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第五章
第八話
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ばあちゃんはどこか遠くを見ていた。
きっと、じいちゃんを見ているのだろう。その横顔は、恋をしてた。
ばあちゃんは死ぬまで、じいちゃんに恋をしているのだ。そしてきっと、じいちゃんもまだ、ばあちゃんに恋をしている。
それを目の当たりにして、思い出すのはただ一人のこと。
「俺も、紫ノくんのために、ご飯作りたいな」
いつも美味しいと、たくさん食べてくれる紫ノくんに、ご飯を作りたいと思った。
そのためには、正直になって、ちゃんと、返事をしないといけない。
一緒に生きようとするための勇気がいる。
俺はまだ、境界線を越えられないでいる。
伸ばされた手を掴めないでいる。負け犬になるのが、また惨めになるのが怖いから。
俺は夕飯を食べ終えると、恐る恐るスマホの電源を入れた。
すると、河辺さんの謝罪のメッセージと、怒涛の紫ノくんからの着信履歴が重なっていた。
「話聞いた。僕から事実を伝えられてないのに逃げないで、僕は君が好きなんだよ。何度も言ってるでしょ」
「帰ってきたら絶対逃さないから」
そして最後に、寂しそうに一言、送られてきていた。
「バベルの塔、一緒に行くんでしょ」
その文字をなぞれば、紫ノくんの切なさが伝わってくるようで、俺は眉を下げる。
俺は苦笑いした。怖い。きっとどこかで捕まって、紫ノくんは俺に、どれだけ自分が愛しているか、語り聞かされて、もう二度と疑わないようにと刻み込まれるのだろう。
でもそれくらいじゃないと、俺は理解できないのかも知れない。
今までの恋に、俺は、自分は負け犬だと思って生きてきた。好きな人に好きになってもらえない、伝えられもしないまま、愛した人は別の人の手を取る。
でも紫ノくんは違う。紫ノくんは俺に、ずっと誠実だった。それは何度だって思うことだ。俺が誰か、別の人間に恋している間だって、ずっと俺のことを好きでいてくれた。
一途に俺を好きで居続けてくれていた。
だから俺も、今度こそ誠実になろう。
俺はスマホを充電すると、河辺さんにだけは返信を送った。明日帰る、心配はいらない、この事は紫ノくんに隠しておいてほしいと。
すると、河辺さんは即返信をしてくれた。
「わかりました。気をつけてね」
その返信を見て、俺は風呂に入って、ばあちゃんの隣で眠った。
アラームの音がする。
俺は起き上がると、横で眠るばあちゃんに一声かける。
「ばあちゃん」
「なあに」
ばあちゃんは俺のかけたアラームで起きたらしい、布団から立ち上がると、さっさと片付けてしまう。
「俺、今日帰るよ」
「そう。じゃあ朝食だけ食べて行きなさい。電車の時間、わかってる?」
「うんわかってる。調べておいたから」
「何時?」
「後一時間三十五分」
ばあちゃんは頷くと、顔を洗いに洗面に向かう。
俺も同じように布団を片付けると、同じように洗面に向かった。
顔を洗って歯を磨いて、俺はばあちゃんの焼いた鮭を食べて、少しゆっくりすると家を出た。
ばあちゃんは駅まで送ってくれた。一緒に歩いて、二十分くらい。
「じゃあね、あんた、次は紫ノくんも連れてきなさい」
「はーい! じゃあね、ばあちゃん!」
俺が車内から手を振ると、ばあちゃんも同じように、笑って手を振ってくれた。俺は見えなくなるまで手を振り返して、紫ノくんにメッセージを送る。
「今大学?」
「うん」
返事が秒速で帰ってくる。それが俺を心配する心を表しているようで、ちょっと申し訳がなかった。紫ノくんはスマホを触るの、あまり好きじゃないはずだ。
「三限終わりには、大学着くと思う。いつものカフェで待ってて」
「俺の家に来て、そこで待ってる」
その答えに、俺は大きく息を吸って、吐いて、返事をした。
「わかった」
夕方ごろ、電車を降りて、俺は荷物を持ったまま、紫ノくんの家へと向かった。
「着いた」
そう送って、インターホンを押した。
間も無く、扉が開く。
「久しぶり」
紫ノくんが、感情のわからない声で言う。
俺はその態度につい緊張してしまって、頷くだけになってしまった。
「入って」
きっと、じいちゃんを見ているのだろう。その横顔は、恋をしてた。
ばあちゃんは死ぬまで、じいちゃんに恋をしているのだ。そしてきっと、じいちゃんもまだ、ばあちゃんに恋をしている。
それを目の当たりにして、思い出すのはただ一人のこと。
「俺も、紫ノくんのために、ご飯作りたいな」
いつも美味しいと、たくさん食べてくれる紫ノくんに、ご飯を作りたいと思った。
そのためには、正直になって、ちゃんと、返事をしないといけない。
一緒に生きようとするための勇気がいる。
俺はまだ、境界線を越えられないでいる。
伸ばされた手を掴めないでいる。負け犬になるのが、また惨めになるのが怖いから。
俺は夕飯を食べ終えると、恐る恐るスマホの電源を入れた。
すると、河辺さんの謝罪のメッセージと、怒涛の紫ノくんからの着信履歴が重なっていた。
「話聞いた。僕から事実を伝えられてないのに逃げないで、僕は君が好きなんだよ。何度も言ってるでしょ」
「帰ってきたら絶対逃さないから」
そして最後に、寂しそうに一言、送られてきていた。
「バベルの塔、一緒に行くんでしょ」
その文字をなぞれば、紫ノくんの切なさが伝わってくるようで、俺は眉を下げる。
俺は苦笑いした。怖い。きっとどこかで捕まって、紫ノくんは俺に、どれだけ自分が愛しているか、語り聞かされて、もう二度と疑わないようにと刻み込まれるのだろう。
でもそれくらいじゃないと、俺は理解できないのかも知れない。
今までの恋に、俺は、自分は負け犬だと思って生きてきた。好きな人に好きになってもらえない、伝えられもしないまま、愛した人は別の人の手を取る。
でも紫ノくんは違う。紫ノくんは俺に、ずっと誠実だった。それは何度だって思うことだ。俺が誰か、別の人間に恋している間だって、ずっと俺のことを好きでいてくれた。
一途に俺を好きで居続けてくれていた。
だから俺も、今度こそ誠実になろう。
俺はスマホを充電すると、河辺さんにだけは返信を送った。明日帰る、心配はいらない、この事は紫ノくんに隠しておいてほしいと。
すると、河辺さんは即返信をしてくれた。
「わかりました。気をつけてね」
その返信を見て、俺は風呂に入って、ばあちゃんの隣で眠った。
アラームの音がする。
俺は起き上がると、横で眠るばあちゃんに一声かける。
「ばあちゃん」
「なあに」
ばあちゃんは俺のかけたアラームで起きたらしい、布団から立ち上がると、さっさと片付けてしまう。
「俺、今日帰るよ」
「そう。じゃあ朝食だけ食べて行きなさい。電車の時間、わかってる?」
「うんわかってる。調べておいたから」
「何時?」
「後一時間三十五分」
ばあちゃんは頷くと、顔を洗いに洗面に向かう。
俺も同じように布団を片付けると、同じように洗面に向かった。
顔を洗って歯を磨いて、俺はばあちゃんの焼いた鮭を食べて、少しゆっくりすると家を出た。
ばあちゃんは駅まで送ってくれた。一緒に歩いて、二十分くらい。
「じゃあね、あんた、次は紫ノくんも連れてきなさい」
「はーい! じゃあね、ばあちゃん!」
俺が車内から手を振ると、ばあちゃんも同じように、笑って手を振ってくれた。俺は見えなくなるまで手を振り返して、紫ノくんにメッセージを送る。
「今大学?」
「うん」
返事が秒速で帰ってくる。それが俺を心配する心を表しているようで、ちょっと申し訳がなかった。紫ノくんはスマホを触るの、あまり好きじゃないはずだ。
「三限終わりには、大学着くと思う。いつものカフェで待ってて」
「俺の家に来て、そこで待ってる」
その答えに、俺は大きく息を吸って、吐いて、返事をした。
「わかった」
夕方ごろ、電車を降りて、俺は荷物を持ったまま、紫ノくんの家へと向かった。
「着いた」
そう送って、インターホンを押した。
間も無く、扉が開く。
「久しぶり」
紫ノくんが、感情のわからない声で言う。
俺はその態度につい緊張してしまって、頷くだけになってしまった。
「入って」
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