今度こそ誠実になろう。
 俺はスマホを充電すると、河辺さんにだけは返信を送った。明日帰る、心配はいらない、この事は紫ノくんに隠しておいてほしいと。
 すると、河辺さんは即返信をしてくれた。
「わかりました。気をつけてね」
 その返信を見て、俺は風呂に入って、ばあちゃんの隣で眠った。
 
 アラームの音がする。
 俺は起き上がると、横で眠るばあちゃんに一声かける。
「ばあちゃん」
「なあに」
 ばあちゃんは俺のかけたアラームで起きたらしい、布団から立ち上がると、さっさと片付けてしまう。
「俺、今日帰るよ」
「そう。じゃあ朝食だけ食べて行きなさい。電車の時間、わかってる?」
「うんわかってる。調べておいたから」
「何時?」
「後一時間三十五分」
 ばあちゃんは頷くと、顔を洗いに洗面に向かう。
 俺も同じように布団を片付けると、同じように洗面に向かった。
 顔を洗って歯を磨いて、俺はばあちゃんの焼いた鮭を食べて、少しゆっくりすると家を出た。
 ばあちゃんは駅まで送ってくれた。一緒に歩いて、二十分くらい。
「じゃあね、あんた、次は紫ノくんも連れてきなさい」
「はーい! じゃあね、ばあちゃん!」
 俺が車内から手を振ると、ばあちゃんも同じように、笑って手を振ってくれた。俺は見えなくなるまで手を振り返して、紫ノくんにメッセージを送る。
「今大学?」
「うん」
 返事が秒速で帰ってくる。それが俺を心配する心を表しているようで、ちょっと申し訳がなかった。紫ノくんはスマホを触るの、あまり好きじゃないはずだ。
「三限終わりには、大学着くと思う。いつものカフェで待ってて」
「俺の家に来て、そこで待ってる」
 その答えに、俺は大きく息を吸って、吐いて、返事をした。
「わかった」
 
 夕方ごろ、電車を降りて、俺は荷物を持ったまま、紫ノくんの家へと向かった。
「着いた」
 そう送って、インターホンを押した。
 間も無く、扉が開く。
「久しぶり」
 紫ノくんが、感情のわからない声で言う。
 俺はその態度につい緊張してしまって、頷くだけになってしまった。
「入って」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

泣き虫な俺と泣かせたいお前

ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。 アパートも隣同士で同じ大学に通っている。 直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。 そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。

サークル合宿に飛び入り参加した犬系年下イケメン(実は高校生)になぜか執着されてる話【※更新お休み中/再開未定】

日向汐
BL
「来ちゃった」 「いやお前誰だよ」 一途な犬系イケメン高校生(+やたらイケメンなサークルメンバー)×無愛想平凡大学生のピュアなラブストーリー♡(に、なる予定) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ♡やお気に入り登録、しおり挟んで追ってくださるのも、全部全部ありがとうございます…!すごく励みになります!! ( ߹ᯅ߹ )✨ おかげさまで、なんとか合宿編は終わりそうです。 次の目標は、教育実習・文化祭編までたどり着くこと…、、 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 総愛され書くのは初めてですが、全員キスまではする…予定です。 皆さんがどのキャラを気に入ってくださるか、ワクワクしながら書いてます😊 (教えてもらえたらテンション上がります) 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 ⚠︎書きながら展開を考えていくので、途中で何度も加筆修正が入ると思います。 タイトルも仮ですし、不定期更新です。 下書きみたいなお話ですみません💦 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄 𓐄

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

百合豚、男子校に入る。

BL
百合をこよなく愛する男子高校生・眞辺恵。 母の歪んだ価値観により共学への進学を断たれ、彼が入学させられたのは―― 男同士の恋愛が“文化”として成立している、全寮制男子校《私立瑞嶺学園》だった。 この学園では、生徒会長は「抱かれたいランキング」で選ばれ、美貌こそが正義とされる世界。 それでも眞辺は決意する。 生徒会長になり、この学校を“共学”に変え、間近で百合を拝むことを。 立ちはだかるのは、顔面至上主義の学園制度、性に奔放すぎるイケメンな幼馴染、そして彼らに憧れ恋をする生徒たち。 さらに何故か、学園の人気者たちに次々と目をつけられてしまい――。 百合を拝むため男子校を変えようとする異端者が、歪んだ王道学園を改革する物語。

【完結】かわいい美形の後輩が、俺にだけメロい

日向汐
BL
続編・番外編はTwitter(べったー)に載せていきますので、よかったらぜひ🤲 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 過保護なかわいい系美形の後輩。 たまに見せる甘い言動が受けの心を揺する♡ そんなお話。 ⋆┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈⋆ 【攻め】 雨宮千冬(あめみや・ちふゆ) 大学1年。法学部。 淡いピンク髪、甘い顔立ちの砂糖系イケメン。 甘く切ないラブソングが人気の、歌い手「フユ」として匿名活動中。 【受け】 睦月伊織(むつき・いおり) 大学2年。工学部。 黒髪黒目の平凡大学生。ぶっきらぼうな口調と態度で、ちょっとずぼら。恋愛は初心。

学校一のイケメンとひとつ屋根の下

おもちDX
BL
高校二年生の瑞は、母親の再婚で連れ子の同級生と家族になるらしい。顔合わせの時、そこにいたのはボソボソと喋る陰気な男の子。しかしよくよく名前を聞いてみれば、学校一のイケメンと名高い逢坂だった! 学校との激しいギャップに驚きつつも距離を縮めようとする瑞だが、逢坂からの印象は最悪なようで……? キラキライケメンなのに家ではジメジメ!?なギャップ男子 × 地味グループ所属の能天気な男の子 立場の全く違う二人が家族となり、やがて特別な感情が芽生えるラブストーリー。 全年齢

処理中です...