負け犬の俺と、アンドロイドの紫ノくん【改稿】

鷹の森

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第五章

第十話

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 それから俺は紫ノくんの家に転がり込んで、一緒に住むようになる。
 朝起きて、まだ眠る紫ノくんの頬を撫でて、俺はベッドから出る。ベッドはセミダブルのまま、俺たちは狭い狭いベッドの中、抱きしめあって眠るのだ。暑くても寒くても。
 俺は、紫ノくんにお弁当を作ってあげるようになった。
 朝から作り置きのおかずを弁当に詰めて、そして卵焼きは毎日、必ず味を変えて作ってあげるのだ。塩だったり、醤油だったり、白だしだったり甘かったりと、バリエーション豊かになるように作っている。たまにニラとかも入れたりして。
 そして俺は自分の分も適当に詰めると、カフェではなく、学校の中庭にあるスペースで二人してご飯を食べるのだ。そこで課題をしたり、次行きたいデートの場所なんかを決めて。
「来週、バベルの塔だよ」
「再来月、とか言ってたのにね」
「ね。もうその再来月だ」
 夏の暑さは、鳴りを顰めたり、そう思えば灼熱を降らしてきたり、天気というものは人の心より移ろいやすい。
 俺は弁当を食べながら、俺の二倍の量を食べている紫ノくんに聞くのだ。
「いつも思うんだけど、ちゃんと満腹になってる?」
「なってるよ」
「だったら良いんだけど」
「どうしたの」
「いや、お腹空いたって言って食堂で食べられてたら、負けた気分になるから」
「負けた?」
 不思議そうに首を傾げる紫ノくんに、俺は複雑な料理人心をあらわにするのだ。
「いや、だって、好きな人のお腹の中は、俺の料理でいっぱいでいて欲しいじゃん?」
 すると紫ノくんは目を瞬かせる。
「そう言うものなの?」
「うん、だって紫ノくんの胃袋、掴みたいじゃん」
「もう掴まれてるよ」
「ほんと?」
「ほんと」
 俺は紫ノくんの返事に機嫌をよくして、鼻歌を歌う。
「ごちそうさまでした」
「お粗末さまでした」
 紫ノくんは弁当をしまうと、パソコンを取り出す。俺も自分の弁当箱を片付けると、パソコンを取り出した。
「あ~、明日小テストだ。勉強しとかないと」
 俺がぼやくと、紫ノくんは視線をあげて、なんの? と問いかけてくる。
「ドイツ語」
「残念、僕フランス語」
「わ~!! 誰も頼れない」
 俺が頭を抱えれば、紫ノくんが言う。
「河辺さんは?」
「あ、河辺さん? え、どうなんだろ、ちょっと聞いてみようかな」
 以前まで、紫ノくんは俺が河辺さんに連絡なんて取ろうものなら、嫉妬で燃えていたんだろうけど、今は違う。
「日生くんは僕のものだから。平気、だって、日生くんは僕を裏切ったりしないから」
 紫ノくんの言葉に、俺は絶対、生涯をかけて証明しようと思った。紫ノくんに、一生分の愛を誓おうと思ったのだ。
「えっと、河辺さんドイツ語取ってる? と」
「……僕のこと、気にせず友達作ったって良いんだよ」
 俺はびっくりして、画面から視線をあげた。
「いや、でも俺は、別に最初から友達作る気できた訳じゃないし。人付き合いとか、そりゃ友達はいて悪いものじゃないけど、面倒だもん」
 友人の誘いをずっと断っていたら、関係も希薄なものになる。ただの友人と遊びに行くくらいなら、紫ノくんと一緒にいたい。
「でも、こうやって困った時、お互い利用できるでしょ」
「確かにね。紫ノくんはいるの? 上辺だけの友達」
「いない」
「うーん。それって今までもこれからも?」
「今までもこれからも。僕には日生くんがいれば良いよ」
「……俺も、紫ノくんしか要らないんだよね」
 照れ臭い、でもちゃんと言ってみる。歪んでいると言われたって俺たちはこれでいいのだ。
 見つめあって、照れ笑う。
「あの、ご機嫌なところ申し訳ないんだけど」
 河辺さんの声だった。
 俺たちの周囲に漂っていた甘い空気は霧散して、紫ノくんはさっさとパソコン画面に戻る。
 俺はなんでもないように、いや、もう既に見られてるから意味ないんだけど、河辺さんに笑顔を向けた。
「お疲れ様、河辺さん」
「お疲れ様、メッセージ読んだよ。私もドイツ語取ってるから、教えようか?」
「ほんと!? ありがとう」
 俺が笑えば、河辺さんは言った。
「最近の田手くん、本当に幸せそうだよね。上手く行ってるみたいで良かった」
「あはは、ご心配をおかけしました」
「ううん。私が失言しちゃって、学校休んでる時はヒヤヒヤしたけど、でもちゃんと、染崎くんとくっついたみたいで。……染崎くん、私、田手くんのこと好きだから、不幸せにしてると、私が横から出てくるよ」
「ちょ、河辺さ」
 俺が慌てれば、河辺さんは堂々と紫ノくんを見ていた。
 紫ノくんはパソコンから視線を上げると、河辺さんに不敵に笑って見せた。紫ノくんが誰かに、それも女の子に笑顔を見せることなんてほとんどない。それがたとえ、挑発的なものでも。
「お生憎様、日生くんは僕を選んでくれると思うよ」
 堂々としたその態度に、河辺さんは一瞬びっくりしたような顔をしたけど、こちらもこちらで、試すような笑顔を浮かべた。
「ずっとそう言っててね、染崎くん」
「もちろん」
 そして河辺さんは紫ノくんに向けていた視線を俺に戻す。
「教えて欲しいところってどこ?」
「明日のテスト範囲がここなんだけど……」
 俺が渡された資料を見せると、河辺さんは読み込みながら頷く。
「うん、私が教えられると思う。明日だよね? 私次の時間ないから、ここで教えようか?」
「え、いいの?」
「染崎くんが嫉妬しないならね」
「しないよ。ここでするならね」
「わかった。じゃあ、田手くん、テキスト出して」
「はーい」
 俺はパソコンを直して、テキストを出した。
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