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プレゼント1
しおりを挟む今日は団長が帰ってくるのがいつもより早かった。私が玄関近くにいるときに帰ってきたので、視界にいるのにスルーして部屋に戻るのも気が引けて、足を止めて出迎えた。
「おかえりなさいませ」
団長は私が出迎えるつもりなのを気付いた途端、うれしそうに笑って「ただいま」と歩み寄ってくると、私の手を取った。
「これを君に」
彼は胸元から小さな箱を取り出すと、私の手に握らせる。
「これは……?」
長細い箱に首をかしげる。
この大きさだとアクセサリーということはないだろう。
でも、この木製の箱の模様に見覚えがある。
「後で落ち着いてから渡そうと思ったんだが、君の顔を見ると、すぐに渡したくなった」
ここで開けてもいいかと顔を上げた私に、団長が頷く。
リボンをといて中身を見たとき、目眩がした。
下手なアクセサリーより、高価な物だった。
この箱に見覚えがあるはずだ。最近巷で有名な万年筆だ。普段使いの付けペンと違って、中にインクが入っていて、ずっと書き続けられるという、憧れの。
金属のペン先どころではない。何十倍、下手したら何百倍の金額の品だ。
だって、これ、ペン軸がとんでもなく美しいんだけど……?
万年筆は最近高位貴族の間で流行している商品で、私の手に届くモノから家が一軒買える物まで値段はピンキリだ。
何度も欲しくて購入を悩んだものだ。
先日、お気に入りのペンを壊してしまったせいで尚更だ。
買うことができるかできないかでいえば、できる。ただ、安い物でも一月の給料分に相当する金額をペンに出すことができるかというと、とてもではないが難しく、躊躇する……というよりほぼ断念した。
それが、プレゼントとして、この手の中に。
めちゃくちゃ欲しい。とてもうれしい。
……でもコレ、こんなに簡単にもらえる物じゃないのよね。
一瞬でそんな考えがスコーンと駆け抜け、我に返る。
人からもらう値段としては高すぎる。無理。
諸々の欲望を一旦捨てるべきなのだろう。後で泣こう。
「……こんな過分なもの、頂けません」
もらう理由がない。断腸の思いで声を絞り出す。たかがペン、されどペン。さようなら憧れの万年筆。
「婚約者へのプレゼントを断られると悲しいのだが」
小首をかしげたあざとい団長の言葉に、思わず固まる。
なるほど、口実としては適当である。そしてこれは不本意な婚約。私には割に合わない契約……という事もないのが憎たらしい団長ではあるが、給料一月分のプレゼントをもらうのは婚約者としてあり得ない金額ではない。そうなると、判断はまた変わる。金銭なら確実に断るところだけど。
欲しいせいか、一気にもらっていい言い訳が頭の中を駆け抜ける。欲望って怖い。
ありがとうございます、と言いかけて、ふとよぎる疑念。
……まって、なにか裏があるんじゃ……。
余計ふっかけられる可能性もある。
無表情を保ちながらも、思わず胡乱な目で団長を見てしまう。
「そんな目で見ないでほしい。……いや、それはそれで興奮するが、俺も君に嫌われたいわけじゃないんだ。むしろ好かれたいと思っている」
……罵られたいのに……?
「愛されて、罵られたい……」
うっとりとした顔で、随分高いハードルを提示してきますね……。
「君に無理強いする気もない」
現時点で十分されてます。
「その的確な指摘、最高だ」
だからうっとりしないで下さい。
「乱暴なことはしない、囲い込ませてもらうがな」
その低いささやき声に、ぞわりと震える。
こわい。
なにが怖いって、私は断ってから一言も喋ってないことよね。囲い込まれてるのは今更だもの。
じとりと恨みがましく目を向けると、ぱっと身体を離し、両手を上げて降参の意を示して団長は微笑む。
「嫌がることはしない」
現時点で十分無理強いも嫌なこともやってると思うんですよね……。
「その正論の鋭い刃を、最高に愛してる」
興奮を隠し切れない顔で団長が私に愛を囁く。
え、やだ、今日も気持ち悪い。
心がスン……と凪いだ。
これほど心に響かない愛のささやきが存在する事に驚きだ。
私と目が合った団長が更にうれしそうにうっとりと吐息をこぼす。
その理由を考えると、あまり嬉しくなかった。
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