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ささやかな慰め
しおりを挟む団長をチラリと見る。
……がんばって欲しい。なにを、とまでは言わないが。まあ、あの宰相補佐がいなくなると、大変に都合がいいのである。側仕えのクリス様が有能らしいから変わればいいのにと、みんな言っている。
団長はいつも忙しそうだ。
一見すると、なんかいつも一人だけゆったりしているし、頻繁に訓練にまわって自由気ままにしているように見える。
それはいろんな仕事の割り振りがとんでもなく上手いからこそできることだ。
それができちゃう理由の一端が最近わかったわけだけど、それはまあ、あくまで一端だ。人の思考が読めるからといって簡単に采配できることではない。私なら、情報量多すぎてかえってささやか混乱する案件だ。
膨大な情報の扱いがとんでもなく上手で、自分が直接関与せずとも効率よく団内をまとめているからこそ、余裕に見えるのだろう。
彼の様子では手を抜いて人任せに見えるのだが、そうではないことは質問してみればすぐにわかる。なにを聞いても、すぐに答えてくれるのだ。何十とある案件を全て把握して捌き、対処できる者に割り当てつつも、自らもその先を見ているということだ。適切に対応できるその能力に惚れ惚れとする。私は、あの半分の案件ですら把握できないだろう。
なにか問題が起こったとき、むしろ起こる前にそれを解決する様子は、侮ってはならない人であることを示している。
変態である事が判明したけど、尊敬はしている……能力的には。私を巻き込まなければ。
宰相の元へ向かうという団長は、相変わらず忙しそうな素振りも見せず、飄々としている。
「お疲れさまです」
「婚約者殿は、案外お人好しなところがかわいいな」
優しい目で見つめてくる団長から目をそらす。
騙されない。この人は変態。しかも読まれてる。そこが更に変態臭い。
途端に団長が何やら額を押さえて考え込むような様子をみせたが、口元がにやけそうになるのを押さえているのがわかってしまう。
悦ばないで!!
私が変態と心の中で罵ったことがうれしかったらしい。
「……ご用がないようでしたら、失礼します」
未だご満悦の団長にむっとして、きびすを返したところでカツンと音がして、バキッと続いた。
何かを踏んだ感触に、とっさに足を上げる。
ペンを落としていたらしい。それを踏みつけていた。
お気に入りの、金属のペン先の品だった。羽ペンよりも丈夫でペン軸も持ちやすく気に入っていた。が、これはもう、駄目だろう。ペン先を軸に刺す部分が壊れていた。直せそうにない。
「……」
溜息が出そうになるのを堪える。
「予備はあるか?」
「大丈夫です」
羽ペンだけど、特に問題はない。
「備品として、新しい物を軍務の方で購入するといい」
「いえ、これは私物ですので」
金属のペン先は高いから、備品として購入するのはいい顔をされないのだ。軍務の方ではどうだかわからないけど、やはり気が引ける。
残念な気持ちはあるけど、物は壊れる物だ。
一人ならこっそりと落ち込むけれど、今は仕事中、「お気遣いありがとうございます」と、団長に礼をした。
ポンと頭を撫でられて、思わず顔を上げる。
「婚約者殿を慰めるぐらい、許して欲しい」
「……ありがとうございます」
突然の近すぎる触れ合いは案外嫌ではなくて、ほんの少し慰められた。
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