ただ幸せになりたかっただけと、あなたたちは言うけれど

gacchi(がっち)

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39.レイモン兄様の企み

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「ジュリアンヌになんてことを!……追い出すだけで済ませるんじゃなかったな。
 絶対にあの愛人が何かしたんだと思っていた。
 だが、当時の俺は何の力もなく、使用人から聞き出すこともできなかった」

怒りのせいなのか、レイモン兄様が震えている。
こんなにも私のことで怒ってくれるなんて思わなかった。

あの時、レイモン兄様は十三歳だった。
私よりは大人だったかもしれないけれど、
お父様が隠していることを知るのは難しかったはずだ。

「そのことを、シュゼットは知っていると思うか?」

「あ……」

「どうかしたか?」

「あのね、ジェラルド兄様にも話していなかったんだけど、
 アジェ伯爵家に連れて行かれた時、シュゼット様に会っているの」

「なんだと!」

「どういうことだ?」

あの時、十歳だったシュゼット様に会って男の子だと間違えられたこと、
悪い子だと思われて悔しかったことを話していると、
知らないうちに涙が出て頬を伝って落ちる。

「もういい、無理に話さなくていい」

「そうだ……話はわかったから、落ち着いて」

両頬の涙を両側から兄様たちに拭われて、驚きで涙が止まる。

「ふふふっ。兄様たち、似ているわね」

「……それはまぁ、従兄弟だしな」

「そうだな……似ていてもおかしくはないが」

その不服そうな顔も似ていて思わず笑ってしまう。
私が笑ったから安心したのか兄様たちは座り直して、
ここ最近のことを報告し合っていた。

「あの女が謝罪をするなんておかしいと思ったらそういうことか」

「ああ、少しも悪いなんて思っていない顔だった」

「シュゼットがジェラルドとの結婚を望んでいるからだろうな。
 あの女は願いを叶えるためならなんだってするだろう。気をつけろよ」

「もちろんだ」

レイモン兄様もマゼンタ様を警戒していたらしく、
お互いに気がついたことがあれば連絡することで話がまとまっていた。

「そうだ。大広間に戻ったら、俺もジュリアンヌと踊ってもいいか?」

「レイモンが踊るのか?今まで踊ったことはないだろう?」

「ないな。だが、俺とジュリアンヌの仲が良好だと知らせるのは、
 今後ジュリアンヌを守るための盾になるだろう?」

「……そういうことならわかった」

イフリア公爵家の控室に置いてあった化粧品を借りて化粧を直し、
三人で大広間に戻ると再び注目を集めてしまう。

お父様とお母様が離縁したことで、
イフリア公爵家とレドアル公爵家の確執は有名な話だ。
その令息である二人が一緒にいれば目立つのは当然だ。

それなのにレイモン兄様は何も気にしないようで、
にっこり笑って私に手を差し出した。

「ジュリアンヌ、今度は兄妹で踊ろう。
 大事な妹の初めての夜会だからな」

「ええ」

私の髪に飾られている赤い花はパートナーと身内とだけ踊るというもの。
血のつながったレイモン兄様と踊るのには問題ない。

レイモン兄様と中央に行くと、やはり周りの令息令嬢は離れていく。
ここでも目立ってしまうのは間違いないようだ。

「ねぇ、レイモン兄様も令嬢には誘われないの?」

「いや、断っているだけだよ」

「どうして踊らないの?」

「俺を誘いにくるのは伝統派の令嬢だけなんだ。
 俺は伝統派の令嬢と結婚するつもりはない。
 できれば推進派の令嬢にしようと思っている」

「え?」

伝統派筆頭のイフリア公爵家を継ぐのが決まっている兄様が、
推進派から妻を娶ることになれば……。

「それって、分家のアフレ侯爵家とかに何か言われない?」

「いや、アフレ侯爵とも相談済みだ」

「え?」

「ここだけの話だが、アフレ侯爵令息はアデール王女と恋仲だ」

「えええ!?」

アフレ侯爵家の嫡男はたしか十四歳。
アデール王女は十二歳だから年齢的にはちょうどいいけれど。
側妃の生家でもある伝統派アフレ家と推進派の王妃の娘のアデール王女。

そんなことになれば……

「俺たちは伝統派そのものを無くそうとしているんだ。
 もちろん、これはアドルフ様も賛同してくれている」

「うそ……」

伝統派の筆頭公爵家と侯爵家が推進派になれば、
伝統派は存続できなくなる。

レイモン兄様がそんなことを考えていたなんて。
でも言われてみて、兄様が学園在学中からアドルフ様のそばにいて、
今も側近として働いている理由がわかった。

ずっと前からそのつもりで動いていたんだ。

「学園に入ってすぐ王宮魔術師に調べさせたんだが、
 俺の身体は魔力はないけれど魔力の器は存在していた。
 だから俺が推進派の令嬢と結婚すれば、生まれてくるのは魔力持ちだろう」

「そうなの?」

「だが、推進派の令嬢と知り合う機会がない。
 もしジュリアンヌの知り合いで良い人がいれば紹介してほしい。
 できれば努力家の伯爵家あたりの令嬢がいいんだが」

「推進派で努力家の伯爵令嬢に心当たりはあるわ」

「本当か?」

「ええ、でも本人は王宮女官を目指しているから、
 婚約を申し込んでも受け入れてくれるかはわからないわ」

「一度会わせてくれるだけでいい。絶対に無理強いはしない。
 望んでいない結婚が不幸になるのはよくわかっているからな。
 俺だって、できるだけ好きになれる令嬢と結婚したいんだ」

「それなら、今度話してみるわ」

「ああ、助かるよ」

レイモン兄様が政略結婚するつもりはないとわかって、心からほっとする。
心当たりがあったのはコリンヌだけど、コリンヌが嫌がるようなら、
レイモン兄様には悪いけど断らせてもらおう。

曲が終わって、ジェラルド兄様のところに戻ろうとしたら、
シャルロット様が兄様のところに向かっているのが見えた。

「まずいな……ジェラルドを一人にしたらまずかったか」

「ジェラルド兄様なら大丈夫だと思うけど……」

それでも着飾ったシャルロット様はいつも以上に綺麗で、
微笑みながら兄様に近づいていくのを見ると胸が痛くなる。

華やかな紫色の大人びたデザインのドレス。
胸から腰にかけて銀色の刺繍がほどこされている。
銀と紫はレドアル公爵家の色。
シャルロット様がその色をまとって夜会に出席するなんて……。

近づいていくと二人の会話が聞こえてくる。

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