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運命の出会い
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エル・ドラードは、アンティークな内装で木の良い匂いがした。
広がる宝石と貴金属の商品。
ダイヤモンドやエメラルド、ルビーが煌めく。……なんて綺麗なの。
金や銀、プラチナまで取り扱っているんだ。
「素敵なお店……」
「まだ初めて一週間も経っていないけどね」
「そんな最近なのですね。ところで――」
「ああ、そうだった。僕はエゼル。ご覧の通り、貴金属店を営んでいるよ。君の名前は?」
「わたしは、ファウスティナ。ただのファウスティナです」
「ファウスティナ……? 君はあの辺境伯のご令嬢だね」
彼は、エゼルは少し驚いた口調で言った。
「御存知でしたか」
「もちろん。君は“聖女”とも名高いからね、有名だよ。確か……金を作れるんだって?」
わたしは、まだ彼を信用したわけではない。
本当のことを言うか、嘘をつくか悩んだ。でも、彼の視線を前にすると、なぜだか嘘はつけなかった。
だから本当のことを言った。
「そうです。魔力を使い、黄金を作れるのです」
「それは凄い。けど、その力を狙う者も多いだろう」
「……はい。今日も実は無理矢理、婚約させられたりして……耐えられなくなって家を飛び出して来たんです」
「そうだったのか。それは辛かっただろう。君がよければ、しばらく店を使うといい。このお店は、住み込みの従業員を雇おうと部屋がいくつかあってね」
「いいのですか……見ず知らずのわたしに」
エゼルは「構わないよ」と即答した。
その微笑みは宝石のように美しく、尊いものだった。……優しい人なのね。
世の中には、こんな親切な男性もいるんだ。
嬉しくて涙が零れ落ちそうになった。
けれど、わたしは堪えた。
今、泣いている暇はないから。
「あの、助けていただいたお礼がしたいのです。どうか、黄金を受け取っていただけませんでしょうか」
「いや、気持ちだけで十分だ。僕は、黄金が欲しくて君を助けたわけではないからね。純粋に君を……ファウスティナさんを助けたかったから、手を差し伸べたんだ」
木漏れ日の太陽の日差しのような暖かい笑顔を貰って、わたしの中の時が止まった。
それから、ドキドキして。
視線が合わせられなくなった。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
「あ、あの……エゼル様」
「様はいいよ。ただのエゼルでいい」
「いえ、助けていただいた恩人を呼び捨てなど出来ません。ぜひ、エゼル様と……ええ、それが好ましいですっ」
「そ、そうか。ちょっと慣れないけど、僕はファウスティナって呼んでいいかな」
「とても嬉しいです……とても」
エゼルは、わたしの足を診てくれた。
まるで宝石を扱うように丁寧に触診してくれた。
そんな幸せの最中、お店のドアが乱暴に開く。……な、なんなの?
「お邪魔するわ、エゼル様。……って」
ズカズカとお店に入ってくる小柄な少女。
派手なドレスに身を包み、鷹のように鋭い目つきをわたしに向ける。なんで妹がここにいるの。
「エレイン!」
「お姉様……なんでエゼル様のお店に。ていうか、屋敷から逃げ出したって聞きました。お父様の顔に泥を塗られたとか。
となれば、もうお屋敷にはいられませんね」
「勝手に婚約されたのです。それに、もう家の為に黄金を作りたくはない」
「残念ね。邪魔なお姉様が伯爵の元へ行ってしまえば、私はエゼル様と幸せを手に入れていたのに」
「な、なんですって!」
「エゼル様は、公爵様よ。知らなかったの? ねえ、エゼル様」
愉快そうに笑うエレインは、エゼル様の腕に絡みつこうとした。
けれど。
「やめてくれ、エレイン。僕は君に興味がないと言っただろ」
「……っ! まだ私とのお付き合いを考えて下さらないの……」
「無理だ。天変地異が起こっても不可能だ」
バ、バッサリね。
痛快なほど冷たく突き放すエゼル様の態度に、わたしはホッとした。
良かった、少なくとも二人に深い関係はないようだった。
エゼル様は、わたしを再び抱えてくれた。
「部屋へ行こうか、ファウスティナ」
「……喜んで」
わたしとエゼル様のヤリトリを傍で見ていたエレインは、悔しそうに唇を噛んでいた。
広がる宝石と貴金属の商品。
ダイヤモンドやエメラルド、ルビーが煌めく。……なんて綺麗なの。
金や銀、プラチナまで取り扱っているんだ。
「素敵なお店……」
「まだ初めて一週間も経っていないけどね」
「そんな最近なのですね。ところで――」
「ああ、そうだった。僕はエゼル。ご覧の通り、貴金属店を営んでいるよ。君の名前は?」
「わたしは、ファウスティナ。ただのファウスティナです」
「ファウスティナ……? 君はあの辺境伯のご令嬢だね」
彼は、エゼルは少し驚いた口調で言った。
「御存知でしたか」
「もちろん。君は“聖女”とも名高いからね、有名だよ。確か……金を作れるんだって?」
わたしは、まだ彼を信用したわけではない。
本当のことを言うか、嘘をつくか悩んだ。でも、彼の視線を前にすると、なぜだか嘘はつけなかった。
だから本当のことを言った。
「そうです。魔力を使い、黄金を作れるのです」
「それは凄い。けど、その力を狙う者も多いだろう」
「……はい。今日も実は無理矢理、婚約させられたりして……耐えられなくなって家を飛び出して来たんです」
「そうだったのか。それは辛かっただろう。君がよければ、しばらく店を使うといい。このお店は、住み込みの従業員を雇おうと部屋がいくつかあってね」
「いいのですか……見ず知らずのわたしに」
エゼルは「構わないよ」と即答した。
その微笑みは宝石のように美しく、尊いものだった。……優しい人なのね。
世の中には、こんな親切な男性もいるんだ。
嬉しくて涙が零れ落ちそうになった。
けれど、わたしは堪えた。
今、泣いている暇はないから。
「あの、助けていただいたお礼がしたいのです。どうか、黄金を受け取っていただけませんでしょうか」
「いや、気持ちだけで十分だ。僕は、黄金が欲しくて君を助けたわけではないからね。純粋に君を……ファウスティナさんを助けたかったから、手を差し伸べたんだ」
木漏れ日の太陽の日差しのような暖かい笑顔を貰って、わたしの中の時が止まった。
それから、ドキドキして。
視線が合わせられなくなった。
こんな気持ちになったのは初めてだ。
「あ、あの……エゼル様」
「様はいいよ。ただのエゼルでいい」
「いえ、助けていただいた恩人を呼び捨てなど出来ません。ぜひ、エゼル様と……ええ、それが好ましいですっ」
「そ、そうか。ちょっと慣れないけど、僕はファウスティナって呼んでいいかな」
「とても嬉しいです……とても」
エゼルは、わたしの足を診てくれた。
まるで宝石を扱うように丁寧に触診してくれた。
そんな幸せの最中、お店のドアが乱暴に開く。……な、なんなの?
「お邪魔するわ、エゼル様。……って」
ズカズカとお店に入ってくる小柄な少女。
派手なドレスに身を包み、鷹のように鋭い目つきをわたしに向ける。なんで妹がここにいるの。
「エレイン!」
「お姉様……なんでエゼル様のお店に。ていうか、屋敷から逃げ出したって聞きました。お父様の顔に泥を塗られたとか。
となれば、もうお屋敷にはいられませんね」
「勝手に婚約されたのです。それに、もう家の為に黄金を作りたくはない」
「残念ね。邪魔なお姉様が伯爵の元へ行ってしまえば、私はエゼル様と幸せを手に入れていたのに」
「な、なんですって!」
「エゼル様は、公爵様よ。知らなかったの? ねえ、エゼル様」
愉快そうに笑うエレインは、エゼル様の腕に絡みつこうとした。
けれど。
「やめてくれ、エレイン。僕は君に興味がないと言っただろ」
「……っ! まだ私とのお付き合いを考えて下さらないの……」
「無理だ。天変地異が起こっても不可能だ」
バ、バッサリね。
痛快なほど冷たく突き放すエゼル様の態度に、わたしはホッとした。
良かった、少なくとも二人に深い関係はないようだった。
エゼル様は、わたしを再び抱えてくれた。
「部屋へ行こうか、ファウスティナ」
「……喜んで」
わたしとエゼル様のヤリトリを傍で見ていたエレインは、悔しそうに唇を噛んでいた。
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