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40.拒絶
曲が終わって、ジェラルド兄様のところに戻ろうとしたら、
シャルロット様が兄様のところに向かっているのが見えた。
「まずいな……ジェラルドを一人にしたらまずかったか」
「ジェラルド兄様なら大丈夫だと思うけど……」
それでも着飾ったシャルロット様はいつも以上に綺麗で、
微笑みながら兄様に近づいていくのを見ると胸が痛くなる。
華やかな紫色の大人びたデザインのドレス。
胸から腰にかけて銀色の刺繍がほどこされている。
銀と紫はレドアル公爵家の色。
シャルロット様がその色をまとって夜会に出席するなんて……。
近づいていくと二人の会話が聞こえてくる。
「今日こそは私と踊ってくださいますよね?」
「いや、断るよ」
「どうしてですか?ジュリアンヌ様のことならもういいでしょう?
本当のお兄様にお任せして、ジェラルド様は解放されてもいいのでは?」
「解放?俺が?」
「ええ、ジュリアンヌ様が病気で一人にできなかったのも、
お兄様の代わりに守らなきゃいけないと思ったのも仕方ないですけど、
レイモン様がいらっしゃるなら、もう大丈夫でしょう?」
それを聞いて胸がしめつけられるように痛い。
ジェラルド兄様が私を守ってくれていたのはレイモン兄様の代わり。
だから、もう手を離すべきなのかもしれないけれど……。
「俺がジュリアンヌのそばにいるのは病気のせいじゃないよ」
「では、妹だからですか?
ああ、でも、それならちょうどいいではないですか。
イフリア公爵家の愛人とその娘はいなくなったのですから、
本当の家に帰してもいいのではないですか?
そのほうがジェラルド様にとってもジュリアンヌ様にとっても良いことですし」
「……自分に関係ないことを考える必要はない。
何を言われても俺は君と踊る気はない」
「っ! どうしてですか?
女性から誘っているのに断るなんてひどいと思いませんか?」
必死なのか、シャルロット様がジェラルド兄様に手を伸ばす。
その手が腕にふれそうになって、思わず止めてしまう。
「だめっ!」
「ジュリアンヌ?」
結果的には、私が声を出した時にはもう兄様は腕をひいていた。
邪魔をしたと思われたのか、シャルロット様にキッとにらまれる。
「まぁ、ジュリアンヌ様。
本当のお兄様とのダンス、素敵でしたわ」
「ありがとうございます……」
「レイモン様と踊られたのは、イフリア公爵家に戻るということでしょう?
サミュエル様との婚約も間近だと聞いていますわ。おめでとうございます」
「え?」
「ジュリアンヌにそんな話は一切ない。
そんな嘘を平気で言うなんて、君はどこの令嬢だ?」
レイモン兄様が咎めるようにシャルロット様に聞いた。
どうやら二人は初対面のようだ。
「え?あの……アゼリマ侯爵家のシャルロットです」
「そうか。アゼリマ侯爵家には正式に抗議をさせてもらう」
「え!?」
レイモン兄様がシャルロット様に冷たく言うのを聞いて、
ジェラルド兄様も呆れたように注意する。
「レイモンが怒るのも当然だな。
侯爵令嬢が公爵家のことに口を出すなんて何を考えているんだ」
「え、あの……申し訳ありません。
そんなつもりではなくて……」
「レドアル公爵家からも抗議させてもらう。
夜会での申し出を断るのはこれで三度目だ。
これ以上つきまとうようなら王家に申し立てる」
「そんな!」
「行こうか、二人とも」
「ああ」
二人の兄様に背中を支えられるようにして大広間から退席する。
最後に振り向いたら、まだシャルロット様がにらんでいるのが見えた。
「本当にアゼリマ侯爵家に抗議するの?」
「もちろんだ。あの女は本当にしつこい。
いいかげん、アゼリマ侯爵には何とかしてもらわないと」
「こちらもだ。ジュリアンヌ、はっきり言っておかないとあとで困るぞ。
さっきもお前たちが去った後、サミュエル王子を納得させるのに時間がかかったんだ。
婚約するなんて噂が流れたら、喜んで婚約しようとするぞ」
「……それは嫌だわ」
レイモン兄様が王族席に長くいたのはその話をしていたらしい。
私たちがいなくなった後も、サミュエル様は私との婚約を希望していて、
陛下とアドルフ様、レイモン兄様であきらめるように説得していたのだとか。
「どうやらジュリアンヌに一目ぼれしたらしい。
かといって、その願いを叶える理由は何もない。
あきらめて失恋するようにアドルフ様に言い渡されていたよ」
「あいつ……しつこいんだよな」
サミュエル様につきまとわれていたジェラルド兄様が嫌そうにつぶやく。
まだ学園を卒業するまで一年近く残っている。
出来る限り会わないように避けるけれど、それでも怖い。
「ああ、そうだ。忘れるところだった。アドルフ様から伝言だ。
レドアル公爵家主催の夜会、サミュエル王子が出席する予定だったが、
変更してアドルフ様が行くことにしたそうだ」
「王太子が貴族家の夜会に出席していいのか?」
「本当はダメなんだろうけど、
サミュエル王子を行かせるわけにいかないだろう?」
「……それはそうだな。うちの夜会に来たら何を言い出すか想像できる。
そうか、アドルフ様が……父上に伝えておくよ」
王家に出した招待状の返事はもうすでに来ていたはず。
陛下や王妃、王太子は何かあるといけないから、
サミュエル様が出席予定だったのもわかる。
それを変更するくらいまずいってことなのかもしれない。
「というわけで、側近として俺も行くことになると思う」
「イフリア公爵家に招待状を送ってもいいんだが」
「いや、今はイフリア公爵は父上のままだから。
継いだ後は俺にも招待状を送ってほしい」
「了解した」
まだお父様は処罰を決めかねているらしい。
もう期限が来ているはずなのに、大丈夫なのだろうか。
「イフリア公爵はどっちを選ぶと思う?」
「選ぶのは愛人と娘だろう。
だが、愛人が公爵位を望んでいるから手放したくないんだ。
どうにかして元に戻れないか考えているんだと思う」
「無駄なことだな」
「ああ」
王家から処罰が下されたのなら、覆されることはないと思う。
それでもどうにかしたいと思うほど、マゼンタ様が大事なのかもしれない。
「それじゃあ、俺はそろそろアドルフ様のところに戻る」
「わかった。俺たちはもう帰ることにするよ。
これ以上いて、からまれるのはごめんだ。
それにジュリアンヌの体力がそろそろ持たないと思う」
「そうか。気をつけて帰れよ、ジュリアンヌ」
「ええ、レイモン兄様はお仕事頑張ってね」
「ありがとう」
うれしそうに微笑むとレイモン兄様は大広間へ戻って行く。
私はジェラルド兄様に抱き上げられ馬車に乗せられる。
「次はもう少し軽いドレスにしたいわ」
「次はうちでの夜会だな。もうデビューじゃないから、白じゃなくていい。
軽い素材で作った紫色のドレスを用意してあるよ」
「ありがとう」
レドアル公爵家の娘として主催側で出席するからか紫色のドレスが用意されているらしい。
さっき、シャルロット様が紫色のドレスを着ているのを見てすごく嫌な気持ちになった。
私も……本当の意味で紫色のドレスがふさわしいわけではないけれど。
「疲れただろう。眠ってもいいぞ」
「……うん」
言われる前からもう目が半分開かなくなっていた。
疲れと馬車の揺れで眠くて起きていられない。
ジェラルド兄様に抱き寄せられ、そのまま眠りに落ちて行った。
シャルロット様が兄様のところに向かっているのが見えた。
「まずいな……ジェラルドを一人にしたらまずかったか」
「ジェラルド兄様なら大丈夫だと思うけど……」
それでも着飾ったシャルロット様はいつも以上に綺麗で、
微笑みながら兄様に近づいていくのを見ると胸が痛くなる。
華やかな紫色の大人びたデザインのドレス。
胸から腰にかけて銀色の刺繍がほどこされている。
銀と紫はレドアル公爵家の色。
シャルロット様がその色をまとって夜会に出席するなんて……。
近づいていくと二人の会話が聞こえてくる。
「今日こそは私と踊ってくださいますよね?」
「いや、断るよ」
「どうしてですか?ジュリアンヌ様のことならもういいでしょう?
本当のお兄様にお任せして、ジェラルド様は解放されてもいいのでは?」
「解放?俺が?」
「ええ、ジュリアンヌ様が病気で一人にできなかったのも、
お兄様の代わりに守らなきゃいけないと思ったのも仕方ないですけど、
レイモン様がいらっしゃるなら、もう大丈夫でしょう?」
それを聞いて胸がしめつけられるように痛い。
ジェラルド兄様が私を守ってくれていたのはレイモン兄様の代わり。
だから、もう手を離すべきなのかもしれないけれど……。
「俺がジュリアンヌのそばにいるのは病気のせいじゃないよ」
「では、妹だからですか?
ああ、でも、それならちょうどいいではないですか。
イフリア公爵家の愛人とその娘はいなくなったのですから、
本当の家に帰してもいいのではないですか?
そのほうがジェラルド様にとってもジュリアンヌ様にとっても良いことですし」
「……自分に関係ないことを考える必要はない。
何を言われても俺は君と踊る気はない」
「っ! どうしてですか?
女性から誘っているのに断るなんてひどいと思いませんか?」
必死なのか、シャルロット様がジェラルド兄様に手を伸ばす。
その手が腕にふれそうになって、思わず止めてしまう。
「だめっ!」
「ジュリアンヌ?」
結果的には、私が声を出した時にはもう兄様は腕をひいていた。
邪魔をしたと思われたのか、シャルロット様にキッとにらまれる。
「まぁ、ジュリアンヌ様。
本当のお兄様とのダンス、素敵でしたわ」
「ありがとうございます……」
「レイモン様と踊られたのは、イフリア公爵家に戻るということでしょう?
サミュエル様との婚約も間近だと聞いていますわ。おめでとうございます」
「え?」
「ジュリアンヌにそんな話は一切ない。
そんな嘘を平気で言うなんて、君はどこの令嬢だ?」
レイモン兄様が咎めるようにシャルロット様に聞いた。
どうやら二人は初対面のようだ。
「え?あの……アゼリマ侯爵家のシャルロットです」
「そうか。アゼリマ侯爵家には正式に抗議をさせてもらう」
「え!?」
レイモン兄様がシャルロット様に冷たく言うのを聞いて、
ジェラルド兄様も呆れたように注意する。
「レイモンが怒るのも当然だな。
侯爵令嬢が公爵家のことに口を出すなんて何を考えているんだ」
「え、あの……申し訳ありません。
そんなつもりではなくて……」
「レドアル公爵家からも抗議させてもらう。
夜会での申し出を断るのはこれで三度目だ。
これ以上つきまとうようなら王家に申し立てる」
「そんな!」
「行こうか、二人とも」
「ああ」
二人の兄様に背中を支えられるようにして大広間から退席する。
最後に振り向いたら、まだシャルロット様がにらんでいるのが見えた。
「本当にアゼリマ侯爵家に抗議するの?」
「もちろんだ。あの女は本当にしつこい。
いいかげん、アゼリマ侯爵には何とかしてもらわないと」
「こちらもだ。ジュリアンヌ、はっきり言っておかないとあとで困るぞ。
さっきもお前たちが去った後、サミュエル王子を納得させるのに時間がかかったんだ。
婚約するなんて噂が流れたら、喜んで婚約しようとするぞ」
「……それは嫌だわ」
レイモン兄様が王族席に長くいたのはその話をしていたらしい。
私たちがいなくなった後も、サミュエル様は私との婚約を希望していて、
陛下とアドルフ様、レイモン兄様であきらめるように説得していたのだとか。
「どうやらジュリアンヌに一目ぼれしたらしい。
かといって、その願いを叶える理由は何もない。
あきらめて失恋するようにアドルフ様に言い渡されていたよ」
「あいつ……しつこいんだよな」
サミュエル様につきまとわれていたジェラルド兄様が嫌そうにつぶやく。
まだ学園を卒業するまで一年近く残っている。
出来る限り会わないように避けるけれど、それでも怖い。
「ああ、そうだ。忘れるところだった。アドルフ様から伝言だ。
レドアル公爵家主催の夜会、サミュエル王子が出席する予定だったが、
変更してアドルフ様が行くことにしたそうだ」
「王太子が貴族家の夜会に出席していいのか?」
「本当はダメなんだろうけど、
サミュエル王子を行かせるわけにいかないだろう?」
「……それはそうだな。うちの夜会に来たら何を言い出すか想像できる。
そうか、アドルフ様が……父上に伝えておくよ」
王家に出した招待状の返事はもうすでに来ていたはず。
陛下や王妃、王太子は何かあるといけないから、
サミュエル様が出席予定だったのもわかる。
それを変更するくらいまずいってことなのかもしれない。
「というわけで、側近として俺も行くことになると思う」
「イフリア公爵家に招待状を送ってもいいんだが」
「いや、今はイフリア公爵は父上のままだから。
継いだ後は俺にも招待状を送ってほしい」
「了解した」
まだお父様は処罰を決めかねているらしい。
もう期限が来ているはずなのに、大丈夫なのだろうか。
「イフリア公爵はどっちを選ぶと思う?」
「選ぶのは愛人と娘だろう。
だが、愛人が公爵位を望んでいるから手放したくないんだ。
どうにかして元に戻れないか考えているんだと思う」
「無駄なことだな」
「ああ」
王家から処罰が下されたのなら、覆されることはないと思う。
それでもどうにかしたいと思うほど、マゼンタ様が大事なのかもしれない。
「それじゃあ、俺はそろそろアドルフ様のところに戻る」
「わかった。俺たちはもう帰ることにするよ。
これ以上いて、からまれるのはごめんだ。
それにジュリアンヌの体力がそろそろ持たないと思う」
「そうか。気をつけて帰れよ、ジュリアンヌ」
「ええ、レイモン兄様はお仕事頑張ってね」
「ありがとう」
うれしそうに微笑むとレイモン兄様は大広間へ戻って行く。
私はジェラルド兄様に抱き上げられ馬車に乗せられる。
「次はもう少し軽いドレスにしたいわ」
「次はうちでの夜会だな。もうデビューじゃないから、白じゃなくていい。
軽い素材で作った紫色のドレスを用意してあるよ」
「ありがとう」
レドアル公爵家の娘として主催側で出席するからか紫色のドレスが用意されているらしい。
さっき、シャルロット様が紫色のドレスを着ているのを見てすごく嫌な気持ちになった。
私も……本当の意味で紫色のドレスがふさわしいわけではないけれど。
「疲れただろう。眠ってもいいぞ」
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